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    陽炎@ポイピク

    ジョジョ5部プロペシメインです。パソコンもペンタブもないので携帯撮り&アナログ絵しかうpしません。
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    陽炎@ポイピク

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    【妖怪富良悌郎はヒトに恋をする】
    番外編というかその後の漫画の続きみたいなもの
    読んでも読まなくてもいい小噺です

    こうして始まった富良悌郎との生活。
    彼と暮らして気付いたのは意外と要領がいい所だ。
    朝餉も普通に作れるし布団の準備や風呂の用意も片腕しかないのに器用にやってくれる。
    「どこで炊事とか覚えたんだい?」
    驚くオイラに富良悌郎は左目に走る大きな傷跡へ埋め込まれた『眼』を細めた。
    「こいつが見せる未来は誰かの『死』の間際だ。命が尽きる瞬間まで普通に生きて普段通り過ごしてた者も多い」
    見ず知らずの他人とは言え死を迎える時を見せられるのがどれだけ苦痛かオイラには分からねぇ。
    オイラが富良悌郎の立場ならきっとすぐに気が触れちまう。
    富良悌郎がヒトを老化能力で殺める事を、半妖のオイラには責められる訳ねぇんだ。
    「でも流石に握り飯ぐれぇはオイラに作らせてくれよ」
    「そうだな。お前の握り飯は美味い」
    洗濯物を干しながら微笑む富良悌郎にどきりとする。
    オイラと交わってーー半妖になってから、富良悌郎は随分柔らかい表情をするようになった。
    出会った頃は表情も冷たくて妖怪というよりは神様めいていた。
    腰から下げた徳利から吐き出される煙で非業の死を遂げる者を、老衰という穏やかなる死を与えるのはある意味救済なんだろう。
    けれど、未来が視えてしまう限り彼自身の心が救済される事は決してねぇんだ。
    だからオイラは、予知の目なんてねぇけど、オレに出来る事をしようと決意したんだ。
    富良悌郎曰く『死』の運命に囚われた人間は、死を回避しようとも因果の力で必ず死が訪れるらしい。
    そして半妖になったオイラにはその因果の印が僅かに視える。そういったヒトには必ず「凶」の文字が体のどこかにぼんやりと現れるんだ。
    オレは自分の血で『妖』と書いた布で顔を隠した。
    こうするとヒトからはオイラの姿が見えなくなる。
    都ち近い宿場町に到着すると、ひとりの少女が道を歩いていた。あの子にも印がある。
    「……!」
    その時だ。暴れ馬がその少女に向かおうとしていたのは。
    オレは咄嗟に自分の髪をひとふさ伸ばした。魚の形をした『名の力』は富良悌郎に捧げちまったけれど、オレは代わりに髪を釣り糸や釣り針に変化させる能力を持った。
    暴れ馬の脚へ髪を巻き付け尖らせた髪の先端で靭帯を傷付ければ暴れ馬はその場へ倒れ込んだ。
    少女は真っ青になって地面にへたりこんでいる。
    あの子から因果の印が消えていったのを確認しほっと安堵の溜息を吐くとオイラは帰路を急いだ。
    黄昏時は逢魔が時ーー。
    地面に伸びる2つの影……。
    「っ!?」
    オイラが立ち止まって顔を上げると。気味の悪い笑みを浮かべた2人組が佇んでいた。
    「お前か?俺達の邪魔をするのは」
    同時に言葉を発する黄昏時と同じ金髪の男と闇のような黒髪の男。
    「お、オイラは、」
    一歩後ろへ下がる。
    男達は淡々とした表情に代わり冷ややかに告げた。
    「人を死の因果から解放した所で、ヒトが運命に抗える訳がない。いずれにせよあの子は長く生きられない。この後野盗に襲われて家族諸共殺されるだけだ」
    「そこまで知っておきながら、どうしてあんた達は何もしねぇんだ!」
    オイラの叫びに金髪の男は黒髪の男を「反留兵衛」と呼んだ。黒髪の男は金髪の男を「次衛羅亜斗」と呼んだ。
    「お前こそ俺達の何が分かる?どんな死に方をしようが俺達の『因果の印』から逃げる事は出来ない。それはお前もだ」
    2人が同時にオレへ手を翳してくる。
    ーー次の瞬間だった。
    「魚(とと)!煙を吸うなよっ!」
    オイラは咄嗟に妖の布で口を塞いだ。目の前で2人の男はみるみる年老いていき最後には事切れたように倒れていく。
    「富良悌郎……」
    彼らの後ろに立っていたのは彼だった。
    「大丈夫か、魚(とと)」
    周囲の風景が焼ける炎のような夕暮れから穏やかに晴れた昼間の景色へ戻っていく。
    「これは一体?」
    「こいつらがおまえに幻覚を見せていたんだよ。妖の纏う空気は嫌でも気付く」
    半妖になったのに、オレは妖の気配すら感じ取れなかった。がくりと膝から崩れ落ちてから、ようやくオイラは震えていた事に気付く。
    「おっ、オレ、」
    悔しさと悲しさと恐怖で泣きそうだった。
    涙が嫌でも溢れ出した眦を富良悌郎が手を伸ばしてそっと親指だけで拭い取ってくれる。
    「おまえが無事で良かった」
    「でもっ、オレが助けた女の子はっ!」
    縋るように富良悌郎を見上げると、彼は眉ひとつも動かさずに答えた。
    「魚(とと)。お前はオレより幻覚を見せ付けるような妖怪の言葉を信じるのか?杞憂せずとも、枯らしておいた」
    そんなーー。
    アンタは野盗に襲われて死ぬよりはマシだからって幼い少女までをも殺すのか?
    「老衰死させたのはあの子じゃねぇ。野盗の方だ。あの男はいずれ捕まって極刑が課せられる未来しかなかった。少なくとも、お前はあの少女を『因果』から救った」
    富良悌郎の優しい掌がオレの頭を撫でる。
    オレは堪らず富良悌郎に抱き着いた。
    子供っぽいとかまだまだガキだなとか呆れられねぇかなと不安だったけれど……。
    「オレの使命の為にお前まで苦しむ必要はねぇ。オレは未来が視えねぇお前を見ている時だけが唯一の安らぎだ」
    オイラよりもずっと辛い目に遭ってるのに富良悌郎は肉と骨が剥き出しの片腕でオイラの背中を引き寄せてくれる。
    「富良悌郎、んっ、」
    富良悌郎がオイラに口付ける。啄むように幾度も角度を変えては唇を重ねられ頬が熱くなってくる。
    「愛しいオレの魚。おまえとまた交わりたい。今度は柔らかな布団の上で」
    耳元で囁く声は低く掠れていた。
    オイラは小さく頷き返して差し出された手を握る。
    ああ、神様。オイラを許してくれよ。目の前で倒れてる亡骸すら眼中にならねぇまでに富良悌郎に惹かれちまっている事を。
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