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    zeppei27

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    pkmnハサアオ、カジッチュを渡した後、恋心を自覚してもだもだするハッサクが、アオキを見初めたことを思い出したり、次の一手を考えるお話。まだ続きます〜

    前話 #1
    https://poipiku.com/271957/8132796.html

    リンゴ甘いか酸っぱいか #2 一度光を目にしてしまうと、人間はこれまで自分が暗闇の中にいたことを意識せざるを得なくなる。たった一度の偶然が全てを変えてしまうわけで、同じ景色でもまるで異なるものに見えてくるだろう。自分は何も知らなかったのだ――例えば、恋心を。思春期からは程遠く、酸いも甘いも噛み分けたハッサクにとって、まるで青年のように素直で飾り気のない思慕はまるで予想外のものだった。

     当初は、アオキのポケモントレーナーとしての才能に強く期待を寄せ、彼が芽吹く様を見たいと強者として考えていたはずだ。どんなに仕事だからこなすだけだと言い訳しようとも、アオキがオモダカに実力で見出されたことは純然たる事実である。パルデア地方のポケモンバトルを繁栄させることに確固たる意思で臨む彼女が、手近な人間で済ませようという怠慢を許すはずがなかった。

     オモダカと初めて手合わせをしたのは、アカデミーの就職面接の際である。彼女が理事長であることを聞かされた際には、パルデア地方は若手が率いる元気な場所なのだな、と一般的な印象を受けるにとどまっていた。ポケモンをより多くの人に知り、世界と共生することを体感・会得してもらうとは大きな野望である。ハッサクが既に通り過ぎた青さが眩しかった。そんな人間が頂点に君臨する職場というのはなかなか悪くない。

     だがその熱意が本物であると思い知らされたのは、最終面接と称した彼女とのポケモンバトルだった。自身の人生全てを体現すべく、全力をかけて戦ったという自負がある。負けたのは偏に彼女が強かったからで、なんとも単純明快話だ。大言壮語な理想も、尽くされる言葉も、バトルを通じて感得しただけで十分である。ハッサクは彼女を受け入れ、信頼に値すると素直に敬意を表した。

     故に、アオキには当初から並々ならぬ期待を寄せていた。ポピーにもチリにも、一体どんなバトルをできるだろうかと久方ぶりにソワソワとしたことをよく覚えている。アオキとて、まともであるはずがない。総当たり戦をするようオモダカの指令に、すぐさま自分は末席で良いというアオキには至極がっかりしたし、一瞬軽蔑しかけたのは思えば期待を裏切られたと感じたからなのだろう。

     彼の人となりをそれだけで判断するのは早計だと、頭を切り替えてチリ、そしてポピーと戦った。勢い、強さ、可能性、華麗さ、挑戦者が対峙すればきっと確かな手応えを感じて一皮剥けるだろうという確信を抱ける良い相手だったと思う。時には恥ずかしげもなく感涙し、感情の大爆発に冷静なツッコミを入れるチリとはうまくやっていけると感謝さえした。

     アオキは、どうだろう。バトルコートが隣り合っていたため、ハッサクは無意識に横で繰り広げられる勝負を気にかけていた。失礼に当たるかもしれないが、ポピーやチリと戦っている際にはよそ見をする余裕があったのだろう。彼女たちの戦いは、良くも悪くも素直だった。ハッサクのポケモンたちが強かっただけではなく、経験がものを言ったのだろう。即ち、彼女たちにはこれから先の伸び代があるし、実際に戦っている最中に成長が垣間見られた。次に手合わせする際には、こちらが余裕を失っているかもしれない。そうであってほしいと願うも、今のハッサクはアオキに目を奪われる一方だった。

