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    Copic_V91

    @Copic_V91のらくがき置場です。

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    ・視点が章ごとに変わるため、読みずらいと感じる方が居らっしゃるかもしれません💦(一人称を ⏳=ぼく 📮=僕 としてあります(はず))
    ・章ごとに小分けにして投稿します。
    ・誤字脱字が含まれる可能性があります。

    綿毛の君と傘帽子の君④第4章

    視界の端から端まで、華やかな場所。

    僕が今まで来ることの出来なかった場所。

    ついさっきまで感じていた、母さんへの後ろめたさは、いつの間にか消えていて、代わりに湧き上がる興奮が、ぼくの胸を満たしていた。

    気になる出店を見つけ、兄さんに声をかけようとした瞬間、黒いものが僕の胸元まで勢いよく飛び込んできた。

    あまりの勢いに、僕は其の儘後ろに倒れてしまう。

    背中と腰が強く痛む。

    兄さんは、慌てて先程飛び込んできた黒いものを両腕で抱えあげ、僕の顔を心配そうに覗き込んだ。

    「大丈夫だ。怪我は慣れっこだからな」

    本当は驚きと痛みで泣きたかったけど、兄さんに心配なんかさせたくなかったから強がった。

    でも、我慢をしていると鼻の奥がツンと痛んで、また泣きそうになる。

    どうにか自分から視線を逸らしたくて、話題を探す。

    目に泊まったのは、さっきの黒い塊だった。

    よくよく目をこらすと、自分が黒い塊だと思っていたものが、おかしなお面を着けた犬だと言うことが分かる。

    異国風の仮面と、氷柱のような形状の牙は印象的だ。

    「その犬は?」

    『この子は、僕の友人の 縺>縺」縺です。

    友人が失礼しました。』

    兄さんの友人の名前が書かれていることは分かったけど、不思議と読み取ることができない。

    名前の部分だけ、文字が滲んでいるようだ。

    ここでも正直に言うべきか、どうしようかと、考えあぐねる。

    『…文字でも駄目でしたか』

    兄さんは、ぼくが言わなくても、ぼくが考えていることが分かってしまったようだ。

    その時の兄さんの笑顔は寂しそうで、胸がきゅっと苦しくなった。

    『では、この子のことも、好きに呼んであげてください』

    兄さんも、兄さんの友達も、本当の名前で読んであげたい。

    でも、ぼくにはその術がないのだと突きつけられた。

    「…クロ。クロはどうかな?」

    我ながら安直な名前をつけてしまったと思う。

    気に入ってくれるだろうかと、兄さんに持ち上げられた、彼を薄目で見上げてみる。

    クロは気に入ったのか、僕の頬や口元を、分厚い舌で舐めまわした。

    彼の鋭い牙が当たらないよう、気をつけてくれているようで、ちっとも痛くない。

    擽ったさから、くふりと声が漏れた。

    『気に入ったみたいですね』

    クロの舐め取り攻撃をなんとか躱し、兄さんの持つ巻物へと目を移す。

    「そう、みたいだな。

    よかった」

    大きな黒い頭を撫でてやると、仮面を下の瞳が気持ちよさそうに細められた。

    柔らかい毛並みが手に心地よくて、離しがたかったが、僕たちは二人と一匹で屋台巡りを始める。

    唐辛子屋、団子屋、農具屋、神具屋、占い屋。

    目移りするほど多くの出店が道沿いにずらりと並ぶ。

    その中でも、ぼくが一際惹かれたのは飴屋だった。

    猫や兎、金魚や鶴などの、艶々しいの動物たちには、今にも動き出しそうな勢いがあった。

    加えて、甘い香りを纏っていて。

    『飴細工ですか、綺麗ですね。

    どれがいいですか?

    どれでも買ってあげますよ』

    ぼくは、余程熱心に見ていたのだろう。

    恥ずかしい。

    恥ずかしさのあまり、つっけんどんな物言いになってしまう。

    「買わなくていい!

