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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフコラロ海軍if(+7武海鰐野郎)
    第二話
    いつもの海軍ifの過去編になります。
    ※ドフ鰐前提
    ※あの島の一件に感銘を受けて(n回目)、過去編スタートです。
    ※ド28歳✕鰐33歳
    ※いつもの如く海軍仕様に捏造、ご都合主義注意
    ※多分続きます

    プラズマ・ダイブ!!!②「よッ。相変わらず仏頂面だなァ。」

    海軍本部の裏庭に設置されたベンチにちょこんと座る背中を見つけたロシナンテは、くわえ煙草のままその顔を覗き込んだ。
    "兄"が連れ帰った、"珀鉛病"の少年。
    "ロー"は出会った時から変わらぬ瞳で、ロシナンテを見上げた。
    「・・・ドフラミンゴの弟。」
    「・・・いやまァ、そうなんだが。・・・ロシナンテだ。」
    「お前ら兄弟は名前が長い。」
    「ハハ、確かにな。」
    ローは膝の上で広げた難しそうな本から顔も上げず、生意気な言葉を吐く。
    この少年がこんな"似つかわしく無い"場所に来て、一週間が経った。
    世界政府には、珀鉛の害を"隠していた"負い目がある。
    その"下請け"が、フレバンスの生き残りを抱え込むのは勿論良くはないだろう。
    完全に持て余されている現状を、理解しているかのように、ローは何度か脱走を試みては、結局誰かしらに見つかり、連れ戻されていた。

    「・・・"コラソン"。」

    「ん?」
    「何人かの奴が、お前の事をそう呼んでた。・・・どういう意味だ。」
    「ああ、昔潜入捜査をしてた時に使ってた名前だ。あの頃同じ隊だった奴は今もそう呼ぶんだ。お前も、そっちのが呼びやすかったら、それでも良いぞ。」
    やっと、本から顔を上げたローは、その、兄とは違う、人の良さそうな顔を見る。
    「どうせ、おれは死ぬんだ。別にどっちでも良い。」
    「大丈夫だって。おつるさんが治療法を探してる。あの人はやると言ったらやる人だ。」
    ポンポンと、帽子の上から大きな手のひらがその頭を撫でた。
    そういえば、海兵達はローを気味悪がって近付きもしないのに、"すなのおうさま"と、この兄弟は、何の躊躇いも無くその白い肌に触れる。
    「何でおれに構うんだよ。」
    その温かい何かを殺すように、小さく、呟かれた台詞にロシナンテは存外、困ったように笑った。

    「・・・さァ、何でだろうな。」

    "救えないまま"ここまで来てしまった、彼が。
    今でも、ロシナンテは、あの日の"兄"が怖い。

    (きっと、"ドフィ"に、"似てるから"だ。)

    がらんどうの瞳。怒り。破壊衝動。人間嫌い。
    その"価値観"に、寄り添えるから、この少年を拾ってきたのだろう。

    (どうか、)

    (どうか、この少年が、"誰か"に"銃口"を、向ける日が来ないように。)

    ######

    「・・・流行り病?」
    「・・・ああ。一部の海兵達の間で流行していてね。症状は風邪と変わらないから、そう騒ぎ立てる事でもないんだけどねェ。」
    午後、"中将"つるに呼ばれたドフラミンゴは、デスクの前に立ってその難しい顔を見下ろした。
    内容は、海軍本部でウィルス性の体調不良が相次いでいるから、手洗いとうがいをしっかりしなさい、などという平和なお言葉。
    ドフラミンゴは"くだらねェ"と、鼻を鳴らした。
    「・・・"タイミング"が、良くないかもしれないね。"ロー"と、できるだけ一緒に居てやっておくれ。」
    「なんだ、あんた、あのガキを、"おれ"みたいにしたくねェんじゃ無かったのか。」
    目敏いその言葉に、つるは返さず、ちらりとそのサングラスを見上げるだけだ。
    ドフラミンゴは嬉しそうに口元を歪めて、くるりと踵を返す。
    扉の前まで歩いてから、ふと、思いついたように足を止めた。

    「・・・あんた、珀鉛病が"中毒"だと、えらく簡単に信じたよな。・・・何か、確信でもあったのか。」

    ローを連れて帰ったあの日、珀鉛病を患う少年に、その正門は開かなかった。
    伝染病の噂は未だ根強く、海軍本部でもそう思っている人間は多い。
    海軍本部に珀鉛病を蔓延させる気か、と、そう言ったのはあろうことか"将校"クラスの海兵だった。

