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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    側にまた、何か考えているな。

    雲深不知処の面々は、魏無羨のうきうきした様子を見ながら底知れない恐怖を感じていた。
    やたらと機嫌が良い時ほど要注意というのは経験から皆知っている。
    今日も鼻歌混じりで雲深不知処を歩く魏無羨を誰もが遠巻きに見ていた。
    そしてこれも皆知っている。
    こんな時には近寄らない方が騒動に巻き込まれないーーー



    おや?と藍思追の足が止まる。
    出入りの商人達が集まる部屋の中に、一際目立つ黒い服に目が行った。
    いつになく真剣に商人と座り込んで話し込む姿は間違いなく敬愛する魏無羨。
    藍思追はこの部屋で魏無羨を今まで見かけたことがなく珍しいと考えて、はたと朋輩から聞いた話を思い出した。
    『魏先輩、また何か企んでいる』
    企んでいるは言い過ぎだろうが、確かにいつも来ない場所に魏無羨が居る姿をみれば皆が疑う気持ちもわかる気がした。
    話し込んでいる相手は、いつも服を仕立ててくれる職人だ。
    魏無羨の手元には紙が広げられ、それを指さしながら首を振ったり考え込んだりしている。
    やがて話が済んだのか、魏無羨が紙を折りたたむと懐に入れて、立ち上がった。
    ぱちっと藍思追と視線が合う。
    「おっ、思追もここに用事?」
    近寄ってきた魏無羨に藍思追は礼をする。
    「はい、備品の注文をしに。魏先輩もですか?」
    さりげなく問う藍思追に魏無羨はへへっと笑う。
    「俺は野暮用」
    その野暮用がいつも雲深不知処を混乱に陥れる。もう少し聞き出しておいた方が、対処ができるかもしれないと藍思追が口を開こうとする前に、魏無羨の方が先に口を開いた。
    「思追、あのさ、寮の部屋って空いてる?俺、部屋が欲しいんだけど」
    「えっ!?」
    驚いた藍思追の声が部屋に響くと一斉に視線がこちらに集まった。
    「ばっ、何でそんな大声で叫ぶんだ」
    視線から逃げるように藍思追の腕を掴み部屋を出た魏無羨は藍思追の顔を覗き込む。
    「そんなに驚くことか?」
    「すみません!でも、お部屋を欲しいって、含光君と何か……?」
    戸惑いを隠しながら怖々と藍思追が尋ねると、魏無羨がはははっ、と笑う。
    「違う、違う!俺は作業部屋が欲しいの!」
    「作業、部屋?」
    「そう。その、藍湛の誕生日が近いだろ?贈り物を作りたいけど、静室じゃ、ばれるし」
    1月23日が藍忘機の誕生日だ。
    その贈り物をこっそり作る部屋を魏無羨がほしいとわかり、藍思追はホッとする。
    気まずさを笑って誤魔化して藍思追は気を取り直した。
    「我々の寮でよろしければ空いてます。そこを使われますか?」
    「うん。材料が揃ってから一週間ほど使わせてもらうからよろしくな!」
    「では、魏先輩が部屋を使う事は私から皆に伝えておきますね」
    「頼むな~」
    ルンルンと足取り軽く魏無羨がその場から立ち去っていく後ろ姿を見送りながら、藍思追はふふと笑みを溢した。






    朋輩に魏無羨が藍忘機への贈り物を作るので寮の部屋を使うことを告げると皆が心配そうな顔になる。
    魏無羨が発明品を作る度に、静室から煙が上がることはしょっちゅうで同じことが起こる事を心配したらしい。
    そこのところも詳しく魏無羨に尋ねておくと伝え、とりあえずは了承を得た。
    「で、魏先輩、何を作るって?」
    1日が済み、寝る前のゆっくりできる時間。
    同室で、寝台に寝そべった藍景儀が尋ねてくる。
    「それは何も。何を作られるのかはわからないよ」
    はじめは、藍忘機の服を仕立てるのかと藍思追は思った。それなら、仕立て職人と話していても違和感がない。
    だが、それだと作業する部屋はいらないはずだ。
    「覗きに行ってみようかなぁ~」
    「魏先輩の邪魔はしちゃ駄目だよ、景儀」
    「ええ~?」
    「含光君よりも早く贈り物を見ては駄目」
    再度念を押す藍思追に藍景儀は枕を抱き締めてちえっと呟くと足をプラプラさせた。
    「でもさ、含光君なら魏先輩から何をもらっても嬉しいと思うけど」
    「うん、そうだろうね」
    多分、おめでとうの一言だけでも魏無羨から言われれば藍忘機は喜ぶに違いない。
    だが、魏無羨は何かちゃんと贈り物をしたいと動いている。相思相愛の2人。
    「そろそろ亥の刻だ」
    「寝るか~。お休み、思追」
    「お休み、景儀」
    ゴーンと時を知らせる鐘が響く。
    藍忘機の誕生日当日が穏やかな日であってほしいな、と藍思追は祈り蝋燭の炎を消した。






