MONEY・RED・JAGUAR!!「……は?」
晴天の海原。強すぎる太陽の光から逃れるように、船室で本を読んでいた"副船長"ベン・ベックマンは、煙草にマッチの火を当てたと同時に、入ってきた男達へ怪訝そうな顔を見せた。
そして、告げ口するように言ったヤソップの耳を疑う言葉に、思わず小さく声を上げる。
「だァから……!お頭が!!海に落としたんだよ!!この前見つけたお宝換金した奴!!まるっと巾着ごと!!」
「だははは!すまん!手が滑った!」
「「ちったァ反省しろ!!!!」」
「……そうか、だが、やっちまったモンは仕方がねェ」
ゆらりと立ち上がったベックマンが、フォローとも取れる台詞を吐いた事に、全ての"元凶"は幾らか安心したように口元を綻ばせた。
その一瞬後、硬いものが額に押し当てられた感覚に、"ん?"と視線を上げる。
「40億あれば……まァ、しばらく食えるな」
「スイマセンでした」
あまりにも冗談ではない眼光に、光の速さで両手を上げたシャンクスと、後ろで恐れ慄くルウとヤソップを後目に煙草の煙を吐いたベックマンは、ライフルの銃口でゴツゴツとその額を小突いた。
額を赤くしたその間抜けな"大頭"に、ため息が止まらない。
「……金策付けてくる。幹部達の財布に幾らあるか確認しておいてくれ。最悪徴収するぞ」
「……ハーイ!!喜んでェエエエエ!!!」
低過ぎるその声音に、"触らぬ神に祟りなし"だと言わんばかりのヤソップを一瞥すると、ベックマンはゆっくりと立ち上がった。
くわえ煙草のまま船室から出れば、視認できる近さにまで来た"次の島"を見据え、上陸準備に追われるクルー達が走り回っている。
「……ベック!!ベックマン!!なぁ、おい!」
追ってきたシャンクスの呼び声に、ベックマンは振り向きもせずに甲板へ続く廊下を進んだ。
それを咎めるような足音が途切れたところで腕を掴まれる。
「わ……悪かった!怒るなよ……な?」
世間は彼を、"四皇"と恐れるが、こうして見ればおよそ一周年下の"若造"だ。
どうにかベックマンの怒りを収めようと、ぎこちなく笑っている。
「……あんたが不注意なのも、思慮深くねェのもおれの知ったこっちゃねえがな。これだけの人数抱えて、頭張ると決めたのはあんただろ」
「……ウッ」
グサリと、心臓辺りに何かが刺さったような気がしたシャンクスの、表情が分かりやすく歪んだ。
ポンポンとその赤い髪をたしなめるように撫でると、ベックマンは再び歩き出す。
「尻拭いはする。"おれ"がそう決めたからだ。……だからといって、あんたが間抜けで良い訳無ェだろ」
「……つ、」
「あ?」
小さく震えた手のひらと、俯いた頭に、ベックマンはつい"言い過ぎたか"と頬を掻いた。
聞き取れない程の小さな声に、思わずガラの悪い声が漏れる。
「……陰湿ッ!!!おれだって悪ィと思ってるし、こんなに反省してるのによ!!!言い方が陰湿!!!!」
「……あァ?!驚く程そうは見えねェんだよクソガキ!!!!反省してるなら財布寄越せ!!!あんたのポケットマネーで買い出しするからな!!!!」
「残念でしたァアアア!!!おれのポケットマネーは前の島で残金200ベリーとなりましたァアアア!!!!」
「四皇の前に大人としてどうなんだそれは!!!!」
「おおおお頭!!ベック!!!ナニしてんだよ!!!新入りが覇気で続々と倒れてる!!!」
「うるせぇな……!もう知らん。勝手にしろ!!!」
「オーオー!そうするぜ!ベックなんかもう知らん!!」
「いやお頭、あんた全面的にワリーのに何でそんな偉そうなんだ」
「態度だけは四皇だな」
「ただ大人気ねーだけだろ」
「うるせー!!!バーカ!!!!」
「いや、バーカて……」
怒鳴り合う二人に、驚いて駆けつけたヤソップとルウが見守る中で、ライフルを担いだベックマンは甲板へと出ていってしまう。
