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    kuromituxxxx

    @kuromituxxxx

    文を綴る / スタレ、文ス、Fate/SR中心に雑多

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    kuromituxxxx

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    レイチュリワンウィークお題「銃口」

    つめたい心臓『それ』を手にするとき、いつも頭の片隅で夢想する。
     引き金を引く。幸運の女神は僕に微笑まず、鉛の塊が僕を貫いて、全部おしまい。
     その瞬間何を思うのだろう。やっと負けることができた、と安堵するのだろうか。それとも後悔するのだろうか。とか。

    「勘弁してくれないか」
     夢境。ホテル・レバリーの一室にて。
     もう何度目かになる死の実験。
     被験体は僕、アベンチュリン。
     教授の手には一丁の拳銃。
     それを僕に渡されて、これから何をさせられるのか聡い彼は察知してあからさまに嫌な顔をする。
    「教授だって人を殺したことくらいあるだろう?」
    「そういう問題じゃない」
    「ナイフの方がよかった? でも銃の方がいいだろう? 引き金を引くだけなんだから」
     夢境に死は存在しない。けれど存在しないはずのそれが存在したことについて僕たちは探っていた。
     昨日はビルから飛び降りた。
     けれど目を開いたらそこは夢境への入り口、ドリームプールの中で、目の前には僕の生死を確かめようとしたのか焦ったような表情で覗き込む教授の顔。
     どうやら夢境で死に相当する何かに遭遇した場合、強制的に現実に戻されるらしい。
    「だからってなんで僕が君の自殺行為に手を貸さないといけないんだ。僕を巻き込むな」
    「冷たいなぁ。協力してくれるって言ったのに」
    「協力をするとは言ったが自殺幇助をするとは言っていない」
    「大丈夫だよ。死んだりしないから。僕の強運は君だってよく知っているだろう?」
     薄暗い部屋の片隅で、向かい合った彼の手を包み込むように自分の右手を添える。そしてその手の中にある銃口が自分の胸の前に来るようにゆっくりと誘導する。
     薄闇の中、朝焼けのような色をした瞳がふたつ、静かにそれを追っていた。
    「だがそれだって絶対ではないだろう」
    「まぁね。でもだからこそ、だよ」
    「は?」
    「もしこれで僕が本当に死んだとしても君の手で終わりを迎えるならそれも悪くないかなぁと思ってさ」
    「何を言って、」
    「何ってそのまんまの意味だけど」
     触れている彼の手の甲は温度を失っているのかどこかつめたい。けれど僕の手のひらだってきっと同じようなものだろう。
     隠した左手だけがいつも消えてなくなったりはしない感情を握り締めている。
    「こうしてると出会った頃のことを思い出さないかい?」
     覚えてる? と僕は彼に問う。
    「あのときだって大丈夫だっただろう? 僕を信じてよ」
    「僕に拒否権は?」
    「残念ながらないね。諦めて共犯者になってよ」
    「狂ってるな」
    「どうとでも」
    「…………」
     あのときと違うのは君が少しだけ僕のことで迷うようになったこと。
     それがわかってしまうくらいには君を知ったこと。
     じっと僕を見ていた彼の瞳は何かを諦めたかのように伏せられて、睫毛が影を落とす。それからはぁ、と短い溜め息をひとつ。
    「やる気になったかい? 引き金を引くだけだ。造作もないだろう?」
     添えた手に僅かに力を込めて、銃口を胸に押し当てる。そのまま引き金を引けばいいのだと教えるように。
     彼が引き金を引く瞬間、僕は何を思うだろう。
     きっと彼がそうしたところで僕は今回も死んだりしない。昨日と同じようにまたふたり並んだドリームプールで目を覚ますだけだ。
     そのことに僕は安堵するだろうか。それとも夢から覚めた先で、また負けられなかったと落胆するだろうか。
    「君は……」
     右手がぐい、と掴まれて、僕はそのまま彼の腕の中に抱き寄せられる。
    「え、と……教授?」
    「…………」
    「別れ難くなっちゃった?」
     死んだりなんてしないのに、と僕は茶化してみせる。
    「馬鹿なことを言うな。死に顔を拝みたくないだけだ」
    「あはは、じゃあしっかりよろしく」
     突き放すような言い方をするくせに僕のからだを抱きしめる腕はまるで大事なものでも抱えてるみたいにやさしくて、あたたかくて、僕はすこしだけ胸の奥の方がぎゅっと苦しくなる。
     だって彼にそうされるのはたぶん初めてで、だから知らなかったのだ。この場所からどこにも行きたくないなんて思ってしまった自分がそこにいたことに。
     ぎゅうと抱きしめられた胸の内側では彼の心臓が煩いくらいに波打っていて、僕のからだに銃口を押し当てているその手もたぶん少し震えていて。
    「大丈夫だよ」
     言い聞かせるように腕を回して、宥めるようにその背中を撫でる。
     その指が引き金を引くとき、僕は何を思うだろう。
     やっと負けることができるかもしれないことに安堵するだろうか。それとも後悔するだろうか。
     君と、
     君ともっと……、
     不意に過った感情は見ないふりをしてそっと蓋をする。
    「やっぱり君にお願いして正解だ」
    「何がだ」
    「もしこれが僕の終わりになってもここならいいかなってちょっと思っただけ」
    「大丈夫なんじゃなかったか?」
    「うん、そうだけど」
    「止めるなら今のうちだが」
    「あはは、止めないよ」

     夢の中で夢想する。
     君が僕に向けて引き金を引く瞬間を。
    「でももし戻れなかったら君はきっと僕のことを忘れられなくなっちゃうね」
    「つくづく最低だな、君は」
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