    今日の雲深不知処の朝は穏やかに始まった。
    姑蘇藍氏の第二公子であり含光君の尊称をもち、仙門百家を統べる仙督でもある藍忘機の誕生日。
    この日の前後は毎年、各方面から祝いの品が藍忘機に届き皆が忙しく動き回るのだが、今年は仙督の立場から祝いの品は断っていた。
    各仙門から祝いの書簡だけが送られてくるので、どちらかといえば雲深不知処はのんびりとした空気に包まれている。


    その中をとてとてと可愛らしい足音を立てて歩く物体があった。
    小さな体は物陰に隠れながら誰にも見つからないように目的地へと確実に近づいていく。
    キョロキョロと首を動かし辺りを伺いながら慎重に前に進む。
    いつもより目線が低いので周りが確認できないことが難点だが、相手の驚く顔が見たいのでこれは我慢だ。
    紙人形よりは動かしづらいが、手先と足先に入れた小豆のせいで安定感はある。
    首は少し斜めに傾き視野がまっすぐではないけど見れないわけじゃない。
    目指す執務室はあと少し。
    ふふふっ、と思わず笑いが込み上げた。



    「俺、疲れてるのかな……?」
    ぽつりと呟いた相棒の声に藍思追は藍景儀を見た。
    執務室で静かに公務に勤しむ藍忘機の変わりに、仙門から送られてきた書簡を藍思追と藍景儀は整理していた。
    その友の手が目を擦りながら、じっと執務室の入り口に注がれている。
    「景儀?」
    その視線の先に藍思追も目をやり、うっと呻いた。
    「あ、やっぱり見間違いじゃないんだ」
    藍思追の反応に藍景儀も間違いではないと確信する。

    執務室の入り口の扉から……
    白い何かがこちらを見ている。

    丸い顔に左右の長さが違う長い耳。
    顔の真ん中にある黒い鼻と✕印の目。
    二本づつある髭はヨレヨレで、口から覗く前歯も二本。
    顔のパーツが微妙に位置がズレているせいで、可愛いには程遠い。
    身体は扉の向こうに隠され見えないから、ブサイクな顔の首だけが見えて、その異様さが半端ない。
    「あれ、何……?」
    「う、ウサギの、ぬいぐるみ……?」
    小声でひそひそと藍思追と藍景儀は話す。
    藍忘機の方をちらりと見たが、まだ気づいている様子はなく、黙々と仕事をしている。
    「何であんなとこにあるんだ?」
    「誰かが、置いたとか?」
    「何でわざわざ執務室の前に置くんだ?」
    「わからないよ」
    藍忘機に気づかれないようにジリジリと2人は扉に近寄る。
    ただならぬ気配はそのぬいぐるみから出ており、早く排除せねばと2人はそっと扉に手をかけた。
    ビクッとぬいぐるみが身動きする。
    「えっ!?」
    扉の前にぬいぐるみがあることも異常なのに、ぬいぐるみが動いたことに藍思追と藍景儀も驚き思わず声が出た。
    「どうした?」
    背後から藍忘機の問う声が聞こえて慌てて藍景儀はぬいぐるみを抱え上げる。
    「いえ!何も……」
    藍景儀の手が答えた拍子にぬいぐるみの腹をぎゅうっと締めた。それに驚いたぬいぐるみがバコーンと藍景儀の頬を殴る。
    「グハッ!」
    「景儀!?」
    綺麗に決まった一発に藍景儀は吹っ飛ばされ、藍思追が慌てて藍景儀を助け起こそうとした。だが、藍景儀の顔にウサギのぬいぐるみがしがみつく。
    「こ、こ、こいつ〰️!!」
    引き剥がそうと手を振るが、ヒョイヒョイとぬいぐるみは器用に藍景儀の手を避ける。
    鈍そうに見えたぬいぐるみは意外にすばしっこく、なかなか捕まらない。
    白いフワフワの尻尾をふりふりと振りながら、藍景儀を馬鹿にしている様子は可愛いが憎たらしい。
    「もー!怒った!!」
    「あっ、景儀!」
    起き上がった藍景儀は袖を捲ると本気でぬいぐるみを追いかけ回した。

