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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    POIPOI 57

    BORA99_

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    ゴムドフ
    若様乗船ifというやつです。
    若様とパイセンにはとりあえず森に行ってもらいます。
    ※捏造注意
    ※いつも通りご都合主義

    君は知らない『プルプルプルプル。』

    ビルとビルの間から、薄く太陽光が差し込んでいる。
    申し訳程度のそんな光では、照らし切れない路地裏は、随分と薄暗くて、肌寒かった。
    そんな、暗い場所に積み重なった、空き箱に腰掛けたドフラミンゴは、懐からした間抜けな鳴き声に、辟易と眉を顰める。

    「・・・なんだ。」

    『ミンゴ!!お前、サンジの弁当持って行かなかっただろ?!?!今から届けに行くから待ってろ!!!』

    懐からその音の正体を取り出した瞬間、飛び出た予想外の大音量に、思わずドフラミンゴの肩が跳ねて、避けるように首を反らした。
    そういえば、上陸前に"黒足"がせっせと何か詰めていたな、などと思いながら、手持ち無沙汰に首筋を掻く。

    「おれは良い。お前が食えよ。"麦わら"。」
    『なんでだよ!お前のだろ!!兎に角持ってくから、そこ動くなよ!!』
    「・・・あのな、」
    『・・・ていうか、お前、一人で何してんだよ。』

    いつの間にか麦わら帽子を被って見せた電伝虫が、その先にいる少年の顔を真似て、パチパチと大きな瞳を瞬かせた。
    ドフラミンゴはサングラスの奥で瞳を細め、グイ、と、口角を上げる。

    「・・・"別に"。船で読む本でも買おうかと思ってな。」
    『フーン。ま、いいや。すぐ行くから待ってろ!この島、スゲー森があるんだ!!そこで飯食おう!!!』
    「いや、おれは、」

    "外で飯を食いたくない"、と続く筈の台詞は、"がちゃ"と鳴いてあっという間に眠りに入った電伝虫に遮られた。
    忌々しく舌打ちをするが、安らかに眠る、その奇妙な生き物の先には届かない。

    (・・・何故、)

    何故、勝手に乗り込んだ自分を、まるで、あの船の"一員"のように扱うのか。
    当然のように用意される食事と居場所、自分の為に奏でられる音楽。振り分けられる、役割。
    いつまで経っても、あの男だけは、"得体が知れない"。
    延々と晴れない疑問を胸に、ドフラミンゴはスヤスヤと眠る電伝虫を、静かに懐へと戻した。

    「あァ、悪いなァ。・・・聞こえたかも知れねェが、"急ぎ"の"予定"が入っちまった。」

    足元に広がる赤い血溜まりを、踏まないように足を組み替えたドフラミンゴは、眼下に散らばる"死体"を見下ろすと、喉の奥で笑い声を上げる。

    賞金稼ぎの死体が5つと、"死にかけ"が1つ。
    "麦わらのルフィ"を罠に嵌めて首を取ると、酒場で息巻いていた連中だ。

    「あ、あの"噂"は、本当だったのか、」

    片腕を落とされた賞金稼ぎは、ヒューヒューと枯れた喉で絞り出す。
    ガタガタと震える肩に、ドフラミンゴは嬉しそうに口元を歪めた。

    「麦わらの一味に、脱獄した"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"が入ったと・・・。」

    左右に落ち着きなく揺れる、その怯えきった眼球の前に、ドフラミンゴは手のひらを広げて見せる。
    それだけで、泣き出しそうに顔を歪めた賞金稼ぎを見て、気の毒そうに息を吐いた。

