波の様にさざめく感情波の音がうるさいほどに聞こえる。
海から上がった彼は、濡れた前髪を乱暴に掻き分ける。
こちらが放ったタオルに一言礼を言うと、何故か水中でも外れる事がなかったサングラスを拭いて掛け直した。
インドア派の彼だが、泳いでみたいと準備したのは何とも本格的で。
ボードまで準備してきたのには驚いたが、ウエットスーツを着込むと何度か波に挑戦していた様で。
だが、そんなにすぐに上手くなるはずもなく、小一時間ほど波と格闘した彼は楽しそうでありながらも若干疲れを見せていた。
『そろそろ飯にしないか?』
そう声をかけたのは、諦めたのかボードに捕まって漂っていた彼を目にしたからで。
軽く海から引っ張り上げると、久々の重力に足元が重そうだったのが見て取れた。
タオルであらかた吹き上げると、彼は胸元のチャックを外した。
それにしても、体のラインがはっきり出るこのウエットスーツは、見てると何とも言えない感情が湧いてきて。
胸元から腰のライン、それに腰から太ももまでのラインがについ目がいってしまって。
魔力供給で、彼のそのままの姿を知っているが故に、ウエットスーツ越しについ想像してしまう。
いやいや、そんな邪な気持ちはいけないと思いつつも、纏ってもなお華奢な体に視線が行ってしまうのだった。
レイシフトでやってきたこの海辺は開放感しかなく、少しのガタが理性までも壊してしまいそうで、心にギュッと鍵をかけるのだった。
「…あの……明智さん……」
遠慮がちな声が掛かる。
脱衣の様子など目に収めるわけには、と視線をそらしていたので、声をかけられ目に入った光景が目に焼き付いて。
胸元までの真っ白な肌なのに、下肢にはまだ水に濡れたウエットスーツが張り付いていて。
「……脱がして…頂けませんか?」
一瞬息を飲む。
まだ濡れた前髪に、見上げる様な瞳がサングラス越しに見える。
海を泳いだばかりで青白かった肌が、ウエットスーツで奮闘したためか少し赤みがさしていて。
それが胸元まで少し染めていて、魔力供給の時の情景が一瞬フラッシュバックする。
下肢を覆うラインがくっきりと目にはいり、抱き寄せたいほどに華奢に見えた。
頭の中でいろんな考えが巡る。
邪だった心が爆発しそうになるほどに、内側から溢れてきそうで。
口を開いた。
「……霊体化すればいいんじゃないのか…?」
この時の私によくぞ堪えた!と称賛をあげたいくらいだった。
その後は簡単に事なきを得た。
少しでも触れていたら、自分が妄想していた事を体現しそうで恐ろしかった。
そんな事など露知らず、彼は美味しそうにバーベキューで焼かれた肉を頬張っている。
私が思っている事など微塵も理解してないのは不幸中の幸いか。
次の魔力供給は手加減出来る気がしない、とこの波の音が聞こえる海に叫びたい気持ちで一杯なのだった。
終わり