えびグラタンと待ち合わせ。筆が乗らない。
何せスランプなんて齢二十二くらいの人生でもあまり経験したことがなかったものだから、描いても満足しないなんてことは初めてだった。
途中まで描いてはみたものの、次の絵の具に手が伸びない。ここ最近ずっとその調子で、今日もそうだった。砂の城を波が拐って崩していくように、パレットナイフと端切れ布を使って画面の絵の具を拐いながら、ローラーを使って白く塗り直していく。
「……初めてだな~、筆が止まっちゃうの。貴重な経験といえばそうなんだけど~。」
画材ケースの上にパレットを置いて、掛けていた眼鏡を外し結っていた髪をほどく。こうなってしまったらもうオフモードに切り替える他ない。
イーゼルの前からゆらりと立ち上がって、制作場所の外側に置かれたソファベッドにふらりと倒れ込む。スプリングがぎぃ、と軋んだ。
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