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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    DQファミリー銭湯パロ
    銭湯を経営するDQファミリーの日常ドタバタ
    べびちゃんの運動会に行く話。
    ※年齢操作色々してます
    ※カプ要素無し
    ※ご都合主義

    大人四八〇円「"決戦"の日まで・・・一週間を切った。ミスは許されねェ。・・・いいな?」

    暗い室内に差し込んだ太陽の光が、畳に胡座をかいて座る男の口元を照らした。
    怪しく光るサングラスの奥で、和室に置かれた座卓についた従業員達の顔を見回す。
    「・・・"当日"の予定を順番に報告してくれ。・・・ヴェルゴ。」
    「ああ。弁当班は朝5時から作戦を開始する。メニューは唐揚げ、卵焼き、タコさんウィンナー、おにぎり各種。尚、今年のベビーカステラは自作しようと思う。形状は最近よく見ている女児向けアニメに出てくるマスコットキャラクターだ。型も準備してある。」
    「よし、昼飯はモチベーション維持に必要だ。心して掛かれよ。次、撮影班。」
    「こっちも問題無いぜ。若。ビデオカメラの予備バッテリーは3個。その他各個人のスマホ用モバイルバッテリーは人数分用意した。後日、撮影した動画・写真は共有クラウドにアップし、鑑賞会を開くから、全員ちゃんと撮影しろよ。」
    「グラディウス。昨年テメェは場所取りに寝坊するという失態を犯した・・・。それに報いる覚悟はあるな。」
    「・・・ああ、若。今度こそ、おれを、信じてくれ。」
    「フッフッフッ。ああ、期待している。モネ、当日の休業案内用のチラシは?」
    「もう出来てるわ。今日から掲示予定よ。」
    「流石だ。・・・最後、場所取り班。」
    「もう明日でも良いくらいだぜ、ドフィ。レジャーシートにドフィ用アウトドアチェア。熱中症対策は塩タブレット、スポドリ2リットルを用意してる。
    保護者の入場は9時からだから8時には家を出る。」
    「オイオイ、今年から背の高いチェアは観覧の妨げになるから禁止だと、お知らせに書いてあっただろうが!!アウトドアチェアは無しだ、ロシー!」
    「何だと?!悪ィ!!修正する。」
    「ああ、我が子の活躍を見たいのは全員同じだ。ルールは守れ。・・・よし、総員、準備は順調だな。」
    ギラリと、そのサングラスが明るい光を反射した。
    猶予はあと、一週間。


