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    @IzumiKzs

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    ツイッターでしているネタ整理のひとつ。
    フロイデ。オメガバースパロ。
    第二性に屈したくないαな🦈と色々割り切ってるαの振りをしたΩな💀

    ※独自設定あり。
    ※ネタ整理なので唐突に始まり終わる

    (2021.12.13)

    オメガバースパロ🦈💀(ネタ整理)「ホタルイカ先輩、いるんでしょ? 話したいことあるから、ちょっとここ開けてほしーんだけど」

     ノックというには乱暴すぎる、ドンドンと扉を叩く音とともに凄みを纏った人魚の声が聞こえてくる。フロイドの訪問なんて彼がイグニハイドへの鏡を潜った時から察知していたイデアは、特に慌てることなく即座にドアのロックを解除した。

    「アハ、めずらしく素直じゃん」
    「……君が来ることは予想してたからね。それより早く中に入って。こんなとこ、誰にも見られたくない」
    「ま、そーだよねぇ。そんじゃ、お邪魔しまーす」

     促されるままフロイドが中に入ったのを確認して、イデアは閉めたドアにロックを掛ける。念のため防音魔法も強化した。次いで、スリープモードに入ってもらったオルトの様子もチェックする。モニター表示される数値は正常だし、余程のことがない限り明日の朝まで起動することはないだろう。そこまでしてから、イデアは改めて招かれざる訪問客に向き直った。
     フロイド・リーチ。オクタヴィネル寮所属の二年生。オクタヴィネルの寮長であり、イデアの部活の後輩でもあるアズール・アーシェングロットとは幼馴染で、片割れと称される双子のジェイド・リーチと共に三人で海から上がってきた正真正銘の人魚だ。彼らが経営するモストロ・ラウンジでの仕事上がりなのか。寮服姿のウツボの人魚は興味深げに室内を見渡した後で、部屋の主に断ることなくドサリとベッドに腰掛けた。イデアも特にそれを咎めようとはしない。そんな悠長なやり取りをするような場でないことは、双方ともに分かっていた。

    「それで、なんの用?」

     正直、先日のことを思えばフロイドがやって来た理由は凡その予想がつく。だが、思い込みで話すのは愚か者のすることだ。このウツボの人魚がイデアの正体に気付いていない可能性だってあるのだし、まずは相手の要求を正確に把握しなければと。イデアは敢えて素知らぬ振りで訪問理由を尋ねてみたのだが。

    「なんの用って、今さらじゃね? ホタルイカ先輩、Ωなんでしょ」

     まあそりゃ気付いてるよね、と。爪の先ほどの可能性を見事に潰されたイデアは、肯定も否定もせずに視線だけで先を促す。冷ややかなイエローアンバーの眼光を受けてなお、人魚が笑みを崩すことはなかった。

    「なのにここではαのフリして、寮長までやってる。オレはただ、なんで先輩がそんなことしてんのかってのと、あの時どうしてオレだけが先輩のフェロモンにやられたのか、その理由を教えてもらいに来ただけなんだけど」

     フロイドの言葉に、やはりこの子は頭が切れるとイデアは思う。抑制剤で抑えていたとはいえ、ヒート中のΩのフェロモンの影響を受けながら、それが自分だけだったと的確に状況を判断している。そこまで確信を持っているのならば、適当に誤魔化すのは難しいだろう。穏便に済ませられる可能性なんて元からほとんど有りはしないが、自らそのチャンスをゼロにする程イデアは愚かでもなかった。

    「……君の疑問は最もだと思うし、今後のことを思えばある程度こちらの事情を話す必要があるのは分かってる。でもその前に教えて欲しいんだけど。君は僕がΩであると、少なくともその可能性があると、もう誰かに話したりした? もちろん、ジェイド氏やアズール氏も含めて」
    「あ? 別に話してねーよ。確かにあん時はジェイドと一緒だったからスゲー心配はされたけど。先輩すぐにいなくなったからヤベーレベルの発情はちょっとの間だけだったし、ジェイドと他の奴らはピンピンしてたから。あん時先輩と目が合ってなくて、もしかして?って飲んだ抑制剤が効いてなきゃ、先輩がΩなんて影響受けたオレでも気付かなかったと思うよ?」

