夕方から夜に変わる頃、太一と莇が学校から帰宅してリビングに向かうと、リビングのソファで臣がアルバムを広げていた。
「ただいまー。臣クン、何してるんスか?」
「ああ、太一と莇か。おかえり。写真をアルバムに入れてたら、今までのアルバム見つけて…。」
「見返してたのか?」
「あはは、そういうこと。つい懐かしんじゃって。」
テーブルには何冊ものアルバムがあった。太一と莇もソファに座り、それぞれ気になったアルバムを手に取る。
「かなり増えたッスね。…あ!これ、この前6人で撮った写真だ!」
「こっちは、昨年の地方公演の時だな。懐かしい。」
今までの公演や季節ごとの思い出を懐かしみながら見ていると、莇がふとしたことに気づく。
「思ったけど、最近の臣さんって左京と写る時が多いよな。」
「え?」
「確かに!秋組のおとんとおかん安定ッスね。」
「そ、そうかな。意識してなかった。」
少し前から今にかけて写真を見ていくと、特に秋組だけやカンパニーの皆で出掛けた時の写真には、臣と左京、どちらかが写っていれば大体片方が一緒に写っている。それだけ左京の近くにいたのかと、臣は少し照れくさい気持ちになる。
「そういえば臣クン、まだあーちゃんが来る前、左京にぃと撮影出かけてたッスね。」
「え、左京と?撮れ高ねえだろ。」
「あーちゃん辛辣ッス!」
「だっておっさん撮っても面白くねえじゃん。臣さんに迷惑かけたんじゃねえの?」
「…!」
莇が口にした言葉に、臣は驚き、くすくすと笑い声をこぼした。
「臣クン?」
「あはは、いや、ごめん。やっぱ左京さんと莇、似てるなって思って。」
「はあ!?どこがだよ!」
「まあまあ、悪口じゃなくて。左京さんも言ってたんだよ。こんなおっさん撮っても面白くねえだろ、って。」
「へえ…!仲良しッスね、あーちゃん。」
「太一さんまでやめろ!」
「それに、迷惑なんて全然。いろんな姿の左京さんを撮れて、一緒に出掛けれて、あの日は俺にとって、忘れたくない大事な思い出の1つなんだ。」
あの日があったから、臣は左京の気持ちを知ることができた。少しずつ、彼に甘えてみる努力をした。あの海での甘い時間を思い返すように話したところで、はわわ、と顔を赤くして口に手を当てる太一の視線と、恋の話と分からずにいる莇の視線にハッとする。
「ほ、ほら!あの時はまだ左京さんを撮る機会も滅多になかったし、技術を上げれる機会でもあったから良かったって意味なんだ!」
「はあ…?まあ迷惑かけてないならいいけど。」
「た、確かに臣クン、帰ってきた時すごく幸せそうな顔してたッスね!今もその時の写真とかあったりするの?」
「ああ、かなり前だから昔のフォルダに…。」
スマホの画像フォルダから見つけた、その時の写真。唯一カメラからスマホに移したお気に入りの一枚だ。
「これ、臣クン?」
「少しブレてねえか?」
「この写真だけスマホに移したんだ。嬉しくてつい。」
「あ、じゃあこれ撮ったのって…。」
ガチャリとドアが開き、リビングに入ってきたのは左京だった。
「伏見、今日の買い出しのレシート、まだあるか?」
「あ、すみません!ちょっと待ってて下さいね。」
アルバム整理の前に買い出しに出かけていた臣は、左京に渡す予定だったレシートを取りに席を立つ。慌てなくていいぞ、と彼に言いながら待つ左京は、自分に向けられた太一と莇の視線に気づく。
「……。」
「ん? 何だ?」
「いや、これ臣クンから見せてもらったんスけど…。」
「お前さ、臣さんに撮り方教えてもらったら?」
「あ?何の話…──。」
莇の手で見せられた臣のスマホ画面に写る写真を見て、左京は言葉をつまらせる。
少しだけ、いつもカメラマン側にいる臣を撮ってみたくなった。その気持ちからこっそりシャッターを切ったものだ。それを、なぜ彼が持ってる…。
黙り込んでしまった左京に気付かぬまま、臣がリビングに戻ってくる。
「すみません、左京さんが帰宅してから渡すつもりが後回しになって…、左京さん?」
「…お前、なんであの写真…。」
「え?」
「っ、…後で消してくれ。」
左京は顔を真っ赤にして、そうぼそりと呟くように言うと、臣からレシートを奪い取り、早足でリビングから出て行った。
「さ、左京さん!? 悪い2人とも、ちょっと席外す!」
臣は出て行く左京を放っておけず、追いかけるようにリビングを後にする。
残された太一と莇はただ見守るしか出来なかった。臣が愛しげに思い出を話していた辺りから理解した太一はソファに背を預ける。
「…臣クン、しばらくご機嫌取りしなきゃいけなくなるッスね。」
「太一さん、左京のやつ、なんで赤くなってたの?下手な写真見られたから?」
「うん、あーちゃんはそのままでいいッス。」
その日のMANKAI寮はリビングが少し温かくなったし、それからしばらく不機嫌な左京と彼を宥めようとする臣が目撃されたとか。