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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    POIPOI 83

    zeppei27

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    ハサアオ話の続きだよ!ちょっかいを出してくる(語弊)ハッサクに慣れつつあるアオキが、一緒に鍋を突きながら心をくすぐられる話。まだ続く

    前話 #1
    https://poipiku.com/271957/8173131.html

    アオキは全具材おかわり派、ハッサク先生は最初はバランス良く……のはずが最後は肉だけ食べてるというのもいいなあと思います。〆を雑炊にするかうどんにすかで毎回バトルする。

    正しさの証明 #2 暇な人だ。アオキの中で、ハッサクの印象は右肩下がりの一方である。会うたびに何がしかの注意を受け、なんやかや時間を潰してゆくうちに説教に入る。最初の数回こそ真面目に傾聴したものの、今では説教されるんだな、と理解すると同時にどこか冷めた気持ちで聞き流していた。ハッサクは本当に細かい。挨拶や返事の仕方、メールの文章、退出方法におさだまりのやる気問題、身だしなみに、一体どこまで自分のことを見ているのだろうかと空恐ろしくなる。アオキ自身でさえも自分のことをそこまで細かく知りもしない。

     一方的に責められる日々の中で、アオキは面倒臭さと同時にハッサクの育ちの良さも感じていた。ピケタウンで営業活動をした帰りで髪の毛が乱れていた時には、どこからか取り出してきた櫛で整えながら身だしなみの大切さを説き、不健康に見えると言って大量に食べたくなるような美味しい店に連れ出したりもする。説教のつまらなさに眠らないよう下唇を噛めば、傷がつくと嗜めた後、後日新しいリップクリームを寄越してきた。もらったものは有り難く受け取る口なので、そのリップクリームはいまだに思い出した時に使用している。

     要するにお節介なのである。その一点においてアオキにとってハッサクの印象は改善されようが無いのだった。森の中に埋没する木のように『普通』を生きているというのに、自分よりも問題行動の目立つそのほか大勢ではなく、突飛さのかけらもない自分に執拗に絡むだなんて彼は暇人なのだろう。もちろんアオキ自身の不運は言うまでもない。彼からもらった小物で鞄は重くなったし、テラスタイルオーブの風で髪が乱れることを気にするようになってしまった。『普通』の範疇に入る出来事とはいえ、大切にしてきた気楽さはだんだんと遠のきつつあった。

    「今日の店は小皿料理が有名なんですよ」
    「はあ」

    ナッペジムを回った帰り道、もはや当たり前のような顔をして食事に誘われてアオキは生返事を返した。小皿料理とはどんなものが出てくるのだろう。ハッサクのことだ、雅やかな色とりどりの凝った皿にちんまりと礼儀正しい料理が載ったものを食べさせてくれるはずだ。自分の財布に見合うものであれば良いのだが。年中冷えた空気と粉雪とで頬が冷たくなる。流石にマフラーを巻いてきたものの、コートを羽織るべきだったかとアオキは反省していた。一方のハッサクは仕立ての良いポロコート(洒落た服の名称はチリが教えてくれた)を身につけており、万全の態勢を整えている。美術教師とは思えないほど、普段から体を鍛えているということもあるのだろう。健全さを押し付けてくる精神は、頑健な体に宿るらしい。

    「ですが、小生のお勧めはみぞれ鍋です。メニューにはないのですが、以前あまりにも寒さに堪えた折に店主が出してくださいまして。以来、店を訪れる際には必ず注文するようにしています」
    「鍋はいいですね」

    一挙に心が明るくなる。ニカ、とハッサクの顔が笑って彩を添えた。そう、面倒臭さは伴うものの、この男と一緒にいる利点もある。矢鱈と自分を観察しているのは伊達ではなく、こちらの胃袋にぴったりの店を見繕ってくれるのだ。調子づいたハッサクは滑らかにお気に入りの鍋の話を広げてゆく。鍋の具材は季節に合わせて変わり、毎度新しい発見があると同時に定番の綺麗なさしが入った肉も豊富だと言う。シンプルなつくねも美味しいらしい。ますます良い。珍しいだけではない、安定に根差した料理はアオキの好む形だった。