     ああやっぱり。あそこで視線さえ合っていなければ、誤魔化すことが出来たのかと。αであるフロイドが、αとβしかいないことになっているこの学園内でも抑制剤を持っていたことに少し驚きながら、イデアは歯噛みする。

    「てことはつまりぃ、なんでかはわかんねーけど、これってオレしか気付いて無い秘密ってことでしょ? そもそもΩがαだらけの学校に通ってること自体正気じゃねぇってのに、そこまで必死に隠してることを周りにベラベラ話すとか。そんな交渉スキル底辺なこと、オレがするワケないじゃん」

     秘密ってのはさぁ、知ってる人間が少なければ少ないほど価値があんだから。
     そう口端を吊り上げて笑う姿は、指定暴力団と揶揄されるオクタヴィネルの幹部に相応しい。なるほど教育は偉大だと、イデアは脳裏に後輩のタコの人魚を思い浮かべる。同時に、やはり口先で誤魔化すのは得策でないと腹を括ることにした。今のフロイドの発言はつまり、望む答えを得られなければ秘密を漏らすのに躊躇はないということでもある。交渉は既に始まっているのだ。
     それでも、現時点で秘密が他の人間に漏れていないことは明らかな朗報だし、一方的な脅迫ではない交渉の場があるというのも有り難いことだとイデアは気を取り直す。立場は対等には程遠いものの、光明が僅かでもあるというだけで気持ちは随分と軽くなった。

    「分かった。一応感謝はしとく」
    「あとで後悔するかもしんねーのに、そんなことしなくていいからさぁ。そっちのジジョーってヤツ? とっとと教えてよ」

     まあ確かに、この交渉の行く末がどうなるかは分からないかと。フロイドの現実的な指摘に、イデアは少しだけ緩んだ心を再び引き締める。淹れてから何時間経ったか分からない冷めきったコーヒー飲んで、乾いた口腔を潤す。一応飲み物がいるかフロイドに聞いたところ、そんなことより早く話せとキレ気味に急かされた。余裕がない男はモテませんぞ、なんて。咄嗟に出そうになった軽口をなんとか引っ込めて、イデアはため息とともに青い唇を開いた。

    「はぁ、分かったよ。まずは説明が簡単な方――君だけに僕のフェロモンが影響した原因だけど。フロイド氏は運命の番って知ってる?」
    「あーなんか、ヒートとか関係なく接触するだけで発情するαとΩのことって聞いたことある気がするけど。でもそれって、都市伝説とかいうヤツじゃねーの?」
    「正確に言えば、第二性に関する遺伝子的な相性が百パーセントなαとΩのことらしいけど。そんな相手、一生かけても滅多に出会えるわけじゃないからね。実際に運命の番の条件に適合する二人がいたとして、出会った際にどんなことが起きるのかはよく分かってないってことみたい。――ああ、もちろん僕たちは運命の番なんかじゃないよ。ただ、第二性が他者に与える影響は遺伝子的な相性に著しく左右されるもので、残念なことに僕と君はその相性が極めて高いってだけ」
    「あーだから、あん時オレだけが影響受けたってこと?」
    「そうだと思う。僕が普段から使ってる抑制剤は、自分の体質に合わせて自分で調合したものだから。市販のものより効果は高いし、あの時まではなんの問題もなく、ヒートの間も発情せずに生活できてたんだ。……まあ、だからこそ油断してたってのもあるけど。あの時、僕たちの間には十分な距離があったし、あそこには他にもαはたくさんいたのに。……僕は、確かに君に発情させられたと認識した。つまり、これまでは偶然ヒート中に遭遇したことがなかっただけで、僕たちの遺伝子的な相性は世間一般的な尺度からはかけ離れたレベルで高いってことになる」

     ただ、起きた事実を語っただけだというのに。あの時の、強制的に誘発させられた発情の感覚を僅かに思い出しただけで、イデアの体はブルリと震えてしまう。思わず椅子の上で両膝を抱え込んだΩを、深海から来たαのオッドアイが無言で見つめる。
     今はヒートではないのだから、いくら遺伝子的相性が高くても、抑制剤を飲んでいる自分が発情するはずはない。そう頭では分かっていても、イデアの心と体は一刻も早くこの場から逃げ出したいと訴えかけてくる。だが、このぐらいのことで狼狽えていては、これから踏み出そうとしている未来は絶望的だ。
     なんとか持ちこたえなければ。そう心を奮い立たせたイデアは、伏せていた瞳をなんとか上向かせる。途端、こちらを見ていた色違いの瞳と視線が絡み合った。なんとなく、負けてなるものかと思って。睨みつけるように瞬いたイエローアンバーに、ウツボの人魚が少し微笑ったような気がした。

