某カフェでお気に入りのカフェモカを飲みながら大学の課題を進めている良守。
隣りでは、女性二人組がキャッキャと話に盛り上がっていて、もう少しボリュームを下げて欲しいのにと心の中で眉をひそめる。
しかし、しばらく経った頃その会話に出てきた名前に耳が釘付けになって課題どころではなり、勉強しているふりをしながら会話を盗み聞いた。
「ねえねえ、知ってる?墨村正守のやつ」
「あ、あれでしょ!!ヤバイよね!!」
盛り上がる2人は隣の良守には当然のことながらまったく気にせず会話を続けている。
「衝撃のベッド写真だって~」
「ベッド写真って、やっぱり裸なのかなぁ。普段服で隠れてる分すごいフェロモン垂れ流しそう」
「前に映画で上半身脱いでたけどめちゃくちゃいい体してた。あぁぁん舐めるようにガン見したい」
「ベッドってシチュがもうたまらないよね。抱いてほしいとかはないけど拝めるだけでもありがたい」
「ほんと。生で拝める人がうらやましいわ」
まだまだ話は続いていたが、内容にショックを受けてそれどころではない。
(正守のベッド写真?付き合ってるのは自分なのでは?え?もしかしてこのところ忙しいって言ってたのはそういうことだったのか?え?え?どうしよう・・・)
断片的に聞いた情報を組み合わせると最悪の想像しかできず、心の中はショックで大泣き。
(でも、何も言ってきてないよな?もし、万が一にも自分との写真だった場合は絶対言ってくるだろうし。いや、なんでそもそも自分たちの写真が撮られるんだ?そんなはずはない。え?どゆこと?そしたら、やっぱり浮気?よくある素人女性を装ったハニトラとか?そんなのに正守が引っかかったのか?)
どんどんと嫌な方向に考えが行ってしまい課題どころではなくなってしまったので、ひとまずリュックに詰め込むと重い足取りで家路についた。
家に帰ってきても先程の会話が頭から離れない。今までのあの時間はなんだったんだろう…
すると、正守が帰ってくる。いつもと変わった様子はない。自分の聞き間違いだったのだろかと思うも、本人に聞くに聞けずチラチラ様子を伺う。
「ん?なに?」
「別に…」
「別にって感じじゃないけどな」
「うるせぇな」
「何か言いたいことあるなら言えばいいじゃないか」
「写真…いやなんでないっ」
自分から何も言ってこないことにイライラするが、なんと聞いていいかもわからずそのままに終わった。
モヤモヤが晴れないまま翌朝になる。いつも通り、時計代わりに見ている朝の情報番組を見ながら出かける支度をする。すると、エンタメコーナーになり、その中の見出しに「墨村正守、ベッド写真に世間が震える?!」と書かれているのに気づき、それ以上見たくなかった良守はなにげなくそっとチャンネルを変えた。正守はそれに気づくもぎこちなく平静を装う良守にひそかにほくそ笑んだ。
足取りは重くても学校には行かなければならないわけで、門からとぼとぼと教室に向かっていると、友人たちが次々と声を掛けてくる。
「墨村正守って兄貴だよな?見た?あれ、ヤバくない?」
「俺、お前の兄ちゃんになら抱かれてもいいわ」
「あの目線だけで孕みそう」
良守の心など知らず次々と心を抉るようなことを言って追い打ちをかけられ、ますます落ち込む良守。
なんとか授業を終え気力もなくまっすぐ家に帰ろうと駅に向かう。すると、途中にある大型書店の店頭が目に飛び込む。
「え?えぇぇぇぇぇ?!?!」
思わず大声を出してしまい周りから注目されると慌てて小さくなってそのまま店内に逃げるようにして入っていく。
そこには正守の裸体がどーんと大きく印刷された雑誌の広告とその前に大量に平積みされたたくさんの雑誌。見ている傍から次々と買われていく。
今まで見たことの無い色気ある写真に呆然と立ち尽くしたまましばらく見とれてしまう。裸の後ろ姿で女性をやさしく抱き込み、目線だけこちらに注がれている。たくさん並べられた正守の妖艶なまなざしに見られているようでドキッとしてしまう。
自分が考えてた最悪の想像が外れたことに安心はしたものの、今度は違う意味でまたモヤモヤしてしまう。
(こんな話聞いてないし!こんな正守見たことない…なんで俺には見せないのにエロい姿をみんなに見せてるんだよ…これって恋人にしか見せないもんじゃねぇのかよ。俳優だからってわかるけどさぁ…ほんとは俺しか見れないんだよ?)
