兎と言えば可愛いというイメージが付き物である。丸っこくて白くてふわふわしているとか小さくて可愛いとか、兎のぬいぐるみとか持っていると和むよね。私と兄は兎でありながら人間に化けて暮らしている。私は何ともないが、兄はというと・・・
「オラァ!!」
蹴りだけで砂袋を吹き飛ばし、飛び蹴りで破壊する。鍛え抜かれた強靭な足腰を持ち、他の兎とは違う。兎というよりも虎のようだが、兄は兎である。
「よし!」
そしていつも思うけど、何をどうしたらこんな身体になるのか?と毎回疑問に思う。それに兎の耳が生えている位置も違い、私は頭に生えているのだが、兄は人間の耳の部位に生えている。幼い頃の兄はちゃんと頭に生えていたのだが、いつの間にか耳が生える位置が変わってしまった。
「一つ聞くけど、どうしてこうなったの?」
「それはだな、俺は麻里の兄だ。だから麻里を守る義務がある、守るから身体を鍛えている、それだけのことだ。あ、プロテイン飲むか?バニラ味だぞ」
「丁重にお断りします」
プロテインを進められたのだが丁重にお断りをする。兄は鍛練の後によくこれを飲んでいる。兄曰く「筋肉にタンパク質は必要不可欠、つまりプロテインは筋トレに励む者にとっての必需品」と言っているが、私は鍛える気はないでそんなもの必要ないと思っている。兎だから草食のイメージがあるかもしれないが兄は肉食だ。肉の塊を噛み千切りながら食べているし、兎の癖に野菜を食べようとしない。肉でも特に鶏肉を好んで食べていることが多い。しばらく食卓が鳥料理まみれになったこともあった。それでもどこか憎めず頼もしい、そんな兄が大好きなのだ。
「麻里!腕立て伏せするから背中に乗ってくれ!」
重し代わりに私を使うのをやめい。
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そいつとの出会いは突然だった。
「吹っ飛べ!!」
マレビトの首に強烈な蹴りを食らわせ、そのまま吹き飛ばす。そいつは両足で着地をするとアスファルトで出来た地面に亀裂が入り、そのままめり込んでいく。俺より年下に見える青年で、蛍光色の緑のスポーツウェアを着ている。運動の途中だろうか?
「ん?おっさんこんなところで何してんだ?」
俺に気づいた青年は俺にそう問いかけてくる。端から見ればそうかもしれない。
「そっちこそ何してんだ」
「ジョギング中にたまたま通りかかっただけだ。変な化物相手してるおっさんを見つけたから」
「おっさんはよせ。俺にはKKっていう名前があるんだ」
「偽名か?」
「そうだよ」
「ふーん、ここで会ったのは何かの縁かもしれねぇな。またな!」
「おい!って足速いな!」
全速力で去っていく青年の背中が見えなくなるまで見ていた。それからもことあるごとに会うようになってきた。
「お!偶然だなKK!」
「KK!プロテイン飲むか?」
「兎ってのはな、脚が強いんだ!」
「兎の跳躍力舐めんなよ?」
「今暇か?一緒に朝日に向かって走ろうじゃないか!!」
何度も顔を合わせていくうちに互いの身の上話をするようになっていった。青年によると年は22で俺よりで名前は暁人と言い両親は居らず、妹2人で暮らしているそうだ。そして何より兎に関することを口にするのが多かった。
「なあ、一つ聞きたいんだが」
「なんだ言ってみろ」
「なんで身体を鍛えてんだ?」
俺は当然の疑問を聞いてみる。
「それはな、俺の妹を守るために鍛えているんだ。俺には麻里しか家族がいないんだ。唯一の家族を守るために何ができるか?俺は身体を鍛えることにした。あいつらに何かあった時に守るためにな」
「良い兄貴だな」
「だろ?じゃあ早速一緒に渋谷一周」
「断る」
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「よしお前ら!!今からバニーズブートキャンプを始めるぞ!!」
「はぁ!?」
突然の出来事についてこれなかった。暁人に半ば強制的に連れ去られてきたのは、とあるビルにあるフィットネスジムだ。暁人が連れてきた理由は不明だ。しかしバニーズブートキャンプとは何だ?
「おいどう言うことだ!?」
「見れば分かるだろ!!」
「分かるか!!」
誘拐されていきなりバニーズブートキャンプと言うわけの分からないものを始めようとする暁人にツッコミを入れる。
「お前もか」
「祓い屋も巻き込まれたのか」
「お前らもか?」
あいつと祟り屋も巻き込まれたようで、表情は分からないが疲労の色が見え隠れしている。
「最近俺の後をつけるもんだから筋トレしたいのかと思っている連れてきたんだ!!」
無様と憐れが入り交じった表情をしていると、暁人はそう返してくる。
「安心しろ!お前らも鍛えてやるから!!」
「いや我々は」
「いいから!!よーしまずは渋谷の外周を20周だ!!」
「だから話を」
「問答無用!!さあ走れ!!」
それから暁人の言う通りにひたすら走らされた。暁人は余裕でついてくるし、あいつと祟り屋もついてきた。しかし暁人があまりにも体力が尽きないので、俺とあいつと祟り屋は途中でバテたし、走り終わると今度はジムで腹筋背筋腕立て伏せをやらされた。
「次はランニングマシンだ!走れ!!」
「もう勘弁してくれ」
「何を言ってるんだ!?」
それからもひたすら鍛える羽目になった。暁人の体力についていくのは無理であったし、あいつは既にグロッキーだったし、祟り屋も完全に意気消沈していた。
「なんだ?そんな程度で音を上げるのか?情けない」
「いや、お前みたいに人間離れした体力は持ち合わせてねぇんだよ」
「そうか?」
暁人は平然としているし、あいつや祟り屋も疲労の色が隠せないでいて、暁人と俺との差が歴然だった。
「プロテイン飲もうぜ!!」
祟り屋がプロテインを無理矢理飲まされているを様子を見て正直にざまあと思ってしまった。