    「気を引き締めろ・・・。来週は、ベビー5の"運動会"だ。」


    ######

    古くから活気の絶えない商店街。
    個性豊かな住民達が、商いの為に軒を連ねる賑やかな通り。
    その通りの後半に建つ、瓦屋根の立派な建物。
    「来週の土曜日は休みか。・・・承知した。」
    「よォ、"鷹の目"。そうなんだ。ベビーの運動会があってなァ。悪ィが休ませてもらうぜ。」
    商店街の中でも一際古いその建物は、公衆浴場、つまりは銭湯である。
    銭湯の"若旦那"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、通り掛けに足を止めた、2軒先にあるイタリアンレストラン"鷹の目"の店主、ミホークに上機嫌で顔を向けた。
    丁度入口に掲示された貼り紙に、ミホークはふむ、と、息をつく。
    「運動会・・・。もうそんな時期か。・・・武運を祈る。」
    「ああ、ありがとよ。いやーしかしベビーは運動神経良いからなァ。活躍しまくりだろうぜ。シャッターチャンスが止まらないな。」
    一人でペラペラと話すドフラミンゴを特に気にせず、ミホークはああ、あの、よく番台にいる小娘か、と、リボンを着けた黒髪の少女を思い起こした。
    「・・・そういえば、あの小娘はお前の妹かなにかか?」
    ほんの、世間話程度のつもりで言ったミホークとは裏腹に、よく回る口が一瞬だけ、逡巡するように止まった。
    するりと、自分の顎を撫でたドフラミンゴは小さく笑う。
    「いーや?でも、大事な、"家族"だぜ。」
    「・・・そうか。」
    大きな図体。銭湯の名前が入った、ピンク色の羽織。ガラの悪いサングラス。
    良くも悪くも目立つこの男には、"良い噂"も"悪い噂"もあった。
    それでも、この男が"家族"というのなら、それは、そうなのだろう。
    ミホークは珍しく、口元に笑みを浮かべた。
    「お、噂をすればだ。おけェり。お嬢。」
    「わかさま。」
    銭湯の入口で立ち話をする二人に迎えられた、件の"ベビー"が予想外に思い詰めた顔でドフラミンゴを見上げる。
    その視線に、ドフラミンゴは思い切り怪訝そうな顔をした。
    「オイオイ、どうした。美人が台無しじゃねェか。」
    「若様。・・・"来週"、来なくて良いから。」
    「・・・ハァ?!」
    蚊の鳴くような声で言われた台詞を、ちゃんと聞き取ったドフラミンゴが大きな声を出してしゃがみ込む。
    ランドセルを背負ったその華奢な肩を掴もうと、手のひらを伸ばした。
    「運動会は、来なくていいの!!若様は"本当"の家族じゃないもの!!!」
    パシリと、小さな手に阻まれた、行き場の無い腕が空を切る。
    そのまま走り去ってしまった小さな背中を、ミホークが呆気にとられて見送っていると、ドサリと地面で音がした。
    「・・・死のっかな。」
    「早まるな。ちゃんと事情を聞いてやれ。」
    地面に倒れ込んだドフラミンゴに、そっと寄り添ったミホークが的確に言う。
    ドフラミンゴの涙で濡れた地面を見て、ハンカチを差し出した。
    「あれ?ドフィ、何してんだよ。」
    「・・・ロシー。」
    丁度良いタイミングで、同じ商店街で整体師として働く弟のロシナンテが現れる。
    地面に転がる兄の姿を、引いたように見下ろした。
    「ロシー、丁度いいところに帰ってきた。・・・皆を集めてくれ。」
    カタカタと震える腕でロシナンテのズボンの裾を掴んだドフラミンゴは、絞り出すように言う。
    追い詰められたような兄の姿に、ロシナンテも息を呑んだ。

    「緊急事態だ。・・・家族会議を開く。」

    ######

    「「「「「運動会に来て欲しくない?!?!」」」」」
    「オイ、言葉には気を付けろ。おれァ今ナーバスなんだ。」

    番台の前に設けられた休憩スペースに、所狭しと集められたヴェルゴ、グラディウス、ロシナンテ、モネ、シュガーの5人はドフラミンゴの口から告げられた言葉に、思わず大きな声を上げた。
    当の本人、ドフラミンゴは貞腐れたように番台に突っ伏している。
    「何故急に・・・。去年は喜んでいたように見えたが。」
    「きっと何かあったんだわ。ベビーとちゃんと話しましょう。若様。」
    ヴェルゴとモネの言葉に、ちらりと目線を向けたドフラミンゴは、プイ、と顔を背けた。
    「駄目だ・・・。若の心が完全に折れてる。」
    「いやガキみたいな反応すんなよ、ドフィ。」
    「てめコラ。若はナーバスなんだよ。もっと優しく接しろ。ぶちのめすぞ。」
    「お前、ドフィの何なの。」
    言い合うグラディウスとロシナンテを後目に、シュガーは番台を見上げる。
    こうも歯切れの悪い"若様"を、見たのは初めてだ。
    「・・・他にも、何か言われたの?若様。」
    「・・・。」
    目敏く、口を開いたシュガーに、ドフラミンゴは所在無さげにガリガリと頭を掻く。

