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    Jeff

    @kerley77173824

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    Jeff

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    少年期Hyun
    とMst
    完全に妄想です。
    それと、あのまきまきについて。
    2022/08/31

    #ヒュンケル
    hewlett-packard

    In The Dark「痛そうだね」
     と、ドラキーが言う。
     ヒュンケルは無言で両腕の包帯を巻き取っていく。
    「怪我をしているわけではないんだ」
     ぽつりとつぶやく。全て外してしまうと、道具袋をまさぐって新品を取り出した。
    「だったら、なんでそんなの着けているの?」
     と、好奇心旺盛なドラキー。
     通りすがりのくせに、しかもモンスターのくせに、ヒュンケルに対して警戒心が乏しい。出自は魔物だと自認する少年の、特有の匂いのせいかもしれないが。
    「ねえ、なんで巻いているの?」
     ぱたぱた飛び回るドラキーを、首をすくめて避ける。
    「お前に関係ないだろ」とヒュンケルが言う。
    「うん、関係ないよ。でも、それって関係ある?」とドラキー。
     もっともだ。
     ヒュンケルは両手を外気に晒して、しげしげと眺めた。
     魔族の模様も獣の毛並みも無いその肌に、淡く紫色に光る紋様が、ゆっくりと明滅した。
     ドラキーが目を丸くする。
    「かっこいいね!」
    「そうかな」
     ヒュンケルは表情を変えずに、両手を見下ろした。
     暗黒闘気の軌跡。
     鍛錬につれて、徐々に目立たなくなってきている。いずれ完全に消えるだろう。
     だが未だに、こうして顔を出す。治癒の遅い虫刺されみたいに。蜘蛛の巣のような模様がしつこく残って、自らの存在を叫ぶのだ。
     ――ここにいる。ここにいるよ。使って。君の中に、いれて。
     頭を振って、ヒュンケルは前腕に包帯を巻きなおす。
     訓練不足を隠すため、だけではない。
     こうして意識的に抑制しないと、不意に暴発することがあるからだ。忘れないために、常に気を配るために、あえて仰々しい印をつける。
     底知れない、魅力的な、力。
     だがヒュンケルはこの素晴らしい可能性を、手放しに受け入れたわけではなかった。
     ――強大なる力を得た時には、常に注意しなさい。
     ――全ての強者には、責任が伴うのです。
     ――その力が巨大であればあるほど、恐ろしい代償が。
     バルトスの仇。モンスターの虐殺者。
     己のかりそめの師であった、人間の勇者。
     彼の言葉はなぜか、脳裏にこびりついたままだったのだ。どんなに磨いても落ちない、不穏な染みみたいに。
     ……ふざけるな。
     お前はその力を使って、いったい何をした?
     揺らぎそうな心を、黒い鎧で覆っていく。
     命の恩人である闇の師が、そして――大魔王が、教えてくれたように。
    「それ、かっこいいよ」
     ドラキーが無邪気に羽ばたく。
    「もっと増えたらいいのに」
    「……ああ」
     ヒュンケルの全身が、ほの暗い霧を帯びる。色彩が失われていく。
    「そうだな」
     音が消え、重力が歪む。
     眠りに落ちる直前のように、深いめまい。
     心地よく、抗いがたい闇のうねりが、周囲を埋め尽くすのを感じる。雄々しい怪物の手が、幼き我が子を抱きしめるかの如く。
     うっとりと頬を委ねていたヒュンケルは、何かが崩れるような音に、はっとして顔を上げた。
     眼前には、脆い焼き菓子みたいに消し飛んだ洞穴の壁と、小さなクレーターと化した石の床。
     慌てて両手を見ると、毒々しく腫れあがった紫の蔓が、肘まで這い上がっていた。
     まただ。
     やってしまった。コントロールを手放した。
     師は、激怒するだろう。修行と称したお仕置きを覚悟し、苦い唾液を飲み込んだ。
     闇の師ミストバーンの沈黙と無関心、容赦なく与えられる苦痛は、勇者と過ごした生温い記憶を振り払ってくれる。
     だから、俺には彼が必要なのだ。……彼が、俺を必要としていなかったとしても。
     利用しているのはこっちなんだ。
     そう自分自身に言い聞かせる。
     それでも。もし。いつの日か。
     ……あの圧倒的な闇が、この体を、無条件に抱きしめてくれたなら。
     勇者には見せられなかった自分自身を、いつか、彼が受けとめてくれたなら。
     そんなほのかな想いを、すぐに握り潰した。
     承認と愛、『父』の幻想を追い求める繊細な魂を、怒りで乱暴に覆い隠して。
     急いで包帯を巻き付けながら、ふと傍らを見下ろして、硬直した。
     先程まで会話していた、小さきモンスターの姿が見えない。
     ――俺が、消してしまったのか? ……この手で。
     動揺のあまり喉元までせり上がった叫びを、必死に鎮静する。
     水の底から浮かび上がってくるもう一人の自分が見える。
     目を見開き、涙を流し、光に手を差し伸べる、ひとりぼっちの子供。
     その白い喉を絞め殺さんばかりに押さえつけて、宵闇の奥へと送り返した。
     幽鬼のように立ち上がり、自室に向かって歩き出す。
     考えるな。感じるな。
     ……大丈夫だ。まだ、大丈夫。
     
     
     
     腐った死体のモンスター、古びた正装に身を包んだ執事モルグは、考え深げに震源地に歩み入った。
     吹っ飛ばされて泣きじゃくっていたドラキーを拾い上げて保護し、小さな背中をぽすぽすと叩いてやりながら、主人の残した瓦礫を一瞥する。
     きらきら漂う塵埃を見上げて、白濁した目を細めた。
     ヒュンケル様の師、恐るべき影の訪問予定まで、あと数時間だ。
     弱みの証拠となる癇癪かんしゃくの痕跡は、お目に入らぬようにしておかねば。
     若き不死騎団長候補の忠実な部下は、悠然と掃除に取り掛かる。
     まだ幼さの残るあるじが残虐な修練で痛めつけられるのは、どうにも耐えがたいことだった。
     この世の物とも思えない悲鳴を、できれば聞かずに済ませたい。
     溶けた脳に宿ったわずかな感情、情けや愛に似た衝動は、極力表に出ないようにしてきたはずだった。
     だが、孤独な少年の世話係という辞令は、魔王軍からの懲罰なのかもしれない。
     痛みと憎しみに身を捧げ、徐々に心を失い闇に染まりゆく彼を、粛々と見届けよ、と。
     ――あるいは。
     と、モルグはたった一度だけ目にした、不思議な光景を思い浮かべる。
     眠る弟子の前で立ち尽くす、冷血なる彼の師の姿。
     鋼鉄の拳を所在無く下ろしたままで、微動だにせずに。
     ありえないこととは知りつつも、その背に、何かを感じずにはいられなかった。
     まるで、この柔らかい命をどうすればいいのか分からずに、途方に暮れているようにすら見えたのだ。
     そんなことを考えながら陥凹した床面を見下ろして、ふと手を止める。
     暗黒闘気の暴走が残した破壊痕は、何かに似ていた。
     人間の頭蓋骨に、似ていた。
     涙を流しているようにも見える。
    「……お久しぶりですな、バルトス殿」
     なんとなくそう呟いて、淡々と作業を続ける。
     ただの空洞と化したはずの腐った心臓が、ちりちりと痛んだ。

     

     
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