    「・・・別に、"仲間"になった、"覚え"は無ェなァ。」

    小指から、ゆっくりと折り曲げられる長い指に合わせて、目の前の男の首がギリギリと締まる。
    上がった口角の隙間から、鋭利な犬歯がチラチラと覗いた。

    あんな、"得体の知れない"生き物と、"同じ"になるのは御免だ。

    「おれァただ、ブタ箱から出たところに、丁度良い船があったから・・・乗ったまでだ。」

    ゴトリと、首から落ちた頭を軽く蹴って、ドフラミンゴは明るい方へと歩き出す。
    ドフラミンゴの居場所も知らずに、弁当を届けに来るらしい"船長"を、野放しにすればトラブルが増えるだけだ。
    突然明るくなったせいで眩んだ視界に、あの、揺れる麦わら帽子が浮かんでしまう。
    思わず、サングラスの上から目を覆ったドフラミンゴは、うんざりと、ため息を吐いた。


    (・・・あァ、面倒臭ェなァ。)

    ######

    『ちょっとドフィ!!!あんたにお弁当届けるってルフィが飛び出して行っちゃったんだけど!!!』
    「・・・・・・あァ、航海士のネーチャンか。」

    再び目を覚ました電伝虫に、自分を探しているであろう"麦わら"が掛けてきたのかと思い、懐から取り出すと、今度は甲高い怒鳴り声が響いた。
    あの船の"女"で、"威勢が良い"のは、"航海士"の方。
    ドフラミンゴが何も考えずに応答すると、怒り狂った電伝虫は、短い腕をバタバタと振った。

    『あァじゃないわよ!!この島でちゃんと補給しないと次の島まで辿り着けないの!!あいつに騒ぎを起こされたらまともに補給出来ないじゃない!!それもこれもあんたが勝手にフラフラどっか行っちゃうからでしょ!!』
    「・・・アー、」

    「ミーンゴォオオオ!!!!どーこーだァアアア!!!!???」

    ドフラミンゴが何か言い訳を口にしようとした瞬間、大きな声で自分を呼ぶのが聞こえた。
    ドドドド、と、地鳴りのような足音を立てて走り回る"麦わら帽子"を捉えたドフラミンゴは、思わず口角を下げる。

    「・・・心配するな。見つけた。」
    『・・・・・・そうみたいね。回収よろしく。』

    流石に、気の毒だと思ったのか、ナミは怒りを静めてそう言うと、そそくさと通信を切ってしまった。
    ドフラミンゴは自分と反対側の通りを疾走する麦わら帽子に右手を向ける。

    「・・・あ!!!見つけたぞ!!!!」
    「・・・おれが見つけたんだ。」

    赤い服を纏った胴体に、くるくると"糸"を巻き付けて引くと、麦わら帽子の少年が"釣れた"。
    大事そうに大きな弁当箱を抱えた"船長""麦わら"のルフィは、首根っこをまるで猫のように掴まれて、ドフラミンゴの眼前にぶらさがる。

    「お前なあ!黙ってどっか行くなよ!!心配すんだろ!!」
    「フフフフッ!!なんだ、お前、おれが心配で探しに来たのか。・・・安心しろよ。お前ほどじゃァ無かったが・・・割と"タフ"だったろ。」
    「別に、好きにすればいーけどよ、」

    喉の奥で笑い声を上げるドフラミンゴを見つめたルフィは、その大きな手のひらから抜け出して地面に着地した。
    そして、麦わら帽子を抑えてドフラミンゴの脇を走り抜ける。

    「お前を一人にすると、なーんか、落ち着かないんだよなあ。」

    通り抜けざまに言われた台詞を、ドフラミンゴは打ち消すように瞳を閉じた。
    ドフラミンゴが一人で立つ"舞台"に、ズカズカと上がり込む、愚かな"人間"。
    自分とは、全く違う生き物。

    「・・・お前が、落ち着いてた時なんかねェだろう。」

    呟いた悪態は、到底、その小さな耳には届いていなかった。

    ######

    「なー、ミンゴー、森行こうぜー、なー、なー、なー、」

    「うるせェ奴だな!!一人で行けば良いだろうが!!!」

    船に戻って買った本でも読もうと、一人港に向かったドフラミンゴに、何故かくっついて来たルフィは、ファーコートの裾を掴んで離さない。
    いい加減煩わしくなってきたドフラミンゴが立ち止まって振り返ると、珍しくムスッとした顔があった。

