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    Jeff

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    お題:「喧嘩」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/09/17

    #LH1dr1wr
    #ラーヒュン
    rahun

    Drinking Games「親に叱られたことは」
     ラーハルトの投げやりな質問。
    「あるさ」
     と、ヒュンケル。
    「ならば、喧嘩したことは?」
    「もちろん」
     ヒュンケルは咳払いして、喉を焼く蒸留酒を揺らめかせた。
    「だが、命に関わる無茶をした時だけだ。父が本気で怒ったのは」
     忘れもしない。
     父バルトスの剣を、一本盗んだ時だ。
     まだ勇者や人間たちの勢力は脆弱で、底冷えするような敗北の予感に晒されていなかった頃。
     ただ子供でいられた頃。
     幸せだった地底魔城、旧魔王軍の日々。
     苦笑いして、ヒュンケルは小さなグラスを啜った。
    「親は二人いるだろう」
     と、ラーハルトが琥珀色の酒を注ぎ直す。
    「アバンは父ではない」
     意識したより強い口調になってしまって、ヒュンケルは唇を噛んだ。
     お前とは違うんだ。
     いくら長兄としての使命を自覚しようとも。全身全霊を捧げられる、愛する義父に出会えたラーハルトとは。
     愛したくても愛せなかった絶望は、お前には分からない。
     暗い思いをやり過ごして「ラーハルトの番だ」と促した。
    「む……」
     ラーハルトは答えず、コトンと杯を置いた。
     
     なぜ、こんなゲームを始めたのかよく分からない。
     互いに、できるだけどうでもよい過去を暴露する約束だ。
     今までで最大の怪我は。
     体の中で好きな部位は。
     初めての友達は。
     魔界のベストセラー小説を読んだか。
     一番古い遊戯の記憶は。
     嫌いな匂いは。
     そんな下らない質問をつまみに杯を重ねる、平和な野営の夜。
     燃え盛っていた焚火は落ち着き始め、月もそろそろ眠たそうだ。
     
    「母にも、バラン様にも。叱られたことはない」
     ラーハルトは考え考え、そう呟いた。
    「へぇ」と、信用していないヒュンケルの返事。
    「よっぽど扱いやすい子供だったんだな」
    「喧嘩したことなら、ある」と、ラーハルト。
    「どんな」
     ちょっと驚いた。
     ヒュンケルはヘーゼルナッツを噛み砕いて、友の端正な横顔を覗き込む。
    「母親と?」
    「わが主とだ」
     もっと驚いた。
    「父親と、だと? 育ての親とは言え、お前にとってバランは絶対だろう。その実子であるダイにすら忠誠を誓っていたではないか。一体どうして喧嘩になるんだ」
     と言うと、ラーハルトはまじまじとヒュンケルを見た。
    「お前も見ていただろうが。何を頓珍漢な」
     呆れた相棒の言葉に、ヒュンケルは数秒考える。
    「あ……」
     確かにそうだった。

     ――この俺の纏った鎧の魔槍が、それを許さないのだ。

     実の息子に向き合うこともなく、ひとり死地に赴く父親。天下の竜の騎士を前にして立ち塞がり、忠実なる部下らしからぬ激情をぶつけたのを、今更ながら思い出す。
     死した友であり、バランのもう一人の息子であるラーハルトの遺志と、ヒュンケル自身の魂が共鳴した感触は、今でも皮膚を這うようだ。
     あれは。
     陸戦騎ラーハルトにとってはありえなかった、希少な親子喧嘩だったのだ。
     バランの部下として以上に、一人の息子として父親に刃向かっていたのだ。
    「……おい。何を考え込んでいる」
     さすがに酔いが回ってきている。少々滑舌の悪いラーハルトにぱしんと背を叩かれ、ヒュンケルは軽くあくびをした。
    「なんでもない」
    「寝るなよ。貴様の番だ」
     とラーハルトが視線を落とす。
     しばし黙った末、
    「そっちこそどうだ。師匠のアバンと喧嘩したことは」
     ないに決まってる。
     あの人はこっちの悪意を打ち返したりしない。
     さらりと摘まみ上げて、綺麗に洗って干して伸ばしてたたんで箪笥にしまってしまうんだから。
     ヒュンケルはそう言いかけて、はたと宙を見る。
    「いや……」
     にっこりと笑って、最後の一杯を飲み干した。
    「ある」
     度し難いその微笑を、ラーハルトがちらりと見やる。


     
     鈴虫の合唱とともに、晩夏の夜が更けていく。
     こんぐらがった人生の記録が、徐々にほどけていく気配。
     
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