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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。

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    zeppei27

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    傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに引き続き振り回されるピアソンさんのお話です。この行為は好意なのか、それとも真意は別に存在するのだろうか?もう少し続きます。

    >前回のお話
    https://poipiku.com/271957/10154086.html

    #傭泥
    #第五人格
    fifthPersonality
    #小説
    novel

    ご親切にどうもありがとう /2 大概の口約束は破られるものである。そうでなければ何故、神はモーセに石の板を与えただろう?神でさえも物理的な手段で残すことを選んだのだ、人間同士ならば契約書類は絶対必要であるし、あるからと言って油断してもいけない。クリーチャーは賢い人間なので、契約の有用性と無効性を巧みに利用して上澄を啜ることを心得ていた。つまり――傭兵だか軍人だか知らないが、ナワーブ・サベダーの珍妙な申し出など、実しやかな嘘だろうとハナから信用していなかったのである。
     この荘園に来た人間が、本当の身分を洗いざらい打ち明ける必要があるだろうか?信用ならない連中とうまくやっていくためには、嘘と夢と上辺だけの平和を楽しむ上品さがあれば十分だ。真実は誰にも確かめようもなく、また真実だからと言って価値があるわけでもない。クリーチャーが『慈善家』でなくとも、そう主張し続けることこそに意義がある。
     どうせ相手も同じ考えだろうとたかを括っていたクリーチャーだが、動かし難い数字を突きつけられれば話は別だ。ホールに貼られた紙を見上げ、目を擦る。見える方の目を閉じて、開いて、『今月の戦績表』と書かれた一覧表を上から下へとなぞる。クリーチャー・ピアソン、エマ・ウッズ、それからそれから……一覧表には荘園の住人全員分の試合の内容が凝縮されていた。何度『ゲーム』に出場し、解読し、チェイスし、五体満足で脱出し、
    「すごい救出率だね。本職なだけはあるよ」
    「まだ3回だ」
    戦績を閲覧したカートの能天気な物言いをすかさず制し、クリーチャーは居心地の悪さから手のひらをしきりと擦り合わせた。敢えて見なかった数値を話題にされると、あたかも現実逃避を指摘されているかのように感じるのは穿った考え方だろうか?エミリーなら恐らくそうだと即答するだろう。臆病者め。舌打ちしたくなるような惨めさを他所に、カートは出来の悪い生徒を嗜めるように諄々と数字を説いた。
    「クリーチャー、君を助けたのは3回中3回。だが、他の人間も合わせれば、もう8回は救出に成功している。彼自身は何回か飛んだけれどね。新人でこの成功率は初めての勢いじゃないかな。将来有望だよ」
    そう、実際驚くべき数値だった。客観的にも主観的にも歓迎すべき結果である。有言実行の役に立つ、頼もしい仲間が現れただなんて素晴らしい話だ。何よりも本人が自発的に行動している点が素晴らしい。ナワーブは仲間を足手纏い扱いしたり、やり取りに未だささくれだったものがあるものの、それ以外は扱いやすい点も優れている。夢想家のカートとしては、自分の織りなす『物語』(彼は体験談だと言うが眉唾物だ)を延々聴いてくれる素晴らしい耳としての評価も高いだろう。