    「一体、どうしたのだ?」
    「含光君……」
    側に寄ってきた藍忘機は何かを追いかけ回し、動き回る藍景儀と困惑している藍思追を見て問う。
    「このっ!ちょこまかと!!」
    藍景儀が捕まえようと手を出すが、ひらりひらりとぬいぐるみは逃げた。
    すっ、と藍忘機の目が細くなる。
    「扉の近くにぬいぐるみが居たので、気になったのです。我々が近寄るとぬいぐるみが動き出して……」
    「ぬいぐるみ?動く?」
    藍思追の説明に怪訝そうに呟いた藍忘機の胸にどんっと白い物体が飛び付いてきた。
    「あっ!」
    「あ〰️!!こらっ、離れろ!」
    すっと藍忘機は慌てる弟子を手で制す。
    そして、自分の胸にしがみつく白いぬいぐるみをじっと見つめた。
    ぬいぐるみも藍忘機をじっと見上げて動かない。
    藍忘機はぬいぐるみの背に手を当てふわふわとした身体をそっと撫でた。
    ぬいぐるみはやはり動かない。
    「いい子だ」
    優しい声音で微笑みながら藍忘機が撫でれば、ぬいぐるみはされるがままで尻尾が機嫌良さそうにふりふりと左右に揺れる。
    「含光君、それは……」
    「……魏嬰だ」
    「魏先輩!?」
    藍思追と藍景儀の驚く声に、ぬいぐるみは振り返り首を傾げ、手を振る。
    藍忘機はぬいぐるみを大事そうにかかえ直した。
    藍忘機の腕に抱かれてご機嫌なのか、ぬいぐるみは足をゆらゆら揺らし、相変わらず首は傾げたまま。
    「ここから、魏嬰の気を感じる。間違いない」
    藍忘機の言うことだからそうなのだろうが、この狂暴なブサイクぬいぐるみを魏無羨が操っているとは。
    「あ!なら魏先輩はこれを作ってたのか!!」
    藍景儀が自分達の寮の一室で魏無羨が藍忘機への贈り物を作っていた事を思い出して叫んだ。
    「作っていた?」
    藍忘機が、ぬいぐるみを撫でながら尋ねてくる。
    「あ、はい。魏先輩が我々の寮で含光君への誕生日の贈り物を作ってらっしゃいました。静室だと含光君に知られてしまうからと……」
    (ーーーが、まさか、それがこのブサイクなぬいぐるみ……)
    自分達の憧れで、今や仙門の代表たる藍忘機にぬいぐるみを贈ろうなんて思う者は世界広しと言えども魏無羨しかいないだろう。
    しかも、そのぬいぐるみを腕にいつもの無表情の藍忘機だが、弟子2人には師匠が何故だかご機嫌に見える。
    「忘機、少しいいかな?……おや、何か良いことでもあったかい?ご機嫌だね」
    執務室に現れた藍曦臣が弟を一目見るなりにそう告げにこにこと微笑む。
    (やっぱり含光君はご機嫌なんだ〰️!!)
    藍忘機は魏無羨絡みだと無表情でも思わず感情が外に漏れ、それを自分達もわかるようになってきたことに藍思追も藍景儀も複雑な気持ちになる。
    「兄上、これを……」
    「う……うん、可愛いね。どうしたんだい?」
    (さすが、沢蕪君!う、の一言で動揺を隠した!!)
    自慢げに藍忘機が見せたぬいぐるみに藍曦臣は一瞬だけ怯んだが、すぐにいつも通りににこやかに戻る。
    「魏嬰から誕生日の贈り物です」
    「……そう、魏公子からの…………」
    (わかる!わかりますよ、沢蕪君!!)
    魏無羨の名を聞き全てを悟ったらしい藍曦臣の様子に藍思追も藍景儀も心の中で擁護する。
    「まさか、動いたり跳び跳ねたりはしないだろうね?」
    はははと笑う藍曦臣の乾いた笑いが執務室にぎこちなく響く。
    「何故それをご存じで……?」
    「……やはり動くのか」
    思わず尋ねた藍思追に藍曦臣は苦笑いを浮かべた。
    「私の誕生日に魏公子がくれたものもちょっと、ね……」
    魏無羨は、数々の役に立つ発明品を作り出した天才である。
    だが、役に立つものの陰には役に立たないものも同じ位に生み出している。
    「今日はぬいぐるみとして忘機と一緒にここで過ごすのかい?」
    すぐに状況に慣れた藍曦臣が藍忘機の腕の中のぬいぐるみに問いかけると、耳を揺らしながらウサギのぬいぐるみは大きく頷き、首が持ち上がらず項垂れた。
    「ふふっ、良かったね、忘機」
    「はい」
    (あ、良かったんだ……)
    宗主と仙督が納得したことをこれ以上詮索はできない。
    藍思追も藍景儀も、魏無羨の作ったぬいぐるみは無かった事として、自分達の仕事に戻る事に決めた。