あまりにも幼稚な大声を出したシャンクスは、それとは反対方向に歩き出した。
途中でその赤い髪がチラチラ振り返るが、ベックマンが気を利かす事は無い。
(あー、クソ)
所在無さげに髪を掻いて、心の中で悪態を吐いた。
啖呵を切った手前、覆す事はどうしたってできない。
久しぶりの上陸を、楽しむ計画は今まさに、崩れ去ったのだった。
「海賊船だ……!」
「旗印は……?」
「……"赤髪"だ!赤髪のシャンクス!!」
「懸賞金……40億4890万ベリー!!」
「すごいすごい!!40億もあれば……」
「"平和"だ……!」
陽の光も陰る廃屋。そうは言っても、この島の建物は殆ど廃屋だった。
今にも崩れ落ちそうな腐った木の床の上で、"子ども達"はまるで、歌うように言う。
労働力の確保の為に、離婚と中絶を禁止した、かつての世界政府非加盟国。
増えた孤児達は、敗戦によって滅びた"元"王国で忘れ去られたまま、息をする。
彼らは知らない、"平和"の姿を夢見て眠るのだ。
「"赤髪"のシャンクスを……殺せ!!!」
######
「いやおれもさァ、悪かったと思ってるんだぜ?!それをさァ、グチグチとさァ、なァ!ホンゴウ!!!」
「いやマジで反省しろよ、お頭」
「冷てー!!いーよいーよ。一人で反省しながら呑むし」
「つーかこんなとこで無駄金使ってんのバレたら、マジで副船長に殺されるんじゃ……」
上陸した島は、酷い有様だった。
数年前、近隣国との戦争に破れ、指導者なき吹き溜まりと化した島はスラムと、安酒を出す酒場だけが息をしている。
ボロ布を纏う痩せ細った老人が道端に座り込み、ピストルを持った子ども達が脇を駆け抜けて行った。
その無法地帯は、海賊にとっては都合が良いと、古びた酒場に入ったシャンクス達は一応、金策に走る為の作戦会議を名目にしていた筈だが、早速管を巻き出した大頭に、ホンゴウ達は呆れたように言う。
「しっかしよォ……こんな荒れた島じゃァ金策どころか、補給も難しそうだぜ」
「食料がマズイな。この島で何かしら仕入れないと全員餓死するぞ、お頭」
「ウーン……。八方塞がりだな……。なぁ!この島で食料調達できるとこはねーかな」
困り果てた一行は、カウンターでグラスを磨く店員に視線を向けた。
突然声を掛けられた、寡黙そうな店員は一度、考えるように口を閉ざす。
「"中心街"を占拠している"海賊"がいるんだが……奴らに頼んでみたらどうだい。奴ら、この国が滅びたすぐ後に潜り込んで、必要物資を他の島から調達する代わりに、この島を拠点にしている」
「なんだ。親切な海賊が居たもんだ」
「どうだろうな。物資を高額で売り付けているし、この島の孤児達をヒューマンショップに売ってるという噂もある……」
「ふーん……。ま!いいや、調達できんなら!一件落着!!よっしゃ呑むぞ!!!」
「いや金は??????」
「……わ!」
「あァ?」
バラックの続く通りをくわえ煙草で歩くベックマンの足元で、小さな声が上がった。
街の荒れ果てた様子に視線を向けていたベックマンは、小さな声を漏らし慌てて視線を下に向ける。
簡素で汚れた衣類を纏う少女が、地面に尻もちを付いていた。
「悪かった、お嬢ちゃん。怪我は無いか」
「……大丈夫。ありがとう」
「……」
すぐに立ち上がった少女は、目も合わせずにその脇を走り抜ける。
その細腕を、大きな手のひらが掴んだ。
「アー、格好付かなくて不本意なんだが……うちの船はついさっき、財政難に陥ってな。これで勘弁してくれ」
"スられた"財布代わりの巾着袋をあっという間に奪い返したベックマンは、しゃがみ込んでその小さな手のひらに紙幣を2枚置く。
小さな頭を一度撫でて、ゆっくりと立ち上がった。
「ハタチになったら、もう一回声掛けてくれ」