    『騒ぎ立てるんじゃないよ。みっともない。・・・開けておやり。』

    "何とか"の、"一声"とは、この事か。
    あの時場を収めたのは、この"中将殿"だった。

    振り返ったドフラミンゴの顔に、つるはきょとんと、その瞳を少しだけ丸くする。

    「・・・"お前"が、中毒だと言ったんじゃないか。ドフラミンゴ。お前は、間違った情報を流すような事はしないだろう。」

    つるの言葉に、ドフラミンゴの喉が僅かに震えた。

    (・・・偶に、)

    偶に、"壊したい世界"の中に、"壊したくない"物が入り込む。
    この牙を、折らんばかりの衝撃に、ドフラミンゴはいつも、どうしようもなくなるのだ。

    「・・・ああ、そうかよ。」

    世界が、自分に、"優しい"のは、"困る"。
    この"破壊衝動"が、鳴りを潜めるのが、"怖い"。

    『・・・ふざけるなッ!!!!』

    「「・・・!」」

    ドフラミンゴがドアノブに手を掛けた瞬間、扉の外で怒鳴り声がした。
    何かが倒れ、割れる音に、ドフラミンゴとつるは慌てて部屋を飛び出す。

    「・・・これが"珀鉛病"じゃない確証があるのかよッ!!!」

    「あんなガキを入れるから・・・!!!」

    「あのガキが来てから、妙な"体調不良"が続出してる・・・!!!」

    執務室の隣の隣。
    医務室の入口で軍医に掴みかかる海兵が数名。
    "流行り病"に、掛かった海兵達だ。

    そして、その数名の背後に立ち尽くす、ロシナンテと、その腕に抱えられた"白い街"の"少年"。
    割れた薬品の瓶から、アルコールの強い、匂いがした。

    「どうせ死ぬんだろ?!さっさと追い出せよ!!あのガキは、"ホワイトモンスター"だ!!!」

    がなる。怒鳴る。顔の無い、得体の知れない群衆。
    踏み躙ったものに、気が付きもしない、哀れで、残酷な生き物。

    『天竜人の一家だ・・・!!!』

    『吊るし上げろ!!!!』

    目の前が、妙に赤く染まって、ドフラミンゴの右腕が衝動的に上がった。

    殺せ、殺せ。怒れ、破壊を。さもなくば、

    (踏み躙られるのは、"おれ"だ。)



    その時、ドフラミンゴの振り上げた二の腕を、掴んだのはか細くて、華奢な手のひらだった。
    黙ったまま、ドフラミンゴの瞳を見上げたつるは、気の毒そうに瞳を細める。

    「おやめ。・・・ドフラミンゴ。」

    「・・・ッ、は、」

    その瞳に捕われた瞬間、思い出したように呼吸を再開したドフラミンゴの喉が震えた。
    グラリと揺らいだ視界に、ドフラミンゴの足がよろめいて、思わず壁に腕を付く。
    「ドフラミンゴ・・・!大丈夫かい?!ロシナンテ、手を貸しておくれ。」
    「ドフィ?!」
    壁に凭れたドフラミンゴを必死に支えたつるの細い腕に、驚いたロシナンテの視線が"兄"に向いた瞬間。
    腕に抱えられていたローが、ロシナンテの懐からピストルを抜いて、ひらりと床に飛び降りた。

    「ウゥウ・・・!!!」

    「・・・ろ、」

    小さな唸り声を上げたローは、小さな手のひらで握りしめたピストルを、怒鳴り散らす数名の海兵へ向ける。

    (ああ、駄目だ。)

    誰かに、その銃口を、"向けてはいけない"。

    その時、ロシナンテの瞳に映ったのは、黒い髪の後ろ姿では無かった。
    幻覚の中で、丸い後頭部の"金髪"へと、必死に腕を伸ばす。

    小さな指が、その引き金を引く瞬間、届いたロシナンテの手のひらが銃身を掴み、銃口を自分の肩へ押し付けた。

    「・・・ロシナンテ!!!!」

    轟音と共に、つるの引き攣った悲鳴が上がり、崩れ落ちたロシナンテの周りに、真っ赤な液体が、じわりじわりと広がる。
    騒いでいた海兵達の怒鳴り声がピタリと止んで、妙な静けさが辺りを包んだ。

    ######

    嫌なものを見た。
    グラグラと頭の中が揺れている気分に、吐き気が止まらない。
    自室のベッドの上で膝を抱えて蹲るドフラミンゴの背中が、意味もなく揺れた。
    サングラスを外すと、薄暗い部屋の中でも何だか眩しいような錯覚に襲われる。
    見開いた瞳の奥で、怒鳴り声を上げる人間達の顔が、どうしたって思い出せなかった。