    「・・・おれァ船で休んでる。森は"仲間"と行って来いよ。」
    「折角上陸したのに勿体ねえだろ!!」

    引く気配を見せない麦わら帽子を見下ろして、ドフラミンゴは迫り上がる笑いをくつくつと噛み殺す。
    心躍る冒険、海賊王の残した宝、誰もたどり着いた事のない"最後"の島。
    その、どれにも興味は無かったし、この小さな海賊船に乗ったのも、この男が、"いつか"破壊するであろう、この世の"システム"の散り様を、すぐ近くで見たかっただけだ。
    ドフラミンゴは踵を返してゆっくりと歩き出す。

    「"おれ"と、"お前"の、"価値観"は違う。」

    肩越しに振り返る、サングラスの奥で光った眼球を、ルフィは相変わらず読めない瞳で眺めている。

    「・・・あれ?」

    「・・・あァ?」

    そして、口を開いたその間抜け面は、表情と違わぬ間抜けな声を上げた。
    その丸い瞳がドフラミンゴの後ろを見ている事に気が付き、倣うように前を向くと、そこは静かな港。

    「・・・サニー号が無ェ!!!!!」
    「・・・そういやァ、そうだな。」

    綺麗な円を描くこの島の地形は、丁度半分ずつ、"森"と"街"で別れていた。
    その見事な森から取れる木材は、この大海賊時代を支える船の材料として、各地に輸出されている。
    その森と街の境目辺りの岩場に隠したサニー号が見当たらなかった。

    「どこか別の場所に移したんじゃねェのか。」
    「あいつらもおれと一緒に街に出た筈なんだけどなー・・・?」

    「・・・なんだ、お兄さん達、こんなところに船を停めてたのか。」

    珍しく、考えるように首を傾げたルフィの背後から、島民であろう人物に声を掛けられた。
    ドフラミンゴとルフィが同じモーションで振り向くと、恰幅の良い穏やかそうな男が立っていた。

    「ここは"解体屋"のナワバリでね。こんなところに船を停めてたら、盗まれるよ。」
    「解体屋?!?!どこのどいつだ!!」
    「・・・この森の中に屋敷を構える、解体業者だ。・・・解体業者って言っても、殆どヤクザみたいなものさ。ナワバリに船を置いとくと、バラされて木材として売られちまう。だからこの島の人間はこっち側には船は停めないんだよ。」

    どうりで、他に停泊している船が見当たらなかった訳だ。
    ドフラミンゴは納得したように顎を擦って、眼下の麦わら帽子を見下ろす。

    「フッフッフッ。困ったなァ。麦わら。・・・新しいのを買ってやろうか。」
    「おれはサニーじゃなきゃ嫌だ!!!くそー!!勝手におれたちの船盗みやがって!!!
    ・・・オッサン!!その解体屋どこにいるんだ?!」
    「・・・この島の、森の北端に屋敷があるんだが・・・あんまり関わらない方がいい。」
    「知るか!!おいミンゴ!ぶっ飛ばしてサニーを取り返すぞ!!!」
    「・・・あ?」

    気を抜いていたドフラミンゴの胴体に、伸びた腕が回って、一瞬後に走り出したルフィに、勢い良くドフラミンゴの巨体が引き摺られた。
    心配そうに見送る島民を後目に、ルフィはその小さな体でドフラミンゴを抱え、森の中へと突進する。

    「待て待て待て麦わら!!!北側って聞こえなかったのか?!?!今は南端に居るんだぞ!!どう考えても街を通って北側から森に入った方が早いだろうが!!!!」
    「うるせー!!兎に角解体屋のとこに行く!!!」
    「だからそこに行くには街を通った方が早いんだよ!!!馬鹿かてめェは!!!!」
    「えーと、・・・北だよな?!北・・・寒そうな方か!」
    「・・・"寒そう"な方じゃなくて"北"に向かえ!!!!」

    あっという間に踏み込んだ森の中で、一度キョロキョロと辺りを見回したルフィが、見当違いな方向に走り出した。
    余りにも制御不能なその男に引き摺られたドフラミンゴの右腕が一瞬で赤黒く染まる。
    そのサングラスの奥で、ギラリと獰猛そうに光った眼球を、ルフィは知らなかった。

    ・・・ガン!!!!

