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    aoixxxstone

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    千→ゲ♀/先天にょた/幼なじみ

    #千ゲ
    1000Sheets

    惚れた女と一つ屋根の下で暮らすことになった俺の天国と地獄についての記録と考察「千空ちゃん、お待〜! えへへ、今日からお世話になりまーす! シクヨロ〜♪」
    「……おー、自分ちだと思って好きに使え」
     言いながら、千空は不自然にならない程度に、そっと視線を下げた。淡い藤色のワンピース。トップスの部分はレースで大人っぽく、ウエストラインから膝丈のスカートはシフォンを重ねたデザインで、幻のスタイルの良さが際立つようだった。──少しばかり胸元が窮屈そうに見えることに、言葉にならない気まずさを覚えて、千空はふいと顔を逸らす。
     二人が出会ったのは千空が十歳、幻が十三歳のときだ。紺の襟に白い三本ラインのセーラー服とプリーツスカート。或いは進学した先の、胸ポケットにワンポイントの刺繍が入ったブラウスと山吹色のリボン、ボックスプリーツのスカート。千空の大脳新皮質にあるのは、登下校時に見かけた制服姿の幻ばかりだ。私服姿を目にしたのは、偶然に都内の図書館で行き会った一度きり。普段のコンタクトレンズではなく黒縁の眼鏡をかけた幻は、シンプルな黒のニットセーターに、スキニーのジーンズを履いていた。いつもは見ることのないウエストから腰、細い脚へとつづく綺麗な曲線に、千空は跳ね回る心臓を抑えるのに必死で、ほとんど顔を上げられなかった。
     あの頃の千空は、幻と相対したときの自身の反応に翻弄されていた。脳内に嵐が吹き荒れているかのようだった、と思い返して眉を寄せる。突然の動悸、急激な体温の上昇、心臓付近の疼痛、緊張する手足の筋肉……そして言いようのない多幸感。顔を見るだけで、声を聞くだけで──幻が自分と視線を合わせ、目を細めて頬を緩めるだけで、自分の脳に幸福物質が溢れ出るのを感じた。セロトニン、オキシトシン、ドーパミン、エンドルフィン、エストロゲン、テストステロン……思いつく限りの幸福物質を数え上げて、千空は自分の異常に解を導き出そうと努めた。
     周囲の人間は千空よりもずっと早く、その答えに気付いていただろう。それこそ、本能的な感覚だけで。解はとてもシンプルで、それでいて千空には想像もしなかった非合理的なものだった。
    ──石神千空は、浅霧幻に恋をしている。初めて出会った十歳のときから、これまでの七年間、ずっと。