    「オッケー、あん時のことは分かった。そんじゃあ次。なんでΩのホタルイカ先輩がαのフリしてここの学生やってんのか、そこんとこの説明して欲しーんだけど」
    「……別に、大したことじゃないよ。シュラウド家の嫡男に生まれた僕が、ただΩだったってだけ。うちの家系はこの髪からも分かる通り、特異な遺伝体質があるからか、もともと一族の人間の出生率が低いんだよね。α同士で結婚した場合、子どもが生まれないなんてザラでさ。だからαの当主の配偶者は基本的にβなんだけど、その代わり生まれる子どもは圧倒的にαが多いんだ。とはいえ、当然ながらΩが生まれることも稀にとはいえある訳で。そういう時は大体、病にかかったことにして表舞台からは姿を消すんだけど」

     両腕で抱え込んだ膝の上に顎をつけて、床のカーペットを見つめながらイデアは淡々と言葉を紡いでゆく。バレたら大変なことになる。そう思いながら、常に爆弾を抱えた状態で学園生活を過ごしてきたイデアにとって、自ら秘密を暴露している現状はとても不思議で、なぜだか少し面白かった。

    「僕の場合、十歳の時の検査でΩであることが判明して。でも、二年後にオルトがαだって判明したから。最初の発情を迎える前に僕は病に臥せったことにして、オルトがシュラウド家を継ぐ予定だったんだ。……なのに、オルトは死んでしまったから」

     当時のことを思い出したのか。悲痛な表情で言葉を切ったイデアに、フロイドは特に何も言わない。だが、珍しく真面目な様子の表情は、何事かを真剣に思案しているようで。そういえば今は交渉の最中だったっけと、イデアは纏わりつく過去の悲しみを無理やり追い払った。

    「その後、両親は新しい後継者を産もうとしたみたいだけど、年齢的にも難しくてね。結果、僕はΩであることを隠しながらシュラウド家を継ぐことになったんだ。幸い、Ωといえど一族特有の高い魔力は受け継いでいたから、代々の当主が卒業してるナイトレイブンカレッジへの招待状も届いたし。ヒートが始まった身でαだらけの場所で暮らすのは危険だって分かってたけど、Ωであることを隠したまま当主になる以上、招待を蹴るなんて不自然なことも出来ないしね。将来的なカモフラージュのため、仕方なく入学したってのが真相だよ。別に、大した話じゃないだろ」

     一方的な要求に応えるためとはいえ、紡いだ言葉に偽りはない。今述べた事情が、正真正銘Ωであるイデアがナイトレイブンカレッジにいる理由だ。これを聞いたフロイドがどういった行動に出るのかは分からない。ただ、今後の交渉次第では実家に頼らざるを得ないし、最悪の場合、部活の後輩の幼馴染を消すことになる。出来ればその道は選ばせないで欲しいと願いながら。イデアはただ静かにフロイドの反応を待った。
     やがて、考えが纏まったのか。パッと顔を上げた後輩人魚の口から飛び出したのは、けれど。イデアがあれこれ予想していた言葉のどれとも違うものだった。

    「あのさーホタルイカ先輩。オレの体質に合ったα用の抑制剤、作ってもらいたいんだけど。どんぐらいで受けてくれる?」
    「……………は?」
    「だからぁ、抑制剤作ってほしーんだってば。先輩、自分で作ってんでしょ? だったらオレのも作れない? オレたち相性いいみたいだし、先輩が自分用に作ってるヤツの成分参考にしたら、割と簡単に出来るんじゃないかと思うんだけど」
    「えっと、うーん、どうかな。変身薬で人間化してるとはいえ君はそもそもが人魚種なワケだし、そんな簡単に行くかどうかは分からないけど。でもまあ、市販のものよりフロイド氏に合うものなら作れるかな……。……ていうか、え? これって仕事の依頼?」
    「そーだけど。あんま高すぎたらすぐにはムリかもしんねぇけど、ちゃんと報酬も払うし」
    「脅迫じゃなくて? 断ったら僕がΩってことバラすとかじゃなく???」
    「あーそっかぁ、その手があったか〜」
    「えっ、あ、ちょっ……ま、まって!」