     否、否、否。クリーチャーは諸手を挙げてカートの意見に賛成することは到底できなかった。人を助けたい、と思うのは勝手だ。ゲームに勝つためには生存者は多い方が良いのだから、救助に適した人間が役割を果たすのは妥当だろう。しかし、何もクリーチャーだけに全てを捧げる必要はないし、わざわざ宣言をする必要はもっとない。初めて助けられた際、クリーチャーの頭を過ったのは『何を返すべきか』だった。謝礼は口で述べたて、褒めちぎり、帰宅してからは手料理を多めに振る舞いもした。金は持っていない――この荘園の中で繰り広げられるラットレースが終わるまで、金貨が心地よい音色を奏でてくれることはないだろう。ナワーブはクリーチャーが捧げるものを黙って受け取った。
     そう、黙ったままなのである。砂地に水を撒くように、投げかけたものは須く吸収され、跡形も無くなってしまう。謝礼が十分であったのか、適切なのか、他に思惑があるのか、一切がわからないままなのだ。生憎カートと真反対の人生観を持つクリーチャーとしては、この状況は非常にやりにくい。相手の欲望がどこにあるかわからぬまま『慈善活動』をすることは不可能である。自分ばかりが利益を得ているとなれば尚更だ。
    「しかも、お前が『ゲーム』に出るなら必ず自分も出せとまで言っている。ドブネズミ、どうやってあの傭兵を買収したんだ?」
    「フレディ、ドブネズミはもっと前歯が長いと思うよ」
    頓珍漢なカートの訂正に、フレディはふん、と鼻を鳴らした。メガネと前歯の両方がきらりと光ったように見えたが、クリーチャーは揶揄いたくなる衝動を抑えて極めて理性的に振る舞う道を選んだ。くだらない言い争いで憂さ晴らしをすることも魅力的だが、それ以上に聞き捨てならない情報が耳を掠めたのだ。
    「サベダー君が?いつそんなことを言い出したんだ」
    「お前が仕向けたんじゃないのか?」
    「まさか。傭兵様を雇える程、懐が暖かくはないんでね。そんな金があったら、こんなところに来ちゃいない」
    弱さを曝け出すことは、時に最大の誘い水となる。傷を舐め合うもの同士のしみったれた連帯感を匂わせると、フレディは眉間に少し皺を寄せて前歯を引っ込めた。クリーチャーがナワーブを雇うなどあり得ないと論理的に受け入れられたのだろう。『ゲーム』の根本に立ち戻れば、誰でも理解できることだ。一人で生き延びることに意味はない。多少の情けはもらえても、勝利を得てこそ主催者から評価を受けることができる。戦績表などというくだらない評価を毎月受け取るのも勝敗あってこそである。
    「サベダー君は、クリーチャーとゲームの相性が良いと言っていたね。やりやすいんだってさ」
    「ふうん?」
    思わぬ褒め言葉に、思わず唇がふにゃりと解けたのは仕方あるまい。貶されることにはなれているが、褒められることなど十に一つもないのだ。それも上っ面だけのおためごかしなどではない。カートが続けて並べ立てた、ナワーブが述べたという言葉の一つ一つは試合の内容に沿っており、クリーチャーも自負する点も多々あったものだから、つるりつるりと耳から心の奥底へと入り込んでしまう。体温は瞬く間に冷静さを失い、クリーチャーは先ほどとは違った居心地の悪さで手のひらを擦り合わせた。汗がじんわりと滲んだシャツが気持ち悪い。大扉の下から吹き込む風が、気まぐれに肌を冷やした。
    「……大層な気に入られようだな」
    フレディが拗ねた調子で呟くのは至極痛快で、クリーチャーの唇はいよいよムズムズとして収まりがつかない。鏡で見たらば、きっと情けないほど蕩けていることだろう。そんな自分は自分でも見たことがなく――恥ずかしくてならなかった。同時に本当だろうか、と腐った性根がぐちぐちとぼやき始める。何か罠が潜んでいるのではなかろうか?確かにナワーブがクリーチャーを褒める理由はない。褒めたところで出せるものがないからだ。