    「"本当の"家族じゃねェから、駄目だと言われた。」

    確かに、そうだ。
    ドフラミンゴと、ベビー5に、血の繋がりは無い。
    この場に居る人間も、ロシナンテを除けば皆そうだ。
    (・・・違ったのか。)
    "家族を知らない"連中が、寄せ集まって、真似事をしてきた結果の綻びなのか。
    これを、"家族"と呼ぶのは違うのか。
    その答えを、知る者はこの場に居ないのだ。
    「・・・ドフィ。モネの言う通りだ。ベビーに話を聞こう。」
    黙ってしまった一同に、ヴェルゴがやっと言葉を発し、ドフラミンゴの首根っこを掴んで番台から引きずり出す。
    大人しく引き摺り出されたドフラミンゴを伴って、ベビー5に与えている部屋へ、ゾロゾロと向かった。

    「・・・ヴェルゴ。おれァ、何か、間違ってたか。」
    「間違ってなんかいないさ、ドフィ。きっと、訳があるんだ。」

    縁側を進んだ突き当り。元は物置にしていた小さな部屋。
    そこがベビー5の部屋だった。
    障子戸の前に辿り着いたドフラミンゴ達は、押し付け合うように顔を見合わせる。
    「ヴェルゴ、頼む。おれはこれ以上ダメージを受けたら二度と立ち上がれねェ。」
    「何、それは大変だ。すぐに治療を始めよう。」
    「あら、貴方はお医者さんじゃないじゃない。」
    「・・・そうだった、おれは医者じゃない。」
    「・・・チェンジだ。ロシー、頼む。」
    「エェ?!お、おれ?!ムリムリムリ!!グラディウス頼む。」
    「あァ?!コラソンテメェ、若の頼みを聞かねェとは何たる反逆行為!!!水風呂に沈めんぞコラ!!!」
    「なァ、お前っておれの何なの。」
    「若!!おれに任せてくれ!!おれがバッチリ聞いてくるぜ!!」
    何故か自信満々なグラディウスが、一歩前に出た。
    止める間もなく障子戸に手を掛ける。
    「オイオイ大丈夫か?本当に大丈夫なんだな?信じてるぞ?」
    「ああ、任せてくれ。若。」
    柱の影に隠れたドフラミンゴ達が、その後ろ姿を心配そうに眺めた。
    グイ、とサムズアップしたグラディウスの背中が部屋の中へと消える。
    「ま、まァ、あいつは意外と兄貴肌だしな。きっと大丈夫だろ。」
    「口は悪いが・・・根は優しい男だ。大人しく任せよう。」
    コソコソと障子戸に近づき、中の様子を探るドフラミンゴが自分に言い聞かせるように言うと、ヴェルゴが優しくその肩に手を置いた。
    彼も、色々あった身の上。"痛み"を知る者特有の、優しさがある筈。

    『なァ、ベビー、お前、』
    『なァに、グラディウス。』

    中から聞こえたグラディウスの声は、いつものように怒気を含んだものでは無かった。
    その声音に、ロシナンテは安心したように煙草をくわえて火を点ける。
    「なんだよ、あいつ。ちゃんと穏やかに話せんじゃねェか。」
    「だから、言っただろう。あいつは、優しい男さ。」
    重なり合うように障子に耳を付けた5人は一先ず安堵の溜め息を漏らした。

    『ベビー、コノヤロウ、若に心配されて羨ましいんだよコラ。』

    (((((いや、優しさとは!!!!!)))))

