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    Tari

    @TariTari777

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    Tari

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    ※修正版の方をご覧くださいー!
    たまご巻きさんとのおしゃべりからできた、ロックシンガー🍃さんと俳優🔥さんの短編!
    雑な出来栄えなので、ここで!

    #不死煉
    immortality

    【メロウ】

     都心から少し外れた場所にある、廃業したばかりのホテル。もともとデザインホテルとして多くの利用者に愛されてきた建物だけに、すぐに取り壊すことはなく、イベントスペースとして当面は活用されることになった。
     結婚式やイベントなどが開かれてきただけあり、高い天井に広いホール、贅沢な音響設備が残されており、目敏いアーティストやミュージシャンがすでにいくつかイベントを開催していた。
     日がそろそろ落ちかけるころ、駅から遠いそのホテルに向かって、若い男女がぞろぞろと歩いていく。梅雨の晴れ間で、今日は傘も要らなそうだが、じっとりとした湿気が肌に纏わりつく。間近に迫る夏の気配に、若者たちはノースリーブやショートパンツにサンダルと、開放的なファッションでさざめき合う。
     今日はこれから、招待制のシークレットライブが開かれるのだ。出演はもうすぐ単独武道館公演も夢じゃないと言われているスリーピースのロックバンド、「The Undead」だ。最近では数千人クラスの大箱でのライブしかやっていない彼らが、500人も入らないような会場で演るのは、ファンなら見ておきたいステージだった。至近距離で、いつもとは違う演出になるらしい。招待チケットの争奪戦は熾烈なものとなった。
     通常、ライブではチケット購入者のうち何パーセントかは来なかったりするものだが、今回は客の入りを見るに、かなり高い歩留まりとなりそうだった。道すがら、チケット争奪戦に負けたファンたちが「チケット売ってください」の紙を持って立っているが、立ち止まる人はいなかった。
     来場者のほとんどの目当ては、ボーカル兼ギタリストの不死川実弥だ。The Undeadは彼のワンマンバンドで、不死川が作曲も作詞もアレンジも担当する。その代わり、残り二人のベースとドラムは非常にスキルが高い。不死川が理想のスリーピースを作り上げるために、よそのバンドから引き抜いたという噂だった。
     オープニングアクトのバンドが終わるころには、会場には熱気が満ちていて、息苦しいほどだった。
    「ねぇ、今日はあの人来てないのかな?」
    「会場にはいないよね。いたらすぐわかるもん」
    「なんか、CM撮影で海外に行ってるっぽいよ。だから今日は来られないんじゃない?」
    「えー実弥かわいそう」
    「じゃあ、今日はガチガチのロック路線だね。バラードは封印かな?」
     いかつい男どもに混じって最前列を確保した女の子たちが、そんな会話を交わしていた。The Undeadのライブは、そのときによって、というより不死川の気分によって、大きく雰囲気が変わる。叩きつけるような激しい曲ばかりを立て続けに歌い、フロアを熱狂に落とすこともあれば、切ないバラードをふんだんに織り混ぜ、男女問わず涙を誘うこともあった。
     そして、その日のセットリストを大きく左右する要因が、一人の男にあるというのが、ファンの間でのもっぱらの噂だった。
     それが、不死川の学生時代からの親友で今最も売れている俳優の一人、煉獄杏寿郎だ。プライベートでもよく二人で遊んでいるところを目撃されており、仲睦まじい写真がファンの間で出回った直後のライブは、バラードが多くなるのだ。逆に、煉獄がドラマや映画の撮影などで立てこんでいると、ライブでの不死川は荒々しくなる。そもそもが言葉遣いも粗暴で、ファンに媚びない態度が人気なのだから、どちらも来場者にとってはありがたいのだが。ともかく、これがこのバンドのファンの間では一つの定説。
     この定説は、自然ともう一つの定説に辿り着く。つまり、煉獄杏寿郎は不死川実弥の「親友」ではないのではないか?ということだ。二人とも恋人の有無は公表しておらず、そういった報道がされたこともない。不死川のバンドのファンには男も女も多いが、彼らもそれを表立って追求する真似はしなかった。
     しかし今日は普段とは異なる演出を施したシークレットライブなのだ。もし煉獄が不死川の特別な人ならば、きっと招待されているだろうというファンの期待は、どうやら叶えられそうになかった。サングラスに帽子、目立つ金髪を帽子の中に隠したいつものお忍びスタイルでも、彼ならすぐにわかる。バランスよく鍛えられた身体、笑みを含んだ小さめの唇、そしてなにより、そこにいるだけで輝いているようなオーラ。誰だって、これは只者ではないとわかってしまうのだ。なお、声を発すると、舞台で鍛えられた発声で周囲数十メートルにわたって存在が知れ渡ってしまうので、プライベートのときの煉獄はあまり喋らないようにしているらしい。
     ようやく照明が落ち、ファンが叫び声を上げ始める。まず、ベースとドラムが配置について準備をする。
    「さねみー!」
    「不死川ー!」
     男も女も、主役の登場を待ちかねる。そこに、激しいライティングとともに、いきなり爆音の演奏が始まる。
     ステージに現れた不死川は、身体にフィットしたデニムシャツのボタンを大きく開け、締まった筋肉を見せつけている。
    「てめぇら、今日は容赦しねぇからな!ちゃんとついて来いよォ!」
     そんな煽り文句とともに、ステージが始まった。会場は一気に、興奮の渦へと巻きこまれていった。

