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    ちょりりん万箱

    陳情令、魔道祖師にはまりまくって、二次創作してます。文字書きです。最近、オリジナルにも興味を持ち始めました🎵
    何でも書いて何でも読む雑食💨
    文明の利器を使いこなせず、誤字脱字が得意な行き当たりばったりですが、お付き合いよろしくお願いします😆

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    ちょりりん万箱

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    MDZS交流会6にて無配したお話。
    夜狩り後に鬼ごっこする少年組と魏先輩😁

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    鬼事逃げろ
    逃げろ

    今宵の月は全てを照らし
    明るく獲物を浮かび上がらせる


    獲物の足元
    暗い影はなりを潜め


    この腕から逃げ出すことはできない






    山の中を逃げ回った少年たちは、それぞれ地面に座ったり膝をついたりして、ゼエゼエと整わない呼吸と格闘していた。
    「誰だよぉ…暴れ足りないなんて言った奴は………」
    恨みがましく藍景儀が言うと一斉にみんなが、欧陽子真を指差した。
    「私!? 違うよっ! 今日の夜狩りはあっさりでしたね、って魏先輩に言っただけだろ!?」
    「そしたら、師叔が暴れ足りないのか? って言い出したんだ」
    指差された欧陽子真が首と手を振りながら否定する。金如蘭がそれに付け加えてぼやいた。
    「それで鬼ごっこしよう、ってところが魏先輩だね」
    ハハッと藍思追の遠慮した笑いに、笑えない友たちはげんなりとする。
    「おまけに鬼は魏先輩だけなのに、この暗がりでみんなをあっと言う間に捕まえるってどんな視力してんの?」
    頭上に、煌々と満月は輝いている。だがその明かりだけで子供たちを探すことは出来ない。
    「俺は頭の後ろにも目がついてるからな」
    ザザッと木の上から突然現れた魏無羨に、ひえっと子供たちは声を上げた。
    「魏先輩! 突然でてこないでくださいよっ!」
    「お前らが、視力ばかりに頼ってるからさ。夜狩りは五感を研ぎ澄ませ。小さな物音、風の動き、周囲の匂い、些細な事に神経を集中しろ」
    魏無羨の言いたいことはわかる。だが、わかっても実践はできない。
    「それができれば苦労はしない」
    拗ねた様に言う金如蘭に、魏無羨は肩を竦めた。
    「おいおい、やる前から降参かぁ? それだから、お坊ちゃんたちって呼ばれるんだぜ?」
    「なにっ!?」
    「態度と文句だけは一丁前なんて、恥ずかしいだけだろ? よし、今度はお前ら全員で俺を捕まえろ」
    「ええっ!? 魏先輩、大丈夫ですか!?」
    「欧陽子真、その大丈夫かっていうのはどういう意味だ?」
    「いくら魏先輩でも俺たち全員相手はきついですよ? あたっ!」
    魏無羨は欧陽子真の額を指で弾いた。
    「そんな生意気いうのは、俺を捕まえてからにしろ。五十数えたら、手を叩け! 鬼ごっこが始まる合図だ」
    スウッと魏無羨の姿は暗闇に溶け込み、見えなくなった。
    「もう、相変わらず強引だな……」
    よいしょと藍景儀は立ち上がった。多少足が疲れたがまだ走れる。
    隣を見れば、藍思追も柔軟していた。
    「ちょっと、みんな本当にやるの!?」
    友の様子から、この鬼ごっこに乗り気を感じた欧陽子真が慌てたが、その肩をポンッと金如蘭が叩いた。
    「師叔は言い出したら引かない。この暗い森に置いて帰ってもいいが、それを知った含光君がどうでてくるか、わからないお前じゃないだろ?」
    つまり、参加してもしなくても地獄が待っているということだ。
    「納得したか、子真。魏先輩に言わせっぱなしで終らせない。みんなで捕まえる。数えるぞ、いちー………」
    各々身体を解しながら、お互いに声を合わせて数を数えた。
    不思議と一緒に数を言う内に、気持ちが落ち着いてくる。
    「闇雲に探しても捕まるはずがない。四人一組で行動して全方向に対応するようにしよう」
    藍思追の提案にみんなは頷く。
    「あと夜狩りに使われなかった縛仙網もいくつか残っているからそれには気をつけろ」
    金如蘭の注意にも頷いた。
    「四十九………五十!!」
    「魏先輩が相手だ! 気を抜くな」
    「おう!」
    大きく手を叩く音が暗い森を抜けた。


