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    2874itmaxx

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    ささくうワンライお題「日焼け」

    #ささくう
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    無題 白膠木簓は太陽が似合うと、皆口を揃えて言う。溢れんばかりの笑顔と愛嬌、それに明るい笑い声にトーンの高い声色。太陽、もっと言えばオレンジ色がここまで似合う奴もそういないと。それは空却も同意だ。
     だがそれは実際のところすべてが計算で、そう印象を抱くよう誘導されていることを空却は知っている。テレビに出るような人間など大なり小なりそんなものだろう。だが簓はそれどころか、むしろ本当は太陽を疎ましく思っているのではないか、と空却は思っている。というのも、簓はきっちりと着こんだワイシャツの襟首を緩めることも、上着を脱ぐことも基本的にしない。極力外には出たがらず、ずっと日陰を選んで歩く。
     では曇りの方がいいかというとそんなこともなく、曇天には思いきり顔を顰め、雨が降ると不機嫌を隠そうともしない。

     白膠木簓は、矛盾が服を着て歩いているような男だ。


    「おい、開けろ」
    『はいは~い』
     いつもの飄々とした声で返答がきてすぐ、目の前の金ぴかオシャレな自動ドアが開く。空却は額の汗を腕で拭い、襟をパタパタ仰ぎながらエントランスに入った。途端にひんやり心地よい空気が体を包み、思わず立ち止まってフウと息をついた。
     外の気温は37度、しかも無風である。少しでも外を歩けば毛穴という毛穴から水分が逃げていくようなこの日、空却はナゴヤから炎天下はるばる簓のオオサカの自宅マンションまでやってきた。とはいえ別にこの距離の移動はもう慣れたし、今の時期はどこにいたって暑い。
     勝手知ったる順路で簓の部屋まで辿り着き、ドア横の呼び鈴を押して数秒。「おいでやす~」と言って出てきた簓は、空却の顔を見て驚いた。
    「汗スゴ」
    「外やべえ。顔洗わして」
    「ええよ、どうせならシャワー浴び」
    「そうする」
     なおも流れてくる汗が邪魔で、空却は再度腕で汗を拭った。

     ***

     素直に借りたシャワーで頭から爪先まですっきりした空却は、脱衣所に着替えが置かれていることに気付いて苦笑した。恋人の家に自分の着替えフルセットが置いてあるという事実は、目の当たりにしてしまうと少々気恥ずかしい。
     ありがたく着替えて、頭にバスタオルを引っ掛けたままリビングに向かうと、簓はこちらに背を向ける位置でソファに掛けていた。
    「シャワーありがとな」
    「お、すっきりしたか。暑いとこ来させてごめんなぁ」
    「今さらだろ」
     頭をガシガシ拭きながら正面の窓を見ると、カーテンの隙間からソフトクリームみたいな立派な入道雲が見えた。白に混じる青色は気が遠くなるほど澄み渡り、いかに高気圧であるかが一目でわかる。なお、このせっかくの大きな窓は基本的にいつもカーテンが引かれている。太陽光が眩しすぎるらしい。
     簓は雑誌かなにかを読んでいて、顔を俯かせていた。それを背後から覗き見る。
    「へぇ、ネクストブレイク芸人?敵の情報収集たぁ勤勉だ、感心感心」
    「んっふふ。敵になるかどうかは知らんけどぉ、こういうのは一応知っとかな」
     誌面でぎこちない笑みを浮かべる青年たちを眺めて、簓は不敵に言った。

     ふうん、と顔を上げた空却は、簓の首を見てどきりと心臓を跳ねさせ、思わず硬直した。
     顔を俯かせる簓の首は少し傾いている。いつもはきっちりとワイシャツの襟で包まれているその部分に、くっきりと残った赤と白の境目を見つけたのだ。上半分は赤く、下半分は白い。ワイシャツの襟で日焼け痕がついてしまったようだった。

     簓は日焼けをしない。太陽の似合う男と思われてるわりに太陽の下に出てくることが少ないため、長袖のスーツの下はもちろん、その頬も手の甲も焼けていない。長い付き合いである空却も、これまで部分的にでも日に焼けた簓を見た記憶はなかった。あの左馬刻ですら日に焼けた腕が痛いと呻いていたことがあったくらいだ、簓がいかに太陽を避けていたのかがわかる。

     ――だというのに。
     イケブクロにいたころからかたくなにスーツスタイルを崩さず、腕まくりのひとつも滅多にしない男が、油断や綻びを太陽に背後からからかわれているかのような、この日焼け痕。
     とたんにクラクラした。その緑色の襟足のすぐ下、赤と白の境目に吸い寄せられてしまう。それはまるで、簓の失敗を自分だけが見つけてしまったかのような、優越感と罪悪感である。

     空却は思わず、上体を傾がせてゆっくりとその境目に口づけた。
    「ひえっ?!」
     簓は変な声を上げて飛び上がり、勢いよく振り返って「なに?!」と空却を見返した。目を丸くするとはまさにこのことで、この顔もまた自分以外に見る機会はないのだろうと考えると、じわじわと悦びが這いあがってくる。
    「ヤろうぜ」
    「えっ、いや、うん?!」
     ソファの背もたれを乗り越えて簓に圧し掛かると、簓はらしくもなく顔を赤らめて狼狽えはじめた。
    「御誂え向きにシャワー済みだ、さっさとしろ」
    「ちょ、ちょーっと待ってな?いや、俺もそりゃ嬉しいし正直その気は満々やったけど、ピンポンしてからお茶も飲まんうちにってのは、ホラ簓さん大人ですしうふふ」
    「ガタガタうるせぇ」
    「ええ~~」
     有無を言わせず服をめくり上げてくる空却におろおろしながら、結局はそのまま簓は大人しくなった。
     カーテンの隙間から差す日の光がオレンジ色に柔らかくなるまで、二人は延々とソファの上にいた。

      終
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