     汗を拭きにいったんステージ脇へ下がった不死川たちに、マネージャーの胡蝶カナエが話しかける。
    「不死川くん、今日はすごいわね!迫力があるわ」
    「着替えあるか?汗でベトベトする」
     すでにデニムシャツを脱ぎながら、不死川が訊く。するとカナエが、新しい衣装を差し出した。
     それを見て、不機嫌だった不死川の顔が一瞬さらに険しくなる。
    「シャツの上にベストまで着んのかァ?暑いだろうが」
    「そうねぇ……でもこのベスト、今回のツアーの衣装に入ってるのよね……」
     思案顔のマネージャーに、不死川はため息をつく。
    「わかったよ」
     いかに不機嫌でも、カナエには強く言えないのが不死川だ。ほかのスタッフも、絶妙な人員配置だと感心して二人を見ている。
    「素敵だわ!後半もこの調子で頑張ってね!」
    「いやーもう俺ら、ヘトヘトですよ」
     ドラマーがそう言ってスポーツドリンクを一気飲みする。
    「腑抜けたこと抜かしてんじゃねぇ。さっさと行くぞ」
     不死川はタオルを放り投げ、再びステージに戻っていく。その後を、ドラマーが慌ててついて行く。
    「今日、やっぱり間に合わなそう?」
     不死川を追ってステージに戻りながら、ベーシストがカナエに耳打ちする。
    「どうかしら。こちらに向かうとは言ってたけれど」
     彼女がそう微笑むと、ベーシストは肩を竦めて歩いて行った。
     それを見送っていた彼女のスマホに、着信がある。カナエはステージ脇から奥の通路に出てから通話ボタンを押す。
    「もしもし。ごめんなさい、うるさくて。……ええ、そう。わかりました。彼、すごく喜ぶと思うわ」
     電話の向こうから聞こえる笑い声を聞いてから、カナエは通話を切った。そして、スタッフに指示を出すために歩いて行った。

     ステージに戻った不死川の格好に、ファンは歓喜の叫びを上げた。上半身は、素肌の上にベストだけを羽織り、胸元が大きく開いた姿で出てきたからだ。特に女性ファンは、酸欠になるほど叫んでいる。鍛えられた腕と汗の滲んだ素肌を晒して、オーディエンスを睨みつけるように歌う不死川は、凄みのある色気を漂わせる。
     無尽蔵の体力なのかと思わせるほど、最後まで失速せず、爆音とシャウトで、フロア中を引き摺り回した。