    「ふう! 千空ちゃんアリガト、これで大体片付いたよ」
     ワンピースの上にクリーム色のエプロンをして、日当たりのいい壁掛けの棚に小さなサボテンを並べていた幻が、千空を振り返る。手持ち無沙汰に本棚の本を五十音順に並べ替えていた千空は、ぁ、と返答して、見るともなく部屋を見回した。
     南向きの窓には、深みのある紫のベルベットの上に、小さな花の刺繍がされたレースが重ねて縫われた、可愛らしいカーテンがかけられている。手触りのよさそうな生成のシーツに、カーテンに色を合わせてあるのだろう、淡い紫のカバーがかけられた枕とブランケット。そしてベッドの隣には学習机が並び、薄いラップトップと、月の形をしたルームランプが置かれている。
     元は、客間とは名ばかりの、使わないものや捨てにくいものを何でもかんでも放り込んで納戸のようなものと化していた部屋だった。広さは八畳。人が聞けばもったいないと言うかもしれないが、千空にとっては合理的な利用方法だったので、今まで放ったらかしにしていた。それを朝から大樹を呼びつけて片付けたのが先週の日曜のこと。幻へ確認して残すと決めたシングルのベッドと千空が以前使っていた学習机、背が高く幅を取らないスリムな本棚以外、きれいさっぱりすべて処分した。体力はミジンコを自称する千空なので、自分でやったのは細々した仕分けくらいで、あとはほとんど大樹が千空の指示で動いて運び出したのだが。そうやって、すっかり空になった部屋は随分と寂しい有様で──これで幻は暮らしにくくはないだろうかと、珍しく千空は頭を悩ませた。だが、それは杞憂に過ぎなかったらしい。幻が持ち込んだカーテンや小物によって、そこはすっかり鮮やかで華やぐ『幻の部屋』に変わった。
    「……それ」
    「あ、これ? 可愛いでしょ。棚買いに行ったときに一目見て、千空ちゃんのこと思い出してね、買っちゃった♪」
     月のルームランプを撫でながら、幻がうれしそうに笑う。ぐ、と音にならない声を飲み込んで、千空は自分の胸を抑えた。惚れた相手に『自分のことを思い出したから買った』などと言われて素知らぬ顔ができるほど、千空は老成していない。その上、それが自分がこれまでの人生のほとんどを注ぎ込んでいる宇宙にかかわるものなのだから、尚更だ。
    「でも、本当にお家賃いいの? こんないい部屋……」
    「テメーが来るまでマジで物置だった部屋だから、気にすんな。百夜もいいっつってたろ?」
    「うん。それならいいけど……家主は千空ちゃんだからね、何か俺がバイヤーなことしちゃってたら、すぐ言ってね?」
     強いて言うならテメーとの同居自体がバイヤーだわ、と、千空は心の中だけで呟く。目の前で小さく首を傾げる可愛い想い人は、三歳年下の男のことなど、弟か、親戚の子供くらいにしか思っていないらしい。そういう方面の心配はまるで頭にない様子だ。
    ──今日から千空は、初恋の相手で、現在進行形で惚れている女と一つ屋根の下で暮らさなければならない。
     もちろん嫌ではない。何なら浮かれすぎて、アメリカからようやく届いた宇宙工学についての論文がちっとも頭に入ってこないくらいには喜んでいる。
     とはいえ、千空は思春期真っ盛りの男子高校生。人一倍……いや人の三倍は理性的な千空だからこそ、思い悩むのも無理からぬことだった。
    (すでに今、エプロン姿が堪んねえ……)
     可愛らしいワンピースだけでも心拍数が上がっていたものを、その上にエプロン。千空の頭の中は、もはやお花畑もいいところだ。
    「千空ちゃん?」
    「……何でもねえ。それより、昼メシどうする?」
    「あ、千空ちゃんが嫌じゃなければ、俺が作ってもいい?」
    「………………おお、頼むわ……」
    ──嫌なわけねえだろ 何だ、今日は俺の命日か つか、コイツこの姿でキッチンに立つのか 何だそれ、新妻か クソ、今すぐ嫁にしてぇ……!
     膝から崩れ落ちて床をバンバンと叩かなかった自分は褒められていいはずだ、と、千空は遠い目をして幻に答える。
    「千空ちゃん、何食べたい? あ、ラーメン以外でね」
    「折角テメーが作ってくれるっつってんのにラーメン要求しねえよ」
     少しだけ、驚いたように幻は目を開き、それから柔らかに目尻を緩ませて笑った。
     花が咲くような、とは、このことだと、現国教師が四十分垂れ流していたご高説では一ミリも理解できなかった比喩を、〇・一秒で千空の脳は受け入れ、そして脳内にまであざやかな花を咲かせる。
    「……うん、千空ちゃんに美味しいって言ってもらえるように、ジーマーで頑張っちゃうね♡」
    ──いや、コイツ食ったらダメか? ダメなのか? もうよくねえか? 据え膳食わぬはってこういうことじゃねえのか?
     幻が体を低くし、千空を見上げるような姿勢で、上目遣いに言ったのはわざとだろう。あざとい、と言われるその態度の中に、僅かに幻の照れた様子が垣間見える。幻は必要とあらば演技だろうと可愛こぶりっ子だろうと躊躇なくして見せるが、ただの悪戯心で、しかもよくお互いのことを理解している千空を相手にやるには、少々気恥ずかったらしい。
     そんな幻の小悪魔的な行動と、素の愛らしさに、千空の理性は切れ掛けのザイルのように、ミチミチと音を立てて軋んだ。
     すぅー……と、千空はどうにかこうにか澄ましたままの表情を保ち、細く息を吐き出す。
    ──幻、テメー、あの雑頭に感謝しろよ、ジーマーで。
     その場で押し倒さなかったのは、千空の理性が打ち勝ったからではなかった。
    『それはダメだ千空ーーーーッ そういうことは、結婚してからするものだーーーー』
     そんな時代錯誤甚だしい科白を、百億デシベルの大音量で叫ぶのが聞こえた気がした。親の顔より見た──ならぬ聞いた幼なじみの大声は、円周率より、素数より、よほど千空を萎えさせた。
     それで幻を傷つけずに済んだのだから、千空にとって幸いであったのは間違いない。今度ラーメンでも奢ってやろう、と密かに考えながら、千空は、目の前できょとんと首を傾げた幻の、すべらかな額をパチン、と指で弾いた。
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    aoixxxstone