     正直、強制的な肉体関係や発情の強要、一方的かつ従属的な労働契約関係の締結ぐらいは要求されると思っていたので。報酬まで提示された依頼にキョドりすぎて、思わず余計なことを口走ってしまったと慌てるイデアの顔が、みるみると青ざめてゆく。だが、そんなイデアの前でニタァ〜と嗤っていたフロイドは、不意にぶはっと吹き出した。

    「な〜んてね。ジョーダンだからそんな死にそうな顔しなくていいよぉ、ホタルイカ先輩」
    「じょ、じょーだん?」
    「うん。別にオレ、秘密をバラすつもりなんてねぇし。事情を聞いたのは、先輩がヤベー奴かどーか知りたかっただけ」
    「ヤベー奴??」

     どう考えても陰キャ引きヲタかつ、正体がバレれば圧倒的に社会的弱者な自分より断然ヤベー奴にヤベー奴扱いされたイデアは、脳内をクエスチョンマークでいっぱいにさせる。一体どういうことなのかと、堪らず先を促した。

    「ほら、オレら人魚がほとんどαなのは先輩も知ってるでしょ?」
    「ああ、うん。確か、第二性を判定できる歳まで生き残れるのは、ほとんどαだけなんだっけ」
    「そうそう。だから番もα同士が多くてΩなんて滅多に生まれないし、生まれたとしても速攻で死んじゃうワケ。そーなるとどーなるかって言うと、Ωに関する知識ってのがオレらの世界にはほとんどねぇの。Ωがいないから海で暮らす分には抑制剤も必要ないし、そもそもαがヒート中のΩに当てられるってのがどういう状態なのかもよくわかんねぇって感じで」

     ああなるほど、とイデアは思う。たとえΩが生まれる環境にあっても、そのすべてがヒートを迎える前に死んでしまうなら、それはΩがいない世界と同義だ。そして、深海を主な住処とする人魚の過酷な世界に、ただでさえ生きるのが大変な陸のΩがやってくるなんてことも、まず有りはしない。であれば、Ωに関する知識が蓄積されないのも納得がいく。

    「そんな状態でよく陸にあがる気になったね。ああでも、知識がないから逆に気負わずに済んだのかな?」
    「そんなことねーよ? さっき言ってたヤベー奴――オレたちがΩに抵抗できないからって、船いっぱいにヒート中のΩのっけて人魚狩りにくる人間とかもいるし。そんなのにいきなり遭遇したら、オレたちはほとんど無抵抗で捕まっちゃうからさ。親父の知り合いも何人か捕まったみたいだし、オレもここ来る前に危ない目に遭ったしね」

     そん時はたまたまβの大人が一緒だったから、オレを担いで逃げてくれたんだけど。そうじゃなかったらぜってー捕まってた。
     そう何でもないことのように言う人魚の声にはそれでも、静かな怒りのようなものが潜んでいるように思えて。イデアはどうしてフロイドが自分を脅そうとしなかったのか、少しだけ分かったような気がした。

    「オレたち三人がここに来ることを決めたのも人間体になったら陸のα用抑制剤が効くってのと、優秀なヤツらが集まるナイトレイブンカレッジにはΩがいないって聞いてたからだし。そんなとこに正体隠してΩがいたら、なんか企んでんのかなって思うじゃん? 特にホタルイカ先輩はアズールと部活も一緒で仲いいし。だから、ヤベーこと考えてる奴じゃないって知りたかったってだけ」
    「なるほどね、納得はした。で、僕はテストにパスしたってことでいいのかな?」
    「そんな大げさなもんじゃねぇけど。ただ、先輩がオレと同じで、このクソみてーな第二の性に振り回されんのが心底嫌でムカついてるってのは分かったから。そうでしょ、ホタルイカ先輩?」

     自らの長い脚の上で頬杖をつきながら、可愛らしげに小首を傾げるウツボの人魚の瞳は、その声色や表情とは違って全く笑っていない。ああまだ交渉は続いていたのかと。そう理解したイデアはただ素直に、本心からの同意を示すことにした。

