ふたりの幸せごはん「たまには野菜も食って下せェよ」
「あ?」
フォークを口に運ぼうとしていた手が止まる。
兄貴は脂っこい肉が好きだ。今日だって夕食のメニューは分厚いステーキだ。別に食いモンの好き嫌いにとやかく言うつもりはねぇ。オレだってエスプレッソも飲めねぇマンモーニだし。
けど、肉ばっかりってのも体に悪い。だから最近はオレも料理を覚えて兄貴の為に作るようになったけれど。やっぱり外食ともなるといつも選択肢が肉になっちまう。オレ達はギャングで、殺しだってするし、血生臭い事も日常茶飯事なのに、兄貴はよくも平気で肉なんて喰えるよなァ。
「別にいいだろ、死ぬ訳じゃねぇし」
「だ~か~らぁ~!野菜を喰わない食生活なんかしてたらいずれは短命になりますぜ!」
「ハン!ギャングが健康に気を遣う必要あんのかよ」
あーもう、ああ言えばこう言う。
「と・に・か・くっ!明日は兄貴をラーメン屋に連れて行きやすからね!」
つい念を押すような口調になっちまった。
本心では、今ナポリでブームの拉麺を食ってみたかったというのが理由だ。
そして迎えた翌日の夕暮れ時。
プロシュート兄貴はシャツ1枚に黒いパンツというラフな格好で店の前で待っていたオレの前に現れた。別に期待していた訳じゃねぇけど……少しはデートみてぇな雰囲気出して欲しいもんだぜ。
店のショーウィンドウにはでっけぇモニターとジャポーネを彷彿させる招き猫やら提灯やらが飾られてて妙な事に緑髪のツインテールの女の子のぬいぐるみも置かれてた。オレ達のイメージするジャポーネって感じだ。
中に入るとこじんまりとしたテーブル席に案内された。メニューに書かれた野菜たっぷりちゃんぽんを注文する。
「何だよそのチャンポンとやらは?オメーが言うと可愛いけどよ」
「野菜とか豚肉とかをラード油で炒めて豚骨や鶏ガラスープの拉麺に入れたやつですぜ」
説明してる間にラーメンが運ばれて来た。
「おい、これどうやって喰えばいいんだ」
「スープパスタみたくすりゃあいいんじゃねぇんですか。ジャポーネでは麺は啜っていいそうですけど」
プロシュート兄貴は眉を顰めた。そりゃそうだ、麺を啜るなんて真似はイタリアじゃマナー違反だ。
けど拉麺ってのはスープを麺に絡めて食べるのが正解らしい。オレは息で熱々のスープを冷ましながら野菜から食べ始めた。
「兄貴、中々美味いですぜ。野菜多めなストラッチェッティみてぇで」
オレの言葉に兄貴は渋々野菜を食べ始める。
口数の少ない兄貴にオレはやっぱり兄貴の舌には合わなかったなと不安になってると。
「悪くねぇな、シンプルな塩味だ。ベッドん中で舐めるオメーの涙の味だな」
兄貴の爆弾発言に噎せそうになっちまった。
「兄貴!!」
やばい。頬が熱い。これはきっとこのちゃんぽんのせいだ。そうに違いねぇ。