ひらひらと後ろ手に手を振って、踵を返したその大きな背中に、がし、としがみつく"何か"。
うんざりしたように、振り返って見下ろしたその少女は、にんまりと笑みを浮かべていた。
「オジサン……お願いがあるの」
######
朽ち果て、忘れ去られた図書館らしき建物を、木漏れ日が照らしている。
元々は立派なものだったのだろうその面影を、僅かに残した風景は、どこか物悲しくも見えた。
少女に手を引かれ、荒れ果てた図書館の中に入ったベックマンは、訝しげに辺りを見回す。
「こっち!はやくはやく!」
書架の間を迷いなく抜ける小さな背中を追いながら、並んだ本の薄汚れた背表紙にどうしても目が行ってしまう。
その様子に痺れを切らした少女は、ベックマンの腕を引いた。
「……なんだってんだ」
突き当りに設置された、一際大きな本棚の前で止まった少女は、その縁に手を掛ける。
ギギ、と擦れるような音と共に動いた棚に、ベックマンは思わず瞳を細めた。
「地下があるのか……手の込んだ建物だ」
現れた地下へと続く階段を、ゆっくりと降りる二人の足音が響く。
時折現れるランプの灯りだけが頼りだった。
(……まるで、"ヒューマンショップ"だ)
階段の壁という壁に、無造作に貼られた子どもの顔写真を眺め、ベックマンは思わず顔を顰めた。
やがて、鉄の扉に当たった少女は、その重たそうな扉を難儀しながら開ける。
「……ここは、何だ」
「"お店"よ。本当はわたし達、戦争に行くはずだったの。捨てられた子どもたちを国王様が集めて、戦争で戦えるように訓練したのに……その前に国は負けてしまって、行く場所が無くなったのよ。そういう子達が、ここで他国に売られていくの。政府に買われた子もいるわ」
少年兵となる筈だった子ども達が、次は諜報員候補か。
ベックマンは開け放たれた鉄の扉の中で、空っぽの鉄格子が並ぶ室内を呆れたように見た。
「その割に、誰もいねェな」
「予約制なのよ。予約があるときだけ、この檻の中に入るの」
鉄格子を横目に更に進み、簡素な木の扉を開けた少女は戸棚に軽々と登り、天井に埋められた排気口のカバーを外す。
背伸びをして、どうにか取り出した大きな袋をベックマンの前に投げた。
「これは、」
「島に来た海賊から盗んだり、スッたりしたの。4千万ぐらいあるわ。全部あげるから、お願い」
袋の口から溢れた、金貨や札束に面食らったベックマンが少女を見ると、その眼球があまりにも凶暴な光を宿す。
搾取される側で居続けられなかった人間だけが残る、この海の縮図を見た。
「"赤髪"の首を……獲ってきて欲しいの」
######
「よーし!野郎共!気合い入れろ!!ホンゴウとルウはおれと来いよ!ヤソップは掩護頼む」
「はいよ」
幹部達数名を連れたシャンクスは、教えてもらった"中心街"でこの島を牛耳る海賊団のアジトの前に立つ。
元は劇場だったらしい、その大きなホールは、他の建物と同じように、苔に覆われ今にも崩れ落ちそうだ。
金が無い故、奪うしかない一味はシャンクスを中心にしゃがみ込み、地面にガリガリと配置を描きながら悪巧みを繰り広げる。
「……ベック、お前は、」
「いねーぞ」
「お頭が怒らせたから、どっか行っちまった」
「今のナーシ!!ベックマンなんて知りません」
「いや愛想尽かされたのはあんただろ」
つい癖で意見を求めてしまった自分に、シャンクスは気まずそうに頬を掻く。
意外と傷付いている"大頭"に、ヤソップとルウがその肩に手を置いた。
「手土産持って、ベックに謝ろうな。お頭」
「素直に謝るのも、大黒柱の努めだぜ」
「あーもう!調子狂うぜ……!」
いつも居る人間が居ないと、こうも覚束無いものか。
シャンクスは早くも、空いてしまった"隣"に違和感が拭えない。
「……!」
その時、背後で動いた気配に赤い髪が揺れた。
