うとうとしたまどろみの中でふと意識が浮上する。
腕の中で寝ていたはずの良守が、腹をさわさわとなでているではないか。なにか意図があるようでもなく、ただ行ったり来たり。とはいえ、さきほどまで激しく交わっていたこともあり、まだ完全に熱が冷めたわけではないので簡単に熱が籠り始める。さすがにもうやめてほしい。
「どうした?まだ足りない?」
ぴったりとくっついて体を寄せている良守の髪をやさしくなでる。
「なんか、兄貴の腹筋いいなと思って」
顔をこちらに向けるでもなく突然そんなことを言いだす。
「こんなに腹筋割れてるなんて、どんな鍛え方したらできるもんなの」
話ながらもずっと腹筋の割れ目の形をなぞっている。無意識だろうがその絶妙な触り方が完全に煽っているようにしか思えない。
「胸筋もいいよなぁ」
手がそちら迄伸びてきて胸の淵をたどりつつときおり突起をかする。理性を総動員せざるを得ない状況に苦笑いするしかない。
「急にそんなこと言いだしてどうしたんだ?」
「なんかいいなぁと思って」
それ以上の答えが出てこない。誰かになにか言われたんだろうか。良守だって腹筋が完全に割れていないとはいえそれなりに筋肉だってついている。筋トレ目的で鍛えるわけでもなければそれで十分だとは思うが。術者としてそれなりに動けるようには鍛えているはずだ。
「俺は今くらいのお前のほうがいいけどな。あんまり筋肉ムキムキになっても可愛くない」
「なんだよそれ」
その言い方が不満だったのか、口を尖らせている。
「よいしょっと」
「おわっ」
横にいた良守を仰向けに寝ている自分の上に抱え上げる。片手で上半身を抱きしめつつ、空いたもう片方で背中から尻にかけて、優しく撫でまわす。とても触り心地がいい。まだ若々しく手に吸い付くような瑞々しい肌、しなやかな筋肉は適度な弾力でずっと触っていたいほどだ。
「こうやって触るには今くらいがいいんだよ。こことかもな。あまり硬すぎてもつまらないだろ」
そう言いながら両手で双丘を包み込むように揉む。
「っあ」
思いがけない刺激に感じたのか思わず声があがる。それに気を良くして、手の届く範囲で明確な意図をもって撫で始める。
「わかったから…もう…いいっ…て。やめろ…って」
正守の意図に気づき慌てて逃げようとするが、上半身はガッチリと抱え込まれているため動くに動けない。こういったところの力の差にも劣等感を抱いているとは正守は気づいてはいなかった。
「クソっ」
悪態をついていても逃げることはできないので、肌の上を彷徨わせ続ける。感じるポイントは心得ているため、良守の肌はだんだんと上気してくる。腿に当たる良守自身も硬度を増してきていた。
いつのまにか甘い声に変わってくる。そろそろいい頃合いかなと思い、天地をひっくり返して良守を布団に縫い付ける。もう抵抗らしい抵抗はしない。さきほどまでの延長ですでに火はついたようだ。
啄むような口づけを重ね、良守自身に手を伸ばそうとすると、あろうことか盛大に気の抜ける音が鳴り響いた。
ぐぅぅぅぅぅぅぅ
一瞬で我に返って良守を見ると、顔を真っ赤にして横を向いてしまった。
「欲望に忠実だな」
笑いながらいうと、開き直った良守ににらまれる。
「運動しすぎて腹が減ってるんだよ。エネルギーが足んねぇ!肉食わせろ!!」
キャンキャン吠えるのもかわいい。
「そうだよな。昼過ぎから夕方までやってたら腹が減るもんだよな。しょうがない。夜は焼肉ごちそうして精をつけてもらうかな」
「なんだよ!その言い方」
「その代わり、筋肉をつけるには上質なタンパク質と運動も必要だから、この続きはまた食べたあとでな」
半分勃ちあがりかけた良守をひと撫でしてベッドを降りる。
「ほら、食いにいくぞ。準備しろ」
「くそぉぉぉぉぉ。なんだよその理論!!」
ベッドから枕を投げられるが当たる前に床に落ちる。照れていることなんてバレバレだ。そんなことを言っていたって帰ってきたらまたするに違いない。今日は奮発していい肉でも食べさせてやるかと財布の中を確認した。