    DOODLE花に嵐(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20351543)のちょぎくにが、南泉にご迷惑をおかけする話、の始まり。終わらなかった……
    時系列的には、花に嵐本編→本作→花に嵐のr18部分。
    にゃんくにっぽい雰囲気に見えるところがあるかもですが、二振りの間には一切そういう感情はありません。終始ちょぎくにです。
    猫の手を借りる夜 (1)「南泉一文字……その、折り入って頼みたいことがあるんだが」
     そう言って夜半、部屋を訪ねてきたのは、普段あまり話すことのない相手だった。
     山姥切国広。本作長義以下五十八字略こと山姥切長義の写しであるこいつは、誰かさんみたいにひねくれた性格はしていないが、別方向に難儀な性質を抱えていて──まあ、はっきり言って社交的な性格とは程遠い。修行から戻ってからは『写し』という自身の出自に由来する卑屈さはなくなったようだが、口下手なところは相変わらずだ。その上、そこに『自分は主のための傑作である』という自負が重なって、却って面倒を起こしてしまうこともある。
     その最たるもんが、本歌山姥切との確執だろう。どっちが悪いとか、どっちが正しいとかいう話じゃない。山姥切には山姥切の、国広には国広の考えも想いもある。それだけの話──なのだが、したたかに酔った山姥切から聞かされた、二振りの会話の下手くそさときたら、これがとんでもなかった。山姥切のやつは端から喧嘩腰。対する国広は言葉選びを間違いまくり。拗れるのも無理はない、という気持ちと、何でここまで拗れてんだ、の気持ちで、聞いてるこっちの頭が痛くなったくらいだ。
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    aoixxxstone

    DOODLE千→ゲ♀/先天にょた/幼なじみ
    惚れた女と一つ屋根の下で暮らすことになった俺の天国と地獄についての記録と考察「千空ちゃん、お待〜! えへへ、今日からお世話になりまーす! シクヨロ〜♪」
    「……おー、自分ちだと思って好きに使え」
     言いながら、千空は不自然にならない程度に、そっと視線を下げた。淡い藤色のワンピース。トップスの部分はレースで大人っぽく、ウエストラインから膝丈のスカートはシフォンを重ねたデザインで、幻のスタイルの良さが際立つようだった。──少しばかり胸元が窮屈そうに見えることに、言葉にならない気まずさを覚えて、千空はふいと顔を逸らす。
     二人が出会ったのは千空が十歳、幻が十三歳のときだ。紺の襟に白い三本ラインのセーラー服とプリーツスカート。或いは進学した先の、胸ポケットにワンポイントの刺繍が入ったブラウスと山吹色のリボン、ボックスプリーツのスカート。千空の大脳新皮質にあるのは、登下校時に見かけた制服姿の幻ばかりだ。私服姿を目にしたのは、偶然に都内の図書館で行き会った一度きり。普段のコンタクトレンズではなく黒縁の眼鏡をかけた幻は、シンプルな黒のニットセーターに、スキニーのジーンズを履いていた。いつもは見ることのないウエストから腰、細い脚へとつづく綺麗な曲線に、千空は跳ね回る心臓を抑えるのに必死で、ほとんど顔を上げられなかった。
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     赤く腫れた目元。痛々しいと思いながら、僕は少しだけうれしかった。ゲンは『見せたい』本心以外を、他人に見せることを良しとしない。それなのに今、こんな顔を晒してまで僕を頼って来てくれたのだと。
     ゲンは、この細い身体でいつも一際苦しい場所に立って、危ない橋を渡って、必死になって戦ってくれた。司帝国からの造反、モズとの取引、アメリカでのスパイ活動。どれもゲンが勝ち取ってくれた道だ。ゲンがいなかったら、僕は千空に出会うことすらできなかった。
     それなのにゲン本人はといえば『俺だけジーマーで場違いじゃない?スーパースペシャルレアの中にレアが混じっちゃってない?』なんて言っていたのだから、笑ってしまう。そこで自分をコモンって言わないところが、いかにもゲンらしい。結局、今に至るまでその認識はあまり変わっていないみたいで、僕らがSSRならゲンはURだってことは全然分かっていない。
     ねぇ、だって、千 3037