    「・・・いいか、麦わら。この赤い方が北だ。分かるか?」
    「・・・・・・ハイ。」

    覇気を纏った右ストレートが、麦わら帽子に炸裂したところで、大きなたんこぶを携えたルフィを正座させたドフラミンゴが、ポケットから取り出した小さなコンパスを見せる。
    本当に分かっているかは知らないが、一応返事をしたルフィに納得したドフラミンゴが立ち上がった。

    「まずは航海士のネーチャンに連絡してみろよ。何かあって船を移動させたのかも知れねェだろう。それから、日が暮れる前に森を抜けるのは無理だ。一度街に戻って北を目指す・・・、」
    ドフラミンゴがつらつらと述べながら、ふと、妙に静かなルフィに違和感を覚える。
    思えば、奴が、一秒でも大人しくしていた事は無かった筈だ。
    嫌な予感がしてルフィの座っていた場所に視線を落とすと、案の定、"居ない"。

    「・・・どこ行きやがったあの猿!!!!ちょっと目を離したスキに・・・いや離したか?!離してねェよな!?!?」

    「ミーンゴぉおおおお!!!!見てくれ!!!!」

    忽然と消えたルフィの姿を探していると、遠くの方から走り寄る麦わら帽子が見えた。
    大きな声でドフラミンゴを呼ぶその顔は、キラキラと年相応に輝いている。

    「"ヘラクレス"獲った・・・!!!!!!!!」

    「それをこっちに持ってくるな・・・!!!」

    ルフィの掴む、黒い蠢く生き物に、思い切り口角を下げたドフラミンゴが放った糸に巻かれ、ルフィの動きがピタリと止まった。

    「・・・なんでだよ!!!ヘラクレスだぞ?!」
    「黙れ。覚えておけよ麦わらァ・・・虫は、ベストオブNGだ。」
    「そうなのか??はやく言えよ。」

    全く悪びれないその様子に、ため息を吐いたドフラミンゴは、全てを諦めたように糸を解く。
    今必要なのは、船の在処の特定と、この森から出ることだ。

    「・・・今お前の仲間に連絡を取る。いいか麦わら。絶対そこを動くなよ。」
    「分かった!!!」

    元気いっぱいの返事を聞いたドフラミンゴは、懐からフランキーに持たされた電伝虫を引っ張り出すと、一味の誰かが持っているであろう番号にコールする。
    いつも通りの間抜けな鳴き声は、意外とすぐに途切れた。

    『・・・ドフラミンゴか?!お前今どこにいるんだ??ルフィ知らねェか??ルフィ!!緊急事態だ!』
    「・・・"黒足"か。丁度良い。緊急事態ってのァ、行方不明の船の事か。」

    ナミが出るものだと思っていたドフラミンゴは、通話口から出た男の声に少し面食らい、それでも平静を装って口を開く。
    慌てたようにバタバタと手を振る電伝虫に、ドフラミンゴはため息を吐いた。

    『・・・なんか知ってんのか?!サニー号が無くなっちまったんだが!!』
    「どうやらこの街の"解体屋"ってのが、お前らの船を盗んだらしい。今麦わらと森の北端にあるその解体屋の屋敷に向かってる。お前らこそどこにいる??」
    『・・・おれたちは街の北に居る。そのクソ"解体屋"の屋敷で落ち合おう。・・・ところで、ドフラミンゴ。お前、ルフィと一緒に"森"に居るのか。』

    突然、電伝虫の向こうが妙にザワつくのを感じる。
    何となくそれに嫌な予感を感じたドフラミンゴが黙っていると、"嘘でしょ?!代わって!!!"と遠くの方でナミが大きな声を上げるのが聞こえた。

