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    Jeff

    @kerley77173824

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    Jeff

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    Bartos.
    もしかしたら主が倒れても生きられたのかもしれない、という今井様 @i_mai_mai_
     のTweetに抉られた心を捧げたかった衝動書きです…大した内容ではありませんすみません!
    (基本的に原作通りの結末です、ご注意ください)

    Over The Rainbow 死ぬのは、どんな気分だろうか。

     今の今まで、考えたこともなかった。
     己が、その瞬間を恐れるかも知れないなどとは。
     
     バルトスは静かにあぐらをかいて頭を垂れ、自らの罪を吟味した。
     骸の化け物でありながら、無垢な人間の赤子を拾い育てた。
     宿敵たる人間の勇者に息子ヒュンケルの未来を託し、魔王の敗北を予期していながら彼に門を開いた。
     使命を棄てて主人の死を待つこの家臣に、楽な最期は許されぬ。自分の作り手たる魔王が死ねば、動力源を失いこの身も滅する。
     かりそめとは言え隅々までを鍛え上げ、神経を張り巡らした騎士の体だ。この骨の一本一本から生命のエネルギーが抜き去られていくのは、どんな感覚だろう。崩壊の恐怖に打ちのめされながら、跡形もなく灰燼と化すその感触は。
     ――いや。恐れているのは、肉体の破滅ではない。
     バルトスは座したまま、うす汚れた星形のペンダントを握りしめた。
     愛する息子の贈り物。これを見て境遇を悟った勇者は、剣を収めたのみならず、子供の無事を約束してくれた。
     父を守ってくれたのだ。
     ――この熱が。
     空虚な肋骨に宿った温かい光が。
     息子と過ごしたかけがえのない記憶が、偽の脳とともに混沌の闇へと還る。
     そのことだけが、震えるほどに悲しく、恐ろしかった。
     誇り高き地獄の門番に、このような感情があったとは。

     ……咆哮。

     まさに煉獄からの呼び声。
     魔王の断末魔はそれ自体が解呪の波動となり、地底魔城にくまなくこだましていく。
     時は来た。
     我が主よ、不甲斐なき部下を許し給え。
     私もすぐに。

     数秒。
     数十秒。
    「……なに……?」
     目を開けて、六枚の掌をじっと見つめる。
     もう冥土に着いたのか。それとも、絶命間際の夢だろうか。
     消え去るはずの骸の腕が、まだそこにある。それどころか、新たな力が湧き出でるようだ。
     どす、と壁を打てば、鈍い衝撃が肩まで響いた。
     生きている。
    「もしや」
     禁呪の技で生まれた人形にも、奇跡が起こることがあると読んだ。
     神の目に留まり、役割を得て、本当の生物として世界に放たれることがあると。
     よろめく足で立ち上がり、あたりを見回した。
     全てが新しく見えた。
     いつも通りに揺らめくたいまつが、やけに鮮やかだ。土の匂い。倒れた仲間の血の匂い。
     己の腕にまだ残る、幼い息子の肌の匂い。
     ふつふつと、ある結論が湧いてくる。
     ――許された。
     許されたのだ。
     私は今や、魔王の生命無くして生きることができる。
     死すべき運命から解放されて、愛するあの子と一緒に。
     なぜだ。
     もしや……ヒュンケルのおかげか?
     幼子に情けをかけた、ただひとつの正しい行いを、神が見ていたのか?
     それが、この身を救ったのか?
     興奮と希望が全身を満たしていく。
    『父さん』
     これから何度、そう呼んでくれることだろう。
     戦略も兵法も忠誠も忘れて。
     今よりも少し背の伸びたヒュンケルの姿が、夢のように脳裏をよぎる。
    『おれも、剣を習ってみたかったのに』
     傷ひとつない白い手が、バルトスの古びた指骨を覆う。
    『でも、重たくて、危なくて、きっと無理だな。誰かを傷つけてしまいそうだ』
     朗らかに笑うわが子を抱きしめる。
     この子にだけは、武器を握らせまい。
     私が生きている限り、断じて。
    『剣は相手を斬るのみならず、誰かを守るものでもある。だがお前には、もっと素晴らしい才能がある』
     星空のように輝く瞳が父を見上げる。
    『それって、何なの、父さん?』
     ああ。
     成長を見届けられるなんて。思ってもみなかった。
     生意気盛りな少年の、控えめで笑顔に満ちた青年の、書を愛する穏やかな壮年の、まだ見ぬ息子の姿。
     諦めていたはずの幸福が、現実となって降り注ぐ。
     顔を上げれば、二度と戻らぬはずだった地下道が、まっすぐに息子のもとへと繋がっている。
     はやく、ヒュンケルに教えてやらなければ。
     たった一人で私を待つあの子に。
    「終わった。すべて終わったぞ、ヒュンケル」
     生きるのだ。これからもずっと、あの子と共に。
     人里離れた、美しい森に身を潜めて。
     悩みも恐れもなく、太陽のもとで。
     戦慄きながら、一歩を踏み出した時だった。
     
    「どこへ行く気だ」

     耳慣れた、冷酷な声が響いた。
    「裏切者め」
     振り返った先に、黒い炎に似た影が燃えていた。
    「バルトス。貴様、勇者に道を譲ったな。お前の、お前のせいで」
     勇者との死闘の末に敗れつつも、一命を取り留めた魔王がそこにいた。
     ……信じていたのに。
     憤怒に隠れた声なき声を、バルトスは正しく聞き取った。
    「この、失敗作が!」
     怒りと混乱に我を忘れた創造主が、恐るべき拳を振り上げる。

     地獄の騎士、魔王の門番バルトスはただまっすぐに、運命を見つめていた。
     逃げようとは思わなかった。
     
     彼の頭蓋を砕かんとする最後の一撃は――やけにゆっくりと見えた。

     

     
     
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