    ベッドサイドのミニテーブルに置かれた酒瓶を握ると、直接口を付ける。
    美味いのか、不味いのか、それすらも分からなかった。

    「・・・そんな、飲み方をするもんじゃないよ。」

    「・・・説教は、体調が良いときにしてくれ。」

    鍵を掛け忘れていた扉が開いたのにも、気が付かなかったドフラミンゴに、呆れたようにため息を吐いたつるは、哀れなその様子を見下ろした。

    「・・・ロシナンテが目を覚ました。弾丸は貫通していたし、重症だが、命に別状は無いそうだよ。」

    用件を口にしたつるを、その、サングラスの無い"右目"がぐるりと見上げる。
    左の眼球は、爛れた皮膚に覆われていて、つるは見たことが無かった。

    「・・・撃たせりゃァ、良かったんだ。」

    ガリ、ガリ、と、親指の爪を噛む音がする。
    ギラギラと見開かれた瞳は、相変わらず、グラグラと揺れていて、焦点が定まっていなかった。

    「ロシーは、あいつは、"まだ"、銃を構える"子ども"を、"憐れんでいる"。」

    「ドフラミンゴ。」

    ベッドに腰を下ろしたつるは、ゆっくりと、その金色の髪を撫でる。
    やっと、ドフラミンゴの焦点が、つるの瞳に合った。

    「どうして、そう、不幸になろうとするんだい。お前は、"幸せ"に、なれるんだよ。」

    苦しそうに歪んだドフラミンゴの頬を、するりと、つるの細い手のひらが撫でる。
    まるで、幸せを、具現化したような女。
    こんな女が居るから、この"破壊衝動"が行き場を無くすのだ。

    「・・・"おつるさん"、」

    いつしか、呼ばなくなったその名前を呟いて、ドフラミンゴはその細い腰に縋り付く。

    "壊したい""システム"があった。
    その"中"に、壊したくないものもある。
    ここに来てから、その矛盾に、永らく折り合いが付けられない。

    それでも、そうだ。この人は、黙って髪を、撫でてくれるのだ。

    「いつか、おれは、」

    この人のことも、壊してしまうのだろうか。

    痛む眼球の奥を、無理矢理やり過ごして、ドフラミンゴの口元が歪んだ。

    ######

    『・・・わたしが父親で、ごめんな』

    本当に、"そうだと""思う"。
    あのまま、"彼"が人間になりたいなんて言い出さなければ、自分達は愚かな事にも気が付かず、色んな物を踏み躙りながら生きていた筈だ。
    その不様な生涯を終えたとしても、きっと、それが不幸だということにも気が付かなかっただろう。

    (・・・何より、)

    "兄上"が、"彼"を殺すなんて、そんな、あまりに重たい罪を、背負うことも無かったのに。

    「・・・。」

    ぱちりと、大きな瞳が開いた。
    視線を横に流すと、既に日は落ちていて、部屋の中まで暗い。
    動かない肩を庇いながら、ロシナンテは上半身を起こした。
    暗い医務室は、薬品の匂いに満ちていて、どうにも居心地が悪い。

    「・・・ロー?」

    足の上に重みを感じて、そちらを見遣ると、小さな体が布団の上で丸くなっていた。
    涙の跡だらけの頬に、ロシナンテは困ったように眉尻を下げる。
    (ほら、結局。おれは、誰も救えない。)
    その柔らかい頬をつついて、溜息を吐いた。

    『どうせ、おれは死ぬんだ。別にどっちでも良い。』

    "可哀想"だと思った。"兄"と"同じ"で。
    その、明らかな"同情"で、この小さな少年を、傷付けてしまった。
    巻かれた綺麗な包帯の上から、その、"しっぺ返し"の跡を撫でる。
    「・・・痛くもなかった。」

    ふわり、ふわりと、その黒い髪を撫でて、ロシナンテは大きな手のひらで自分の瞳を覆った。

    「・・・"痛ェ"のは、お前の方だったよな。・・・ロー。」

    その、痛みは、どうして"自分"には、降りかからないのか。
    いつだって、"傍ら"の"少年"が、その痛みを負うのだ。
    その時、ローの小さな背中が、少しだけ震えた事に、ロシナンテは、気が付かなかった。