    スパァン!!と、障子戸を開けて、ドフラミンゴとロシナンテがグラディウスを抱え、ベビー5の部屋から引き摺り出す。
    呆気にとられるベビー5を後目に、光の速さで戸を閉めた。
    「テメェ、グラディウスコラ。サウナに監禁すんぞ。」
    「お前マジでドフィの何なの?!お前マジでドフィの何なの?!?!」
    「おれだって羨ましいさ!!でも口には出さないのが大人と言うものだろう!!」
    「いやだって羨ましかったんだもん!!」
    床に転がったグラディウスに詰め寄るドフラミンゴ、ロシナンテ、ヴェルゴにモネとシュガーは溜め息を吐く。
    これは、もう少し作戦が必要そうだ。

    「ほんと、どうしちゃったのかしらね。ベビー。」
    小さく呟いたシュガーが、心配そうに障子戸を見る。
    モネは応えずに、寂しそうに瞳を細めた。

    ######

    「ドフィ。あんまり落ち込むなよ。ほら、反抗期?って奴?なんじゃねェのか。ベビーだってさ。」
    「・・・あァ。」
    銭湯ならではか、閉店後の大浴場で揃って風呂に入るのが日課になっているドフラミンゴ達は、いつもよりかなり静かに入浴をしていた。
    ロシナンテは、洗い場でヴェルゴに背中を流してもらっているドフラミンゴに、湯船の中から声を掛ける。
    頭に掛けられたタオルのせいで、気の無い返事をするその顔は見えなかった。
    「ドフィ。ロシナンテの言う通りさ。」
    「そうだぜ若。まだ一週間あるんだ。少し様子を見ようぜ。」
    「・・・あァ。」
    聞いているのか、いないのか、ドフラミンゴは頭を上げる。
    鏡を伝う水滴が、まるで、"泣いている"ように見えた。

    ("同情"、したからか。)
    その水滴を目で追って、余りにも、馬鹿なことを思う。


    『お前、こんなところで何してる。もうガキの出歩く時間じゃねェぞ。』

    『ごはん。おなかすいたけど、おうちにたべるものがないの。』

    あの、寒い日の夜。片手間で経営している風俗店に顔を出そうと向かっていたドフラミンゴは、店の前で佇む小さな背中を見つけた。

    『おかあさん、"帰ってこない"の。』

    『どこかに、行っちゃったみたい。』

    溢れるゴミに、散乱する日用品。嫌な臭い。
    少女が家だと言ったアパートの一室で、耐え難い"幻覚"を見た。

    (・・・同じだ、"おれ"と。)

    病的と言える程、人が良すぎた父親は、借金地獄を苦に、同じように荒んだ部屋で首を吊っていた。
    その、余りにも酷い"お揃い"の"傷跡"に、同情したドフラミンゴは、彼女を銭湯に連れて帰ったのである。

    "可哀想"だと、思った。"自分"と、"同じで"。
    その、"傷の舐め合い"に、"家族"という名前を付けたのが、正しいかどうか、たまに、分からなくなる。

    「・・・ヴェルゴぉ。」
    「なんだい。ドフィ。」
    「おれァ、ただ、お前らと一緒に居る"理由"がほしいだけなんだがよ。」
    ぐるりと振り返ったドフラミンゴの言葉に、ぱちくりと目を見開いたヴェルゴの動きが止まった。
    ザバリと、ロシナンテとグラディウスが勢い良く湯船から上がる。
    「ドフィ!!!」
    「若・・・!!!」
    「ウォオオ!?」
    駆け寄ってきたロシナンテとグラディウスを、ドフラミンゴごと抱き止めたヴェルゴの腕に、ドフラミンゴは風呂いすから転がり落ちた。
    「大丈夫!!理由なんか無くてもこの命は若と共にあるぜ!!」
    「そうだぞドフィ!!愛してるぜ!!!」
    「分かるよ。ドフィ。」
    「おいやめろ!!裸の男に抱きつかれるとシンプルに不快!!!」

    「ちょっとうるさい!!!近所迷惑よ!!!」
    「シュガー!!年頃の女の子が男湯に入るな!!」
    「・・・何してるの。キモい。」
    「いや、ちが、」
    その大騒ぎを聞きつけたのか、シュガーがなんの躊躇いもなく男湯の扉を開け、裸で抱き合う四人をゴミを見るような目付きで見る。
    「・・・分かったわよ。"理由"。」
    「「「「・・・え。」」」」
    そして、ため息をついて言うのだった。