周りで浮き立ちながら購入していくファンであろう人たちへ心で悪態をつきながら、あまりのカッコよさに気づいたら1冊持ってレジに並んでいた。
家に帰ってさっそく広げてみる。
表紙は後ろ姿だったものの、中にはベッドに横たわってこちらを見つめているシーンや、際どい部分までシーツがはだけたシーン、寝起きのようなシーン、誰かがいたような気配の残る事後のようなシーン、いつも見ているようで見たことのない色気ある写真の数々に赤面してしまう。
(カッコよすぎだろ…惚れ直すわ。ってかもうカッコよすぎて無理!!でも、やっぱり自分には見せない表情なのムカつくぅぅぅ…なんなんだよコレ!!クソッ昨日分かってて黙ってたな。帰ってきたら文句言ってやる。でも、マジでカッコイイ。なんなのほんとっ!)
複雑な感情が次々と沸き起こっては消えていく。
(あれ?袋とじ?)
そーっとあけてみる。
(うわぁぁぁぁまじでヤバいわ。なんて写真撮らせてるんだよ。でも、こんな目で見られたら勃ちそう…)
ちょっとドキドキしてくる。
(ん?インタビューもあるのか。ふむふむ。うわ~こんなこと考えてるのかよ。ってか俺ちゃんと理想に当てはまってなくない?大丈夫かな。なんで俺を選んでくれてるのか不思議になってくるな…)
ガチャッ
ドアのあいた音にドキっとして慌てて雑誌を閉じる。そこには正守本人が立っていた。
「ただいま」
「お、おかえり」
ビックリして不自然になるが、気づかれないようにそっと雑誌を背中に隠す。
「なにやってるんだ?今何か隠したよな?」
「いや。なんでもないって。疲れただろ?座ったら?」
「普段そんなこと言わないくせにますます怪しいな」
近寄ってきて背中に隠した雑誌を取り上げられる。
「あっ」
「なんだ。お前も買ってくれたのか。言ってくれたらもらったやつあったのに」
飄々と答える正守に腹が立ってくる。
「そんなこと一言も言わなかったじゃないか!こんなのが雑誌に載るなんて聞いてない!」
「お前、いつも人の仕事なんて聞いてこないじゃん」
「聞かなくてもこういうことは先に言えよ!変に心配したじゃないか!損した」
「心配?」
「あ、いや。別になんでも」
「なに?浮気したとでも思った?ん?」
ニヤニヤしながら聞いてくる正守にますます腹が立つ。
「そんなんじゃねーし!ってかなんなんだよ、コレ」
「読んでその通りのセッ…」
「いやそれ以上言わなくていいって!!俺だって見たことない顔してるし、なんなんだよ…いつもよりもえっちぃって言うか、男臭いというか、カッコイイというか…」
恥ずかしくてだんだん声が小さくなる。
「ん~、いちお良守のこと相手にしているつもりで撮影してもらったんだけどなぁ。色々想像しすぎて撮影中ちょっとヤバかったけど」
「なんだよそれ」
「まあ、良守にしか見せない顔を撮ってもらったのは悪かったと思うけど、でも、見たことないはずないけどね」
「嘘つけ!いつもはこんな顔してない」
「そう?良守がトロトロになってちゃんと見てないだけじゃないの?じゃ、今日は頑張ってみる?」
「え?なにを?」
「えっち。ちゃんと良守にも顔見てもらわないとな。正気保ってろよ?」
「その不敵な笑みがこわい」
「そう?じゃ、遠慮なく」
「おわっ」
正守は、良守を抱え上げるとベッドに運んでそのまま倒れ込む。
「写真よりカッコイイ顔たくさん見せてやるから、ちゃんと覚えておけよ」
そして、いつも以上にねちっこく良守を可愛がる。
「よしもり、よしもり」
顔をぺちぺち叩かれる。
「んっ、はわっ、な、なに?」
「ちゃんと正気保っておけって言っただろ?顔見るんだろ?ほらっ」
中に入れられ快感にどっぷり浸かっていたところを無理やり目を合わせられる
「あっ、やっ。いつもと、同じじゃないっ無理っ」
ぐっと腰を入れられながら、間近で微笑まれるとあまりのカッコよさにキュンとしてしまって、腕で顔を隠してしまう。が、また勘違いされるのもめんどくさい正守は、無理やり腕を外すと再度目を合わせてくる。
じっと見つめられていると、さらにドキドキしてきてしまって中をギュッと締めてしまう。
「こら、良守。あまり煽るんじゃない。気持ちよすぎて止まらなくなるだろ」
「わざとじゃないってばっ。正守がエロいのがいけないっ」
「そんな可愛いことされたら我慢できないだろ。もう顔見たしいいよな?」
「ふえっ?いやぁっ、なにっ、あっ、あッ、もう無理だってぇ」
その後も結局何度となく繋がっては、たまに正気に戻されてまた溶かされてを繰り返す。
翌朝、珍しく良守が先に目覚める。抱きしめられて眠っていたところを起こさないようにそっと腕から抜け出し距離を取り顔を見る。満足そうに眠っている顔を見て悔しく思いつつも、やはり寝顔ですらカッコイイ。
