Unknown⑦──先輩は、まだ僕を好きですか?
聞いたのはあのときと同じ、署の目の前の交差点。
あれから何事もなかった、それまでと変わらず日々を過ごした、表向きはそうだったはずだ、少なくとも僕はそう努めていたし、先輩が滲ませていた違和感も徐々に消えていっていたからその確信は然程間違っていないと思う。
だけどそれを、僕は、一言で変えた。
先輩の目つきは、驚きの中に怯えのような何かを含んだものになった。
──その日、同じ勤務帯だった僕と先輩は、大きな事件が起こらなかったのもあって帰る時間も同じだった。だから途中まで同じ道を帰ろうと歩いていた、特に示し合わせもなく、自然に。
少し話もした、他愛のない世間話だ。
そしてそれがふっと途切れた。あの交差点を渡り始めたときに。
件の日と違っていたのは、ひとつ移っていた季節と僕らの向かっている方向。
単なる偶然だった、同じ場所だったのは。
初めからそのつもりだったわけでも、思い付きで意気込んだわけでもない。
ただ、溢れたんだ、急に、僕が自分の中で抱えていたものが。
もしかしたらあのときの先輩もそうだったんだろうか、僕が尋ねたのをきっかけに、溢れて、だから告げてくれたんだろうか、そして僕にとってのきっかけはあのときと同じ場所に、先輩と一緒に来たから、だろうか。
一瞬そんなことが頭を過った。
そして先輩を見つめた。
そこには陰るふたつの金色。
僕は聞いたことを後悔した。だから──
答えなくていいです。
と、先輩に言った。
後悔したのは、答えを聞くのが怖くなったからじゃない。自分がずるいことを、公平じゃないことをしていると気付いたからだ。
また先輩に言わせちゃいけない、僕から伝えるべきだと。
僕は好きなんです、先輩が。
そう口にして、一番最初に、そして大きく感じたのは安堵。
ああ、ようやく言えた、と、ほっと胸を撫で下ろしていた僕とは正反対に──
先輩は、ぽかんと口を半開きにして、ぱちぱちと目を瞬かせて、それから頬から耳から首までを一気に真っ赤にして──とにかく、慌てふためき出してしまった。