《暁人が!?》
「お兄ちゃんの体から何かが出てきてそれでマレビトを倒したあと気絶したんですけどすぐに目を覚まして何ともなかったんです!」
《で、その後は?》
「天井に頭ぶつけました」
《平常運転だな》
「今は鼻歌歌いながらキッチンに立っています」
《まあ、くれぐれも暁人には件のことは話すんじゃないぞ。あいつに言ったらパニックになるかも知れねぇ》
「分かりました! また連絡しますね!」
通話を切りスマホをしまう。
(やっぱりKKさんの話は本当だったんだ)
あの時、耳に挟んだ話はどうやら本当のことだったらしい。自分の兄が人ではなくなってしまっている事実は衝撃的だったが同時に納得する気持ちもあった。あれほどまでに人間離れした身体能力、異常ともいえる回復力。そしてあの時・・・
今思えば思い当たる節はいくつかあったのだ。しかしそれが確信に変わった瞬間でもあった。
(でも、どうしてそんなことに?)
「お黙りやがれ下さいだよ二度とかけてくんな。はぁ」
お兄ちゃんのスマホからミシミシと音がした。
「前のバイト先のやつからあーだこーだ言われてプッチンしかけたんだよ。なんか最近イライラすることが多すぎる気がする。なんだろな~」
「ストレスでもたまってるんじゃないの」
「それも一理あるな~」
「お兄ちゃん」
「ど~した」
「お兄ちゃんが人間じゃなくなっても私はお兄ちゃんの妹だからね」
「なんだよそれ、急に」
「だって、そうじゃん。私とお兄ちゃんは血を分けた兄妹なんだもん」
「当たり前だろ?」
「そうだよね」
「お前が妹じゃなかったら俺は俺じゃないよ」
「ありがと、お兄ちゃん」
「ん」
その日の夜ご飯はとてもおいしかった。
****
「あーまた広がってる」
部屋に戻った僕はシャツを脱いで鏡で自分の姿を見た。あの時の気絶から数日間が経っていたのだが、左胸の辺りの痣が蔓草のように広がっていた。この痣は気絶した時にはなかったのだが、その次の日から少しずつ広がり始めたのだ。最初は肩の方まで侵食していたのだけど二の腕では肩にまで広がっている。正直ちょっと怖い。KKとかに相談した方がいいと思うけど相談しする勇気がないしかといって麻里にも心配をかけさせたくない。
「どうすりゃいいんだっ」
不意に咳き込んだ拍子に口元に手を当ててみると手についた赤い液体と青い花弁を見て思わず吐きそうになった。
「なにこれ?」
赤いのは血が混じっていると分かるけど花弁がなんなのか全く分からない。ただ言えることは僕の中でなにかが変わっているということだけだった。でも、花弁がなんだか輝いているような気がしてなぜか口元が緩んでしまった。その日は夢を見た。青い花が一面に咲き乱れてその中で自分のが仰向けになっていて、心臓の辺りから大きな植物が生えている。紫と青のツタで出来たそれは僕の胸に根を張っていてそこから栄養を吸い取っているようだ。でも不思議とその植物の輝きを見ていると安心してしまう自分がいた。先を見ると蕾が見えた。青色の花を咲かせようとしている。そして僕は思った。ああ、きっと咲いてくれるだろうなと。僕は手を伸ばそうとした。すると、指先に一頭の青い蝶が止まっていることに気づいた。羽を広げようとしていて、僕はそっと手で包むようにして捕まえた。その時、目が覚めた。
「ゆ、夢?」
覚めたときには自分の部屋だった。サイズの合う布団がなく、床の上で寝ていたので背中や腰が痛かった。
****
最近暁人の様子がおかしい。何かを隠している感じで会話をするとはぐらかしていることが多いし。
「お前何か隠してるだろ」
「何でもないよ!」
そう言いながら照法師の頭を両手でグググッと押し込んでいる。下手に詮索して泣かせるのもあれだから深追いはしていない。
「もう僕はそんなんじゃないのに!!」
照法師を影法師の方に投げ飛ばしている。おまけにコアの方にクリーンヒットだ。俺は暁人の首元に湿布のようなものが貼られているのに気づいた。
「お前それどうした?」
「寝違えただけ」
「そうか」
「KK、最近やけに僕の事心配しているけど、どうして?」
「別に」
「そう・・・」
あいつの顔が一瞬、悲しそうな顔になったように見えた。
早く気づけばよかった。今さらこう考えても遅いか。
「暁人・・・」
青い花が咲き乱れてその中心で紫と青のツタでできた繭があり、青い大きな花が咲いていた。