     アオキはもちろん、こちらには目もくれない。それどころか彼は他の景色を見ているかのような目をしていた。まるで台風の目のように揺るがず、淡々と自身のペースでバトルを進める。熟練の技を広げる先には、哲学的な情景があるのではないかと錯覚させるほどに、彼は異次元に存在していた。古い文献で学んだ言葉がハッサクの脳裏を去来する。心身ともに感応し、思考を揺らがせることを想と呼び、心だけが感じた状態を夢と呼ぶという。アオキは紛れもなく彼が使うネッコアラの如き夢の中の住人だった。

     総当たり戦を始める前から勝負を降りようとしていた人間の姿ではない。アオキの取り組み方は無我であり夢中であり、虚心そのものである。ハッサクの注目と期待は否応にも増した。彼は強者だ――そして嫌味なくらいにその自覚を持たない。アオキが殊更口にする『普通』は異常である。他人と異なる物差しを持っているくせに、まるで自分は他人の中の無味乾燥とした一人に過ぎないという顔をする。その癖、この姿こそが一番なのだと奇妙な自信を孕ませていた。

     その目に、自分が映ったならば彼はどんな風に表情を変えるだろう。オモダカとはまた違う、同じ場所まで来れるのではないかという奇妙な期待はアオキと戦っていく中でどんどん大きく膨れ上がっていった。ポケモンバトルは生き方の体現だ。彼を知り、彼と歩み、切磋琢磨した果てに見る景色は、想像するだけでワクワクさせてくれる。

     かつて、コルサと出会って感じたものとはまた違う熱は、アオキにカジッチュを三体も渡した今から思えば既に仲間意識を超えていた。アオキが自分を機にドラゴンポケモンに目覚め、新たなる才能を開花させるとすれば喜ばしい。しかし、それで自分が満足するかと言われたらば違うと答えるだろう。満足できるわけがない。もっと、もっととその先を期待する欲望は単純素朴な皮を被った醜い欲望だ。

    「今頃、どうしているんでしょうね」

    美術室でムクホークの彫像を前にすれば、ただのポケモンとして造形をあれこれ考えるでなしに、同じポケモンを持つ人間の顔を思い浮かべてしまう。鋭い嘴を持つムクホークの冠羽は、どこかアオキに似ている。ふわりと被るそれで鋭くも柔らかくも見える眼差しは、太い眉の下でひっそりと動く彼の表情を思わせた。持ち主がポケモンに似るのか?あるいはポケモンが持ち主に似てくるのだろうか。

     以前、子供に向けたポケモンバトルの初級講座をアオキと共に行った際、彼の手持ちのポケモンは幼少期から共にある面々が半分を占めているのだと聞いた。恐らく、オモダカによる指示で別個揃える必要になったポケモンが残り半分だろう。彼が『普通』に拘るようになった流れは不明だが、遥か昔から固執していたことには違いない。赤ん坊から育てると、一緒にいるだけで故郷のように安心できるんですよ、と語るアオキの表情は常よりも柔らかかった。

     あの表情を見た瞬間、ハッサクは思いもよらず生徒が話していた『ギャップ萌え』なるものを感得した。なかなか懐かぬポケモンが、自分の差し出した餌を受け取ってくれた時のように胸が暖かくなる。あれは好意が高まった証左だったのかもしれない。赤ん坊の頃から育てられたポケモンのように、アオキの隣で自分の想いも育っていたのだろうか。自覚した今、彼の顔はどう見えていることだろう。

     答え合わせをしようにも、ハッサクは肝心の本人に会わぬままである。カジッチュを渡してから早くも一週間が経とうとしていた。彼に会いたい、会ってカジッチュをどうしているのか、どう思っているのかを知りたい。気持ちが急いても体は少しも動かず、常の自分からは驚くほどに腰が重いままだ。

     ボタンが教えてくれた、ガラル地方の恋愛成就の願掛けをアオキは知らないだろう。それでも、カジッチュをいらないと突き返されたら自分の胸は張り裂けて感情が大爆発しそうだ。一人で立つと決めてから、どんなポケモンバトルにも人生の転換点にも真正面から取り組んできたハッサクが久方ぶりに怖気付いてしまっている。勝負をする前から放棄していることはわかっているのだが、どうすれば勝算を立てることができるか五里霧中だった。