     最後の最後まで、ほとんどMCも挟まずに歌い切った不死川は、さすがに少し疲れた様子でステージ裏に戻ってきた。まだフロアでは完全に照明がついておらず、不死川の名を呼ぶファンの声が尽きる様子もない。
     カナエは彼の顔を見た。「お疲れ」とかろうじて声をかける彼の表情は、まだかなり不機嫌そうだ。普段なら、この表情のときにはアンコールはしない。しかし、カナエは不死川に話しかけた。
    「お疲れさま、不死川くん。楽屋にプレゼントが届いているみたいよ」
     あァ?と怪訝な表情をして、不死川は一人で楽屋に向かう。カナエはベーシストとドラマーに話しかける。
    「二人とも、お疲れさまね。よく頑張ってくれたわ」
    「今日はアンコールなしっすよね?」
     ドラマーが訊く。カナエは微笑んで、
    「そうね。少し待っててもらえるかしら」
    と言った。
    「あー、こりゃあまだ終わんねぇな。なんか食うもんある?」
     察しの良いベーシストが、汗だらけの顔でそう言った。

     不死川は大きなタオルで顔を拭きながら、楽屋まで来た。結局あいつは間に合わなかった。律儀な奴だから、詫びのしるしになにか届けてくれたのかもしれない。そう思ってドアを開けた。
    「やあ、不死川」
     そこには、煉獄がいた。白いボタンのシャツとブラックデニムを着て、小さなテーブルの上に腰掛けていた。着てきたらしいジャケットは椅子の背に無造作にかけられている。ブランド品らしいそれを見れば、彼が空港から着替えもせずにそのまま来てくれたことがわかる。
    「お前、帰ってたのか」
     不死川は、タオルを置いて歩み寄る。
    「ついさっきな。羽田から宇髄にかなり飛ばしてもらったんだが」
     間に合わなかったかな、と悲しそうに首を傾げた。
    「君の新曲を聴きたくて」
     そう話す唇に、不死川の唇が重なった。一度離れて、次はもっと深く、舌を絡ませ合う。ふ、と煉獄が合間に息を吐き、不死川の汗ばんだ腕を掴んだ。
     そのまま、不死川は煉獄を抱き締める。
    「悪ィ煉獄……汗がついちまう……」
     そう言いながらも、離す気配はない。そしてずるすると下がっていき、煉獄の胸元に顔を寄せた。背中からシャツの下に手を滑り込ませ、あらわになった肌にも、キスを落としていく。
    「気にしなくていい」
     煉獄も、優しく不死川の後頭部を撫でる。
    「……会いたかった」
     小さく、不死川が言った。煉獄は撮影、不死川はツアーで、ずっとすれ違いが続いていた。その月日に、煉獄も静かにため息をついた。
    「……俺もだ」
     不死川の指先が熱を帯び、恋人のジーンズのボタンを外しにかかる。
    「不死川」
     静かに、笑みを含んだ声で煉獄が呼んだ。
    「宇髄が、アンコールには間に合うだろうと言ったんだ」
    「あァ?」
     すっかりその気だったところに水を差されて、不死川は煉獄を見上げる。
    「言っただろう。君の新曲を聴きたいんだ」
    「家で聴かせてやっただろォ」
     煉獄はふふ、と微笑むと、恋人の頬を両手で包み込んだ。
    「多くのファンに愛されて歌っている君が見たいんだ」
     そう言って、額にキスをする。不死川は諦めたように息をついた。
    「……わかったよ。じゃあ舞台袖で見てろよなァ」
    「二階席で観てる。フロアに降りたら宇髄に怒られるしな」
     そしてもう一度キスを交わして、二人は楽屋を出た。
    「お前ら長ぇよ!みんな帰っちまうぜ!」
     通路に宇髄が立っていて、二人を見るなりそう言った。
    「まあまあ、久しぶりの再会だもの。充電させてあげなきゃねぇ」
     カナエが笑って、不死川に話しかける。
    「準備は万端?」
    「たりめぇだァ」
     そう言った不死川は、アコースティックギターを手に取る。宇髄がそれを見て、からかうように口笛を吹く。
    「アンコールは惚気の時間じゃねぇんだぞ」
     そんなことを言われるが、不死川は無視して歩いて行く。ステージでは再び明かりが落ち、オーディエンスが歓声を上げている。

