ワンドロお題「味覚」味覚とは、食物の可食か否かを判断する、生存に非常に影響する感覚である。筈である。
「貴様の味覚はどうなっているのだ」
共に旅に出て、最初に衝突した価値観がこれであった。
「どう、と言われても」
「焼いただけの肉は味などなかろう!せめて塩をかけろ塩を」
道すがら狩った兎の肉処理を任せたところ、ただ焼いた肉を出されたラーハルトは渋い顔だ。
「すまんな、味を知らないわけではないのだが、子供の頃はこういう肉しか食べてなくてつい…」
申し訳なさげにボソボソ言われると、口が悪いと自覚のあるラーハルトとしては黙るしかない。
「…旧魔王軍は食事のレベルが低かったのか?」
「周りの家族は大体生肉だったぞ」
そのレベルか、と顔を手で覆って天を仰いでしまうラーハルトである。
寧ろ人間のヒュンケルにだけちゃんと焼いてあげたあたり、気遣われていたのは間違いない。
「焼いた肉と、あとは果物だな」
表情の乏しいヒュンケルが果物という単語に顔を綻ばさせるあたり、かなりの好物だったのだろう。ラーハルトは密かに心にメモをした。
「事情はわかった。ただ…味だけでなく保存の関係でも塩はつけるべきだ。今度は教えてやるから」
半分芝居の溜息まじりにラーハルトがそう言うと。
「本当か?ありがたい、アバンのその辺りの教えは無視していたのを後悔してはいたのだ…!」
と、それは嬉しそうに応えるヒュンケル。
この天然魔性は厄介だぞ、とうっかり遠い目をしたラーハルトだった。