     多分、自分の血迷った感情など、アオキはなんとも思わないだろう。シャリタツには大いに動揺しているようだが、あれは極めて稀な事例だ。決死の気持ちで真っ直ぐに想いを伝えたところで、総当たり戦での凪いだ表情を返されることが容易に思い浮かべられる。恋愛とは、自分を突き破って他人の心と密になる特異な現象だ。アオキの執着する『普通』に収まり切れる自信がなかった。

     何も相手に合わせることが全てではない。好きだ、と一言告げれば自分のマグマのように煮えたぎった想いは爆発できる。そして鎮火せずに猛攻を仕掛けて――結局、元の木阿弥だ。現にこの方式ではアオキにドラゴンポケモンを使わせるには至っていない。攻め立てるだけが勝利の道のりではないと、ハッサクも経験上理解している。初恋でもあるまいし、どうしたってこうも自分を失いがちなのだろう。

     ムクホークの影が濃くなり、表情がさらに見えなくなってゆく。アオキは今頃どうしているのか、今夜は何を食べるつもりだろうか。せめてショートメッセージくらいは送るべきか?いい加減チャットアプリを駆使するようにと四天王のグループチャットで話されたものの、ハッサクは自分の時間を突き回されるような心地がして及び腰だった。当然ながらアオキは仕事のために駆使できている。

     アオキにメッセージを送り、返事をもらう様を想像してハッサクはほんわりと胸が暖かくなった。文字だけでは物足りないが、顔を合わせにくい状況では救いの一手と言える。今までやり取りをしなかったつけが全てに響いていた。美味しいものを食べに行きませんか、と誘うべきか。急に誘ったらば変に思われはしないだろうか。嗚呼、二進も三進も行かずに八方塞がりだ。

    「ハッサク先生、どうかされましたか」
    「ああ、タイム先生」

    ハッと背筋を震わせれば、視界の向こうで窓の外は宵闇へと姿を変えていた。いつの間にか閉校時間になっていたのだろう。戸口から心配げな声をかけてくれた同僚に、ハッサクは気恥ずかしさから苦笑した。ムクホークの影が濃くなったのは、何も気持ちだけの問題ではなかったのである。感情的になりすぎるとよく評されるが、感情で現実を見誤うのはただの失態だ。今朝教員室で見かけたホワイトボードに、今日の当直はタイムだと書かれていた気がする。ぼんやりとしたままの自分を気遣ってか、タイムはゆっくりと近づいて彫像を眺めた。

    「あれこれ考えていたらば、いつの間にか夜になっておりました。心配してくださり、感謝しますですよ」
    「考え事で頭がいっぱいになると、時間が過ぎ去るのはあっという間ですものね」

    そもそも大人の時間は瞬く間にすり抜けてゆくものだから、とタイムはおっとりとした調子で言う。子供と大人の時間の感じ方はそもそも違うのだ、という彼女はほぼ同世代だろうから、日々の感じ方はハッサクと似たり寄ったりだろう。時間が蓄積する速さは子供の方が早いが、それは時間が彼らの中に留まる余裕があると言うことなのだ。

     今の自分には、別の意味で余裕がないと言える。扱うポケモン同様にどっしりと揺るがないタイムの姿勢に、ハッサクは羨ましささえ覚えた。彼女であれば、こんな風にもだもだとまごつかずに済むだろうか。次期長として教育を受け、果断すべしと骨の髄まで教えを染み渡らせてきたはずが、たった一人の人間に惑って行き場を失っている。

    「……会いたい人が、いるのです。けれども、どう顔を合わせたものか困ってしまって。いずれ会えるとは思うのですが、自然に接することができるか、お恥ずかしながら小生は自信がありません」
    「まあ」
    「すみません、愚痴をこぼしてしまいました」