    「・・・ロシー。傷はどうだ。」
    「・・・ドフィ。」
    カタリと、静かに扉が開いて、ドフラミンゴが顔を覗かせる。
    取り繕うように顔を上げて、ロシナンテは情けない顔で笑った。
    「なんだよ、酷ェ顔してるぞ。」
    「・・・ほっとけ。それならお前もだ。ロシー。」
    力無く言い合うと、ドフラミンゴはロシナンテの上で眠るローをちらりと見下ろす。
    そして、少しだけ、気の抜けたような笑みをこぼした。
    「えらく懐いてるな。」
    「・・・おれが、執着してるだけだ。」
    妙に、強い目つきで顔を上げたロシナンテに、ドフラミンゴが気圧される。
    一度、その手のひらがローの頭を撫でた。

    「・・・このガキに、お前、"何"を"見てる"。」
    「・・・さァな。でも、"可哀想なガキ"を、放っておけねェんだ。」

    怯むという、枷を持たない危険な存在。
    その"枷"に、自分はあの時、成れなかった。
    その"後悔"を見透かして、苛ついたように、ドフラミンゴは舌を打つ。

    「どいつもこいつも・・・。うんざりだ。"お前ら"、一体このガキに"誰"を見てやがる・・・!!!」

    ギラギラと、暗い室内で、サングラスに月明かりが反射する。
    ドフラミンゴはロシナンテの首を掴んだ。

    そうだ、"同じ目つき"をしていたから、拾ってきた。
    同じ"衝動"を、同じ"価値観"を、共有できるただ一人の同胞。
    それを、一体どうして、取り上げるのか。

    「ドフィ。」

    ロシナンテの片腕が、ドフラミンゴの首に掛かり、その体を引き寄せた。
    頬に当たった、柔らかい髪にドフラミンゴは思わず息を呑む。

    「"本当に"、この世は、おれたちに、優しく無いのか。」

    ロシナンテがゆっくりと吐いた言葉に、ドフラミンゴの眉間に皺が寄った。
    同じ血が、流れている割に、"弟"はこの厄介な"衝動"を持たない。

    『どうして、そう、不幸になろうとするんだい。お前は、"幸せ"に、なれるんだよ。』

    『・・・"お前"が、中毒だと言ったんじゃないか。ドフラミンゴ。』

    口角の下がった唇が、小さく震えて、掠れた呼吸を繰り返した。
    そんなの、言われなくても、分かっていた。

    「・・・"優しい"から、"困る"んだ。」

    震えるその大きな体に、ロシナンテはため息を吐いて、痛みを伴う肩をやっと動かすと、両腕でドフラミンゴに抱き着く。
    こんなところで生きていたら、いつの間にか、この男にも、"枷"が嵌ったのか。

    「もう、"諦めよう"ぜ。・・・ドフィ。」

    "諦め"が、諦めさえ付けば、もう、

    開放されたプラズマみたいに落ちてくだけなんだ。





    「ロシナンテ、具合はどうだい・・・、」

    就寝前に、ロシナンテの様子を見に来たつるは、医務室の扉を開けた。
    暗い部屋に注がれた、明るい月明かりに照らされて眠る男共が目に入る。
    目の前に広がるその光景を、眩しそうに眺めてから、つるは呆れたようにため息を吐いた。
    ベッドサイドの椅子に腰掛けたまま、腕組みをして眠るドフラミンゴと、ベッドでローを腹に乗せたまま眠るロシナンテに、何か、"幸せ"な兆候を見る。
    少し笑ったつるは、予備の毛布を出してきて、ドフラミンゴとローに掛けてやった。

    「ゆっくり、おやすみ。」

    そして、一度、ドフラミンゴの髪を撫でると、静かに、扉を閉めるのだった。

    ######

    『ロー。お前は、海兵になれ。
    おれはお前を、10年後のおれの右腕として鍛え上げてやる。』

    『・・・どうせ"三年後"におれは死ぬ。』

    『フフフッ!!それは、"お前"の"運次第"・・・!!』

    朝、目が覚めたローはドフラミンゴの執務室に呼ばれ、一方的にそう宣言された。
    それを受け入れたのは、ただ、

    『・・・"痛ェ"のは、お前の方だったよな。・・・ロー。』

    『珀鉛病は"中毒"だ。他人には感染しねェよ。』

    ただ、少しだけ、この世界を壊したら、後悔するかもしれない事ができたからである。

    こうして、数奇な人生を歩む"白い街"の"少年"は、海軍本部に錨を降ろす事となった。



    「す・・・、」
    「あァ?」

    ドフラミンゴの執務室。
    至極真面目に仕事をしているドフラミンゴの横に設えた学習机で本を読んでいたローは、突然妙な声を上げた。
    不思議に思ったドフラミンゴがちらりとその小さな頭を覗き込むと、窓の外に、随分と明るい顔を向けている。