    「たくさん食べてください。体が保ちませんよ」
    「……先日、自分が空にした皿の数で驚いたばかりでしょう」

    もう忘れたのか、と呆れた声が出てしまった。ハッサクは年長者だが、四天王である限りは年齢に甘えてなどはいられない。認知能力に支障が出るにはまだ早いが、得てして神は愛した人間を早く手元に招きがちだ。医者でもない自分が確かめるだけ無駄か、と通りに目を向ける。フリッジタウンは今日も凍えるほどに寒く、反面街中は明るく賑やかで興味深い。アイスを片手に並んで食べる老夫婦が目に入り、おでんか焼き串であって欲しいと二度見した。アイスだ。それも真っ青なアイスバーで、心底美味しそうに食べている。普段であれば自分も買ってみようと興が乗るものの、流石にこの寒さでは背筋がゾワゾワとするばかりだった。

    「温かいものを食べると、冷たいものが食べたくなりますからね。ここの食べ物はいつも熱すぎるくらいだと思うのですが、存外贅沢な希望を叶えようとしているのかもしれません」
    「ハッサクさんも冗談を言うんですね」
    「小生は真面目に言っているのですよ、アオキ。あなたは細すぎて、本当に中身があるのか心配になる」
    「ぐぇっ」

    いきなり腰を掴まれ、アオキは口から内臓が出るのではないかと目を剥いた。傍目から見てもわかる通り、ハッサクの鍛え上げられた握力がアオキの腹を圧迫している。その勢いたるや大型ポケモンの比ではなく、彼がポケモンと戯れている姿を微笑ましいと思っていた過去の自分は大間違いだった。胃から肺へと圧迫感が迫り上がってゆく。ハリテヤマの一撃に匹敵する攻撃に、勘弁して欲しいと自分を掴むハッサクの手を上から叩くとようやっと解放された。膝に手を当てて思い切りゲホゴホと呼吸を繰り返す背を、優しげな声でハッサクが何事か語りかけるも意図的に無視した。

    「――に、すみません、アオキ。ですがあなたは矢張り食べた方が良いですね。今夜は小生が奢ります。存分に食べてください」
    「お言葉に甘えさせていただきます」

    肝心なところでしっかりと即答できたのは合格だろう。一度は断ることが礼儀だと叱責されることも流石になかった。店は割合に近いらしく、何故か陽気さを増したハッサクの足取りが早くなる。あからさまに避けようとする相手に喜んで突っかかってくる時点で良識人から程遠い通り、少々難があるのかもしれない。だとすれば、周辺調査で一度も尻尾を出さなかった用意周到さをどこで捨てたのか。人格者の考えることは実に理解不能だ。

     ハッサクは自分に何を求めているのだろう。試験であれ何であれ、合格点を達成できればそれで良いとしてきたアオキにとって、その一線を越えることはただただ面倒だった。突飛さには責任がつきまとい、永劫求めたところで果てはない。時に冒険は楽しく刺激的であるとしても、一度手放した『普通』に舞い戻ることは難しい。自分が求めるのは揺るがない安定と安心であり、当たり前にして得難い居場所だ。

     飛び出すには、目を開け続ける心の余裕を失って久しい。時間は蝕まれ繰り返しに忙殺され、それで良いのだと自分なりの回答も提出済みだ。ハッサクにとって自分がなんであるかは知りたくもないが、彼が掲げる正しさを目の当たりにするたびに心がささくれ立つ。なんでも正しければそれで良いのか?そんなに正しくなくてはいけないのか?どうせ正しいだなんて誰にもわかるはずもないのに、どうだって良いではないか。

     喧嘩をする気力があれば、万に一つもアオキが拳を出す可能性は多々あった。暴力では結局解決できず、むしろハッサクが万に一つでも喜んでしまいそうで恐ろしい。この男は一体何を考えているのだろう。ぐるぐると渦巻く目が今日も爛々と輝きを放ち、品の良い小料理屋の扉をガラガラと引いた。渋い衣装を纏った女性の綺麗なお辞儀が目に入る。彼女はハッサクに合格点をもらえるのか、と余計な考えが頭をよぎった。

    「ハッサクさん、いらっしゃいまし。今日はお連れさんも一緒ですね」
    「はい。いつもの鍋をお願いできますか?」
    「もちろんご用意できます」

    多分、そんなやりとりをしていたように思う。まるで他人事なので、曖昧に頷いて部屋の暖かさをありがたく思う以外は不要だ。個室に案内されて掘り炬燵式の床に座ると、だらりと足を楽に伸ばす。寒空に酷使した体は常と変わらぬ長さの道を何倍も伸ばしたかのように感じられた。と、足先に触れた床からほんのりと温かさが伝わりアオキは眉根を寄せた。何かポケモンがいるのだろうか?思わずそっとテーブルの下を覗くも何も見当たらない。首を傾げながら座り直すと、ハッサクがふふふ、と心底嬉しそうに笑っていた。

