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    Jeff

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    Jeff

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    お題:「雷」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2024/06/23

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Storm「俺は、結構好きだ」
     ヒュンケルは呟いて、ラーハルトの頭頂部に鼻を埋めた。
     埃っぽい山小屋の寝台で。
     酢漬けのニシンみたいに、二人ぴったりとくっついて。
     蒼い額に皺が寄る。
    「雷が?」
     と、ラーハルトは絞り出すように言って、シーツをたくし上げた。
    「そう」
     ヒュンケルは彼の長い耳を覆うように腕を回すと、ぷあ、とあくびをした。
     嵐の夜は、いつもこうだ。
     ラーハルトは三度目の雷鳴で、必ず相棒のベッドに忍び込んでくる。慣れたもので、ヒュンケルは何も言わずに、大きな猫を抱きしめる。
     互いの過去、心の傷については、過剰に踏み込まない。
     旅を続けるうちに出来上がった、暗黙のルールだった。
     子供特有の、水蜜桃みたいに柔らかな精神。
     そこに振り下ろされたつるはしの残酷さを、二人ともよく知っているから。
    「なぜ雷が苦手なんだ」
     珍しく、ヒュンケルが禁忌を破った。
     ラーハルトは鬱陶しそうに相棒を見上げ、また目を伏せた。
    「今更それを聞くのか」
    「聞きたいからだ、今」
     天下の陸戦騎が、ここまでの醜態を晒しているのだ。ヒュンケルにも知る権利はある、と、ラーハルトは自嘲する。
     稲妻が二度光るのを待って。
    「あの日の夜も、雷雨だった」
     ぼそりと言った。
    「母が死んだ」
     ヒュンケルは瞬きもせず、窓を打つ雨を見つめている。
     胸に抱いたラーハルトの小麦色の髪を、一定のリズムで梳きながら。
    「街まで、助けを呼びに走ったんだ」
     ヒュンケルには聞こえない遠雷を拾って、ラーハルトの耳が少し揺れた。
    「針のような雨を嫌って、あらゆる扉が閉ざされていた。ただでさえ人間たちから弾かれていた醜い子供の懇願は、轟音に飲み込まれた」
     己の叫びも、鳴り止まぬ嵐も、全てがうるさかった。
     悪魔の花嫁、悪魔の子。裏切り者、魔王の手先め。
     人々だけでなく、母なる自然、天も地もすべからく、自分たち親子を責めたて、否定している。
     味方は誰もいなかった。
    「思い出すたびに、イライラする」
     小声で吐き捨て、額を相手の胸に擦り付けると、しばし黙った。
     滑稽だ。
     恋人の腕の中で震えているくせに。
     もう取り繕う余地もないのに、素直に助けを求められない。
    「そうか」
     意外にも、あっさりとした返事。
    「てっきり、自分より速いからか、と思っていた」
     ラーハルトは、ぶふ、と吹き出した。
    「まともな慰めはないのか」
     眼前に浮かぶ鎖骨を少し噛むと、銀髪の相棒はくすりと笑った。
    「言っておくが、俺は貴様とは違うぞ、ヒュンケル。雷より速い」
    「へえ」
    「鎧の魔槍は魔力をはじくが、雷撃には弱い。それを知ったバラン様から、特訓を受けたからな」
    「それを言うなら、俺はバランとダイの竜魔人親子から雷撃を食らったことのある、恐らく唯一の人間だぞ」
     ヒュンケルの珍妙な対抗は無視して、ラーハルトが続ける。
    「ついには、バラン様の極大電撃呪文ギガデインを全てかわし切った。本気の攻撃だった。俺を思えばこその修行、我が生涯の誇りだ」
     ヒュンケルはつまらなそうに鼻を鳴らす。
    「無駄だったな」
    「なんだと」
    「ロン・ベルクが魔槍を絶縁加工してくれたから」
     ラーハルトは丸まっていた背を伸ばし、相棒ににじり寄った。
    ?」
    「色々あって」
    「聞いていない」
    「だからこそ、バランに無刀陣を仕掛けられたんじゃないか」
    「貴様、そういう重要な上方修正アップデートをなぜ黙っていた」
    「聞かれなかったから」
    「クソ」
     はかったようなタイミングで、ひときわ耳障りな雷が落ちた。
     近い。
     無言で首をすくめるラーハルトをふんわり抱いて、ヒュンケルはまた窓に目をやる。次の雷光が空を切り裂き、山脈の輪郭をあぶりだす。
    「なぜ」
     と、ラーハルトはしゃがれた声で言う。
    「一応聞いてやる。なぜ、雷鳴が好きなんだ」
     ふむ、とヒュンケルは天井に視線を移す。
    「お前は速い、ラーハルト。だがバランの雷を避けることができたのは、彼が真剣にお前を狙っていたからだ」
     訝し気に見上げると、ヒュンケルが小首をかしげて見返した。
    「本当の雷は、そうじゃない。彼らは、分け隔てなく全てを破壊する。人間も魔物も、魔族も竜も。神の意志も生物の祈りも通用しない。ただ、選んだ者の肩口から足先へと走り抜け」
     人差し指で、ラーハルトの首筋に触れる。
    「心臓の回路をめちゃめちゃにして、二度と動かない玩具に換えてしまう」
     するりと撫でおろし、左胸をなぞる。
    「即死だ」
     金色と紫色の視線がぶつかったまま、数秒動かなかった。
    「いつか、俺を選んでくれるのかもしれない。そんな風に雨雲を見上げるのが、好きだったんだ。なんとなく」
     沈黙を彩るように、ごうん、と風が鳴いた。どこかで何かが壊れた音。
     ややあって、
    「……貴様はどこまで楽観的なんだ」
     と、ラーハルトが低い声で囁いた。
    「選ばれるのはきっと、お前じゃない。俺だけかもしれない」
     ヒュンケルは目を見開いて硬直し、しばし考えた。
     予測したこともなかった、その光景について。
    「そうか」
     ヒュンケルは微笑して、ぎゅう、と恋人の頭蓋を締め上げた。
    「そうだ。俺はなんて愚かだったのだろう」
     あれほど騒がしかった空が、急速に音を失っていく。
     窓を叩いていた非難と断罪の雨粒が、いつしか柔和な子守歌に変わる。
     嵐の終わり。
    「なあ」
     最後の稲妻を見届けてから、ヒュンケルが弾んだ声で言った。
     世界の真理を見たかのように。
    「こうしていれば、選ばれるときにも一緒だな」
     あたりはすっかり静かになり、月明かりが眩しいくらいだ。
     ひっついている理由もなくなったラーハルトが、憮然として相棒を押しのける。
    「御免だ。俺は全力で逃げる。ひとりで死ね」
    「ひどくないか」
    「貴様の詩的感傷に付き合っていたら共倒れだ」
    「薄情者」
     さっさと自分のベッドに戻るラーハルトに、ヒュンケルが全体重で飛び乗った。
    「ぐえ」
    「まだ雨が残ってる。チャンスはある、お前も道連れだラーハルト」
    「やかましい。さっさと寝ろ」
    「さっきまでひとの安眠妨害しておいて」
    「うる……さい、くくく」
    「笑ってるじゃないか」
     何もかもどうでもよくなってきた。
     沈み込んでいたのが馬鹿みたいだ。
     沸き起こる発作に耐えられず、シーツをよじれさせながら笑い転げた。
     
