【弟はとても小さい】
弟が生まれた。でも弟と言われてもよくわからない。猿みたいだし。
みんなが正統継承者だと喜んでいる。なら、僕はもういらない?今まで修行だって頑張ってきたのに?
誰もいない時にじっと見てみた。自分で歩くこともできないししゃべることだってできない。何もできなくせに。なのに僕より必要なの?
そんなことを考えながら手を伸ばしたら僕の指を小さな手でぎゅっと握って笑ってくれた。こんなにかわいいもんなのか。僕って君にとって必要?そう思ってくれるならうれしいな。
なんとなく居る場所がなくなっていたけど、見てたら弟もいいなって思えるようになってきた。
正統継承者ってなに?良守は僕の弟なんだ。そんな弟はとても小さい。
【弟はまだ小さい】
なんでも真似をするし、なんでも兄ちゃんと一緒。出かける時もついてきたがる。
そのくせ自分でしたがる。できないくせに。それで泣いて俺を呼ぶんだ。めんどくさい。
と思いつつも、いつも助けてしまう俺は弟には甘いのかもしれない。
今日だって傘を持つって言ってきかない、引きずっているのに。そのうち飽きて俺に押し付けてくるんだろ。分かってる。
良守は最近修行を始めた。まだ全然だけど。そのせいなのか、たまに右手を隠すようになった。方印のせいで、こんなに小さな弟に気を使われたくない。方印があるからなんだというのだ。
お前が生まれた時にそのあたりはもう理解したんだから、お前は気にせず堂々としてればいいんだ。まだ俺のほうが全然強いしもっと強くなる自信もある。
正統継承者だからなに?もっと俺を頼ってくれればいいのに。だって弟はまだ小さい。
【弟はやっぱり小さい】
いつも俺に対して不機嫌だ。強くなって欲しいと思って少し厳しくしすぎたからだろうか。だって正統継承者なんだから、できないなんて言い訳できないじゃないか。
それに、つい揶揄ってムキになって泣くのが楽しくてしょうがない。生意気な弟への仕返しだ。
なのに、どこかまだ無意識に甘えてくるから憎めない。そうやっていつまでも俺を頼ればいいのに。
烏森に一人で行くようになった。まだ全然結界も使いこなせないし、妖だってとらえるのにやっとだ。俺がいなければ滅することだってできない。
それでも毎晩眠い目をこすりながら行かなければならない。
だって正統継承者だろ?きっと俺の出番はもうすぐなくなるかもしれない。それでも弟はやっぱり小さい。
【弟はいまでも小さい】
しばらく会わないうちに強くなった。あんなに頼りなく泣いてばっかりだったのに。
烏森を封印するって。面白いことを言う。目的は違えど、最終的なゴールが同じだなんて。あいつならできそうな気がしてる。でも、その前に俺がするけどな。
俺が何のために家を出たのか、お前分かってるのか?お前が憎いわけじゃないのにきっと勘違いしてる。
普段は未熟なくせに時々見せる誰も思いつかない発想ととてつもないパワー。俺にはない。それが楽しみでもあり恐ろしくもある。
それが正統継承者というものか?俺もいつか抜かされるに違いない。だけど弟はいまでも小さい。