「良守、片付けろって言っただろ」
居間に来ると、遊んだおもちゃを散らかしたまま、寝っころがって絵本を読んでいる良守がいた。
おじいさんは町内会、父さんは打ち合わせで夕方まででかけている。
久しぶりに二人での留守番。ただでさえめんどくさいと思っているのに、この状態でおじいさんが帰ってこようものなら特大のカミナリが落ちるのは間違いない。
それを分かっているはずなのに、それでもギリギリまで片付けようとしない良守に対して腹が立った。
「さっきも片付けるって言ったよな?」
「うん」
「いつやるんだ?」
「うん」
こちらを見向きもせず気のない返事をしながら絵本を読み続けている。聞こえているのにあえてそういう態度をとっているのがムカつく。
「片付けないなら捨てるぞ」
「今からやるから」
「さっきもそう言ってたと思うけど」
「今、やるもん」
「じゃあ、早くやれ」
ぶーたれた顔でしぶしぶ起き上がるが、片付けようとしない。
「いらないんだな。捨てるからな」
そう言うと、足元に落ちていたおもちゃを拾い縁側の窓を開ける。
「だめぇぇぇぇぇぇ」
慌てて駆け寄ってきて泣きながら正守を引き留める。
「片付けないなら捨てるってさっきも言ったからな。お前がやらないからだぞ」
「やぁるぅからぁぁぁ。今やろうと思ってたのぉぉぉぉ」
大泣きしながらなんとか、正守の手にあるおもちゃをなんとか取り返す。
「にいちゃんのばかぁぁ。今やるんだもん~」
自分は悪くないと思ってることが気に食わない。
「だったらささっとやれ」
苛立った腹いせにゲンコツを1つ落とすと、さらに大泣きする良守を置いて部屋にもどった。
本当は二人きりの留守番だって、面倒なだけでそこまで嫌なわけではない。
ただ、甘ったれでなにもしようとしないことがたまに我慢できなくなり、さらにはさっきのような態度を取られると限界を超えてしまうのだ。
・・・ちょっと大人げなかったかなぁ
大泣きしている良守を放置してきたことを少し後悔しながら、自室で寝そべって本を読んでいた。
放っておいてきたところで、結局は気になってしまうあたり性分なのかもしれない。
しばらくすると、すーっと少しだけ襖があき良守が顔だけのぞかせた。
「にいちゃん、ごめんなさい」
小さく呟くような声で言ってきたが、あえてそれを聞こえないフリをする。
「にいちゃん?」
いるのに返事がないことが不安になったのか襖をあけて入ってくると正守の傍までやってきて正座する。
寝ころんだまま見上げるがこちらからは何も言わずにどうするのか見ていると、心を決めたのか膝の上に乗せた手をぎゅっと握り半ばヤケクソにも聞こえる大きな声で謝ってきた。
「にいちゃん、ごめんなさい」
それでも黙っているとポロポロと大粒の涙が落ちてくる。
「おかたづけちゃんとしたから~にいちゃんのいうことちゃんと聞くから~ごめんなさいぃぃ」
あまりに必死なのでついプッと笑ってしまう。そこまでして兄貴に許されたいのか。
だんだんと生意気にはなってきた良守だが、本当はまだ甘えたい気持ちはあるのだろう。最近の苛立ちの理由がわかったような気がした。
「わかったよ。ちゃんと兄ちゃんの言うこと聞けよ?」
「うん…」
起き上がって胡坐をかいて座ると、良守は膝立ちのままこちらにきて抱き着く。
「にいちゃん大好き」
許されたとたんにコレだ。現金な奴だがやはり憎めない。
「あ、そうだ!」
正守はふと思い出して、良守を抱きかかえたまま立ち上がると台所へむかう。
「にいちゃんなにするの?」
「ヒヒヒっ」
良守を下ろすと、戸棚の中をガサゴソ探す。
「あ、あった。あった!」
取り出したのはホットケーキミックスの入った箱。
「父さんが買っておいてくれたんだ。おじいさんもいないし、ホットケーキ作ろ!」
「わ~にいちゃん作れるの?」
「作れないと思う?」
「ううん!」
目を輝かせて見上げてくる良守を見ているだけで満たされた気持ちになってくる。
冷蔵庫から牛乳とたまごを取り出すとボールに入れて混ぜ合わせる。
フライパンに流し込むと甘いいい香りが漂い始めた。
「おじいさんには内緒だからな」
「うん!にいちゃんとよしもりだけのひみつね」
そうして、こんがり焼けたホットケーキを2人仲良く頬張った。
※のちのち大人になって大喧嘩したあとに、これを思い出して2人でホットケーキ焼いて仲直りしたらいいのになとか考えてました