    「好かれてるんだねえ」
    カートが純粋に好意として受け止めていることが、クリーチャーには不思議でならなかった。虚言妄言入り乱れる冒険家は、本心から言っているように感じられる。彼だって、そう良い目ばかり遭ったわけではないだろうに、と相手の目を見返したところで息を呑んだ。目元の優しさに似ても似つかぬ、何も映さぬ虚空を抱え込んだ瞳に思考が吸い込まれそうになる。この人間にどんな答えを求めようと無駄だ。腹一杯の空白に己を飲み込まれるばかりで、ナワーブの真意を探るよりも当て所無い旅路に連れ出されてしまう。なんとか現実に足を踏み止めると、クリーチャーはゆるく首を振った。
    「まさか。ろくに口を聞いたこともないんだぞ」
    事実である。他の人間含めて、ナワーブは積極的に和気藹々と仲良くしようと考えてはいないらしい。初日以来徐々に馴染み、態度も和らいでいるようだが、人間の根本は変わらないものだ。恐らく、元々孤独を好む性質があるのだろうとクリーチャーは考えていた。思いつく限りの飴を差し出しても良い反応を引き出せないのだ、厄介払いをされる前に撤退する懸命さも一考の価値ありである。
     ナワーブが自分の有用性を認めただけなのだと、だからこそ守ろうと必死になるのだと素直に認めることができればどんなに気が楽なことか。クリーチャーがチェイスの最中も注意を彼方の方に引きつけようとするのは、純粋に好意なのだと受け止められたら、そんな生き方ができた自分は幸せだろう。しかし、現実は常に厳しい。ナワーブは初日に宣言し、ただ有言実行したに過ぎない。
     一体何が彼を突き動かしているのだろう?クリーチャーにはさっぱり理解できなかった。




     困惑とは更に深まってゆくもので、クリーチャーは以降もナワーブに救出されるどころか、日常生活においても守られることとなった。発端は、立て付けが悪くなった二階の窓枠の歪みを直そうと、雨樋をよじ登っているのを見つかった時であるように思う。勝手知ったるなんとやらで、クリーチャーにしてみれば赤子の手を捻るよりも簡単な仕事だ。梯子を出すには大仰で、一人仕事に向いていない。故に気楽に慈善活動を申し出て、クリーチャーが鼻歌まじりに作業をするに至ったのだ。幾度となく繰り返された光景でもある。
     上下に開く窓の歪みを直し、もう少し叩いて隙間を整えようと思った頃である。チラと下を見れば、丁度あの深草色のフードが通りがかるところだった。後々思い返せば、一体どうして茶々を入れたのか不明だが、魔が差したのだろう。雨樋に両足をしっかりと絡ませ、クリーチャーは通行人に向かって盛大な拍手を送ってやった。
    「やあ、サベダー君」
    それ以上何を続けたものか、丁度良い言葉は思いつかなかったが、 ナワーブがあんぐりと口を開ける様を見る事ができただけで十分だった。沈着冷静な傭兵を驚かせるなどそうできることではない。
    「クリーチャー!何してるんだ、危ないじゃないか」
    「何って、窓枠を直してる真っ最中だな。この前風が強く吹いた時に枝が当たったせいで歪んだらしい」
    わざと窓枠を揺らしてギシギシと軋ませると、フードで隠れた顔からさあっと血が引いてゆくのが見てとれた。子供のように素直な反応が微笑ましい。普段は何にも熱を入れずに淡々としている風でありながら、何故か自分の前では年相応の柔らかさを露呈するのは興味深い。同時に、この胸に広がってゆく笑いは優越感だとクリーチャーは知っていた。他の誰が、荘園の中で、ひょっとしたら世界中で自分以外の誰が彼の脆さを目にすることが許されるだろう?自分だけ、自分だけだ!
