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    izmi_fairy

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    君篤ss

    ##君篤

    コモンセンスの悲劇「遠野くん、コモンズの悲劇はご存じですか?」
    「コモンセンス?」
    「コモンズ。の、悲劇、です。」
    「知らねーな」
    「誰でも利用できる共有の資源が過剰に消費され資源が枯渇することです。たとえば好きに食べて良い、毎日補充するからと言われた、コーチが厚意で用意してくださったお菓子をあなたがいくつも食べることによってほら丸井くんや田仁志くんが競うように食べ始めたじゃないですか!」
    「美味そうなお菓子を遠野先輩だけに食べられるわけにはいかないんで!」
     後半は半ば叫びと化した君島の言葉に巻き込まれ、丸井が口の中のものを飲み込んだ一瞬に言い、またテーブルに積まれた包みに手を伸ばした。田仁志にいたっては何も言う気がないようだ。
    「そもそもあなた、そんなに甘いもの好きでしたっけ?」
    「これは別」
     遠野はかじりかけの菓子を振った。青森のメーカーが作るスティック型のアップルパイだ。「アップルパイなら何でも良いんですか?」
    「そういうわけじゃねーよ。お前も食ってみろって」
     遠野は包みをひとつ取り、君島の前に置いた。
    「お前の好きな紅茶に合うんじゃないの、知らねーけど」
    「合うとは思いますけどね? 私がしているのは美味しいかどうかという話ではないんですよ」
    「めんどくせーやつだな」
    「めっ、な……!」
     どう見ても君島が言いたいことを理解した上でのらりくらりとかわす遠野に苛立つ君島の前にもうひとつ包みが置かれる。何事だと君島が見回すと、どうやら丸井が置いたようだ。
    「本当に美味いんでキミ様も今のうちに食べておいた方が良いっすよ」
    「はあ……丸井くんも……いえ、ありがとうございます」
     君島は面白いほどに遠野以外には当たりがいい。水を差す丸井に顔を引きつらせながらも礼を言う。遠野に対する態度を見せている時点で取り繕う意味があるのかと誰もが疑問に思うが、ある種の見せしめ、牽制なのだろう。僕を怒らせたら遠野みたいになるぞと。そのくせ、いつまでも遠野に構うものだから、種ヶ島には裏で「好きな子はいじめたくなる小学生みたいやな」と言われている(もちろん君島と遠野の耳には入らないように)。
     スッ――ともう一本腕が伸びて君島の前にみっつめの包みが置かれる。田仁志だ。田仁志は君島と目が合うと無言で頷いた。
    「かわいい~中学生に勧められて食べないわけないよなぁ?」
     遠野は空になった包みを握りつぶしながら楽しそうに言った。多勢に無勢。中学生を味方につけられてしまっては、イメージが命である君島が無下にするのは難しい。君島はみっつ並ぶ包みのひとつを取り、封を開けた。
     こうして君島は遠野の悪事に加担することになったのだった。
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    幾星霜/ひとり/導く
    目の疲れを感じ、私は書類を読むのを止めた。眼鏡を外し、眉間の辺りを揉みほぐす。どうやらいつの間にか、私は険しい表情でこの捜査書類を読み続けていたようだ。これでは「また眉間のヒビが深くなった」と言われてしまう。目を休めるため、私はワーキングチェアを回転させて、窓の外の景色を見た。青い空に、一筋の飛行機雲が見える。
    「メイ……」
     私は無意識のうちに、その名を呼んでいた。
     日本に戻り幾星霜。まだアメリカにいたときの方が、キミと会えていたような気がする。ひとりで過ごす時間は嫌いではないが……。やはり、その……違うのだよ。
     キミが幼い頃から、キミを導くのが、私の役目だと思っていた。しかし今、キミは私と肩を並べ、さらには追い越そうとしている。私がこうして手を休めている間にも、キミは真実を追求するため、黙々と捜査書類を読み込んでいることだろう。私も負けてはいられない。キミに相応しい男でいるためには、常にキミに認め続けてもらわねばならない。それは、並大抵の努力では成し得ないことだ。
     私は再び机に向かった。次にキミに会えるその日まで、私も先へ進まねばならない。

       了 488