    「ああ、ほんとに。第二の性なんてクソ喰らえだ」
    「だよねぇ。じゃ~依頼受けてくれるってことでいい?」

     返された答えに満足したのか。漸く心の底からニカッと笑ったフロイドに、けれどもイデアは即答しない。それどころか訝しげな表情を向けられムッとした人魚に、異端の天才は「フロイド氏、あんまよく分かってないみたいだけどさぁ……」と歯切れ悪くボソボソと呟く。

    「フロイド氏用の抑制剤作ったとして、現状ここにいるΩは僕だけなわけで。てことは効果を試すにはヒート中の僕と接触するしかないんだけど。一発目で効果抜群なものが出来るとも思えないし、そもそも僕たちは残念ながら遺伝子的相性はいいわけで……。つまり、どう少なめに見積もっても何回かは発情することになると思うんだけど、そのあたりちゃんと理解してる?」

     やるとなったらそれなりの対策は取るつもりではあるが、ヒート中のΩとαが接触して発情した場合、そのままハイサヨナラとなる訳もなく。自身がΩであると分かってからは、恋愛だの結婚だのに関する夢は一切捨てた自分はまあ別にいいものの。あれだけ第二性に翻弄されるのを嫌がっているフロイドは、そのあたりちゃんとよく分かっているのだろうかと。こんな陰キャ引きヲタと発情し合うことになっても良いのかと、イデアが危惧した通り。

    「あー! そっかぁ、そうなるのかぁ~……」

     その可能性に気付いていなかったらしいウツボの人魚は、途端にしおらしくなる。そっか、そっかぁーと。少しの間なにやら思案していたフロイドのオッドアイがやがて、冷めきったコーヒーに顔をしかめたイデアをじぃっと伺ってきた。

    「ていうかさぁ、そうなっても先輩は別にいいワケ?」
    「んーまあ。どうせここ卒業したら適当に都合の良いαと番わされるだけだから貞操とかマジでどーでもいいですしおすし。うなじガードも避妊薬も一応持ってるから特に支障はないかな。むしろ、こんだけ遺伝子的相性の良い相手にも効く抑制剤を開発できるのか試してみたいって気持ちの方が大きいかも」
    「うわ、ちょー冷めてんじゃん」
    「現実的って言って頂きたいもんですなぁそこは。第二性に振り回されるのはほんと勘弁だけど、僕の場合、それとは別に逃れられないリアルってのもある訳で。だったらいっそ、自由に好き勝手やれる間に学術的な知的好奇心を満たした方がマシな気がするっていうか」
    「ふーん……そんならいっか。じゃーやっぱ仕事は依頼するってことで。よろしくねぇ、ホタルイカ先輩」

     まあ、口ではそんな風にいいながらも。フロイドが乗ってくることはないだろうと思っていたイデアは、もたらされた結論に思わずギョッとする。

    「えっ、いいの? 君、第二性に振り回されるの嫌なんでしょ?」
    「それはそーだけど。自分の意志に反して振り回されるのがムカつくってだけで、オレも別にガチガチな貞操観念があるワケじゃねぇし。それに自分に合った抑制剤作ってもらうって目的があって、前もってそうなる可能性があるって分かってる状態で発情すんのはまた別だから。むしろオレよりリスク高い先輩がオッケーしてくれるってんなら、こんなチャンス逃す手はないじゃん?」

     だからよろしく~、と。ベッドから立ち上がり、目の前まで近付いてきたαの人魚が差し出した左手を、αを偽るΩのイエローアンバーがジッと見つめる。そういえばフロイド氏も左利きなんだっけ、なんてことを考えながら、イデアは少し躊躇った後でその手を取った。

    「……はぁ、そう。まあ、君がそれでいいって言うなら、確かに交渉成立ってことになるかな」

     あの日の衝動が嘘のように、直接的な接触にも全く反応を示さない己の体に一先ずは安堵の息をつきながら。本当にこれで良かったんだろうかという一抹の不安と、決まり切った未来へと続くレールについた僅かな傷への喜びに、青い唇が歪な笑みを形作る。
     αとΩ。第二性に翻弄され従属的な番関係になることの多い属性を背負った二人はこうして、この夜。互いの持つ遺伝的生理的本能的欲求への反抗心を楔として、対等な立場になることを選んだのだった。




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