「・・・すぅ」
ラグの上で踞って眠っている愛。外見は少女なのだが、まだ産まれてから数日しか経っていないのだ。にしても真っ裸で服も着ないでよく過ごせると思う。恥ずかしいとかそういう感情が全く無く、ただ純粋無垢に眠っている。暁人はそんな愛にそっと毛布をかけると、眺めることにした。
「・・・可愛いな」
「そうだね」
長い睫毛に整った顔立ち、絹のように艶やかな髪に透き通るように白い肌、そして
「・・・うぅ?」
目蓋を開くと緑色の瞳が暁人を見つめる。そして、
「・・・おー?」
「・・・おはよう、愛」
ゆっくりと起きる愛に暁人が挨拶をする。すると、ゆっくりと手を伸ばして暁人に抱きつこうとする。暁人はそれを受け入れて愛の背中を優しく叩く。
「お、は・・・よ?」
「おはようっていうんだよ」
愛が抱きつきながら上を見上げると、暁人が訂正を入れる。それでもまだ上手く話せないような仕草を見せるので、暁人は愛の頭を撫でながら言う。
「愛が初めてママとパパって言ってくれたとき、本当に嬉しかったんだから」
「うれし?」
「うん。ママもパパもすっごく嬉しかったんだよ?」
「しょーなの・・・?」
愛は首を傾げて不思議そうにする。暁人は愛を抱き締めながら言う。
「そうだよ、だってママもパパと会ったときに「初めまして」って言われちゃったから」
「・・・?」
「おい言ってもいないことを捏造するな」
「あれ?そうだっけ?」
「まぁ?」
「そもそもあの時はいろんな意味で濃かったな」
「思い出すだけで頭が痛くなる」
「うー?」
「なーに?」
愛は暁人の指を咥えて、甘噛みを始める。まるで何かの真似をしたいかのような仕草をする愛を愛おしく感じる。
「可愛いな」
「うあーう」
愛は暁人の指を口から離すと、四つん這いで俺の方にやって来た。
「パパに甘えたいのかな?」
「俺にか・・・?」
俺の身体をよじ登るように腕をかけると、頭を必死に擦り付けてくる。俺は愛が倒れないように支えながら頭を撫でる。
「ぱぁぱぁ」
「あぁ、もうマジで可愛すぎるんだが・・・」
「分かるよその気持ち、僕だってKKに甘えたいもん」
「ぎゅーってして?」
「あぁ、いくらでもしてやる」
「ぎゅーしゅきー」
愛を抱き締めると頭だけでなく背中の辺りを撫でてやる。すると、愛がもぞもぞと動き出す。そして、顔を俺の胸元から上げると満面の笑みで言う。
「ぱぁぱ!ぱぁぱ!」
「・・・あぁーもう可愛い」
「襲うんじゃねぇぞ」
「おしょー?」
「うん理性を保つ努力はするから」
「あと愛に変なこと覚えさせたくないし」
「へんこー?」
「そのときは夜は覚悟しろけと」
「KKったら~♡」
「てか今の会話、愛に悪影響ありそうだからやめよう」
「確かに僕も思った」
「まーう」
すると愛のお腹が鳴ると、愛は恥ずかしそうに涙目になってお腹を押さえた。
「ううっ・・・」
「お腹空いたの?」
「うん」
自分のお腹を触る。そう言えば俺もお腹が空いていたことに気がついた。時計を見るともうお昼近くなっていた。
「昼ごはんにしようか」
「しゅる」
「作るからいい子でいてね」
「しゅーん」
しょんぼりとした顔で萌え殺しにかかってきている愛を見て暁人は作ることにした。今の段階で愛が食べれるものは味の付いていない野菜や肉くらいだ。いきなり食べさせて身体を悪くしても困るので、段々と慣れさせる予定だ。
「愛は何が食べたい?」
「・・・うー」
すると少し考え込むと一つの結論が出たのか言う。
「おいちいのたべゆ!」
「じゃあ良い子で待っててね、キッチンには危ないものがあるから入ってきちゃダメだよ」
「はーい」
暁人は手慣れた様子で愛の分と自分たちの分を分けて作っている。愛はキッチンで作っている暁人が気になったのか、覗いていた。
「愛~ちょっと待っててね」
暁人が包丁を扱っているのを見て、少し恐怖を覚えたがすぐに好奇心の方に打ち消された。だか、すぐに別の物に興味が移る。暁人が前に買ってきた木でできたカラフルな積み木だ。それを積み上げて遊んでいる。
「ふぉぉ・・・!」
愛はすぐに楽しそうに笑った。そしてしばらく遊んだ後、俺の元へ駆け寄った。
「ぱぁぱ!できた!」