    『・・・ドフィ!!あんた何のんびりサンジ君と電話してんのよ!!!!ルフィは?!そこにいる?!森なんてとこにあいつを放したら一瞬で居なくなるわよ!!!!』
    「・・・あァ?麦わらにはちゃんと動くなと・・・、」
    同じ轍をそう踏むかと、真横に居る筈のルフィに視線を落とすが、目に入る筈の、麦わら帽子が見当たらない。
    思わず手のひらで目を覆って上を向いた。
    「・・・もう、おれには無理だ。手に負えねェ。」
    『ミンゴ・・・!気持ちは分かる・・・!とても!!!だがあいつを捕まえられるのは今はお前しかいねェんだ!!どうにかして北端の屋敷までルフィを連れて来てくれ・・・!!!』
    またしても相手が変わった電伝虫の先で言ったのは、恐らくウソップだ。
    ドレスローザでは忌々しい思いをさせられたが、懐に入ってみれば、一番話の分かる男である。
    『・・・天夜叉さん?兎に角目を引くものを見つけて。大きい動物とか、不思議な植物とか。きっとそこにルフィはいるわ。』
    「・・・・・・分かった。努力はするが、屋敷にいつ辿り着けるかは分からねェ。船の方は頼むぞ。」
    『・・・む、無理すんなよ。』
    何故か精一杯励ましてくれる一味に、ドフラミンゴが力なく言って通話を切る。
    ぐるりと辺りを見回しても、目に入らない、"麦わら帽子"を追い掛けて、ドフラミンゴは木の根の張った悪路に足を踏み入れた。

    ######

    ザクザクと、乾いた落ち葉を踏みしめて、薄暗い森の中を歩く。
    一向に見つからない"麦わら"は姿を見せず、途方に暮れたドフラミンゴは一人、北へと向かっていた。

    「・・・ゥ、」

    足を着いた地面で、ズルズルと這い回る長い虫に、思わずドフラミンゴの口元が歪む。
    "汚い場所"は、"大嫌い"だ。
    這い回る害虫、嫌な臭い、汚れの目立つベッドの上で、いつの間にか死んでいたのは、一体、誰だった。

    『ミンゴ!!お前、サンジの弁当持って行かなかっただろ?!?!今から届けに行くから待ってろ!!!』

    思えば、何故、あの"人間達"と、肩を並べて生きているのか。
    一番、嫌いな"生き物"と、どうして同じところに立っているのだろうか。

    "その上"に、立てる男だと、"観客面"をした"奴ら"は言っていたのに。

    グラグラと揺れるその瞳孔に、目が回ったようにフラついて、思わず横に聳える木の幹に手をついた。
    その手のひらの上に、毒々しい色をした虫が這い、ドフラミンゴの背筋が凍る。

    (・・・あァ、最悪だ。)

    自分の手のひらに気を取られたドフラミンゴの頭上で、パキ、パキ、と、枝の折れる音がした。
    頭の上で獰猛な唸り声がして、弾かれたように顔を上げる。
    その視線の先に、見上げる程の巨体を持った、サーベルタイガーが飛び出した。

    ままならない現実に、腹の中でわだかまる、ドス黒い"何か"。
    自分の、手のひらで踊らない"馬鹿共"に、ドフラミンゴの瞳が忌々し気に光を灯す。

    (・・・久しぶりだ。)

    この、折り合いのつかない"激情"に足を取られたまま、ドフラミンゴは揺れる視界で右腕を振り上げた。

    「・・・い"ッ!!!!!!」

    その瞬間、頭に衝撃が走って、ドフラミンゴの首が嫌な音を立てる。
    視界の端に映った"麦わら帽子"は、ドフラミンゴの頭を跳板にして、目の前の猛獣の眼前まで飛んだ。

    「・・・"ギア4"!!!!」

    瞬きの間に、その華奢な背中が膨張し、ギギギギ、と、およそ人体から出るとは思えない音が響いた。
    土埃とは違う煙を纏った"明王"の、口元が"凶暴"に歪む。

    (・・・あァ、忌々しい。)

    この男は、ドフラミンゴの"破壊衝動"を"許さない"。

    「ミンゴ!!!逃げるぞ!!!!」

    「・・・は?!?!」

    轟音が響いて決まった重い一撃に、脆く崩れた猛獣がゆっくりと倒れていく様を眺めていたら、自分の襟首が掴まれる。
    元のサイズに戻ったルフィは、そのままドフラミンゴを引き摺るように走り出した。