    ジリジリジリ、と虫の鳴き声の中を足下の草を踏み分けながら進む。
    月明かりがあるので、松明は必要ないが、やはり木々の下は暗くて不気味だ。
    「なぁ、みんなどうなったかな?」
    そう問う気持ちもわかる。
    静まり返った周囲には自分を含めた四人しか気配がなく、あとは虫と時々聞こえる獣の声。
    「魏先輩と遭遇したなら何かしらの騒ぎがあるはずだが、それもないってことはまだ誰も会ってないのかもな」
    「数で言えばこっちが多いんだ。怖がるな」
    「怖がってなんてないさ!」
    強がる声に、くすっと笑い声が漏れた。
    「笑うなよ!」
    「笑ってないぞ?」
    「いや! 今、笑い声が聞こえた!」
    「だからー、誰も笑ってなんて……」
    ハッとした四人はお互いに背を合わせて四方を睨む。
    「四人で行動するようにしたのか?それは思追の案か?」
    暗闇から音もなく出てきた魏無羨の気配に四人は全く気づかなかった。
    「魏先輩!」
    「なるほど、これならどの方向にも警戒できるな」
    うむうむと頷きながら、弟子たちの作戦を魏無羨は褒めた。陳情を手に持ってはいるが、無防備だ。
    魏無羨までの距離は僅か。
    四人で飛びかかれば捕まえることは可能だ。
    お互いに目配せをした四人は、呼吸を合わせて魏無羨に飛びかかった。
    「魏先輩、失れ…いーーー!!」
    「わあああ!?」
    あと少しで魏無羨に手が届くところで、急な浮遊感に襲われた。上に引っ張られ遠ざかる地面と魏無羨に四人は叫ぶ。
    「金凌がさっき縛仙網にも気をつけろって言ってたのに、全く……」
    陳情で頭をかいた魏無羨は、ニッと笑って見上げた。
    四人は見事に縛仙網に捕まり木の上だ。
    「魏先輩、わざと!?」
    「当たり前だろ? 何の作戦も無しに、お前らの前に姿を出さないって。ま、そこで終るまで待ってるんだな」
    るんっと魏無羨は軽やかな足取りで森の中に消えた。
    「やられた!」
    「やっぱり、あの人、一筋縄ではいかないな」
    「えー……みんな、大丈夫かなぁ………」
    「無事を祈るしかない………」
    四人は縛仙網を握りしめて、未だ森の中をさ迷う友たちをただ案じるしかできなかった。





