流星雨良守は上空に結界を作って寝そべり夜空を見上げいた。
すでに仕事は終わっていて、ちょっと考え事をしたいからと時音たちには先に帰ってもらった。
特に考えたいことがあったわけではないが、誰にも邪魔されずにぼーっとしていたかっただけなのだ。
昼間は暑さにやられてそれどころではなかったし、この夜の空気は昼間に比べて少し涼しくちょうどよかった。
両手を枕に空を見上げていると、目の前をすっと星が流れていった。
「あっ」
気づいた時にはもう消えていた。
小さいころ、流れる間に3回願い事を言えれば叶うというのを正守に教えてもらったことを思い出した。
あんなに速いのに3回なんて無理だろう。
(願い事…叶えたいこと…)
ただぼーっとしようと思ってただけなのに、流れ星を見てしまったおかげですっかりと考え込んでしまっていた。
するとまた目の前を星が流れていった。
先ほど流れたばかりなのに、なんて今日はラッキーな日なんだろう。
一時的に思考を中断させ再度空を見上げる。今度は時間をあけずにまた流れた。今度は2つ同時に。
さすがにいつもと違うことに気づいた。そういえば、昼間のニュースで今日は流星群が見られるというようなことを言っていた気がする。
「ってことは、まだ流れるのか」
良守は再び、ゴロンと結界の上に転がり今度は大の字になって夜空を見上げた。
ピークの時間が近づいてきているのか、さきほどよりも落ちてくる数が増えてきた。じっと見ていると自分が夜空に吸い込まれていくような錯覚に陥る。
ここまで落ちてくるってことは、ずっと願い事を言い続けたらどの星かが落ちる時うまくタイミングがあって叶えてくれるだろうか。
「俺って天才じゃん!」
気づいてしまったら仕方がない。さて、何を願おう。
ケーキ作りの道具が欲しい、レシピ本が欲しい、烏森を封印したい、・・・・・・兄貴と…
そこまで考えて頭を振って打ち消した。何を言おうとしていたのか。
大概のことは星に願わなくてもなんとかできそうな気はする。でも、最後の願いは。
「やっぱりここは一番可能性が低いものを願っとくべきだよな」
そういうと、星を見上げながら願いごとをブツブツと口の中で何度もつぶやき始めた。
しばらくしたころ、ふと気配を感じて起き上がる。
寝ころんでいた頭の先には、同じく結界を作って座り良守を眺めている正守がいた。
「うわぁぁぁぁぁ!お前いつからいるんだよ?!」
ビックリして結界の隅まで後ずさる。
「ん~、お前がブツブツ言い始めたあたりから?」
「もしかして聞いてた?」
「何を?なんか変な呪文でも唱えてるのかと思って面白がって観察してただけ。何を言ってるかまでは聞こえなかったけど?何言ってたの?」
「聞こえてないならいい!お、お菓子の城が作れますようにって言ってただけだから」
そうは言ったものの、良守は聞かれていたかもしれないという不安に心臓がバクバク言っていた。
「そうなんだ?ふーん」
正守はそれ以上は何も言わなかった。
しばらく二人はそのまま流星群を眺めていた。正守は何を考えているのだろうとちらっと横目で見たが、まったく表情が変わらず良守にはわからなかった。
「じゃ、そろそろ帰るわ」
「何しに来たの?」
「たまたま通りかかったら良守がいたから一緒に流れ星でも見るかなと思っただけ。願い事叶うといいな」
そう言いながら良守の頭をポンと叩くと、正守は本当にその場から去っていってしまった。ただ、今まで見たこともないような笑顔をしていたことは見逃さなかった。
残された良守はポカンとしていたが、夜明けが近づいてきた気配を感じ慌てて家路についた。