Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    asumafriday

    遊馬(@asumafriday)の壁です。五悠。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍺 🍻 🍺 🍻
    POIPOI 14

    asumafriday

    ☆quiet follow

    呪力はなくなったけど記憶と金と顔と足の長さは繰り越したさとるが、呪力も記憶も無い恵と野薔薇を拾って育ててたら、悠仁と出会っちゃった話。続きます。

    #五悠
    fiveYo

    かぞくのとびら(The way to say I'm home.)1.


    最初に見つけたのは、恵だった。
    仕事の合間に通りかかった汚い中華料理屋。二階がアパートになっているらしいそこの、錆だらけの階段にいた、4…5歳くらいのガリガリの子供。明らかに縦にサイズアウトしたよれよれのTシャツを着て、ちょこんと座っていた。

    「め…ぐみじゃん…?」

    思わず声をかけた。目がぱちりと合う。
    まだあまりうまく喋ることができない上に、僕のことも覚えていないようだったけれど、顔には「あんた何やってんですか」と書いてある気がした。間違いなく恵だった。


    次が野薔薇。
    気分転換にと散歩に出たときに、夕方の寂れた公園で一人、ブランコをやけに力強く漕いでいた。恵と同じかそれ以上に細い二の腕と、目のまわりに紫の痣があった。場所が場所だったこともあって一瞬ヒヤリとしたけれど、目はしっかり見えているみたいだった。

    「野薔薇でしょ」

    さすがにもう驚かなかった。
    恵よりは言葉は話せたものの、やっぱり記憶はなかった。それなのに「げ」って顔をした。うん。野薔薇だった。

    なにここ流魂街の最下層なの?
    「僕と来る?」と言えば二人とも「うん」と即答だった。まずは金輪際それやっちゃダメだよ、と教えた。

    そこからは早かった。
    僕は記憶も呪力も無い恵と野薔薇を、〝今回〟もなんやかんやで持て余していた金の力で、なんやかんやして引き取り(要は彼らの親がクズで助かったということだ)、二人と一緒に暮らし始めた。
    悪趣味っちゃ悪趣味だし、金持ちの道楽と言われりゃそれまでだ。
    だけど、それでも、記憶も呪力も無いこの世界で、あの日々を、彼らの青春を、僕はやり直したかったのかな。




    僕と恵と野薔薇、3人での生活は悪くなかった。もともと僕が一人で住んでいたマンションは子供が二人増えたところで何もかわらないくらい十分な広さがあったし、僕自身は二人を引き取ると決めてすぐに極力在宅の仕事に切り替えたことで、二人の様子も面倒も見られた。料理の味は薄めにしたし、漏らせば抱えて風呂場へ走った。もう無限なんかは無いからレゴを踏んでは呻いた。振った僕のサイダーをソファで開けられたときはリビングがF1グランプリの表彰台になった。
    ベッドで寝るのはやめて、子供たちに用意した部屋で毎日川の字で、寝た。
    どうしても手が足りないときは、実家で暮らしていた頃から僕の面倒を見てくれていたシッターにお願いした。数少ない信用できる女性で、子供たちにしたら少し若いおばーちゃんみたいなもんなんだろうね。よく懐いてたし、彼女からしても、孫のように思ってくれている。
    それから、僕の部下に交代で来てもらったりもした。その中でも雰囲気が少しだけ伊地知に似た奴は、よく仕事ができた。
    恵と野薔薇、二人は僕に対してはまあ、クソガキ全開だったけれど、シッターのオバチャンやこの部下の言うことは割と聞いた。なんでだよ。

    「恵〜野薔薇〜、起きな〜出かけるよ」
    「どこいくの」
    「青春への第一歩だよ!」

    恵と野薔薇との生活が落ち着いた頃、二人を近所の私立幼稚園にねじ込んだ。
    待機児童大国のこの地域(初めて知った!)で、子供を二人、突然保育園に入れるというのはヒノキの棒で竜王に挑むようなもので、それは候補からはまず消えた。幼稚園もいくつかあったが、この幼稚園のホームページに記載されていた「完全給食」と「パパママの役員等はありません!」が決め手だった。金で解決できないことが一番厄介だ。
    グッドルッキングとはいえ、サングラスを外そうともしない怪しげな独身男が突然フラっと来て幼児二人を中途入園させたいなんて、当然ものすごく怪しまれたけれど、寄付金を山程積んで黙らせた。事情も話して五条恵、五条野薔薇としてもらった。
    金があってやっぱり良かった。