    呆れたろうか、と顔を見やれば、タイムに浮かんだ表情は心配、好奇心、ついで年を経たキョジオーンの如き威厳だった。なるほど、クラベル校長が恐れるだけはある。あの場合は失態により当然の報いを受けているだけだが、ハッサクは教師に呼び出された少年のようにドキドキしていた。

    「わかりますよ、構えてしまうとついつい肩肘を張ってしまいますもの。自然に顔を合わせることができれば、話も滑らかにできますから……そうだ、ハッサク先生。デッサンはいかがでしょう?」
    「で、デッサンですか?」
    「ええ。いつも学生さんたちはポケモンや、景色を描いているんですよね。人間はどうかしら」

    教室をぐるりと見回し、タイムはいろとりどりの形を示してみせた。メタモン、ピカチュウ、自分の実家、思い出の場所、ものの形は多かれども――人間を描いたものはほぼないと言って良い。一部胸像をモデルにしたものはあるが、生身の人間を描いたものはなかった。

    「生きている人間を描くことで、新しい発見や刺激があるかもしれませんよ。実際にお買い物をしながら思い出すと、数学も身につきやすくなりますし」

    試験に出したこともあるんです、とタイムは柔らかく微笑む。なるほどわかりやすい。難しいものを身近にすることで会得させやすくするのは、鉄板の教育法でもある。教師としてあれこれ考えてきたつもりだったが、自分に応用することなどついぞ思いもよらなかった。確かに、アオキにデッサンのモデルを依頼することはオモダカを通じれば容易だろう。他のジムリーダーを織り交ぜればより自然だし、チャンピオンロードに挑みやすくさせる布石だと言って仕舞えば嘘もない。

     アオキは嫌がりそうだが、仕事には嫌々ながらも応じる。本来はコルサのように、気軽に呼べる状況が理想だが、今のハッサクは建前なしではまともに顔を合わせることができそうになかった。また様子を見にきます、美味しい店を紹介します、などと約束したのはハッサクだと言うのに。恐らく、アオキは少しも気にしていないだろうと思うと気分がどんよりと湿り気を帯びる。

    「ご助言、感謝いたしますですよ。小生、ここは勇気を持って声をかけることにします」
    「応援していますよ。さ、帰りましょうか。残っているのはこのお部屋が最後なんです」
    「なんと!申し訳ありません……」
    「ハッサク先生のお悩みを聞けるだなんて、そうない機会ですもの。頑張ってくださいね」
    「はい!」

    いいお返事、と頷くタイムは正に教師の顔をしていた。生徒に、誰かに相談を受けた時には自分もこうでありたい。アオキをモデルに呼ぶことでどんどんと想像が膨らむ頭をなんとか冷静にすると、ハッサクは今度こそ帰り支度を急いだ。

    「オモダカさんに、メッセージを送らねばなりませんね」

    あるいはこの際電話でも良いだろう。アオキ相手を想像した時よりも余程気持ちが楽になる現金さに苦笑を禁じ得ない。多分、彼女は自分の邪さを推測さえしないだろう。彼女に必要なのは、目的に沿った行動、目的に向かうための道なのだ。そして、ハッサクもまた、自らの望む目標地点への到達を目指している。

     まずはライムからモデルの依頼を開始しよう。タイムの姉妹でもあり、生徒の中で彼女の音楽スタイルは人気であるようだ。いきなり指名が入ればアオキは間違いなく警戒する。攻めるには慎重に。しかし、着実に近寄るべきだ。とは言え、顔を合わせぬままはどうにも格好がつかない。無意識に避けていた現実に思い当たり、ハッサクは心中密かに舌打ちした。

    「……ジムの方に、様子を聞いてみましょうかね」

    例えば、シャリタツは元気であるかとか。カジッチュについて、直接聞く勇気はまだなかった。

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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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