    「この店は床下に湯が通るので温かいのですよ。近場に温泉があるそうです」

    無作法さを常のように咎めず、穏やかに説明する眼差しはどこまでも優しく透き通っている。多分、生徒にはこのような表情で語りかけるのだろう。ハッサクを誉めそやす人間の気持ちがアオキにもわかるような気はした。お小言と説教の嵐をやり過ごす自分とは存在する世界が違う。子供のような行動を見られた気恥ずかしさから咳払いを一つすると、運ばれたおひやで喉を潤した。ひんやりとした空気が呼気を透き通らせる。温められた後に冷たいものを欲する人々は、きっと同じ気持ちを味わっているに違いない。

    「なるほど、温泉でしたか。……何も言わないんですね」
    「何をですか?」

    つるりとこぼしたセリフに、冷水で冷えた体がさらに冷える。くすぐったさを下手に誤魔化そうとする自分の不用意さが呪わしい。普段と異なる対応をされたからと気を抜いてしまったのだろうか?普段通りのお小言や説教を疎んでいたのはアオキ自身である。緩んだ空気の中で鍋を楽しめば時間が勝手に流れていくだけなのに、自ら水を差してどうするつもりだ。ハッサクの瞳が微かに鋭さを増す。難詰される前触れに、アオキは懸命に鍋を頭に浮かべた。ハッサク相手に取り繕ってやり過ごすのは難しい。この男はハブネークよりもしつこく辛抱強い。

    「生ビールお持ちしました。鍋の準備もしていきますね」
    「ありがとうございます」

    ハッサクが愛想良く店員とやりとりする様を観察しながら、アオキは一つの作品が仕上がってゆく様子を目で楽しんだ。鍋の良いところは、ある程度支度を進めれば食べながら準備ができる点であるように思う。作る楽しみと出来立てを収穫する楽しみの双方が無駄なく同時に存在し、大概の人間が問題なく参加することもできる。つまり、会話に次穂を見出せずとも居心地良くする道具でもあった。会食に選ばれることもままあるのは、同じ鍋を突くことで共同作業をした一体感を錯覚させやすいからだろう。

    「ハッサクさん、お疲れ様です」
    「お疲れ様ですよ、アオキ」

    店員が去った頃合いを見計らって率先して乾杯する。礼儀正しいハッサクは素直に従い、互いにジョッキを掲げた。開いた唇から問答無用に液体が雪崩こみ、一日の疲れと文句とくだらぬ感情の澱を流してゆく。先ほど水を飲んだというのにまた干上がったのか、瞬く間に半分ほどを呑んでしまった。見た目は同じ琥珀色でありながら、普段飲み慣れたブランドの淡い味わいと異なりガツンと胃袋を叩くような濃さがたまらない。後味は苦さの中に甘い果物を彷彿とさせるもので、以前にフリッジタウンで食べたマルメロジャムに似ている。ジョッキに描かれたクレベースを模したロゴを眺めていると、いつものようにハッサクがアオキの世界に情報を加えた。

    「ここの店主の御子息が作ったビールです。地ビールの一種でしょうね。口に合いましたか?」
    「ええ、とても。すみません、注文を任せてしまいました」
    「謝る必要はありません。小生が案内した店ですから、大船に乗ったつもりで任せてください。……それで、先ほどは何を言って欲しかったのでしょう」

    やはり忘れていなかったらしい。頬に痛いほど視線が刺さっている。しかし、すでに織り込み済みの出来事だった。ジョッキから顔を上げ、尻尾を捕まえようと構えるハッサクを見つめ返す。アルコールと鍋から上がる蒸気でほのかに赤く染まったハッサクの顔は常よりも幼さが強調され、猛々しさが鳴りを潜めていた。恐れを抱きそうになる瞳さえも、まるで煮詰めたマルメロに見えてくる。

    「……それ」
    「それ?」
    「ハッサクさんは知識が豊富ですから、いつもあれこれ説明してくれるでしょう。だからその……温泉について説明がないのは珍しいなと、思いました。……いつも、話を聞いてるんですよ」