    仕事が終わる時刻になると執務室は藍忘機一人になった。
    魏無羨が作ったうさぎのぬいぐるみはその後おとなしく、藍忘機の卓の上に置かれていた。時々手足を動かしたり、首を動かそうとはしたが、藍忘機の仕事の邪魔はしない。
    ただ、藍忘機の側にある。
    「魏嬰……」
    藍忘機が呼び掛ければ、傾げた首が少し動いた。
    「今日は共に居てくれてありがとう」
    ぬいぐるみの頭を撫でれば、首に力が入っているのか藍忘機の手にしっかりとした感触があった。
    手を持ち、ゆっくりと撫でると何故か他の手足もぴくりと動く。
    「作るのは大変だっただろう?」
    道侶が器用なことは知っているが、裁縫はまた別の話だ。
    このぬいぐるみの出来はさておき、手作りまでして用意してくれたその気持ちが藍忘機にはとても嬉しい。
    おまけに、本物とそっくりの布地でつくられており、撫でるとふわふわと温かく気持ちがいい。
    大の大人がぬいぐるみを撫でている姿など見れたものではないだろうが、愛しい人からの贈り物はどんな高級な品物よりも勝る。
    そして、今日1日、ぬいぐるみとはいえ側に居てくれた事は常に共にありたい藍忘機の願望を叶えてくれた。
    声が出せたならよっこいしょと言いそうな動きでぬいぐるみは立ち上がると藍忘機の前までとてとてと歩き、その胸にぎゅうと抱きつく。
    『俺も一緒に居れて楽しかった』
    微かに聞こえてきたのは間違いない魏無羨の声。
    ぬいぐるみを動かすだけでも相当な気力がいるだろうに。
    ぬいぐるみを抱き上げた藍忘機はヨレヨレの髭がある頬に口づけた。
    ぬいぐるみはくすぐったそうに身動ぎする。
    「魏嬰……」
    藍忘機の長い指が愛おしそうにぬいぐるみの耳を触る。本物のウサギを撫でている様で、ずっと撫でていたくなる衝動が止めれず、また誰にも見られていないこともあり藍忘機は遠慮せずに撫で回した。
    耳の後ろから脇の下、背中からお尻、特に尻尾はふわふわ過ぎて丁寧に撫でていた。
    ぬいぐるみも気持ち良さそうにしていたが、尻尾を触っていた辺りからぐったりと力が抜けた様になり、動かなくなってしまった。
    それに気づいた藍忘機が両手でぬいぐるみを持ち上げると、ドタドタドタドタと走ってくる足音が聞こえ、バンッと執務室の扉が力いっぱい開けられた。
    はぁはぁはぁと肩で息をしているのは、先刻までぬいぐるみとして側にいた愛する道侶だ。
    「魏嬰?どうした?」
    藍忘機の冷静な声に、キッと顔を上げた魏無羨の頬は走った事が理由だけでは無い赤さで、瞳も潤んでいた。
    「おっ、お前、何て触り方するんだっ!!」
    「触り方?」
    「ぬいぐるみをっ……」
    言われた事がわからないという風な藍忘機に、はっと魏無羨は口ごもる。
    「……いや、いい。ぬいぐるみは持ち帰る……」
    藍忘機を見ないように卓へと近寄った魏無羨は藍忘機が持っていたぬいぐるみに手を伸ばした。ぬいぐるみに触れる前に藍忘機がその手を掴む。
    「ぬいぐるみがどうか?」
    「いや、なんでもないから、返せよ」
    「どうして?これは君から私が貰ったもの。返せない。それにどうして顔が赤い?」
    ぐいっと藍忘機が魏無羨の手を引き寄せた。身体が傾いだ魏無羨の顔と藍忘機の顔が間近にある。
    「撫でられて、気持ち良くなった?」
    「〰️〰️お前、やっぱりわかってて態とっ!!」
    「気づいたのは君がここに来たからだ」
    ぬいぐるみと魏無羨が繋がっていることは、理解していたが、感覚まで共有していると藍忘機は思っていなかった。
    上気した頬と、潤んだ瞳、身体から漂う色気など諸々を示し合わせたらその答えに行き着いた。
    掴まれた手とは反対の自由な手を魏無羨はぬいぐるみに伸ばしたがそれも藍忘機によって阻まれ、藍忘機の腕からぽとりと卓の上にぬいぐるみが落ちると魏無羨が顔をしかめた。
    その様子に藍忘機の中で1つの仮説が浮かぶ。
    両手を掴まれた魏無羨は逃げようともがくが藍忘機が離さない。
    「ぬいぐるみとまだ繋がっている?」
    ぎくりと掴んだ腕から振動が伝わった。
    「そんなわけ無いだろう?もう切れてるよ!」
    「……そう」
    お互いに視線を外さずに睨み合う。
    「手、痛っ…」
    魏無羨の苦しそう漏れた声にぱっと藍忘機は魏無羨の両手を離した。
    油断したその隙にぬいぐるみを素早く取ろうとした魏無羨よりも早く藍忘機はぬいぐるみを奪う。
    一歩、手が届かなかった魏無羨は膝を付き、卓の上に両手を付いた。
    「魏嬰、嘘はいけない」
    「藍湛……」
    藍忘機から冷たく言われ、ぐぬぬと魏無羨は悔しがり藍忘機を見上げる。
    「このぬいぐるみは私のもの。どうして嘘をついてまで取り戻そうと?」
    見下ろす藍忘機の目は楽しそうだ。
    「お前、わかってて聞いてるだろう?」
    「なんの事だ?」
    さらにとぼける藍忘機に魏無羨は大きくため息をついて胡座をかくと両手を上げた。
    「降参だ、藍湛。ぬいぐるみと長く繋がり過ぎた。微かだけど、まだ感覚が繋がってる」
    「君への負担は無いのか?」
    「強い衝撃でない限りは大丈夫だ」
    「そう……」
    さわっとぬいぐるみの尻尾の付け根を藍忘機は触る。
    「うわっ!何すんだよ!」
    慌てて自分の腰を押さえた魏無羨に藍忘機は小さく頷いた。
    「……なるほど」
    一人で納得する藍忘機を見ていた魏無羨の前に藍忘機はぬいぐるみを置いた。
    「え?」
    戸惑ってぬいぐるみと藍忘機を交互に見る魏無羨に藍忘機はふっと笑う。
    「いくら感覚が繋がっていても、所詮はぬいぐるみ。撫でるならば、直接君の肌の方がいい」





