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    こじんまり

    ゆたまきに狂っておる者です

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    こじんまり

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    このままでは没になりかねない

    #ゆたまき
    teakettle

    HENDA 最近、憂太の様子が変だ。
     いつも教室で顔を合わせているのに、なぜか朝と晩におはようとおやすみのメッセージが毎日届くようになった。
     任務でいない日は昼食のメニューを知らせてきたり、帰る旨の報告がある。
     もちろん、私が連絡するよう要求した訳ではない。
     そして任務から帰れば真っ先に私の部屋を訪れた。刀袋を肩から掛けたまま、泥だらけであったり、時に血まみれであったり。恰好は様々だが、必ずと言っていいほど憂太の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
     私は労りの言葉と共に部屋へ招き入れる姿勢を見せるが、憂太は毎回顔を真っ赤にして首を横に振った。「僕、制服洗わなきゃいけないから」だとか「お風呂まだだから」と、断る理由は尤もなものだった。
     憂太の様子がおかしくなる前までは私の部屋で一緒に勉強したこともある。時間が昼間であろうと夜であろうとも関係なくだ。それなのに憂太が私の部屋の中まで入ってくることもめっきり減ってしまった。
     一番の変化といえば、二人で出掛ける機会が増えたことだろうか。休日になると憂太は何かにつけて私を外に連れ出した。
     初めて映画に誘われた日のことだ。私は棘も一緒だろうと思っていたのだが、待ち合わせ場所であった大鳥居の下には憂太の姿しかなく、
    「棘は?」
    「え? 今日は任務じゃないかな?」
     と腑に落ちない返答をされた。
     その後も買い物に誘われて出掛けた際にはどういう訳か憂太は自分の物ではなく、二つで一組になったキーホルダーを物色していた。雑貨屋の陳列棚に並ぶ二匹の猫をモチーフにしたチャームを手に取り、手のひらにのせる。
    「真希さん、これどう思う?」
    「いいんじゃねーか? この白猫は憂太っぽい。でもこれ二つで一つだぞ」
     憂太の手からチャームをつまみ上げる。白と黒の二匹の猫が太極図のように絡み合って円の形を模していた。
     随分と女っぽい趣味だな──とは思いつつも、口には出さずにいた私の気遣いに、憂太は気がつかないまま嬉々としてそのキーホルダーを購入した。
     名入れサービスがあったらしく、買い物を終えて帰る前に再び同じ店に寄った時には黒い猫に憂太のイニシャルが、白い猫には私のイニシャルがそれぞれ彫られていた。憂太は迷わず私に黒い猫のチャームを渡した。
    「え?」と目を瞬かせた私に
    「え?」と憂太も目を丸くした。
     フレーメン反応を起こした猫のような顔で「もしかして白の方が良かった!?」と慌てふためく憂太に吹き出したことは言うまでもない。

     それ以来、なぜか私の呪具ケースには憂太のイニシャルが刻まれた黒猫のチャームがぶら下がっている。なんとなくだが、呪具を持ち歩く任務の際には呪霊を寄せ付けない禍々しいオーラを放っているような気がして御守り代わりとなっていた。
     任務に同行していたパンダに、
    「なんで憂太のイニシャルなんだ?」
     とニヤついた顔を向けられ、
    「これがあると呪霊がビビり散らかすんだ」
     と適当に返した。
     憂太も憂太で、私のイニシャルが刻まれたチャームをつけていると私みたいに強くなれた気がするとパンダに話したらしい。理屈はわからない。けれど、血みどろになって帰ってくることが減ったので確かに強くはなっているのだろうと思うことにした。

     そんなこんなで憂太の様子がおかしくなってから早一ヶ月。
     今日も今日とて私は憂太に誘われて街に繰り出していた。補助監督に美味しいハンバーガー屋を教えてもらったそうだ。なんでも、ちょうどひと月前その補助監督の女性が結婚した相手が日本在住のドイツ人で、本場の味を知る夫の舌をも唸らせたハンバーガーがあるのだと言う。
     肉汁したたるパティの上から形状を保つことができなくなるまで溶かされたチェダーチーズがかけられているらしい。
     私は何食わぬ顔で憂太の隣を歩きながらも、想像しただけで口の中に溢れる涎を飲み下した。すると、肉に気を取られていた私の肩がすれ違う人とぶつかり、慌てて思考を切り替える。互いに小さな会釈と詫びごとを述べ、すぐに気を取り直した時だった。
     ぶつかった肩とは反対の手が掴まれる。ビクリと肩を揺らして振り返れば、顔を赤らめた憂太が私の手を握っていた。
    「真希さん、ずっと上の空だから」
    「え……あぁ、わりぃ」
    「迷子になったら困るし」
     そう言うのと同時に、私の指と憂太の指が絡まる。頭の片隅で、これって恋人繋ぎってやつだろ? とニヤけるパンダが囁いた。
     憂太の手の硬さは知っている。もう何度も握ったことがあるからだ。剣術だけでなく、体術を教えたのも私なのだから。
     転べば手を取って立たせてやるし、刀以外の武具の握り方だって教えてやった。自分より大きな手を羨ましく思うことは数あれど、鼓動を速めることなどなかった。
     顔が熱いのは唐突に感じた体温のせいなのか。それとも汗ばむ自分の手が恥ずかしくなったからなのか。
    「なんっ、な、は? んな、なんで」
     回らない口がもどかしい。身体中から汗が吹き出しているような気さえする。振り解けば良いだけのことなのに、繋がれた手は神経が切断されてしまったかのように動かない。なのに、憂太の体温だけは汗ばんだ皮膚を通して感じてしまう。
     恋人でもないのにわざわざ恋人繋ぎなどせず、普通に繋ぐだけでも良かったはずだ。第一に私は迷子になんてならない。
     困ったように眉尻を下げた憂太の顔と繋がった手に視線が行ったり来たりする。挙動不審にもほどがある。私の狼狽えように憂太はなぜか傷ついたような面持ちだった。それなのに握る手には力を込めた。
    「その……僕達付き合って一ヶ月が経ったし、そろそろいいかなと思ったんだけど。ダメだったかな……?」
     しゅんと肩を落とした憂太を前にして、今度は私がフレーメン反応を起こす番だった。
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