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    いしえ

    @i_shi_e

    新規の文章と絵などの公開をこちらに移動。
    幽白など。文と絵(と過去は漫画も)など。
    幽白は過去ログ+最近のをだいたい載せています。
    一部、しぶにあげている小説ものせています。
    以前のものだと、ごっず関連や、遊Aiほか雑多。

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    いしえ

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    甘いけど終盤シリアス。頭の回転の良い蔵馬や真面目な桑ちゃん相手に、樹はさぞかしたのしく話し甲斐があったろうなぁ、と感謝が止まらないですね…彼らのさいごのヒトとの関わりに華々しさがあるのマジで泣ける…
    忍が霊界に行く気なくて樹もそのつもりだったから霊界は死期が近くともイコール霊界に来る予定者リストには把握できてなくて、その意味でも忍が消息不明だったんだろうな。静かな風がさらうべく在るたましい尊い……

    #幽白腐向け
    ghostsAndGhostlyRot
    #仙樹仙
    #ナル樹

    さざなみが、寄せては引く/仙樹仙&ナル樹で樹のノロケシーンif/樹+蔵+桑(一瞬名前だけミノルも) 亜空間は樹を語り部に、静かな線香花火を、ぱちり、ぱち、とはぜさせる。ぱち、ぱちと、それは何の喝采もなく、静かに、しずかに、ちいさくはぜるのだ。それはちょうど、“仙水”の別人格について樹が語っていた時のこと。ナルという女性人格について、樹はこのように語った。
    「オレはよく彼女に悩みを打ち明けられ、そして慰めた。忍とカラオケに行くと、ナルはいつもひょこりと顔を出し、決まってオレに『守ってあげたい』をリクエストしたものさ。彼女はいつもうれしそうに、――そしてさびしそうに、オレの歌声に耳を寄せていたよ。彼女はたいてい『悪女』や『あの娘』を選び、歌いながらぼろぼろ涙をこぼしていた。オレはそんな彼女の肩を抱き寄せ、そして胸を貸していた。これからも、きっとそうするだろう」
     桑原は頭を両手で抱えながら、くるいそうな胸中で、くちを大きく引き結ぶ。一方の蔵馬は、淡々と、指摘するのだった。
    「それは、少々“話が違う”んじゃないか? お前は彼女を守りたいと歌いながら、その実、“あの娘”のことのみを真に愛するあなただった、ということになるが」
    「それの、なにがおかしい?」
    「すべてさ」
     言われて、樹は気分を害するでもなんでもなく、むしろ心底うれしそうに、ふっ、と、口端をわずか上げる。蔵馬も、ことばのわりにつめたいかおはしていなかった。こちらもふっと、わずか、そうだともすればまんざらでもないような。樹とのやりとりの、その含蓄に、桑原はすぐ気付く。
    「おいおい、蔵馬よォ…お前、コイツの言ってること、まさか理解しちゃいねぇだろうな?」
    「少々、心当たりがあってね」
    「ぬぁにぃ!?」
     動揺に目をひん剥く桑原は、警戒する猫のように両肩をびくりと縮こまらせた。蔵馬は安心させるようにとでも、諸手のひらを掲げ、補講をするのだった。
    「ああ、勘違いさせたならすまない。ちょうど、母の音楽の趣味と一致していたんだ」
    「ああ、そうゆう…」
     ほっ、と安堵に肩の力がどっと抜け、同時に、変な汗が出ていたことにも桑原は遅れて気付く。音楽の趣味。洋楽を好む桑原には心当たりがなかったが、どうも、蔵馬には通じていたらしい。くつくつと、上機嫌そうにのどで笑む樹は、引き続き親しげに話しかけてくる。
    「なかなか、良い趣味の母親を持っているじゃないか。大事にしろよ」
    「貴様に言われると不愉快だ」
    「おや、それは失礼」
     一転ぴりりと警戒に神経を尖らせる蔵馬に妖狐のすがたを錯視して、桑原は肝の冷える心地がした。さきほどの指摘しているようで話に乗っていたらしい蔵馬との温度差に、それでも樹は動じない。恐らく、慣れているのだろう。他人の、空気の変化に。多重人格だという仙水に寄り添っているということは、そういうことなのだろうと、桑原は頭の隅で思う。
    「そうだ、ナルとのエピソードをもう少し聞かせてやろう」
    「聞いてはいないが」
    「まあ、聞け」