    遠くで聞こえた叫び声を皮切りに、次々とあちらこちらから声が森の中に響く。
    「叫び声は時間的にまとめると大きく分けて四つ………」
    藍景儀の低い声に、えっとと欧陽子真が考える。
    「今日、夜狩りに来たのは二十人で五つに
    分かれた。そのうちの四つが魏先輩に会った?」
    欧陽子真の考察に藍思追が顎に手を当てる。
    「もし魏先輩と接触しただけなら、その後の騒ぎがあってもいいのに、何もない」
    金如蘭は腕を組んで周りを見回した。
    「つまり、声を上げられないのか、上げても無駄な状態にされた………か?」
    「ねえ、金凌。今日、用意した縛仙網は何個?」
    藍思追に問われて、金如蘭は指を折る。
    「えっと、五つ仕掛けて一つ使った。あ………」
    同時にピンときた四人は身体を寄せる。
    「もし、私が魏先輩なら逃げ回るよりも鬼を動けなくする方を選ぶ」
    「俺も、そう考えた」
    「となると、魏先輩は残りの四つの縛仙網を使って、捕まえたってこと?」
    「そう考える方が妥当だな。そして縛仙網はもうない」
    だてに魏無羨と夜狩りをこなしてきたわけではない四人は、うーむと考え込んだ。
    「何か、俺たちを残したところに意図があるような………」
    「あるだろうねぇ………」
    「ここまでは師叔も私たちに読まれることを想定しているだろうからな」
    「え、怖い!」
    ぶるっと震えた欧陽子真が素直に胸の内を吐露した。それは、口には出さないが藍思追も藍景儀も金如蘭も思ったことだ。
    「だが、ここで挫けるわけにはいかない。どうする?」
    「縛仙網はもうないから、足下に注意を払うことはないな」
    「四人で行動したことを逆手にとられてる。なら、今度は個々で動く?」
    「ええっ! みんな、離れないでよ!」
    あれこれと意見を出しながら四人は協議した。
    「誰かが囮になって、魏先輩をおびき寄せる?」
    「子真は当たり前すぎて、魏先輩もひっかからないか」
    「うわぁ、それは私に対して失礼じゃない?」
    「なら囮は私がする。師叔も私なら油断しそうだ」
    「思追と俺じゃ魏先輩も警戒するな。よし、金凌で行こう」
    作戦会議をする四人を月明かりが照らす。
    「木が生い茂ったところじゃ、死角が多くて不利だ」
    「なら、ここから少し行った崖前が開けてたよ」
    「崖なら、逃げ道を塞げば袋の鼠だ。よし、そこにしよう。俺と思追はそこで待つ」
    「なら、私はここで師叔を待ってそちらに誘導する。子真」
    金如蘭は自分の背中から弓と矢を取り出し、欧陽子真に渡した。
    「お前は護衛だ。これで師叔を狙え」
    「ええっ! 魏先輩を!?」
    「お前、弓の腕はいいと聞いた。威嚇ぐらいはできるだろ?」
    自分の物を他人に触らせることを嫌がる金如蘭が弓を貸そうとしていることに、欧陽子真は目を丸くした。
    「金凌……大人になったんだねぇ」
    感動で内震える欧陽子真の胸ぐらを金如蘭は掴んだ。
    「………私が囮になるんだ。もし、私に当てたり師叔に当てたら………殺す」
    「君、外叔上にそっくりだよっ! 信頼してくれたと思って損した!」
    「ふんっ!」
    パッと手を離した金如蘭は腰に手を当てて、鮮やかに笑う。
    「これぐらい脅さないと子真は本気を出さないだろ?師叔が相手だ、気を抜くなよ」
    木々の暗闇を移動していく二人の友の姿を見送りながら、金如蘭はわざと月明かりの下に出る。
    その少し離れた木の陰から、欧陽子真は弓を持ち息を殺した。
    明るいとはいえ、日中の明るさとは違って、直ぐ隣にある闇はどこかピリッと緊張感を漂わせる。
    五感を研ぎ澄ませ、という魏無羨の言葉通り、金如蘭は静かに目を閉じた。
    左手が震えている。
    緊張した金如蘭の震えか、はたまた緊張感を察知した歳華の震えか。
    どちらにしろ、歳華を魏無羨相手に抜くつもりはない。