    二人が6歳になる年の春だった。

    恵と野薔薇は、紺の制帽とブレザーを着て、茶色の小さなカバンを背負い、可愛らしい絵でラッピングされた幼稚園バスに乗って登園した。
    クズ親の元では保育園にも幼稚園にも通っていなかった二人にとって、これが初めての外の世界だった。私立とは言え、世間の金持ちが行くようなお高くとまった園ではなく、ジャージを着た先生が子供たちと一緒に走り回っているそこで、毎日どろだらけになっては帰ってきた。
    園での生活に慣れてくると、野薔薇はヘアゴムや長靴の色に文句を言ってきたし、恵は僕の忘れ物(提出物や持ち物多くない!?)に厳しくなった。二人ともがブスくれて帰ってきたこともあった。親がいないことと得体の知れない男と住んでいると言うことを揶揄われて手が出たのだという。手を出したことは叱って、僕はと言うとちょっとだけ、堪えた。嘘だ。よくやった。さすが僕の子供たち。今度僕のことを「得体の知れない男」だなんて言う奴がいたら、得体の知れないグッドルッキングガイだと訂正しておけ。

    記憶も呪力もないけれど、その魂は間違いなく恵と野薔薇だった。
    二人はよく、笑うようになった。僕も、そうだと思う。

    でも、

    悠仁だけがいない。

    「ねえ、恵〜野薔薇〜…ほんとに知らない?僕のすっごく大事な子…」

    君たちと同じくらい大切で、君たちとちょっとちがう大切。
    二人が持ち帰ってきた子供用の小さな水筒(なんでこんなにパーツが多いんだ?)と食べ終わった夕飯の食器をビルドインの食洗機に突っ込みながらぼやく。ピッとボタンを押せば水が溜まる音がして食器が洗われていく。
    二人は顔を見合わせて首を傾げていた。そりゃそうか。

    いつでも探しているよだの、どっかに君の姿をだの、どこかの誰かの歌詞が今になって身に染みる。近所のコンビニ、交差点の向こう側、僕のマンションの前。「五条せんせー!」って笑ってる気がして。この世界じゃ、お前はそのどこにも居たことないのにね。

    でも、恵や野薔薇がいるんだから、お前だっているんだろ。

    逢いたいよ。悠仁。





    逢いたい。




    幼稚園の制服が半袖になった頃、恵と野薔薇は突然、家に帰りたがらなくなった。

    「ごじょうさん、おれ、ようちえんにずっといたい」
    「あたしも!えんちょうほいく!」
    「ええ〜…そりゃ僕も仕事できて助かるけど…」

    本人たちにせがまれて延長保育を閉園ギリギリまで使い、部下やシッターが交代で直接迎えに行くようになった。
    もし帰りたくなくなるくらい仲のいい友達ができたのなら喜ばしいし、園生活が楽しいなら何よりだ。でも理由を聞くと二人は気まずそうに黙った。え、まさか家が嫌とか僕が嫌とかそういう話?
    おかげで幼稚園側からは怪しまれ、ついに「お子さんたちの普段の生活についてお聞きしたく」と呼び出されてしまった。当然だ。今日、閉園時間に迎えついでに行きます、と電話で伝え、ため息をついた。

    「心当たり、ないんだけどな…」

    正面玄関から園舎へ入り、来客用スリッパを履きながら園内図で職員室を探していると、廊下の端から「あ!五条さんですかー?」と声がかけられた。
    恵と野薔薇を荷物のように両脇に抱えて、こちらに向かって走ってきたのは見たことのない男だった。


    ちがう、僕は彼を知っている。


    目の前で元気よく跳ねる明るい髪、琥珀色の蜂蜜みたいな目。

    と、その下にうっすら残った傷跡。

    野薔薇の目や、僕の胸のド派手な傷ですら、綺麗になっていたというのに。これはもう、流石両面宿儺としか。

    「あれ?五条さんですよね?もしもーし?聞いてる?」

    僕を呼ぶ声に、一億年分くらいの隙間が一瞬で埋まったみたいだった。サングラスをしているはずなのに、ちかちか眩しい。どうなってんの。何故か悠仁が「オッパッピー!」って言いながら箱から出たときのことを思い出した。

    「あっ、俺、入院しているスズキ先生に代わって副担任やらせてもらってます、虎杖です!虎杖悠仁!」
    「お、」

    お前、何年前からこの世にいたんだよ。早く言えよ。前より僕と歳近いじゃん。今までどこで何してたの。この辺はもう、声にならなかった。はは、膝笑ってる。カッコ悪。

    恵と野薔薇が帰りたがらなくなった理由がようやくわかった。朝から晩までずっとこの先生の手を、笑顔を取り合っていたんだ。二人に挟まれた彼が「いたどり!」と呼ばれる目の前の光景を僕はよく、覚えている。

    「いたどり先生、だろ〜」

    困ったように笑う、その顔も。
    なるほど。ライバルは一人でも減らしたい。だから帰らない理由、言わなかったんだろ。二人は記憶はなくとも本能で僕と彼を会わせたくなかったんだ。彼の争奪戦に僕を参加させたくなかったんだ。
    だって、

    「やっと見つけた」
    「……へ?」

    だって、
    僕の一人勝ちになるでしょ。



    The way to say I'm home.
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖😭😭💘💘💖💖💖☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺😍💖💖💘💖💘💘💖💖👏😍😭🙏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💘❤❤❤❤😭😭😭💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works