    ######

    一方、少しだけ時間を遡った、女湯。
    まだ営業中の銭湯で、丁度客が途切れた時間。
    モネに誘われたベビー5は広すぎる湯船に、やけに静かに浸かる。
    (・・・今日は、みんな静か。)
    いつもは、客も、従業員もうるさくて、余計な事を考える暇など無いのに。
    モネは隣の小さな黒髪を撫でた。
    「ねえ、ベビー。どうして運動会、来なくて良いなんて言ったの。」
    チャポン、と、動く度に鳴るお湯の間抜けた音が響いて、本当に静かだと思う。
    モネはずっと、難しい顔をしているベビー5を覗き込んだ。
    「・・・学校で、運動会に来ていいのは家族だけって、先生が。」

    『先生ー!お父さんとお母さんの友達も来て良いですかー?!』
    『ごめんなー。観覧スペースが限られてるから、ご家族だけの参加にしてなー。』

    クラスメートが言った台詞に、何となく、ドキリとした。
    家族。家族。そう言えば、彼らは自分にとって何なのか。
    「・・・誰かに、聞かれたら、説明できないと思って。ねぇ、モネ。わたしたちって、一体、なんなのかな。」
    「・・・ベビー。」
    ポロポロと、その大きな瞳から溢れた涙に、モネの瞳が揺れた。
    確かな"何か"が無いから、少しの事で不安になる。
    そんな事は、ずっと前から知っていた。
    「色々考えてたら、悲しくなっちゃって、わかさまに、酷いこと言っちゃった・・・。わたしここから追い出されちゃうの?そうしたら、どこへ行けばいいのかしら。」
    ぱしゃりと、一際大きく揺れたお湯が少しだけ顔に掛かる。
    モネの細くて白い腕が、ベビー5を抱き締めた。

    「馬鹿ね。"一緒に居たい"人たちを、家族と呼ぶんじゃない。」




    「・・・って、モネが言ってたわ。」
    「あァ?去年も行ったんだから問題ねーだろ。それに、一応学校側に、若は親戚って言ってあるんだろ?」
    「馬鹿は黙ってて。」
    「あ、はい。すいません。」
    「そういうんじゃねェんだろ。グラディウス。・・・あいつの、気持ちの問題ってことだ。」
    再び集合したドフラミンゴ達がシュガーから聞かされた"理由"に、ため息を吐く。
    畳に置かれた座卓に肘を付いていたドフラミンゴは、ゆっくりと座椅子の背もたれに凭れた。
    「気持ちの問題だけじゃないかもね。」
    柱に寄り掛かって膝を抱えるシュガーが、いかにも生意気そうに瞳を細めて言う。
    ドフラミンゴはゆっくりと顔を向けた。
    「・・・あの子に何かあった時に、連絡が来るのは若様じゃないのよ。あの子と若様を繋ぐ"痕跡"なんて、なんにも無いんだから。
    今後あらゆる場面で訪れる、"家族"の署名欄に、私達は名前を書くことはできないの。・・・それが、どういうことだか分かる?」
    ドフラミンゴはサングラスを取って、考えあぐねるように手のひらで瞳を覆った。
    本当を言うと、このなし崩しの関係が、愛おしくもある。
    家族という括りで失敗した手前、"もう一度"と思えるほど、馬鹿でも前向きでも無い。
    「私達は皆成人してるからどうにでもなるけど、あの子はまだ未成年なのよ。若様。」
    意外と、強い光で見つめるシュガーに、ドフラミンゴは手持ち無沙汰に額を撫でた。

