1番美味しいケーキは?今日も食べさせることができなかったと不貞腐れて溶岩ケーキは部屋に戻る。一体抱擁は何が気に入らないのだろうか。俺にどこか満足できない部分でもあるのか?一人で反省会をしているところ陽気なスピードが声をかけてきた。
「そういえば、もうすぐクリスマスってやつだろ?聞いたぜクリスマスにはケーキを食べるってチャンスなんじゃないか?」
なるほど。スピードの意見は一理ある。しかし、そういった理由で一度迫ったことはあるがきっちり断られてしまった。何かもうひと押しなければ……。
「あと、クリスマスっていろんなケーキがあるよな!ブッシュドノエルとかクロカンブッシュとか……ああいうのみるとケーキってお前だけじゃないんだなって思ってさ」
「それだ!!!」
俺はスピードのおかげで名案を思いついた。となればまずは準備をするだけ。びっくりしているスピードに手伝えと声をかけて材料を用意した。薄力粉に卵に生クリーム、他にもずらずらと並べられたのはケーキの材料。題して『他のケーキを食べさせて俺が一番美味しいことを証明してやる作戦』
「こんなに用意してお前ケーキなんて作れるのか?」
「自分自身みたいなものだから構造も作り方も把握してる。問題ない」
スピードの心配を他所に初めてとは思えない手つきで軽快にケーキを作り始める。すごいなとスピードは感心しているがいろんな種類のケーキを作るつもりなので全く手が足りない。俺は作り方をスピードに教えながら次々とケーキを作る。定番のイチゴのケーキやモンブランはもちろんクリスマスの定番のケーキも揃えた。できたケーキをずらりとな食べるとかなり壮観で頭の端でもしかしたら作り過ぎてしまったかもという考えが過ぎる。ケーキである自分自身は食べ物を必要としないし、スピードだって同じ。あれこれ食べ比べして欲しいから種類は作ったものの抱擁がこんなにケーキを食べる姿なんて想像がつかない。これは作戦失敗したかもしれなと思ったときだった。
「なんだかすごく甘い匂いがするけど……これってケーキ?」
キッチンに突如現れた抱擁の姿に俺は動揺する。せっかくクリスマスのサプライズにするつもりだったのに。
「ああ、えっと、これは…もうすぐクリスマスだからケーキを作るれ、練習をだなぁ……」
「そうなんだ。美味しそう!ねえ、食べてもいい?」
願ったり叶ったりだ。俺は了承すると抱擁はまず一番近くにあったイチゴケーキを手に取り、パクリと食べた。
「うん、すごく美味しい。」
そう呟くとホッとしている自分がいた。心のどこかでいつも俺を食べようとしないから抱擁はケーキが嫌いなのかもしれないと不安に思う気持ちが少しあったからだ。抱擁はあんなにあったケーキを嬉しそうに全て平らげてしまった。そんなにケーキが好きだったのは知らなかった。
「なぁ、どのケーキが一番美味しかったんだ?」
本来の目的を果たすために俺は口を開いた。なんだか緊張してしまう。もし、俺以外のケーキの名前が出たら。それだけで拳をぎゅっと握りしめてしまう。すると抱擁がそんな拳を優しく包み込んだかと思えばそっと唇を近づけてきた。触れ合う唇にはケーキを食べたばかりで生クリームがついていたのか普段よりも甘く感じる。ちゅっとリップ音を出して抱擁が離れると先ほどよりも不敵に笑ってこう答えた。
「やっぱり一番美味しいのは君かなっ。まだ食べないけどね」
一番に選んでもらえて嬉しいけれどまだ食べてはもらえそうにないというショックにどう反応していいかわからない。そんな俺をみて抱擁はご馳走様でしたと満足そうな顔でキッチンを後にするのだった。