「悔しいけどカッコイイ…でも、もうこういうの他のやつに見せるなよ」
小さく呟いて軽くつま先で足を蹴る。それに気づいたのか正守が身じろぎするので慌てて寝たフリをする。
目覚めた正守は、良守の頭をなでる。
「心配しなくたって大丈夫なのにな…よそ見している間にお前を他の人に取られる方がキツイってわかんないのかなぁ。もうあんなに可愛いことされたら我慢できなくなるけど」
一人ごちる正守に良守は耐えきれなくなる。
「なんで俺が悪いんだよ…」
「あれ?起きたの?」
「もう起きてた。っていうか俺悪くないと思うけど」
不貞腐れたようにぶっきらぼうになる。
「お前が悪い。可愛すぎるんだよ。あんなに中も離さないで~ってぎゅってされたらもう離してやれないからな」
「じゃあ、もう絶対離すなよ!」
そういいながらも照れた良守は寝返りを打つと背中を向けてしまう。
「だから、そういうのも可愛いんだって。分かんないかなぁ。覚悟しとけよ?」
正守は後ろから抱きしめつつ腰を押し付ける。
「えっ?朝から元気すぎるだろ?」
「なにお前、お兄ちゃん枯れてるとでも思ってるの?大好きな人が目の前で裸だったらこうなるに決まってるじゃん。どうせ今日休みだろ?思う存分付き合ってやるから」
「大好きな人って。いや、でももう無理だって」
「俺も無理。我慢できない。それにお前だってもうやる気じゃん」
前に手を回されそっと撫でられる。
再び情事にもつれ込んだ二人は太陽が高く昇るまでベッドから出てくることはなかった。
後日。
読み半端だっだ雑誌を改めてじっくりと見る。
特集にはえっちのための様々な情報が書いてある。攻防戦?攻略法?今まではそんなこと気にしたこともなかったが、読めば読むほど今まで正守にうまく流されてきただけのように思えてくる。こんなことは誰に教わることもない。せっかくの機会だと思い、今度正守に絶対試してやろうと勉強以上に真剣にじっくりと読み込んだ。
そして写真のページ。よくよく思い出せば、確かにいつもする時もこんな顔をしてた。この雑誌を買った日のことを思い出す。なんであんなことになったんだか。
思い出しながら雑誌に目を通していると、その時に見た顔がアップで飛び込んでくる。
久しぶりにドロドロに甘やしてくれたしカッコイイ顔も堪能できたしと思い出すと笑みがこぼれてくると同時に体が疼いてくる。
記憶が鮮明に蘇ってきた。一度思い出してしまったら最後、次々と記憶が掘り起こされどんどんと熱が溜まっていく。
あ~もうと思いつつ、そっと手を添えてふと我に返る。こんなところで一人でするのもなと思いつつ、溜まった熱は吐き出したい。
時計を見るとまだ正守は当分帰ってきそうにない。
(ちょっとだけだしいっか…)
そう決めると、チャックを下ろしそっと取り出す。雑誌の写真を見ながら正守がいつもしてくれることを思い出しつつ手を上下に動かす。だがそれだけではなかなかイケない。
ズボンをずらすとそっと後ろに手をのばす。汚したくないとは思いつつも雑誌のページをめくりながら、実際にされている姿を想像する。
「んっ…はっ、んあ…」
夢中になりすぎて、玄関から物音がしたのには気づいていなかった。
リビングに続くドアをそっと開けた正守は、まさか自分の写真を見ながら一人で楽しんでいる良守の姿を目の当たりにするが、面白いものを見つけたようにさらに気配を消してじっと見つめる。
「んは、んん、ん~~~~、はぁはぁはぁ」
無事に熱を吐き出したところで声をかける。
「へぇ~俺の写真見ながらしてるんだ」
「うわあっ」
まさか声をかけられると思っていなかった良守は驚きのあまりに目を見開くが、手が汚れている状態では言い訳ができない。
「えっと、その、あの、」
「気持ちよかった?」
「バカっ!仕方なくだ、仕方なく!」
「でも、一生懸命ページめくってたよね?何想像してたの?」
分かっててニヤニヤしながらいやらしく聞いてくる。
「うるせえ、どけ。手洗ってくる」
真っ赤になった顔を誤魔化せないのはわかっているが、この場でさらに揶揄われることにいたたまれなくなり洗面所へ向かおうとすると、横をすりぬけた瞬間抱き留められる。
「お前なぁあんな姿見せられて黙ってると思う?」
「……」
「撮影の予定が変更になったから早く帰ってきたら、まさか自分の写真見ながらやってるんだもんなぁ。実物がここにあるのにもう終わり?」
耳元でささやかれるともう逃げられない。
しばらくどうしようか考えていたが、観念して向き直ると顔を引き寄せて耳元でささやく。
「しよ?」
「///////、だからもうお前は!」
そしてそのままベッドまで抱えられていくのであった。
きっと、そのあとは本人を目の前にして、さっき俺の写真みながらやってたんだからやって見せて?とか言われて、一人でさせられるとかあったりなかったり。。。