    「お前の言う通りだ、シュガー。・・・一つ、提案がある。」

    ######

    「ドフィ。久しぶりだなァ。んねー、銭湯は繁盛してるかァ?」
    「フッフッフッ。あァ。問題ねェ。リクの爺に黙ってスパ銭にでも改築しようと思ってなァ。時代はリラクゼーションさ、トレーボル。」
    ビジネス街にある寂れた古い喫茶店で、年季の入った椅子とテーブルで向かい合ったドフラミンゴとトレーボルは静かに世間話を繰り返す。
    ドフラミンゴが経営している風俗店の"支配人"トレーボルは、特有の、湿っぽい声で笑った。
    「んねー、今日はどうしたんだァ?急に呼び出して。」
    「・・・あァ。"探して欲しい"女がいるんだが。」
    ドフラミンゴが茶封筒に入れた書類をテーブルに放る。
    中身を見もせずに、トレーボルは受け取り鞄に仕舞った。
    「人探しねェ?今度は何の揉め事だァ?ドフィ?」
    「馬ァ鹿。違ェよ。フフフフッ。"娘さんを、おれにください"って奴だ。」
    「・・・?」
    愉快そうに喉の奥で笑ったドフラミンゴを、トレーボルは怪訝そうな顔で見やる。
    少しずつ、"人間"に近づいて行くこの男に、トレーボルの瞳は落胆したように暗くなった。






    「ベビー。ちょっと来い。」
    「・・・はい。若様。」
    運動会を明日に控えた日の夜。ドフラミンゴはベビー5の部屋に顔を出して、ちょいちょいと手招きをした。
    大股で歩くドフラミンゴに小走りで付いていくと、ドフラミンゴの自室に辿り着く。
    座椅子と、座卓が置かれた簡素な和室に入ると、ドフラミンゴは座椅子に座り、ベビー5は向かいの座布団にちょこんと座った。
    運動会の件が後ろめたいベビー5は、そわそわと落ち着かないように自分の指同士を絡ませる。
    「あのな。ベビー。運動会の事なんだが。お前は来るなって言うけどよ、おれァ、お前が頑張ってるのを応援しに行きてェんだよ。」
    「あ、あのね、わかさま。」
    「まァ、聞け。お前は、"家族"じゃないから駄目だと言うが・・・それならお前、おれの、"家族"になるか。」
    「・・・え。」
    座卓の上に、クリアファイルに入った書類を置いたドフラミンゴは、珍しく、視線を泳がせた。
    書類に書かれた"養子縁組"の文字を、ベビー5は理解ができない。
    「世間は、これを書けば、おれとお前を本物の家族だと認めてくれる。お前の母親にも了承を取った。・・・なァ、ベビー、お前・・・"家族"は、"欲しい"か?」
    痛い目を見た。"家族"の"括り"で。
    それは、この少女もドフラミンゴも同じ事だ。
    この期に及んで、まだ、そんな、浅はかな夢を見るべきなのか、ドフラミンゴには分からないままだ。
    「・・・"家族"になりたいかは分からないけど、"わかさま"とはずっと一緒に居たい。」
    その大きな瞳が一気に潤んで、ポロポロと涙が溢れだす。
    ドフラミンゴはゆっくり立ち上がると、ベビー5の横にドカリと腰を下ろした。
    「ねぇ、わかさま。本当は運動会に来てほしいの。前みたいに、皆で。でも、家族じゃないと来ちゃ駄目って、言われたから、」
    「ああ。分かってる。」
    ドフラミンゴの膝に突っ伏して、わんわん声を上げて泣くベビー5の黒髪を撫でる。
    そうやって、怖気付いているうちに、綻んでしまった"家族"の形に、ドフラミンゴは少しだけ、後悔をした。
    「お願いよ。わかさま。家族になんかならなくてもいいから、嫌いにならないで。私を置いてどこへも行かないで。」
    「馬鹿野郎。嫌いにもならないし、どこへも行きやしねェよ。」
    その小さな手のひらに、"もう一回"くらい、別に良いかと、あっさり崩れた逡巡に、ドフラミンゴは瞳を細めた。
    「なァ、ベビー。ずっと一緒に居たいなら、それは、家族って奴だと思うぜ。少なくとも、おれは、そう思ってる。」
    「だったら、なるわ。若様。家族になりたいの、若様と。」
    後から後から流れる涙を、ドフラミンゴの大きな手のひらが拭う。
    真っ赤になった、その大きな瞳に、ドフラミンゴは小さく、ため息を吐いた。