    「いやー!!!良かった!!ミンゴどっか行っちまうからよ!!」
    「離せ麦わら!!痛い痛い痛い!!!つーかどっか行ったのはてめェの方だろ!!!!!」

    顔面に当たる葉っぱと、ファーコートに容赦なくくっつく名前の知らない植物に、ドフラミンゴが悲痛な叫びを上げるが、ルフィの速度は落ちない。
    悪路を猛スピードで駆け抜けるその背中に、ドフラミンゴはギリ、と奥歯を噛み締めた。

    「・・・覚えてろよ麦わらァアアア!!!!!」




    「・・・大丈夫かしら、あの二人。」
    「まぁ、考えうる中で一番最悪の組み合わせだからな。ミンゴにとっては。」
    「・・・真面目そうだものね、天夜叉さん。胃に穴が開いてなきゃ良いけど・・・。」
    ルフィとドフラミンゴを除く麦わらの一味は、元々街の北側に居たのもあり、早々に"解体屋"の屋敷に到達していた。
    和風な作りの巨大な平屋を前に、一応、船長の登場を待っているのだが、確実に振り回されているであろう"新入り"の安否に、やきもきと立ち往生している。

    「・・・ルフィの奴、ミンゴの事スゲー気にするよなァ。ルフィにゃ負けたが、この海の実力者の一人じゃねェか。何を心配してんだろーな。」

    ぽつりと、呟くように言ったウソップの言葉に、隣のロビンは面白そうに笑みを見せる。
    勝手に乗り込んだ"元"敵側の男に、べったりとくっつく"船長"の姿には、"見覚え"があった。

    「・・・ルフィは、自分と仲間の孤独を、酷く嫌うから。」

    上がらされた一人の舞台で、同胞無き孤高の王者を演じた彼の、隣の空白を察知した"船長"は、その隣に入り込む。
    その、病にも似た"一人"への恐怖が、一体何から来るものなのかは、ロビンも知らなかった。

    「はやく・・・彼も、諦めが付けば楽なのにね。」

    誰かと、"肩を並べる"その"安堵"を、受け入れればきっと、あの男の"衝動"は、嘘のように消えるだろう。
    意外と、それが間近に迫った未来だと、ロビンは思っていた。

    ######

    「・・・は、ハァー、ハァ、」

    「なはははは!!あいつ美味そうだったなァー!!!な!ミンゴ!!」

    「・・・るせ、ハァ、ハァ、む、麦わら、てめェ。・・・一つ、覚えておけ。・・・四十代は、飛んだり跳ねたりすると、すぐに疲れる。しかもおれは、ムショ帰りで運動不足だ・・・。」

    猛獣から逃げ遂せたドフラミンゴが、膝に手を付いて必死に呼吸を整える横で、ピンピンしているルフィが楽しそうに笑う。
    それを不機嫌そうに見下ろしたドフラミンゴは、一回大きく息を吐いた。

    「・・・お前、何で態々おれを連れて歩くんだ。勝手に屋敷まで行きゃァいいだろう。
    ・・・フフフフッ。それとも何か、憎いおれが、またお前の仲間を傷付けるのを恐れているのか。」

    そもそも、何故、この男は、憎しみ合った筈の"敵"が、船に乗るのを許したのか。
    永遠と心の中に巣食う疑問が、一度、口から出て行ってしまうと、もうそれを留める事は出来なかった。

    「・・・別に、」

    自分の随分下で、走った時に脱げた麦わら帽子を被り直したルフィは、さほど感情を読み取れない瞳でドフラミンゴを見上げる。
    この男の、読めない胸の内は、いつだって焦燥を生んだ。

    「別に、お前の事が憎いからぶっ飛ばした訳じゃねぇよ。・・・お前がただ、おれの前に立ちはだかったから、ぶっ飛ばしただけだ。
    ・・・今はおれの前に立ちはだかってる訳じゃねぇし。それに、」