    鬼ごっこなど所詮遊びで、こちらが鬼なのだから魏無羨を捕まえれば終わりだ。
    崖近くで待っている藍思追と藍景儀には悪いが、欧陽子真とさっさと捕まえてしまおうと金如蘭は計算する。
    「へえ、今度は四人ではなくて金凌と子真だけ?」
    闇夜から、呑気な声をかけられて金如蘭は身を低くする。
    っ! と欧陽子真の息を飲む音が聞こえた。
    「避けろ! 子真!!」
    どうしてそう叫んだのがわからない。ただ、そうしないといけないと金如蘭は咄嗟に声が出た。
    「わわわっ!!」
    陰から月明かりのある場所に転がり出てきた欧陽子真の後ろで、バサリと何か重い大きな音がした。
    青白く浮かび上がる霊体は大きな男で、かって金如蘭が魏無羨と初めて会った時に背中に貼られ身動きできなくなったものだ。
    「チッ」
    軽く聞こえてきた舌打ちは、地面に放り出された呪符を燃え上がらせた。
    「さっきの俺の言ったこと、覚えてたんだな、金凌」
    にやにやと笑いながら、魏無羨は二人の前に姿を出す。
    「私が師叔なら、何か用意してないのに声はかけないと思ったんだ。明るい場所にいる私より欧陽子真の方が近寄りやすいだろうし」
    魏無羨は顎に手を当てながら、上空を見る。
    「こんな時は、欧陽子真が囮にぴったりなのに、何故、金凌?」
    「それは……」
    ぎりぎりと弓を引く音が欧陽子真からする。
    金如蘭との話に夢中になっていた魏無羨の隙を突こうとした作戦だ。
    「どうかそのままに、魏先輩。この近距離だと外す方ができません」
    いつにない欧陽子真の真面目な声に、魏無羨は口笛を吹いた。
    「子真も確か弓が得意だったな~。ん? それ、金凌の弓か? えっ? お前、子真に貸したの?」
    大袈裟に驚く魏無羨に金如蘭はムッとする。
    「友に弓を貸すぐらい誰だってやる」
    「友、ねぇ。いや~、ここに江澄がいたら泣いて甥の成長を喜ぶだろうなぁ」
    腕を組んでうんうんと一人納得して頷く魏無羨に緊張感はない。
    「どうか、ここで投降を。じゃないと魏先輩を射ます」
    きりきりと欧陽子真が弓を引く。
    「どうぞ?」
    「なっ!?」
    体制的には有利なはずの金如蘭と欧陽子真が焦り、不利な魏無羨は余裕だ。
    「欧陽子真、手が震えているぞ? そんなんで俺を射れるのか? 金凌、お前も手が震えているな? さっきから歳華がカチャカチャうるさい」
    魏無羨の瞳が次第に赤くなっていく。
    「訓練だ、修練だと甘く考えているのか? それとも俺が相手だから大丈夫だと? 親しい者が邪崇に取り憑かれた場合、身内だからと手を緩めるのか?」
    どこかで甘さがあったことを指摘されて、二人は奥歯を噛み締めた。
    「俺の間合いに入ったことで、もうお前たちに策は無いよ」
    ぐんっと身体が地面に引っ張られた金如蘭と欧陽子真は膝をついた。
    地面には赤い陣が描かれて月光の中、禍々しく浮かび上がる。
    「魏先輩の陣か!?」
    「やられた!」
    手を着き、顔を上げた金如蘭の額に汗が浮かぶ。
    身体を支えられずに地面に伏す感じは、魏無羨と初めて会った時に背中に貼られた呪符に似ていたが、こちらの方が範囲が広い。
    瞬時にこれを繰り出せる魏無羨の実力が羨ましくもあり頼もしく感じる自分に腹が立つ。
    「くっ……」
    「じん…り…ん……」
    押さえ付ける力に抗う金如蘭を、地面にくっついた欧陽子真が涙目で見た。
    瞳に諦めの色が浮かんでいる。
    「まだ、だ………」
    「でも……っ…」
    「諦め、たら…何、もできないっ!」
    額の汗が金如蘭の頬を伝って地面に落ちる。
    「大丈夫だ、子真………奴ら、がいる!」
    フッと金如蘭の口許に不敵な笑みが浮かんだ。
    それを欧陽子真はしばし呆然と眺め、ゆっくりと首を動かした。
    「うん……うん! そう、だった!」