    「フフフフッ。お前、どこでそんな、口説き文句を覚えてきやがった。」

    ######

    カラリと晴れた晴天。
    歓声が飛び交う小学校のグラウンドで、ひたすら目立つ団体様が一組。
    「よォしお前ら。午前中最後の種目だ。シャッターチャンスを逃したものに幸福な明日は無いと思え。」
    保護者の観覧席で、最新のビデオカメラを設置し、全員並んでスマホを構えるガラの悪い連中に、他の保護者は既に若干引いている。
    その気合十分な様相に、近付く影が一人。
    「オイコラ邪魔だぞ"風呂屋"。うちのペローナが見えねェ。」
    「ゲ!モリア・・・!!」
    同じ商店街のおもちゃ屋であり、商店街の組合仲間でもあるゲッコー・モリアが、その大きな図体を無理やりドフラミンゴの横に捩じ込んだ。
    「良い席陣取りやがって・・・!ちょっと避けろよ!!」
    「ふざけんな!こっちはてめーらとは気合が違うんだよ!!」
    「若様!ベビーが入場してきたわよ!」
    スマホを構えたモネが、乱入したモリアと掴み合うドフラミンゴの肩を揺する。
    少し緊張したような面持ちで、ベビー5がグラウンドに入ってきた。
    「あ!コケた!!コラソンの呪いか?」
    「おれかよ!うわー、なんか幸先悪いなァ。」
    一行が見守る中、躓いたベビー5に真っ先に駆け寄る児童の姿。
    転んだベビー5の腕を掴んで、立たせてあげたその男子児童の顔に、見覚えは無かった。
    「・・・・・・・・・・ヴェルゴ。奴は、どこのどいつだ。」
    「・・・うちの5軒先にある魚屋"八宝水軍"の倅だな。」
    「・・・チンジャオの爺の所か。ヴェルゴ、ブラックリストに入れろ。」
    「ああ、承知した。」
    「いやこえーよ、お前ら。」
    立ち上がったベビー5が、恥しそうにこちらを見て、大丈夫と言わんばかりに、大きく手を振る。
    それに小さく手を振り返したドフラミンゴは、緩む口元に気が付いてもいない。
    「何だテメェ、気持ち悪ィな。」
    「あ?良いだろ別に。"家族ごっこ"も、悪くねェなァ。モリア。」
    「ケッ!うちのペローナの方が足は速いけどな。」
    「言ってろよ、蝙蝠野郎。」


    「なんか・・・すごい圧を感じるやい。」
    「そう?助けてくれてありがとう。」
    一方、少年サイは背中に感じる物騒な気配に、ぐるりと後方を振り返った。
    保護者席から、物凄い圧を感じる。
    「・・・あそこの、お前んところのか?」
    サングラスを掛けた大男を筆頭に、鎮座する団体を指差したサイは、ベビー5を覗き込んだ。
    当の本人は随分と嬉しそうに笑って、そちらに大きく手を振っている。
    彼女が、あまりにも嬉しそうに笑うものだから、サイは少し面食らって目を丸くした。

    『ずっと一緒に居たいなら、それは、家族って奴だと思うぜ。』

    ただ、彼らが一体何なのか、ちゃんと、口に出して言いたかっただけ。
    それを、躊躇わせない"確信"を、あの男はくれたのだ。

    ベビー5は振り返って、満面の笑顔で口を開く。

    「そう!みんな、わたしの"家族"よ!」
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    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202