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    owl47etc

    @owl47etc

    🦉。呪の文字置き場。

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    owl47etc

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    呪専夏七。夏→七で、見事に夏の罠にハマる七。

    ーするり。
    指先を掠める感覚に、七海は体を強ばらせた。じゃあね、と穏やかな声と共に夏油と自分の指先が触れる。

    それがいつから始まったのか、明確に覚えていない。初めは確か寮の廊下。狭く、男4人も固まっていたから偶然触れただけなのかと思った。異性でもなく、不快でもなかったので特に七海から謝ることもせず、気にもかけなかった。
    2度目は自販機の前。灰原と共にジュースを奢ってもらったあとだ。夏油に声を掛けられ、ジュースを奢ってもらったついでに世間話をした帰り。寮に向かう七海と灰原とは違い、夏油は用があるとのことで七海達とは反対側へと歩を進めた。その時に、また、七海の手と夏油の手が触れ合った。七海の手の甲の上を、夏油の指の腹が、触れると言うよりも優しく撫ぜるようにして掠めていった。自販機のある休憩スペースは広いのに、何故触れたのだろうか。夏油と同学年の五条とは肩を組み、時折プロレス技をかけるなど距離が近い。つい先程も灰原とは随分肩を寄せて盛り上がっていた。存外パーソナルスペースが狭い人なのかもしれない。浮かんだ疑問に仮定を立てて、残ったジュースと共に喉の奥に押し込んだ。

    のだが。仮定は仮定でしかなかった。それからも幾度となく、夏油とすれ違うたびに七海の手と夏油の手が触れるのだ。話をしている時は特に触れることも、近寄ることも無い。これは七海が元来人と距離を置く性質だから、というのもある。夏油はその辺りを汲んでいるようで、五条や灰原のように無闇に七海の懐へと飛び込まず、七海の気分を害さない安全圏に常に立っていた。だが、去り際には何故か近付き、手に触れてくるのだ。
    ある時は指先。またある時は軽く握った拳にできた関節の凹凸を。爪。掌。手の甲。触れ方も表面を掠める程度からぶつかるように強い時も、かと思えば労わるように包まれることもある。夏油なりのコミニュケーションなのだろうか。そう考えた七海はつぶさに夏油を観察してみたが、親友で最強と宣う五条とも、人懐っこい灰原とも特に手を触れ合わせることはなかった。分かったのはスキンシップは比較的多い方で、背中や肩を叩くことはあるし、(特に五条には)手も足も出る。けれども去り際に手を触れ合わせるのは今のところ七海だけ、であった。



    「夏油さんと?んー、手は握ったことないなぁ。」

    自分が知らない間にしているのでは、と同学年の灰原にそれとなく尋ねてみるも、やはり七海と同じようなことはされていないらしい。このことは家入には確認をしていない。異性相手では勝手が違うだろう、と七海は判断していた。ますます深まる謎に、知らず知らずのうちに七海の眉間に皺が寄る。

    「頑張れって肩に手を置かれたことはあるよ。七海にするのもそういうのじゃない?」
    「…それで、手を触ります?」
    「七海あんまりくっつかれるの嫌でしょ。夏油さんなりの気遣いとかじゃないかな!」

    なんてことの無いように灰原は言って、恐らく前に夏油にされたように、七海の肩に手をぽん、と置いてみせた。されている相手が違う、というのもあるが、灰原のこれと、夏油の手が触れるのはどうにも感覚が違った。だが、七海は夏油から触れられた際に感じるものを上手く言葉にできないでいた。意図が読めないのだ。
    灰原の言うように、任務や授業終わりに触れられれば、まだ労わりからの行動だと説明がつく。それでも手に触れてくるのはどうかと思うが、それは一旦置いておくことにする。
    夏油が触れるのは特に意味もなく、談話スペースに集まり解散したときや、食堂で遭遇したとき、はたまたそれこそ廊下ですれ違うときなど、突拍子も無いときばかりなのだ。かと思えば、触れずに過ぎ去る時もある。気まぐれ、或いはからかい。それが今のところ1番有力な理由ではあるが、それにしては不可解な点が多過ぎる。顎に手を添え考えに耽る七海に、灰原は指でとん、と眉間をつついた。

    「あんまり気になるなら夏油さんに聞いてみたら?」

    それができれば苦労しない、という言葉はすんでのところで止まり、口から零れることはなかった。





    進行方向の先に夏油がいる。夜間、授業で出された課題の息抜きがてら談話室でコーヒーを飲んだあと、部屋に戻ろうとした七海は、廊下の先に夏油がいることに気付いた。夏油も休憩だろう。手にマグカップを持って談話室に向かってきている。このままならすれ違う。自然と七海は息を飲み、体に力を入れる。

    「やぁ。七海は夜更かしかい?」
    「こんばんわ。いえ、課題が一段落したのでコーヒーを飲んでました。」

    用もないので部屋に戻ろうとしたところで、夏油の手の甲が、七海の手の甲に、ひた、と控え目に押し付けられた。何が目的なのだろうか。近頃はこの夏油の行動の真意ばかりに思考を巡らせている。ずっと頭の片隅で、もやもやと疑問が渦巻いている。これ以上考えても答えは出てきそうにもなく、灰原の言う通り、本人に聞いた方が早い気がしてきた。夏油も今なら忙しくはないだろう。そうと決まれば七海は振り返り、夏油を呼び止めようとして口を開き、だが、声は出ることなくその場で固まった。
    談話室に向かっていたはずの夏油も、七海の方を向いていたのだ。七海と視線が交わるなり、うっすらと目を細め、七海と触れ合った手の甲を口元に寄せ、そっと唇に押し付けてみせたのだ。ゆっくりと手を顔から離し、口付けを落とした手の甲を七海の方へと向ける。隠されていた口元ははにかんだ笑みを浮かべたかと思うと、ちろ、と真っ赤な舌を出し、唇をぺろりと舐めた。
    その一連の動作に、七海は視線を逸らすこともできず、見惚れていた。夏油はただ、手の甲に口付けをしただけだと言うのに、じわじわと顔に熱が集まり、脈が早くなっていく。一体自分はどうしてしまったのだろうか。今なお、七海は夏油から目を逸らせずにいる。動かない七海に、夏油はクスクスと笑い、1歩、また1歩と足を進める。

    「やっとこっちを向いてくれたね。」

    七海と鼻先が触れるところまで顔を近付けた夏油が、するり、と七海の手に触れる。掠めるなんて生優しいものではなく、形を確かめるように夏油の指が七海の手の上を滑り、やんわりと握られた。夏油の漆黒の瞳には、耳まで真っ赤に染まった七海自身の顔が映っている。

    「少しは私の事、気にしてくれていたかな。」

    優しく心地よい響きのはずの声とは裏腹に、夏油の瞳は獲物を捉えた捕食者のようにギラギラと輝いていた。
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