    「久しぶりだなァ、少年。・・・少し、大きくなったか。」

    「"すなのおうさま"・・・!!!!」
    「・・・げ。」

    窓枠に降り立った砂の塊が、徐々にクロコダイルの姿に変わった。
    随分と真っ当な笑顔を見せたクロコダイルに、ドフラミンゴは素直に嫌そうな声を出す。
    「何の用だ。"サー"・クロコダイル。七武海用の入り口はここじゃ無ェだろう。」
    「クハハハ。お宅の"大将殿"に呼ばれてね。ついでに"准将殿"の顔でも見ておこうかと。」
    「・・・結構だ。貴賓室で待機してろよ。部外者が。」
    親指で扉を指したドフラミンゴに、クロコダイルは相変わらず上機嫌で笑い声を上げ、慣れたように部屋の中へと入り込んだ。
    「土産だ。おれの国で流行っていてな。」
    「お前の国ではないよな。」
    「・・・おおお!!!」
    ローの机に、スマートに紙袋を置いたクロコダイルに、ドフラミンゴは冷静に口を挟む。
    顔を輝かせたローは、その紙袋の中を覗き込んだ。
    紙袋の中の小さな箱には、"クンフーサブレ"と書かれた洒落た箱。
    中身は"クンフージュゴン"の形をしたサブレが詰められていた。
    「お前、甘やかせば良いだけの親戚のオジサンポジション狙うの止めろ。」
    「クハハハ!すまないね、"根暗ミンゴ君"。"砂の王"は誰にでも優しいのさ。」
    「"すなのおうさま"!!ありがとう!!」
    割と、可愛いものが好きらしいローが、嬉しそうに言うと、その大きな手のひらで、小さな頭を雑に撫でる。

    「あれ?クロコダイルさん居るじゃねェか。センゴクさんが来ないって騒いでたぞ。」
    「"コラさん"!!」

    ノックも無しに扉が開き、ロシナンテが顔を覗かせた。
    またもや明るい顔で、ローが貰ったサブレをロシナンテに見せる。
    「わぁ、毎回悪いな、クロコダイルさん。良かったなー、ロー。」
    ニコニコとだらしない顔で笑うロシナンテを、一瞬、冷ややかな視線で見たクロコダイルは、すぐに取り繕うような笑みを浮かべた。
    「随分仲良くやってんな。ドフラミンゴ君の事はなんて呼んでるんだ。」
    「・・・えーと、"ドフにい"。」
    「・・・・・・・・・どうだ、尊いだろ。」
    ニヤける口元を、手のひらで押さえるドフラミンゴに、流石のクロコダイルも引いたように瞳を細める。
    机の上に、まるで、兄弟のように並んだ、三人の写真が飾られていて、クロコダイルはげんなりと心の中でため息を吐いた。
    「素敵な"家族ごっこ"だ。大事にしろよ。」
    「うるせェ。」
    成りを潜めた危うさに、拍子抜けしたようなクロコダイルはひらひらと手のひらを振りながら、扉へと向かった。
    つい、先日まで、この男の背後は、もっと、暗かった筈。

    (・・・つまんねェなァ。)

    一人胸中で呟いて、クロコダイルは妙な温度を持つ部屋を出て行った。

    ######

    「約束の時間は過ぎているぞ。クロコダイル。」

    静かな部屋に、重く響く声。丸い眼鏡に反射する、午後の明かり。
    海軍本部"大将"、センゴクの元に馳せ参じたクロコダイルは、その苦言にも、つまらなそうに眉尻を下げるだけだ。

    「海軍本部で病が流行っていてな。人手不足なんだ。」

    その様子にも構わずに、口を開いたセンゴクは困ったようにため息を吐く。
    大将直々のご依頼に、そう、明るいものは無いだろう。
    クロコダイルは乗り気にならない胸中を、隠すように薄く笑った。

    「近日中に、"海賊"ディエス・バレルズとの取引がある。その護衛が今回の任務だ。」

    "海賊"と、取引をする"海軍本部"。その、随分とキナ臭い内容に、クロコダイルは思わず手のひらで顎を擦る。

    「・・・三週間後、"北の海""ルーベック"に向かえ。」

    何か、良くない事が起きる。

    そう直感したクロコダイルの心中を表すように、ドフラミンゴの執務室に置かれた写真立てが、ピキリ、と、割れたことに、誰も、気が付かなかった。
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202