    誰かを、憎む事を知らない人間。
    残酷な本性を持たない、ある種、"神聖"な生き物。
    ドフラミンゴは妙に眩むその姿に、得体の知れない感情を抱く。

    「それに、お前、一人にするとなーんか、寂しそうだから、おれはシンパイなんだ!!!」

    また、勝手に歩き出したルフィの台詞に、動けないドフラミンゴはフラリと木の幹に寄りかかった。
    "人間"の上に立つ事を強いた"奴ら"は、誰も、その舞台の上に上がって来ようとはしなかったのに。

    (・・・もう、"辞めたのに"。)

    すべての頂点に立つと決めたあの日から、隣に、誰かが欲しいと駄々を捏ねるのは辞めた。
    その、"空席"に、土足で乗り込むこの"人間"が、是か非か、それは、分からない。

    「・・・あ!!!!屋敷!!!!見えた!!!・・・行くぞ!!ミンゴ!!!おれ達の船、取り返しに!!!!」

    動けないドフラミンゴを振り返りもせずに、叫んだその、"麦わら"は、またしても、追いつけない速度で走り出す。
    遅れて、伸びてきた手のひらが、ドフラミンゴの腕を掴んだ。

    「・・・"おれ達"じゃなくて、"お前の"船だろーが。」

    小さく呟いたその台詞は、前を見る男に、届かなかった。

    ######

    「・・・お前ら何者だ!!!」
    「ここはおれたちの縄張りだぞ!!!」

    「ギャー!!!見つかった!!!行け!!!ゾロ!!」
    「・・・お前が行けよ。」

    いつまで経っても現れない"船長"に、痺れを切らすように、"解体屋"の構成員が屯する麦わらの一味を見つけ出した。
    銃を向ける数名に、ウソップが大きな声を上げて、ゾロの後ろに隠れる。

    「・・・丁度良いだろ。アイツがここまで来れる保証は無ェんだ。さっさと船、取り返そうぜ。」

    「最もだ、こんなとこでアイツを待つ義理も、」

    早急に戦闘態勢に入ったサンジとゾロは、突然、まるで"操られるように"ふらりと動いた構成員に、怪訝そうに眉を顰めた。
    その疑問をよそに、構成員達はお互いに、仲間同士で銃を向け合う。

    「・・・お、オイ!!やめろ!!一体・・・ッ!!」
    「知らねーよ!!体が・・・勝手に!!!!」

    乾いた銃声が何度か起こり、相討ちとなった構成員がバタバタと倒れた。 
    その後ろから、ゆっくりと大きな影が近付いて来る。

    「オーオー、"船長"と違って、クルーは優秀だなァ。」

    「・・・ミンゴか!!!」

    いち早く、その存在に気付いたウソップが叫び、わらわらとそのピンクのファーコートに一味が駆け寄った。

    「お前、大丈夫か?!胃とか!!」
    「・・・やだ、こんなに汚して。大変だったわね。」
    「今日はホットワインでも淹れるか・・・。寝る前に飲んだ方が良い。」
    「・・・心が穏やかになる歌、歌わせて頂いても宜しいでしょうか。」

    ドフラミンゴの眼下に集まるクルー達が、口々に言って、まるでゴールしたランナーを支えるように、腕を回す。
    ドフラミンゴのコートに咲いた無数の腕が、枯れ葉や植物の種を丁寧に取ってくれた。

    「・・・ルフィは??」

    「・・・安心しろよ。・・・言われた通り、連れてきたぜ。」

    ドフラミンゴが言った瞬間、その頭上を、小さな影が過ぎていく。
    その影が、パッと明るく炎を上げて、解体屋の屋敷の真上から、その屋根に拳が振り下ろされた。

    『それに、お前、一人にするとなーんか、寂しそうだから、おれはシンパイなんだ!!!』

    轟音を上げて崩壊する立派な屋敷を後目に、ドフラミンゴは瞳を閉じる。
    その時初めて、ドフラミンゴは"炎"を、美しいと思った。
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    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202