服の裾を引っ張って見せてくる。
「おぉ、凄いな」
積み木を重ねて作ったタワーを誇らしげに見せつけてくる。大きさはそんなに大きくないがちゃんと積むことは出来ていた。俺と暁人も愛の頭を優しく撫でてやった。
「えへー?じょーじゅ?」
ああもうマジで可愛いすぎるだろうこれ・・・。
「あぁ・・・よく出来てる」
「ご飯できたよ~」
「ごはん!」
ドタドタと音を立ててハイハイで移動する姿は大きな赤ん坊だ。今まで歩けなかったのにここまで足が動くようになって俺は感動していた。そして、暁人と目が合ったので俺たちは静かに微笑み合うと、テーブルの上を片付けた。テーブルに置かれた料理を愛が目を輝かせながら見ている。俺はいつも通りパスタだ、暁人は相変わらずバランスの良いもので、サラダやスープまで作っている。だが、今回は愛の分も作ってあるためかいつもより豪華だった。
「「いただきます」」
「ましゅ!」
手を合わせて挨拶をする。
「やっぱ暁人の作る飯は旨いな」
「だって栄養バランス考えて作ってるんだから。はい、あーん」
「あー」
愛に食べさせている暁人。こうして見ると、本当に母親なんだなと感じることが出来る。
「何作ったんだ?」
「愛には擂り潰した人参と、出汁とほうれん草で作ったスープに、茹でて細かくしたささみ」
「完全に離乳食だなこれ」
「少しずつ慣らしていかないといけないからね」
「・・・やー」
「ほら好き嫌いしちゃダメでしょ?」
一口飲んだほうれん草のスープを前に愛は顔を歪ませる。まぁ仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、好き嫌いをさせるのも良くないことだと俺は思う。
「食べないと健康に悪いぞ?」
「パパの言う通り、愛は良い子に出来ない悪い子なのかな?」
「うーあー」
愛は涙目になりながらも、暁人が口元に運んできたスープを飲んだ。
「そうそう、そうやって食べたら暁人ママ嬉しいなぁ~」
「・・・うぅ」
愛が嫌がる顔をしつつも食べ終える。吐き出さないように必死に嚥下しようとする姿は本当に可愛いのだが、あんまり無理強いさせたくないという気持ちもある。
「やーだー」
「ほうれん草は口に合わなかったか~それならニンジンならどう?」
今度は擂り潰した人参を口元に運ぶ。すると、ニンジンはすぐに食べ終えた。
「にんじんおいちい!」
「うん偉いね~ほうれん草はまだあるけど?」
「ほうれんそーはやー!」
「食べないと美味しいデザート食べられないよ?」
「うぅ・・・たべゆ」
愛は渋々スープを食べ始める。少し嫌そうな顔をしながらもちゃんと口を付けた。
「・・・たべたよ?」
「うんよく頑張ったね偉い偉い!」
暁人が手を伸ばして頭を撫でると愛は本当に嬉しそうにしながら微笑んだ。
「後はささみかな」
「ちゃんと細かくはしてきてるから大丈夫だぞ」
小さくカットされたささみに愛が噛み付くと不思議そうな顔をして食べる。
「・・・なんか不思議そうな顔してるな」
「味付けしてないからね」
まぁよく考えれば味付けしてなかったら美味しいわけないよな。すると、愛が俺の方へやって来た。
「パパ?あーんして?」
ん?なんか既視感があるな・・・。というか何故俺に食べさせてもらおうとしているんだ・・・。いやまぁ可愛いから全然いいんだけどさ。俺は小さく切り分けたささみを愛に食べさせる。餌付けをしているように見えて俺は少し笑ってしまった。
「あーKK可愛いなー♡」
「愛がいるから今はやめろよ」
「おいちー!」
「茹で汁はどうかな?」
暁人は子供用のカップに入れたささみの茹で汁を持って来た。それを確かめると愛はすぐに口に含む。
「あちゅっ!」
「ちゃんとふーふーしなきゃダメだぞー」
口の中が熱いのか顔をしかめていた。
「むー」
「熱かったね~でもちゃんと食べれたからデザートあげるね」
「やったー!」
暁人は冷蔵庫から林檎を取り出し、それをすりおろしたものを愛に食べさせる。小さなスプーンで食べてる姿は本当に可愛いと思う。
「はいあーん」
「あー」
本当に幸せそうにしているのが堪らなく可愛い。
「KK今夜は覚悟してよ」
「俺なんかしたか!?」