     クリーチャーの挑発に対し、ナワーブは低く唸って力強く壁を殴りつけた。ガン、と鳴って雨樋が揺れ、細長いそれに絡めていた脚を慌ててぎゅっと締める。偶発的な事故よりも前にナワーブのせいで滑落しそうだ。だがこれで怯むクリーチャーではない。虚勢を張って口笛を吹けば、ナワーブは更に苛立った声で怒鳴った。
    「あんた、正気なの?落ちたら怪我をするだけじゃ済まないんだぞ。それにここは『ゲーム』の場所じゃない」
    「わかってるさ。昔何度か落ちたことだってあるしな」
    「全然わかってないよ。どうかしてる」
    ミシ、とまた一つ雨樋が嫌な音を立てた。
    「今すぐあんたが自分で降りるのと、俺がこれを外してあんたを無理やり下ろすのとどっちが良い?ああ、梯子を運ぶのは手伝うよ」
    「なんでその二択なんだ?あと少しで終わるんだ、気にするな、ぅおわっ」
    反論を待たずに雨樋が揺らされ、クリーチャーは速やかに無駄口を閉じた。この男は本気だ。本気でクリーチャーを引き摺り下ろすことこそが正しいと信じている。だが、降りたところで狂人の側にいることは安全だろうか?我が身のことながら、安全を確保するために怪我をさせることも厭わない男に身を任せるくらいならば、いっそこの場で盛大に地面に飛び込んでやった方が正常のように思われた。
     腹を括ればあとは一瞬のことだった。修復するために弄っていた窓枠を無理やりはめ込み、窓を開ける。異変に気づいたナワーブの静止を振り切り、窓枠に手をかけ、勢いをつけて飛び移った。雨樋から脚が離れた瞬間、自由の恐怖が襲ったが、今は思い通りになる運命が必要だった。開いた窓からそのまま二階に入り込み、窓から上半身を出せば、フードを脱いだナワーブが目を三角にしてこちらを睨みつけている姿が目に入った。ざまあみろ。やった端から後悔が襲ったが、一時の快楽は至極甘かった。
     暴力を振るえば思い通りになる、究極的にはそうかもしれない。だが、今のクリーチャーにはまだ余裕がある。泳げるうちは可能な限り泳ぐのだ。他愛もないやりとりだ、ほとぼりが冷めた頃に帳尻を合わせればどうにかなるだろう。もう一言くらい捨て台詞を吐こうかと口を開いたところで、クリーチャーは「あ」と小さく声を上げるにとどめた。
     先ほどまで、ナワーブを占めていた感情は怒りのはずだった。意味のわからない彼の母語での罵り言葉や、妙に焦った呼び声がまだ耳の中に木霊している。思い通りにならなかった子供そのものだったはずだし、根本的な原因はなんであれ、クリーチャーにも十分理解できる状態だった。
     それが、どうしたことだろう。彼は今やすっかり静まり返ってしまっていた。嵐は止み、残された凪は置き去りにされた子供のような寂しさ、悲しさ、無力さ、湿っぽく暗い感情をこちらに無言でひたひたと伝えてくる。別段、自分にやましいことがあるのではなくとも、今のナワーブを見たらば誰だって罪悪感を抱くことだろう。ナワーブ・サベダーは傷ついている。それも深く、心臓が張り裂けそうなほどに心が血を流している。
    「どうして」
    自分たちは縁もゆかりもない他人で、荘園に来る前も来た後も物語を持ち合わせていないというのに。まるで人生の大事な欠片を失いかけたような顔を見せるなど、一体クリーチャーは彼の中でどんな位置付けなのだろうか?
     ひょっとすると本気で好意なのかもしれないというカートの暴論に頷きたくなる自分を抑えつつ、クリーチャーは冒涜的な疑問を思い浮かべた。ただ怪我を仕掛けただけでこの様子である。もし、自分がロケットチェアで飛ばされたならば、どんな姿を見せてくれるだろうか。これ以上無意味に傷つけることに意味はないが、彼の必死さが無性に破壊衝動を煽り立てる。今までの人生で、クリーチャー自身が強者に翻弄された中で育んできた、歪んだ欲望の現れなのかもしれない。今まで他人の反応見たさに自分を害しようなどとは考えたこともなかった。
     当たり前のことだ、外界では死んで蘇ることはなく生は一度きり、待ち受けるのは共同墓地くらいのものだ。医者にかかることも難しいクリーチャーの立場では、長生きするためには可能な限り身を損ねないように努力する必要がある。一方、身に余る栄誉栄達富貴を掴むためには進んで危険に身を曝け出さねばならず、結果生死の区別がつかぬ場所へと流れ着いてしまった。
     だからこそ、あらぬ好奇心が溢れ出すのかもしれない。一歩荘園の外に踏み出せば、名もなく惜しむ人もなく崩れ去る自分に、一条の曙光が差し込むことがあるかを確かめてみたいと。自分さえも諦めた価値がそこに宿っているのかもしれないと。窓枠を握る手に力が籠る。木枠が上げる悲鳴はクリーチャーの渇望だ。
    「教えてくれよ、サベダー君」
    自分の死後に、一体どんな花が咲くのかを。
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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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