ワンドロお題「逃走」「ヒュンケル!頼む!匿ってくれ!!!」
パプニカ城にあてがわれた私室に飛び込むように入ってきた半魔の友人は答えも聞かずクローゼットの中に飛び込んだ。
あっけに取られて固まってしまったが、ほどなく聞こえてきた足音に大体の事情を察する。
「ヒュンケル、ラーハルト見なかった?」
「見たぞ」
半魔の友人ことラーハルトの、現在唯一の主にして自分の弟弟子にあたる勇者ダイに嘘をつく理由はない。
「引き渡してもらえるかなあ」
「あいつは何かやらかしたのか?」
そんな粗相をするとは思えんが、と尋ねてみるとダイは笑って首を振る。
「いやそんなんじゃなくて、レオナとポップのゲームに巻き込まれてさ、ラーハルトが罰ゲームすることになったんだよ」
「罰ゲーム」
意外な単語に思わず復唱してしまう。
「うん、俺にタメ口で一日接するっていう」
成程それは逃げ出すな
秒で脳裏でそう呟くヒュンケルである。
「だってあまり酷い事はしたくないけど、俺の言う事だとほとんどご褒美になっちゃうからって言われると俺も何も言えなくて」
ダイもヒュンケルの言いたい事は解っているらしく、ちょっと歯切れが悪い。
「どうしようか」
上目遣いで聞いてくる弟弟子の姿に苦笑しながら、ヒュンケルは精一杯の真顔を作る。
「あいつは逃走中だ。俺がお前に敬語で接することで手を打たないか?」
「え、ちょっと待ってそれ心臓に悪い」
「何をおっしゃられますかダイ様」
「いやホントやめて。わかった、レオナたちには逃げられたって言っておくよ」
たはは~という表情で手を振りながら退室するダイを見送ると、クローゼットがぎぎ…っと開く。
「恩に着る」
神妙に頭を下げる姿に雪が降るんじゃないかと本気で思うヒュンケルだった。
今日も世界は平和である。