    面白いですから、と普段の『聞いてませんね、アオキ』への仕返しも込めて付け加える。さて、これにどう返してくるものか。腰を上げて肉と葉物野菜、大量のキノコを鍋に投入すると、アオキは静かに相手の出方を伺った。最初に何を取るかが問題だ。追加を投入するにあたって見た限り、先に煮ていた根菜類の状態は良さそうである。最初はやはり肉か。お上品にバランス良くどの食材を取るのも良い。ハッサクに好き嫌いは何だったろう。肉を多めに渡した方が喜ぶだろうか。年長者のハッサク自ら取るのが妥当だな、と判断してアオキは染みついた職業病を追い払った。ハッサクの前で必要以上におもねるのは悪手になりうる。

    「ハッサクさん?」

    声が小さいどころか、何一つ聞こえないとは妙だ。ジョッキの残り半分を傾けて、アオキは真っ直ぐに声を出した。周囲が賑やかであっても、ここは個室で差し向かいだから聞こえぬはずはあるまい。

    「そうですか、聞いて……興味深く聞いていたのですね」
    「ええ」
    「な、ならば構いません。ええと、ここの温泉は――」

    ハッサクの顔はいよいよ赤く染まり、耳まで茹で上がっている。アルコールに弱かったろうか、否、これは素直に照れだと判断して良さそうだ。ハッサクがありがちな『普通』の言葉に照れるとは意外な話である。褒め言葉などいくらでも受け取ってきただろうし、美辞麗句が耳にオクタンだろう人の反応に、アオキも釣られるようにしてじわりと頬が熱くなるような気がした。

     温泉の話をなんとなく聴きながら、みぞれ雪を鍋に降らせる。煮え切らない心地に蓋をして、アオキはジョッキに残ったビールを傾けた。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。前作を読んだ方がより楽しめるかもしれません。遅刻しましたが、明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう~!会えなくなってしまった隠し刀が、諭吉の誕生日を祝う短いお話です。

    >前作:岐路
    https://poipiku.com/271957/11198248.html

    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ro
    ハレノヒ 正月を迎えた江戸は、今や一面雪景色である。銀白色が陽光を跳ね返して眩しく、子供らが面白がってザクザクと踏み、かつまた往来であることを気にもせず雪合戦に興じるものだからひどく喧しい。しかしそれがどんどんと降り積もる量が多くなってきたとなれば、正月を祝ってばかりもいられない。交通量の多い道道では、つるりと滑れば大事故に繋がる可能性が高い。
     自然、雪国ほどの大袈裟なものではないが、毎朝毎夕に雪かきをしては路肩にどんと積み上げるのが日課に組み込まれるというもので、木村芥舟の家に住み込んでいた福沢諭吉も免れることは不可能だ。寧ろ家中で一番の頼れる若手として期待され、庭に積もった雪をせっせと外に捨てる任務を命じられていた。これも米国に渡るため、芥舟の従者として咸臨丸に乗るためだと思えば安い。実際、快く引き受けた諭吉の態度は好意的に受け止められている。今日はもう雪よ降ってくれるなと願いながら庭の縁側で休んでいると、老女中がそっと茶を差し入れてくれた。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。諭吉が隠し刀の爪を切る話。意味があるようでないような、尤もなようで馬鹿馬鹿しいささやかな読み合いです。相手の爪を切る動作って、ちょっと良いですね……

    >前作:黄金時間
    https://poipiku.com/271957/11170821.html
    >まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    鹿爪 冬は、朝だという。かの清少納言の言は、数百年経った今でも尚十分通じる感覚だろう。福沢諭吉は湯屋の二階で窓の隙間から、そっと町が活気付いてゆく様を眺めていた。きりりと引き締まった冷たい空気に起こされ、その清涼さに浸った後、少しでも暖を取ろうとする一連の朝課に趣を感じられる。霜柱は先日踏んだ――情人である隠し刀とぱり、さく、ざく、と子供のように音の違いを楽しんで辺り一面を蹂躙した。雪は恐らく、そう遠くないうちにお目にかかるだろう。
     諭吉にとっての冬の朝の楽しみとは、朝湯に入ることだった。寒さで目覚め、冷えた体をゆるりと温める。朝湯は生まれたてのお湯が瑞々しく、体の隅々まで染み通って活きが良い。一息つくどころか何十年も若返るかのような心地にさせてくれる。特に、隠し刀が常連である湯屋は湯だけでなく様々な心尽くしがあるため、過ごしやすい。例えば今も、半ば専用の部屋のようなものが用意され、隠し刀と諭吉は二人してだらけている。
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