    二人のやりとりを魏無羨は無言で眺めている。この場にいないもう二人の弟子の動きを考えていた。
    金如蘭と欧陽子真を助けに来るのか。
    それともまずは魏無羨捕獲を優先するのか。
    どちらにしても、一筋縄ではいかない。
    金如蘭と欧陽子真も、だ。
    以前の二人ならば性格が違い過ぎて連携など取れなかっただろう。
    しかし、子供たちは確実に仙師としての道を歩んでいる。
    屈伏よりも打開を探す姿に、自然と口元に笑みが浮かんだ。
    ピリッと魏無羨の肌の上を緊張感が走る。
    近くの木の上に飛び乗ったのは殆ど無意識だった。
    「頭をさげて!!」
    藍思追の声に金如蘭は抵抗していた身体の力を抜き地面へと崩れた。
    ビイイィィィン、という弦の音が響き、空気の波動が辺りの木々を薙ぎ倒していく。
    木陰より飛び出てきた影が、魏無羨の地面に浮かび上がる陣を崩すべく剣を突き立てた。
    赤く浮かびあがっていた陣は突き立てた剣の場所から形を崩し始め、淡く光りながらその輪郭をぼやかしていく。
    身体にのし掛かっていた束縛から解かれた金如蘭と欧陽子真は身体を起こした。
    「大丈夫か!?」
    二人を庇うように立つ藍景儀に、欧陽子真はホッと息をつき、金如蘭は立ち上がると空を睨む。
    「さっきのは?」
    「弦殺術。藍氏でも修為の高い者しか使えない術だ」
    問いに答える藍景儀の視線も周囲に向けられたまま。
    「立て、欧陽子真! 移動するぞ!!」
    ぐいと左右の腕を藍景儀、金如蘭に引っ張られた欧陽子真はそのまま引きずられるように走り出す。
    「ちょ、ま、ど、どこに!?」
    あわあわと足を動かして走る欧陽子真を引っ張りながら、藍景儀と金如蘭は速度を上げる。
    「この先の崖だ! 思追が魏先輩を追い込んでるはず!」
    何度も、琴の弦音が響いたのはそういうことかと欧陽子真と金如蘭は納得した。
    「乱暴な手を使ったな。下手をすれば私たちも師叔も危なかったぞ」
    「魏先輩相手に手加減なんてしてたら、こちらがやられるぞ? あの人と俺たちとどんだけ実力に差があると思ってるんだ?」
    藍景儀が木々の枝を掻き分け怒鳴る。
    ぐっと金如蘭は言葉を飲み込む。
    先程、魏無羨に言われた言葉が頭の中に甦った。
    鍛練だと気を抜いているつもりはなかった。
    だが、どこかで甘い考えがなかったとも言えない。
    「………師叔の考えてること、わかるんだな」
    少し拗ねた声色に、藍景儀が立ち止まる。あと少しで崖だ。
    藍景儀の視線が金如蘭に向いた。
    「わかんないよ」
    「でも、師叔が手を抜かないって………」
    「そりゃ、雲深不知処や夜狩りで何度も一緒にしてれば、自然と身に付くだろ? あの人が何を考えているのかわかるとしたら、含光君とあいつだけだ」
    「あいつ?」
    欧陽子真が藍景儀に聞き返したその時、ザザッと草木が揺れ、人影が二つ、崖がある開けた場所へと躍り出た。
    「ありゃ? まずい処に逃げ込んだか………」
    追い込まれてもなお軽口を叩く、黒服の人物は間違いない魏無羨だ。
    「ここで、終了です。魏先輩」
    古琴を片手に魏無羨を追い込んだ藍思追がゆっくりと古琴をしまった。
    「え~。まだ俺が逃げるかも知れないぞ?」
    「それは、あり得ません。後ろは崖で、前には我々がいますから」
    藍思追が視線をこちらに寄越したので、藍景儀と金如蘭、欧陽子真が姿を現した。
    「さっきの陣から抜け出してここまで追ってきたのか? 体力ついたな、金凌、子真」
    からかうような口調に、ぶすっとしながらも欧陽子真から弓を受け取った金如蘭は矢をつがえ、狙いを魏無羨に定めた。
    「師叔。鬼ごっこはここでおしまいだ。我々の勝ちだ」
    不審な動きをすれば射るつもりで、金如蘭は気を引き締めた。先程のような醜態は晒さない。
    これは、『実戦』だ。
    藍景儀と欧陽子真も仙剣を抜く。
    魏無羨が一言『参った』と言うまでは。
    ふぅと魏無羨は、一息吐くと腕を組んだ。
    「この班は、なかなか連携が取れていた。途中、金凌と欧陽子真の隙が見えたが、思追と景儀がそれを助け、俺を追い込んだまでは良しとしよう」
    「………までは?」
    魏無羨の言葉に引っ掛かりを覚え、四人は腕に力を入れる。
    「考えろ。追い込まれたらどうなる?」
    魏無羨はニッと笑うと崖に向かって走り出した。
    「魏先輩!?」
    「バカな!!」
    崖は行き止まりだとかんがえていた四人は、魏無羨の行動に戸惑う。
    「ごめんな。俺、負けず嫌いなんだ」
    崖の前でこちらを振り返り、鮮やかに笑う魏無羨の顔が月明かりに照らされる。
    きらきらと輝く瞳には大きな丸い月が映っていた。

