お持ち帰り。
『店内でお召し上がりになりますか? それとも……』『あ、持ち帰ります』の簡単なやり取りの後、紙袋で渡されてがさがさ鳴りながらレジに並ぶ列の横を通り過ぎていく。
そんな光景を浮かんだ単語で思い出す。
アルコール臭が充満する空間で、呂律の怪しい男たちが酔いに任せて表情を取り繕うことも忘れながら『おもちかえりぃ、できる?』と歪んだ唇で作り上げるのも、続けて脳内に浮かんだ。
そこに配役してみると、どちらも似合わなかった。
きっと適応の早い彼ならば演じることは容易いのだろう。
でも、似合わない。
だから、お持ち帰りは却下だ。
一人残された室内で、取り留めもなく思い巡らせたのは、未だにこの状況に迷いがあるからだ、と希佐自身もわかっている。
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