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    zeppei27

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    アークナイツから、足を怪我してしおしおするウユウさんと、大人の対応をするリー先生の話。推しと推しが話すのは健康に良い。

    *題名の「開心(开心)」は中国語で、ここでは「気晴らし」くらいの意味です。

    #アクナイ
    #ウユウ
    #リー先生
    dr.Lee.

    開心 ロドスの甲板は今日も賑やかだ。家庭菜園や薬草園の手入れで泥まみれになる者、それに水をかけてしまって慌てる者、牧場で家畜に餌をやっていたらば鼻水をなすり付けられる者、出るも入るも忙しく喧しい。早朝から、ここはちょっとした小都市のような有様なのだ。有事には物々しい装備に身を包み、凛々しい顔立ちで外へと赴く人々も、束の間の平和を感受している。日常と非日常の危うさを、当たり前の積み重ねで跳ね除けているのかもしれない。
     中でも熱気を孕む集団は、甲板中央部に陣取る一団だ。なんの道具も手に持たず、寧ろ動きやすい簡素な出立だけで手足を動かす人々は、不恰好な群舞を踊っているようにも見える。
    「自分の体のどこに力を入れているのか、己の”意”を感じよ。無駄な力を抜き、想うがままに己の手足を動かせることが第一だ」
    「「「「はい!」」」」
    朗々とした声が、甲板に吹く一陣の風に乗って轟く。揺るがぬ芯を持った言葉は将師に相応しく、応じる声も背筋がピンと張るかのように背筋を正していた。声を上げるのは下は体も小さく幼いスズラン、上は名は体を成すマウンテンと、ロドスの多様性を凝縮したような種々とりどりの弟子たちである。
    「蹞歩(きほ)を積まざれば、以て千里に至るなし」
    弟子たちを導く声の主——チョンユエが皆の前で手本を見せる。
    「騏驥(きき)も一躍にして十歩なること能わず」
    水を得たように弟子たちも習い、空に向かって腕を突き出し、あるいは脚を高く蹴り上げる。ああせよこうせよと口頭で指示されずとも揃って動くのは、彼らの『意』が重なっている証拠だろう。
    「駑馬(どば)も十駕(じゅうが)すればまた之に及ぶ。功は舎(さ)めざるにあり」
    チョンユエが口ずさむ詩のような炎国の言葉は、古の学者が言うところの鍛錬を続けよというものである。千里の道も一歩から、努力の積み重ねがなければ持てる才覚も意味がない。誠耳に痛い話で、真っ当を絵に描いたような人物が説いたのでなければ明後日の方向を見たくなる内容だ。
    「事実は小説よりも奇なり、なんですよね」
    清々しいほどに剛直なウユウの姿を眺めながら、ウユウは唇を尖らせた。同じセリフを自分が囀れば胡散臭くなるだろう。己の不得の為せる技だ。チョンユエのような生きた伝説にこそ相応しい。腫れ上がった右足首をじっとりと睨むも、血肉の通った生臭い生き物である事実からは逃れられようもなかった。
     随分と前に炎国でのいざこざで怪我をして以来、どうにも自分の足は妙な癖を覚えてしまったらしい。ぎっくり腰と同じだと医療オペレーターたちは口々に慰めてくれたものの、ただドアを蹴り破っただけで挫くなど羞恥の極みである。よよと泣いてもクルースには嘘泣きだと見破られ、感情の行き場はどこにもない。
     嘆いたところですぐさま足が治るでもなし、懸念されるのは己が開講した功夫教室の行く末である。ウユウにとってこの空間は己の顔つなぎと、合間に講談や占いで小銭を稼ぐ重要な場所だった。子供が中心であるため後者は然程旨みはない。さりとて続けるのは——さてどうしたものか。
    「素晴らしい、大盛況ですよ」
    唸ったところに現れたのはチョンユエである。本物の武人、正道の覇者に声をかけられて感銘を受けぬ者がいるだろうか?ウユウは俗人なので震えて舞い上がった。エフイーター、憧れの映画スターに出会って以来の衝撃である。小銭は要らぬと講師料を断るチョンユエの背中は眩しかった。
     かくて開講の始祖は甲板の隅で安楽椅子に座り、映画の一場面を眺めるように人々の鍛錬を眺めている。チョンユエの手際は見事なものだ。なんの他意もなく、ただ只管に鍛錬に打ち込んでいる。その成果が彼なのだから、反論のしようもない。感動は瞬く間に人々の間に伝播し、野火が草原を舐めるように参加者は日に日に増えていった。三日目の今日にして、既に参加者の参加曜日を設定することが取り決められている。あの引きこもりのドクターでさえも参加することが決まったらしい。以降はより一層の繁栄が約束されたようなものだ。
