夜更けのふたり おじさんがおれの面倒を見てくれている間、ひとつの布団に二人で並んで眠っている時期があった。着替えの服は買いに行ったのに、どうにも布団まで気が回らなかったらしい。おじさんが使っているベッドは一人用だけど少し大きくて、二人で横になっても少し余裕があった。
おれたちは寝るときの姿勢が逆向きだから、向かい合うことはない。いつも互いに、背中を向けあって眠っていた。
ある夜、部屋の電気を消した後に背中側から声がした。
「おれのことを、嫌だと思ってたりしないか?」
「え?」
よく分からない質問だった。でも、寝返りを打って後ろを向くのはなんだか躊躇われて、結局、振り向くことはしなかった。
「どういうこと?」
「……妹を助けられなかったおれのことを、恨んだりするときはないか」
おじさんは、直接名前を言わずにそう話した。
胸のあたりがザワザワして、思わずパジャマをぎゅっと握り締める。確かにあのときは――本当の意味で、トキネを助けることは出来なかった。けれども咄嗟にトキネを庇って銃で撃たれたこと、目から血が流れていて凄く痛いはずなのに、なんとかしようと最後まで頑張っていたのを、おれは知っている。悔しいと思うことはあっても、恨んだりするなんてとても出来なかった。
「おれは、……おじさんが生きててくれてよかったと思ってる」
仮面の男に銃で撃たれたおじさんまで死んでしまったら――。あのときはそう思っていてずっと怖かった。けれども彼は今も生きていて、おれが巻戻士になっていつかトキネを助けられるように、いろいろと教えてくれている。おじさんが居なかったら、おれはきっとあそこから動けなかった。トキネと約束を交わすこともなかった。
「おじさんと居るのは楽しいし面白いよ」
「…………そうか。なら、よかった」
大きく息を吐いて、おじさんは絞り出すように呟いた。その声はつらそうで、でも、どこか安心したような感じもした。
結局そのあとは会話をすることもなく、いつの間にか眠りに就いていた。
――。
ときどき、あの夜のことを思い出す。
おじさんは何を訊きたかったんだろう。なんとなく見当をつけてみても、やっぱりしっくり来なくて。また機会があったら尋ねてみたいけど、今は部屋が別だし仕事が忙しいからなかなか難しい。それでも、あの夜のことはおじさんとの大切な思い出のひとつだ。
窓のない部屋で二人で過ごした夜は、今でもあたたかくおれの過去を照らしている。