カシャッ
スイーツを食べているといつも目の前の男はスマホを向けて撮影してくる。
「なんでいつも撮るの?」
「油断してるから撮らせてもらえるかなと思って」
「そうやっていつも同じような写真ばっか撮ってるじゃん」
「だって普通に笑顔の写真撮らせてくれないし」
なんとなくカメラを向けられて笑顔を作るのが恥ずかしく、写真を撮られそうになるとつい仏頂面になってしまうのは認める。
「別に撮らせないわけじゃないけど…でもそんな同じような写真ばっかり撮ってどうするの?」
「一人の時のオカズに…っ痛」
バカなことを言うその男の足をテーブルの下で思いっきり蹴る。
「そういうことだったらすぐ消せ!!」
「嘘だって」
「絶対してるだろ!スマホ貸せ!消してやる!」
手にしていたスマホを奪おうと腰を浮かすと、すっと懐にしまう。
「わかった。もう撮らないから。ほら早く食べな」
そう言うと自身もフォークを手に目の前のケーキを食べ始めた。
仕方なく自分も食べるのを再開した。長らく楽しみにしていたカフェのスイーツということもあり、じっくり味わいながら堪能する。あまりの美味しさについ頬が緩んでしまう。しばらくして、ふと視線を感じて顔をあげると目が合った。
食べていたはずの目の前の男はフォークを置き、頬杖をついてニコニコしながらこちらを見ていた。
「なに?」
居心地が悪く、ジト目でにらんでしまう。
「いや~幸せそうな顔して食べてるなぁと思って。美味しい?」
「そりゃあ、うまいけど…」
「それはよかった。奢り甲斐があるな。遠慮なく食え。あ、もっと違うのも頼む?」
「何か企んでるだろ?」
あまりの気前の良さについ疑ってしまう。
「別にそんなわけないよ。スイーツをおいしそうに食べるお前を見ているのが楽しいだけ」
「意味わかんねぇ。そんなのが楽しいのかよ」
「なんかねぇ、スイーツ食べて嬉しそうに笑ってるお前見てるだけで幸せになるわ。俺といる時はあまり見せないような幸せな顔をしてスイーツ見てるから」
「そうかな?別にお前といてもいつもと変わらないと思うけど」
「そう?よく不機嫌そうな顔してるから何考えてるのかなって。俺といてもつまらないのかなぁとか。今なら無条件に笑顔だろ?」
そう言われて思い返すと、二人でいる時は照れ隠しもあり少し不機嫌な態度をしてしまうことがあった。一緒にいられることが嬉しいのに、なんとなくこそばゆくて恥ずかしくて素直になれない部分はある。
「今度からは気を付ける…」
フォークを咥えながらつぶやく。
それを特に気にした様子もなく、目の前の男は今度こそケーキを食べ始めた。
しばらくお茶を飲みつつお互いの近況などを話したあと席を立つ。
「会計するから先出てて」
「わかった。あ、スマホ貸して?」
「何するの?」
「ちょっと」
何の疑いもなくスマホを渡される。暗証番号は自分の誕生日になっているし、中を見られることに対しても特段警戒すらしていない。別に浮気調査で確認しようと思っているわけでもないが、毎度ここまで信用されているとは。
受け取ったスマホを手に店の外に出ると、ロックを外しカメラを起動させる。インカメラに切り替えると、画面に映る自分を見ながらシャッターを押す。何パターンか撮っていると、会計を終え出てくる姿が見え急いでロック画面に戻して返す。
「はい」
「何してたの?」
「ん?別に?」
「そう。じゃあ帰るか」
2人は仲良く並んで店をあとにした。
後日、いつものようにスマホのフォルダを見てみると、笑顔全開の弟の写真が何枚も入っているのを知り、机に突っ伏してニヤニヤしながら間違って消さないように保護する男がいた。