     自分が開講した功夫教室が予想外に広がったのは嬉しいが、一抹の寂しさを覚えるのは罰当たりだろうか。五体満足になり、あの群れの中に入るのは待ち遠しいし、チョンユエの教えは是非とも受けたい。それでも心のどこかで引っ掛かる湿っぽさを拭いきれず、ウユウの表情は晴れなかった。
    「おや、今日の天気は曇りですか。こいつは大変だ、傘を持ってこないと」
    スウっと入り込んできた声に背筋が震える。ウユウは軽く飛び上がると、ニヤニヤと笑う大きな影に窮状を訴えた。
    「お、脅かさないでくださいよ、リー様!危うく椅子から落っこちるところでしたよ」
    「冗談でしょう、ウユウ『先生』。あんたならもう五十歩手前から気づいてたでしょうに」
    「とんだ買い被りですね。……あー、何用かお伺いしなくちゃいけませんか?」
    ああ言えばこう言う。大男、総身に知恵が回りかねと言ったのはどこの誰だろう。天をつくほど背の高い龍門随一の探偵には、小鳥の小細工など児戯に等しい。偶にしか訪れない彼に出会したのが運の尽きだ。取り繕う隙を与えぬリーはウユウと似ているようで異なり、例えるならば銀と錫のような関係だ。どちらがどちらかはご想像に任せよう。
     今のウユウの気分は、さながら大海を漂流する小舟だ。ロドスという前向きな共通項で結ばれた二人ではあるものの、手のひらで転がされる一方という気分はどうにも落ち着かない。可能な限り接触を下げたいというのが本音で、もちろん相手はきちんとそれを理解しているのだった。
    「なあに、座ってるだけでも退屈でしょう。小吃を持ってきたんで、お裾分けです。ご迷惑でしたかね」
    小吃、と言いながらリーが手にする袋を見て、ウユウは立ち所に覚悟を決めた。
    「否々否々否々!大歓迎ですとも。リー様の手料理の素晴らしさは江湖広しと言えども他に並ぶ者がいないとこのウユウ、とくと承知しております。仏僧でなくとも壁を飛び越えて見せましょう」
    「ぷっ、大袈裟な」
    「お疑いとは嘆かわしい。本気ですよ」
    リーの手料理がロドス内で垂涎の的となっていることを本人は知らないのだろうか?両手を挙げて迎え入れる面々だけでなく、苦手意識を持つウユウでさえも、ドクターにお願いをして分けてもらうほどのものなのだ。普段料理を振る舞う機会の多いウンが、自分のそれよりも上手だと褒めちぎったものだからその価値は今や龍の髭級である。万金を投げ打っても手に入らないし、手に入った人間は譲るまい。
     大見得を切ったのが気に入ったのか、リーはくすくすと笑いながら袋から緑色の塊を取り出した。牛の角に似た形は見間違えるはずもない、粽子だ!驚いたことに、ふんわりと爽やかな香りを放つ笹の葉はまだ温かい。リーは惜しみなく二つウユウの手に載せると、今朝温め直したばかりなのだと教えてくれた。ドクターの朝食にしようと持ち込んだらしい。
    「中身は開けてからのお楽しみ、ってね。……うん、良い表情だ。少しは気分が上がりましたか?」
    「ご明察の通りで。ありがとうございます」
    自分を元気づけようとしてくれたのだ、と気づいてウユウはむぐむぐと唇を動かした。こんな時に限って扇を取り出すのが遅い。両手は粽子で埋まってしまったし、今更隠そうにもこちらの胸の内はお見通しだろう。謹んで礼を述べると、リーは短く頷いて去って行った。惚れ惚れするほどこちらに未練がない。器の違いを見せつけられたような心地になりつつも、からりとした彼の態度のおかげで、気まずさは然程なかった。
    「開けてからのお楽しみ、ね」
    未来は目の前に来る瞬間まで不確定だ。ただ、粽子が粽子であるように、ウユウもウユウであるという不動の事実だけを受け入れるより他にない。
     茶を淹れよう。あるいは豆乳でも良い。きっと美味しく味わえるはずだ。懐に熱々の粽子を上手に仕舞い込むと、ウユウは朝練を終えて汗を拭う生徒たちに向かって手を振った。


    〆.
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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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