究惑 寝顔※夢の章のときの妄想
※ご都合展開!
夜も更けて、隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
暗い部屋の中にはベッドが2つ。
警戒心もなく、僅かな光に照らされた男が横たわっている。
「……」
秦究は息を殺して、整い美しいその人の横顔を見つめた。長いまつげ、すっと通った鼻筋、薄い唇は少しだけ開いて吐息を漏らす。
「ン……」
僅かに眉が動き、ぎゅっとつむられた瞳が機嫌悪そうに揺れる。起きたのかと思えば、そうではなく、彼はごろりと秦究の方へ体を向けて再び深い眠りへと落ちた。
僅かに覗いた赤を見つめて、秦究は目をそらせない。
先程の吐息混じりの音が耳にこびり付いて離れない。
彼のことを何も知らない。
過去はまだ思い出せない。
それなのに、あの薄く開いた唇。薄いまぶた。滑らかな肌。それに触れたいような衝動が湧く。
唇を割り開いて、いつも不機嫌そうな顔が眉根を寄せて快感を堪える顔が見たい。吐息を奪い、すがりついてきた手をとり、瞳を覗き込みたい。滑らかな肌を指の腹で辿り、誰にも許さない彼だけの場所にねじ込み揺さぶりたい。
脳裏に閃光のように浮かんだ光景に、秦究は思わず舌で唇を舐めた。
あの肌はまだ、誰も知らないのか。
触れられていないのか。
それとも──……。
眠る安らかな横顔があどけなく、この美しい人に他の誰かが触れたのかもしれないと思うと、秦究は眉根を寄せて舌打ちしたくなった。
──大考官
唇だけで呼んでみる。
怠惰な響きを持ちながら、甘さが含んだ呼び方に秘められた想いを、秦究はこのとき、まだ知らなかった。