「アー、まず、理由を聞こうか」
「前にここに来た、世界政府の偉い人が言ってたの。10億ベリーあれば、世界政府加盟国になれるって。だから、皆で頑張ってお金を貯めてるの。でも、そんな大金、すぐには集まらないじゃない。どうしようかと思っていたら……赤髪のシャンクスがこの島に来たのよ!懸賞金が手に入れば……加盟国に入れる!そうすれば、こうやって売られる事は無くなるの!」
誰も居ない地下室で、煙草に火を付けたベックマンは、少女の口から飛び出した台詞に、暫く逡巡し、やっと口を開く。
それに、疑いの無い瞳で答えた少女に、どうしたものかと緩く煙を吐き出した。
「あのな……加盟国になれば、天上金を払い続けなければいけないんだぞ。それで滅ぶ国もあるくらいだ。一時的に手に入れた大金で、加盟国になっても……それを継続できるとは思えねェが」
「……そうなの?最初に払えばなれるのかと思っていたわ。でもそれなら、みんなに教えてあげないと……!他の子たち、シャンクスの首を獲りに行っちゃった」
「……」
あっけらかんと言う少女に、何とも言えない顔をしてから、ベックマンはくわえた煙草を床でもみ消す。
そもそも、"世間知らず"でなければ、四皇に手を出そうとはしないのだ。
(……違うか)
少しでも、優しい大人が周りにいれば、こうはならなかったのに。
その"もしか"の話は、現実には起こらなかったのだ。
「アー、お嬢ちゃん。悪いがその首だけはやれねェのさ。おれの、"一番"だからな」
「……どういう意味?」
キョトンと、首を傾げた小さな頭を一度撫でて、ベックマンは少しだけ口元を歪める。
きっと、この、"恋心"にも似た"羨望"を、少女が理解する事は無いのだ。
「代わりと言っちゃァ何だが……。ここで人身売買をしている大人がいるよな?そいつのところへ案内してくれ」
「どうするつもり?」
「さァな。場合によっちゃァ、今よりはマシになるかもしれねェぞ」
######
「……ッ!!」
「お頭!」
視界の端で、ギラつく金属の光を見た。
研ぎ澄まされた見聞色すら掻い潜る、その影の正体に、シャンクスの瞳が大きく揺れる。
反射的に掴んだその細い首と、振り上げられた刃の輝きに、訝しげに眉を顰めた。
「……ガキィ?!?!」
年端も行かぬ、小さな少年は鋭く光る眼球を携えて、シャンクスを見下ろしている。
がさがさと、茂みから同じくらいの子ども達が姿を表した。
「オイオイ、どういう事だよ」
「知らねーけど……ヤソップ!パス!!!おれァガキとやり合うのはイヤだ!!!酒が不味くなる!!!」
「フザケンナァアアア!お頭この野郎!!ウソップがチラついて無理!!!ルウ!お前が一番歳近いだろ!!頼む!!!」
「馬鹿野郎!おれを幾つだと思ってんだよ!もう三十路とっくに超えたぞ!!!」
「え?マジで。お前まだ二十そこそこじゃなかったっけ」
「だはははは!!おれ達も歳食うわけだ!!!」
「馬鹿にしてんのかてめーら!!!!」
シャンクスの手のひらを切りつけて、子どもとは思えない身のこなしで地面に着地した少年ががなる。
その眼球を見下ろしたシャンクスの瞳に、悪党らしい光が宿った。
「……"それ"を、向ける意味を、理解してるのか。ガキ共」
ビリビリと、文字通り空気が揺れる。
牙も剝けない悪党が、この海で生きていける筈が無いのだ。
バタバタと、小さな影が倒れて行く中で、最後まで目を開いていた少年の瞳の奥が、パッと明るく光を上げる。
「……"平和"を、」
絞り出すように言った瞬間、泡を吹いて地面に伏したその小さな頭を撫でた。
"平和"の為に、誰かを殺す。その後ろ暗い因果を理解する子どもなど、この海には大勢居る。
「……キナ臭ェ島だなァ、皆」
命の重さを説く程高尚ならば、悪党になどならない。それでも、見たくないものくらい、自分にもあるのだ。
