はじまりは夜に似て 一度同じ布団で眠ってしまったら、その次の夜からは当たり前にそうするのかと思ったらそうではないらしい。
セイバーはいつもと同じに部屋の隅に腰掛けてそのまま眠りの姿勢に入っている。きっと声を掛けたところで断られるか昨晩のようにからかわれるかのどちらかだろう。
その背中を見遣って数秒考えたあとで「おやすみ」とだけ口にしてそのまま横になる。昨晩と同じに背中側にセイバーひとりくらいなら入れるだけの間を空けて。
どれくらい時が経っただろう。
夜はまだ深い。もうひと眠りして漸く朝の稽古に程良い時刻だろう。
あ。
背中の向こうによく知ったものになりつつある誰かの気配。それから寝息。
セイバーだ。
布団で横になりたいなら最初から入ってきたらいいのに。素直じゃない奴だ。
まぁ声を掛けないで横になったあたり、自分もたいして変わらないのかもしれないが。
「ん……」
僅かに動いたはずみで額でも当たっているのだろうか。
布越しに、体温。
「…………」
昼間はぶうぶうと文句を垂れたり、頬を膨らませてばかりなのが嘘みたいに静かで、まるで懐かない猫みたいだなと思う。ああ、でもこうやって布団に入ってくるのなら懐いている……のか?
朝から晩まで同じ時間を過ごして幾日か経つけれど、知っているのは美味いものを食べるのが好きなこと。中でも米と御御御付けが気に入りであること。それから恐ろしく剣の腕が立つこと。その剣さばきは見入ってしまう程うつくしいこと。それくらいで、名前も、どんな時代にどう生きてきたのかも知らない。
だからこうしているこの距離感が彼にとってどれくらいのものなのか、幾らかの時間を共にして彼の中の自分がどんなものになっているのか、それを測る術を俺は持たない。
けれど、
「んー、イオリ……御御御付け……」
むにゃむにゃと聞こえてきた声に、ふ、と吹き出してしまいそうになるのを堪える。茶碗山盛りの米と御御御付けの夢でも見ているのだろうか。
自然に頬が緩む。
嫌いではない、と思う。
少なくとも背中越しの体温にどこか心地好さに似たものを覚えているのも確かで。
カヤに対するものとも違う、これまで生きてきた中で感じたことのない類の、
やわらかで、そのままそこに在り続けてほしいのと同じくらい、すこしだけつよく触れて壊してみてしまいたくなるような、ひとりではすこし、持て余す、
そんなものが自分の中にあったことも、
( ……知らないことばかりだな、貴殿に出会ってから )
まるで自分がつくりかえられていくみたいに。