    …綺麗だから見ていただけなんだ。

    だから…」

    買わなくていいんだと続けようとしたが、その声は、毎度あり、と威勢のいい店主の声によってかき消されてしまう。

    『もう買ってしまったので食べてください。

    美味しいですよ』

    兄さんは、ぼくが1番気になっていた、兎型の飴をぼくに手渡した。

    すごく、すごく嬉しい。

    だけど、さっき意地を張ってしまった手前、素直にこの飴を受け取ることができなかった。

    「僕はいらないって言ったじゃないか。

    僕は受け取らないぞ!」

    無駄な意地を張っていることは、自分でもわかっているけど、素直に甘えるなんてできない。

    どうせ、ぼくは、可愛くない子どもだ。

    だんだん自分が惨めに思えてきて、目頭が熱くなる。

    なんとか泣き出す寸前の顔を隠そうと俯いたが、それは兄さんの手によって阻止されてしまった。

    正面には、兄さんの困ったような微笑があって、それを見た途端、堰を切ったように ぼくの目からぼろぼろと涙が溢れだした。

    なんだか悔しくて、嬉しくて、胸がいっぱいになって苦しくて。

    クロは、ぼくの足元をソワソワと行き来し、不思議なお面越しに、不安げな瞳で僕を見つめている。

    兄さんは、みっともない ぼくの泣き顔から目を反らすことなく、僕が泣き止むまで、僕の顔を、ただ見つめていた。

    ぼくが落ち着いたのを確認すると、兄さんはもう一度、飴細工を差し出してくれた。

    ぼくはそれを受け取ると、ゆるりと口元に近付けた。

    口に含むとまったりとした甘さが舌の上で溶けだして、よだれが奥から奥から湧き出してくる。

    『美味しそうですね、一口貰っても?

    見ていたら、食べたくなってしまいました』

    恥ずかしそうに頬を掻きながら、スミレの花のようにに微笑む姿が愛らしかった。

    僕は直ぐに飴を差出し、兄さんのに唇にあてがってやる。

    すると、兄さんは、意外にもガリッと兎の耳を噛み砕いてしまう。

    「兄さん、それじゃあ折角の飴細工が勿体ない」

    それに可哀想だ、そこまで言ってしまうと、今度は 兄さんが可哀想になるから、言わない。

    『それは、すみませんでした。

    この兎にも悪いことをしてしまいましたね』

    耳の欠けた兎を見つめて、兄さんは分かりやすく肩を落とした。

    ぼくの中では特別だった兎を、壊されてしまったことが少し寂しくて、指摘をしたけれど、こんなに落ち込むなんて、なんだか申し訳ない気持ちがしてきた。

    「いや、いいんだ…」

    二人の間に、気まずい沈黙が流れる。

    意を決して口を開いてはみるが、ぱくぱくと鯉のように口を開閉するだけで、肝心の言葉がでてこない。

    それを見兼ねて、兄さんが「口を開く」。

    『ねえ、アンドルーさん。

    僕の名前を、もう一度、訊ねてくれませんか?』

    初めて聞いたものよりもら、ずっと、鮮明に聞こえた。

    頭の芯にこびり付いて、思考を霞ませる。

    「兄さんの、ほんと、のなまえ」

    ぼくの頭は、ろくに働こうともせず、兄さんの言葉を、ただ繰り返す。

    『そうです、僕の本当の名前は―』

    「ほんとーの、な、まえは?」

    『ビクターです。

    さぁ、僕の目を見て、僕の名前を読んでください』

    冷たい手が僕の片頬を撫でる。

    鋭く尖った爪が、ぼくの頬に軽くくい込み、ちくりと痛む。

    「ビクター?」

    『そうです、やっと呼んでくださいましたね!

    あぁ、なんて幸せなんでしょう…』

    ビクターは言葉の通り、とても幸せそうに瞳を蕩けさせた。

    『これで、もう、逃げられませんね』

    ああ、これは危ないなと感じたけれど、ぼくは もう、逃げ出そうとは思えなかった。

    **

    その夜、村では轟くような犬の遠吠えが聞こえたという。
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