    「じゃあな!」

    こちらに顔を向けたまま、後ろ向きに崖に飛び降りた魏無羨を、どうにかして捕まえようと四人は必死になって手を伸ばす。
    だが、手は空を切った。
    「魏先輩ー!!」
    「嘘だろっっ!!」
    崖の上から下を急いで覗き込んだ四人は、風に煽られて宙を舞う魏無羨の黒い服と赤い髪紐、そしてひらひらとこちらに手を振る魏無羨を見た。
    「あの人! 随便を持ってたか!?」
    「いや、丸腰だった!」
    「はぁ!?」
    あり得ないと青ざめた四人の中で、一番早く我に帰った藍思追が剣に飛び乗った。
    「羨哥哥!!」
    「っ!? 待てっ!」
    今にも駆けつけようとした藍思追の服を藍景儀が慌てて掴む。反動で剣から地面に落ちた藍思追が、藍景儀を睨んだ。
    「景儀!何をするんだ!」
    「あれ!」
    文句を言う藍思追に、藍景儀は崖下を指差す。
    暗闇を切り裂くように一陣の閃光が走る。それは魏無羨へと一直線に向かい、物凄い早さで崖をかけ登ってきた。
    四人の目の前に豪風が巻き起こり、視界を遮る。
    「あはははは!! 凄いな、藍湛!!」
    「っっっ!! 君は何を考えてるんだ!?」
    「だあって、含光君が来てるのが見えたんだもん」
    「だからと言って、飛び下りないだろう!?」
    「ごめん、ごめん!! でもありがとー」
    頭上から落ちてくる楽しそうな声と、怒鳴り声が師匠たちのものだと理解するまでしばらく時間かかった。
    魏無羨を両腕に抱え、御剣で月を背負った人物に四人はぽかんと口を開けた。
    何故ここにいるのかも疑問だが、大声で魏無羨に怒っている藍忘機など見たことがなく、あり得ない光景に四人は呆然としている。
    そんな四人の視線に気づいた魏無羨が、おーいと手を振った。
    藍忘機は怒りを静めて、御剣を地面に下ろす。
    地面に座り込む四人を悠然と見下ろすと、魏無羨へと視線を向けた。
    「夜狩りは早めに終わったはず。遅いから迎えに来てみれば、ここで何をしていた?」
    魏無羨を腕から下ろそうとせず、更に抱え直しながら尋ねる藍忘機の首に、魏無羨は腕を回した。
    「鬼ごっこだよ。みんなが鬼で俺を捕まえてたの」
    「その君が何故、崖から飛び降りる事になる?」
    細められた双瞼の奥から鋭い瞳が魏無羨を責める。
    「そりゃあ、当然、捕まりたくないから逃げたんだ。俺、負けたくないもん」
    「魏嬰………」
    「含光君、申し訳ありません。我々が魏先輩を止める事ができず……」
    立ち上がり恐縮しながら、藍思追が頭を下げた。藍忘機は首を横に振る。
    「思追たちの落ち度ではない。これは魏嬰の我が儘だ」
    「我が儘、ですか?」
    欧陽子真がおずおずと尋ねた。
    確かに、負けたくないからと崖から飛び降りるなんて発想は、魏無羨にしかできない。そしてその発想が周りを振り回しているとなれば我が儘になるだろう。
    「我が儘じゃないぞ? 俺を捕まえられるのも、捕まえていいのも、藍湛だけだ!」
    んふふ~と笑いながら、ぎゅうと藍忘機の首筋に顔を寄せる魏無羨に、藍忘機の溜め息が重なるが、どことなく嬉しそうな気配が藍忘機から漂う。
    師匠二人の惚気に慣れている小双璧は苦笑している。金如蘭のこめかみには青筋が立ち、欧陽子真は顔を真っ赤にしていた。
    「えー、っと? ならこれで鬼ごっこはおしまい、でいいのかな?」
    「師叔が捕まりたい人に捕まったから終わりだ、終わり!!」
    締め括るように苛ついた金如蘭の声が響き、この日の夜狩りは終わりとなった。


    この後、夜狩りの後は寄り道をせずに、真っ直ぐ雲深不知処に戻るように家規が一つ付け加えられたことは言うまでもない。
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