     それまでと打って変わって、メロウで感傷的なバラードが始まった。
    「あ」
    「来たんだ」
    「来たんだね」
     最前列でもみくちゃになっていた女の子たちは、互いに頷き合う。後ろを見上げれば、二階の関係者席で、キャップを被ってブランドもののジャケットを羽織った金髪の男が、手すりに頬杖をついてステージを観ていた。その美しい眼差しは、一心に不死川へと注がれている。
     一曲終わると、不死川が珍しく喋った。
    「じゃあ、次は新曲」
     オオオ!とフロア中が揺れる。つい先日発表されたばかりで、チャートの順位を駆け上がりつつあるバラード。
    「俺の、大切な人に向けて」
     そんなことを言って、一瞬だけ、ちらりと二階席へを視線を向ける。それだけで、キャアァァ!!と女性たちが泣き出さんばかりに叫び出す。
    「おーおー、キザな男だねぇ、ああ見えて」
     宇髄が後ろから煉獄に話しかける。煉獄は頬杖をついたまま、小さく笑う。
    「愛情表現がわかりやすくて、俺は好きだぞ!」
    「あっそ。まぁお前が幸せで元気に働いてくれりゃ、プロデューサーとしては満足よ」
     宇髄は煉獄の頭に手を乗せる。言葉の割には優しく、柔らかい眼差しをしていた。
     不死川の歌声は、さっきまで激しいシャウトをしていたとは思えないほど、甘く、切ない響きでオーディエンスを魅了する。自分の人生を変えてくれた恋人への想いを綴る、情熱的な歌詞だった。歌っている間は聴衆に視線を向け、汗に濡れた身体とその表情で、男女問わず悩殺してしまう。
    「こりゃあ売れるな」
     宇髄が呟くが、煉獄は黙ったまま、潤んだ瞳で舞台を見つめている。
     最後に、不死川は煉獄の方を向き、笑顔を見せた。
     それは、その日初めての笑顔で、汗がライトを反射して、眩しいほどの輝きを放っていた。

    「もう逃さねぇぞォ」
     不死川はそう言って、煉獄を再び楽屋のテーブルの端に座らせた。
    「こんなところでするのか?」
     少し恥ずかしがる素振りを見せながらも、煉獄の瞳は期待に潤んでいる。
    「三ヶ月ぶりにちゃんと会ったのに、てめぇがお預け食らわせるからだろォ」
    「……鍵はかけたのか?」
    「あァ。カナエがゆっくりしてていいってよ」
    「そうか」
     そしてようやく、煉獄は不死川に両腕を回した。不死川は汗で素肌に貼りついたベストを脱ぎ捨てて、恋人を優しくテーブルの上に寝かせた。
    「今日は、覚悟しとけよォ」
     そんな台詞を言っているのに、口元は柔らかく笑み、瞳は優しさをいっぱいに湛えている。
    「君は元気だな。二時間もステージに立ったあとなのに」
    「お前の顔見たら、疲れなんか吹っ飛んじまう」
     互いの顔に触れながら、囁き交わす。そのまま、甘くて深い、キスをした。
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    Tari

    DONE相互さんのお誕生日祝いで書いた炭煉小説です。
    なんにも起きてないですが、柔らかく優しい情感を描きました。
    水温む 下弦の鬼を斬ったときのことだ。そのときの炭治郎には、実力以上の相手だっただろう。常に彼は、強い相手を引き寄せ、限界を超えて戦い、そして己の能力をさらに高めているのだ。
     そのときもそうやって、とっくに限界を超えたところで戦い、そして辛くも勝利した。最後の最後は、満足に身体が動かせなくなった彼のもとに、煉獄が別の任務から駆けつけてくれ、援護してくれたのだ。
     我ながら、悪運は強いと思う。こうして柱に助けてもらったのは、初めてではない。普通なら、とっくに鬼に殺されていたところだ。
     煉獄がほかの柱と違ったのは、彼が炭治郎の戦いを労い、その闘志や成長を率直に喜んでくれるところだ。
    「見事だった、少年」
     そう言って微笑んだ顔が、それまでに見たことのないような、優しい表情で。父や母の見せてくれた笑みに似ているが、それとも少し違う。多分この人は、誰に対してもこんなふうに微笑むことができる。それが家族や恋人でなくても、等しく慈しむことができる人なのではないか。限りなく深く、柔らかな心を、その匂いから炭治郎は感じ取った。
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