     蔵馬の対応に樹はこの亜空間に漂う塵の一片ほどにも動じず、上機嫌でノロケを続ける。
    「あれは、彼女と沖縄に行ったときのことだ。彼女の、ささやかな夢さ。かわいいものだろう。彼女が水着でめいっぱい泳いでみたいと言うから、プライベートビーチ付きの宿を利用した。オレは気にしないが、彼女が人目が気になると言うのでね。思い切ってビキニを着たい、と、言う彼女とともに、もうずいぶん慣れたサイズ直しの裁縫に精を出したよ。ああ、彼女ののびやかな緊張ときたら、陽光に揺れるかげろうよりはるかに愛おしかった…
     蟲寄に戻ってきてから、スーパーマーケットのパン売り場でミノルとともにサータアンダギーを見かけたときには、ナルが沖縄でうれしそうに両手でにぎりしめていたものだな、と、そのはにかむ笑顔を思い出し、思わず買って帰ったものさ。ナルは、たいそう喜んでくれたよ」
     静かに聞いていた蔵馬が、区切りと察し、口を開く。
    「……消息不明だった、と聞いていたが…ずいぶん、逃避行を満喫していたようだな」
    「勘違いするな。忍もオレも、ただ霊界に行動を勘繰られるのが虫に触った、それだけのことさ」
     なあ、ところで裏飯は?と、思っても桑原は口を挟めず、ちらり横目に見れば目を再度ひん剥き身を乗り出したくなるような状況になっていた。ごつん、と、ぶつかる場所もなく空振りするあたま。握った手が変な汗に滑るのに、だのにぎゅっと握ったそこに、ああ、剣が自然現れる――
    「!
     忍、裏飯を殺せ!」
     なれあいは、ここまでだ。時は、来た。
     ざしゅり、と、斬り割いた亜空間。時は、時は、ああ、時は来た。コミカルにいくらおどけてみても、心音は、動いてやいなかった。ああ、ああ! ちくしょう、あんなやつの話なんぞ聞いてるんじゃなかった! 悔やんでも、時は戻らない。ああ頭の中だけそれが戻り、だのに、ああ、だのにいくらも、うごきやしない。
     時は、来てしまったのだ。
     その後、真の闘いを経て、仙水忍の、真の目的を、知る。彼が霊界に行く気を毛頭持たず、そして樹もそのつもりだったからこそ、霊界は忍の死期が近くとも霊界に来る予定者のリストには把握できていなかったのだと、その意味で忍が消息不明だったのだろうと、遅れて桑原たちは思った。忍のたましいは、静かな風がさらうべくだけ、ただ、ただ在ったのだ。柳にでもかどわかされたようだ、と、在るべき場所に“還って”行った彼を、彼らを、ただぼんやりと、見送ることしか、ああ、できなかった。色々と、考えさせられたけれど、今はそれをする時間の余裕もなし。
     人間界に帰って、日常に、戻る。そこに、ああ、けれどただその同じ空の下に世界のなか彼らふたりだけ欠いているのだと、そのことだけがただ、どこかふしぎだった。ほんの少し前までは、知りもしなかった相手なのに。世界から彼ら去ったのだと、そのことだけがただ、ただどこかまるで哀しくでもあるような、それは間違いなく錯覚だ。ただひととき、語りを聞いただけの、それだけの相手なのに。ただ少しの間闘った、それが成した痕というだけにはわずか巨きくもちいさな喪失感を、それでもほとんどの者はたいてい知らず、世界は、うごいてゆく。世界は、うごいてゆく。ああ、少しだけ、花を撒きたい。沖縄の海にでも? ふるり、と、ちいさく揺らした髪が、それでも肯定じみ、蔵馬の手持ちを使うでもなく、街の花屋に、足を向かせる。たとえば彼らがここで生きていたとき、きっとこんなふうに街とも関わったろう。そのあかしとして、その、しるしとして、証明を、ただすこしの刹那欲したのだ。センチメンタルというにはささやかなこのかかわりのあかしを、ここに、そこに、どこにでも彼らが在ったのだというそのあかしを、そこにかりそめ築きたくて。
     花を、撒いた。遠くの海には行けなかったけれど、花を撒いた。桑原のほおには冷たい風が、それでも灼熱じみてそよぐ。さらわれていった彼らのどこかに、この風よ、通じていればそれがいい。そうでなくても、ただ、願いたかった。彼らの、とこしえの平穏を。あんなふうに、おおきな花火を打ち上げて去っていったヤツらのこと忘れ得ようか? 花は、風は、彼らにいつか、伝えてほしい。どこかで、幸せに過ごせよ、と。ただそのひとことの、手向けだけを。
     さざなみが、花弁を寄せては引き、いくつかは底知れぬ遠くへと、そしていくつかは浜辺へと、打ち上げてまたさらい、また打ち寄せる。散り散りに、去っていくそれは、何か予知じみて桑原の胸をざわつかせた。ああ、この予感よ真実となるな。ただそれだけを、密かに願った。





