オセロゲーム④ 銀魂高校を卒業して、近藤と一緒に地元の大学へ進学して、二年目の春を迎えた。銀八に振られた後の記憶は曖昧だ。さすがに数日は外にも出ず、部屋に籠りっぱなしだったから、義兄を随分心配させた。だが、人として学生として、生活が大きく切り替わる節目の時節に、ゆっくりと落ち込んでいる暇は与えてもらえない。
入学の準備に加え、春休みの間に自動車免許を取得すると義兄との約束もあった。忙しさに流されながら新生活がスタートし、いつの間にか日々は過ぎていった。
近藤が剣道部に入部するというから、一緒に入った。1年間浪人していた沖田も同じ大学に入ってくると、当然とばかりに剣道部に所属する。結局、高校時代と変わらず、3人で一緒にいることが多かった。
あの頃の事を冷静に振り返ると、銀八は最初から脈などなかったのだ。生徒が精神的に落ち込み、学業の妨げにならないよう、教師として告白を躱す事で配慮していたのだろう。もし自分が同じ立場でも多分そうする。というか、そうせざる得ない。
そんな事も気付けずに、銀八へ押しの一手だった当時の俺に喝を入れてえ。
まあ、そんな風に振り返られるようになったのは、割と最近だ。やはり傷ついてはいたから、なるべく思い出さないようにしていた。あれから、銀八とは一度も会ってない。さすがにまだそこまで割りきれてはいなかった。もし望めるなら、何十年かたって同窓会ででも偶然顔を合わせ、『元気か?』と銀八に笑ってもらえたらと思っている。まあ、そんな事など一生来ないかもしれねェが……。再び気が滅入りそうになり、土方はそれ以上の思考を停止する。
ずり落ちた眼鏡を鼻に掛け、咥えタバコで銀色の天パを揺らす銀八の笑った顔が脳裏に浮かぶ、
全然、未練たらたらじゃねェか。
自分の執着心にいら立ち大きく舌打ちしてしまい、そばを通りすぎた学生が何事かと土方に視線をやった。