     干渉しない、踏み込まない――二人を隔てていた厳然たる障壁に、ぴしり、と、稲妻型の亀裂が走る。
     しまい込んだ記憶をそっと引き上げて、丁寧に磨いてやって、清らかな小川に流す。
     抱えきれなかった巨大な鬼も、言葉にしてしまえば、意外なほど小さく見えた。
     
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    rabimomo

    DOODLEタイトルまんまです
    めちゃくちゃ出来る男な月を書いてみたくてこうなりました
    在宅ワークした日に休憩時間と夜に一気書きしたのでちょっと文章とっ散らかってますので大目に見て下さる方のみ!
    直接の描写はないですが、肉体関係になることには触れてますので、そこもご了承の上でお願いします

    2/12
    ②をアップしてます
    ①エリートリーマン月×大学生鯉「正直に言うと、私はあなたのことが好きです」

     ホテルの最上階にあるバーの、窓の外には色とりどりの光が広がっていた。都会の空には星は見えないが、眠らぬ街に灯された明かりは美しく、輝いている。その美しい夜景を眼下に、オーダーもののスーツを纏いハイブランドのビジネス鞄を携えた男は、目元を染めながらうっそりと囁いた。
     ずっと憧れていた。厳つい見た目とは裏腹に、彼の振る舞いは常にスマートだった。成熟した、上質な男の匂いを常に纏っていた。さぞかし女性にもモテるだろうとは想像に容易く、子供で、しかも男である己など彼の隣に入り込む余地はないだろうと、半ば諦めていた。それでも無邪気な子供を装って、連絡を絶やせずにいた。万に一つも望みはないだろうと知りながら、高校を卒業しやがて飲酒出来る年齢になろうとも、仕事帰りの平日だろうと付き合ってくれる男の優しさに甘えていた。
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