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    いしえ

    PAST短編集『主従ア・ラ・カルト』2020/01/18大安発行。受攻お任せ多めバトビ主従CP全年齢本web再録。本への編集時にいれたあとがき等以外全てpixiv公開の短編小説で、webから本にしたものを更にポイピク用に編集しweb再録。
    もくじ、まえがきあとがき、ラストにいれた文章も入れましたが、挿絵のメニュー表等、関連画像https://poipiku.com/26132/9933701.htmlにて
    主従ア・ラ・カルト/受攻お任せが多めのバトビ主従CP全年齢本【本からのweb再録】◆Menu *受攻お任せのものについて…片方で見て頂いてももちろん構いません! as you like

    ◆それはおやすみの魔法(原作主従)
    独自設定(ハーブ、今回は特にカモミールを母の影響で生活によく取り入れてきた幼少期と、カイン改心時の話)。
    カインの父が亡くなったとき習慣が続くか途絶えるかで、2パターンに分岐します。
    受攻曖昧(ジョシュカイ寄りの部分とカイジョシュ寄りの部分とが混在)です。

    ◆propose -誓いの宣言-(原作5年後)
    原作ラスト、5年後の、18歳と21歳の主従。
    受攻お任せですが主からのプロポーズ(従もするつもりがあった)。受攻がニュートラルなかんじです。わりとカイジョシュ寄りに見えやすいですが、そう見えるジョシュカイっぽい要素もあるかと思いますので、そんなかんじで大丈夫なかた向けです。
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    いしえ

    DONE鈴と若7本初出順まとめ
    ・さあ、おとぎばなしを生きよう!/鈴若鈴でも鈴若でも
    ・出世した魚、大海ゆうゆう/鈴若(※若干の事後描写あり。具体的ではないですが)
    ・そして青さと春を知る/鈴若でも鈴若鈴でも(田中時代メイン)
    ・おとぎ参り/鈴若でも鈴若鈴でも
    ・ぬくもり、火ともし道となる/鈴若鈴でも鈴若でも若鈴でも
    ・季節がきっと、めぐりゆけども/鈴若
    ・夢の跡地は虹の架け橋/鈴若鈴でも鈴若でも若鈴でも
    鈴若と、受攻解釈お任せの鈴若鈴or鈴若(ものによってはor若鈴も)の小説7本まとめ◆さあ、おとぎばなしを生きよう!/鈴若鈴でも鈴若でもお任せします◆
    (2023.09.03初出)幽白読み返し中で、田中まで読んだので、ひとまず今の印象をSSにしました。





     伝説を、作ろうとしていた。それにはまず、戸愚呂に勝つことだと思ったのはそう、田中を名乗っていたころだ。そして俺は、惨敗という語すら恐れ多いほどみじめにいきのこる。ああ、負けた。だが同時に思う。自身は、生への執着が強いのだろう。もうこんな思いはしたくない。強くなりたい。強くなれれば、戸愚呂へのリベンジマッチが果たせれば、きっとこの生にもみじめな執着は薄れよう。そう思うほど、戸愚呂への勝利が生きる意義になっていた。きっとつよさとは、もうそのまましんでもいいと思えるほどのそれ以上ない境地にあるのだろうから。そうすれば、そうだ、自ずと伝説にもなれよう。伝説とはきっと、数々の偉業がつむぐ物語なのだから。強くなりきるまえに老いることだけがただ恐く、人間のようにすぐ老いる儚い存在でなくて良かったとだけ、密かに安堵する。ああ、老いとは、儚く醜く度しがたいものだ。人間にだけは、なりたくないものだ。
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    いしえ

    DONE吏将一人称文。うらめしT戦あたりの心境描写。画魔が生死さまよってる状態ではっきり今後の生死を明記していませんが、吏将は生き延びてほしいと思っている描写です。
    多少ベクトル違っても似たもの同士の画吏尊いなーと思って書きました。魔性Tすき………
    ロマンチストはかく語りき/画吏 甘ったれた、ロマンチシズムだ。里をぬけてなお、まっとう忍で在ろうとする。――そう、在るしかできないとばかりに。その不器用な真っ直ぐさは、さながら腐った土壌に凜と根を保つ一本の青魔竹だ。曲がりながらも、生ゆ孤碌松だ。白に紅にと咲く冠梅だ。
    『…土壌がどれほど血で汚れていようと、おまえのように馬鹿正直な木も、育つものなのだな』
     いつしか、そんなやりとりを交わしたとき、画魔の返した言葉がわすれられない。本当に、こいつは、ひかりの世界でも忍を続けでもするつもりだったのだろうか?
    『それなら、おまえは、真新しいさら土(つち)だな』
     唖然と、したものだ。新風だとか新雪だとか、そういったものは確かにきく。だが、ゆるりと自然育つ土に、歴然としたあたらしさなどあろうか? あるならそれはごく薄っぺらいうわつらか、それとも、どこまで指すのやら。
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