「行こうか。少し、聞きたい事ができた」
######
「児童買春、人身売買、違法薬物に……、武器売買か。裏稼業の宝庫だな」
「……ヒッ、」
少女に案内された"中心街"。人身売買の元締めである海賊達がアジトにしている古びた劇場に裏口から忍び込んだベックマンの前で、既に息をしているのは"一人"。
観客席に飛び散った夥しい血液は、臙脂色の座席が幸いして目立たない。
舞台の上に追い詰められた元締めの"船長"は、ガタガタと震える肩を抱き締め、引きつった叫びを声上げた。
「待ってくれ……おれ達は何もしてねェじゃねーか!まして、"四皇"に……手を出す筈がねぇ!!!」
「何言ってんだ。おれ達を、何だと思っている?聖者でも何でもねェ、ただの、"海賊"だぞ。略奪に来たのさ」
むせ返るような血の匂いを物ともせずに、煙草の煙を吐いたベックマンの指の先で長い銃身が鈍く光る。
「分かった……!分かった!!金ならやる!!なんなら一緒に商売をしねーか!!あんたなら歓迎だ……!赤髪の船にいるより儲けられるぜ……!!」
慌てふためく男の口が、くるくるとよく回るのを見下ろして、短くなった煙草を床に吐いた。
結局、奴のせいで大事だ。それでも、"手放せない""赤い光"を、認めた自分の負けなのだ。
「あんたは、海賊王になれんのかい」
「は……ハァ?!?!そんなのより……、」
間抜けに開いた口に、銃口を突っ込んで笑う。
たじろいだ男の足が当たり、飾ってあった花瓶が落ちて、赤い花が床に散った。
「あの人は、海賊王になる男だ」
######
「あ!ベック!!お前もここに居たのか!!」
「……何してるんだ」
劇場から出たベックマンの視界に、エントランスに散らばる柄の悪い連中と、そのポケットから財布を抜いている見慣れた"フダツキ"達が入る。
倒れた人間の山に腰掛け、札を数えていたシャンクスとヤソップに、重々しいため息を吐いた。
「ベック!ちょーっと足りねェが……暫くこれで何とかなるだろ?!な?もう怒るなよ」
「えげつねえ謝り方をするなよ……」
気まずそうに頬を掻いたシャンクスが、握り締めた札をベックマンに押し付けながら言うのを、呆れたように聞いて、もう、どうでもいいとばかりに煙草に火を付ける。
「あ!!いたいた!!お頭ー!!」
「お?」
突然エントランスに飛び込んで来た、ずぶ濡れの"新入り"達に、シャンクスは怪訝そうな顔を見せた。
嬉しそうに手を振って、幹部達の前に同じくずぶ濡れの巾着を差し出す。
「レッド・フォースの船底に引っ掛かってたんだ!お頭が落とした金!!!」
「ダメ元で潜ってみたら見つけたんだよ!」
「な?!もう喧嘩すんの止めてくれよー!お頭!副船長!!」
「「……」」
純真過ぎるその瞳に、何も言えなくなったシャンクスとベックマンが苦い顔で見つめ合う。
ため息を吐いて、ベックマンがシャンクスの目の前に赤い花を一輪差し出した。
「おれも小言を言い過ぎたな。悪かったよ、お頭。許してくれ」
「ゲェ……なんだよお前、キザ過ぎるだろ」
「そうか?こうすると大抵の事は許して貰えるんだがな」
「今までに食い散らかした女の霊に呪われろ、お前」
パン!と、膝を叩いて立ち上がったシャンクスは、ゆっくりと全員の顔を見る。
そして、"大頭"の顔で、口を開いた。
「少し……この島に滞在しようと思う。スネイク、この島の人間に航海術を教えてやれ。この島を仕切ってた海賊の船は物資の"輸送船"として使う。腕の立つガキ共も居るから、ベックマン、少し鍛えてやってくれ。いずれきっと、この島は自立できるだろう」
全員の顔が見える位置まで歩いたシャンクスは、赤い髪を揺らして振り返る。
そして、"逆らえない"顔で笑うのだ。
「おれァ……この島を、"ナワバリ"にする」