    門限が過ぎた雲深不知処は1日の終わりを告げ、今年は大した混乱がなく無事に藍忘機の誕生日を終えることができ、誰もがほっと安堵の息を吐く。
    「お疲れ様でした、含光君」
    「ああ」
    静室に戻るまでの道のりで何人も弟子から声をかけられ、藍忘機はそれに応える。
    その横には魏無羨がいて、俯いたままで顔を上げない。藍忘機と魏無羨の手がしっかりと握られ、穏やかな忘機の態度と魏無羨の頬から耳が赤い様子に、誰もが首を傾げた。


    『ちょ!ここはっ、執務室、だろ!?』
    隔てていた卓を越えて、身体を抱きしめ触る藍忘機に魏無羨は上擦る声で抗議する。
    『……なら、ここでなければいいと?』
    魏無羨の耳に囁きながら、身体を触る手を止めて、藍忘機は顔を覗き込んできた。
    答えは初めからわかっているーー
    『お前の誕生日だろ、好きにしろ』



    魏無羨の腕には、呪い人形でもまだましなのではないかと言われそうなブサイクなぬいぐるみが抱かれていたが、もし見たとしても近づいたり下手に触ったりしては駄目だと藍景儀から注意喚起があったので、誰もが見て見ぬふりで対応する。
    人気が失くなると、繋いでいた手が離され、藍忘機は逃げられないように魏無羨の腰に回し、静室へと急ぐ。
    これから静室で藍忘機の誕生日の続きが始まろうとしていた。

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