署に向かう途中で、恋人を見かけた。
これから勤務の僕とは違い今日は非番のはずのひと。
止められない悪戯心。
それに従って物陰に潜んで、そおっと、後ろから肘を引っ張った。
「オニィさん暇? なら俺と遊ぼうよ」
言い終わる前に向けられた鋭利な視線は、目が合った途端拍子抜けしたように柔らかくなった。
「お前か」
「僕です」
にぱ、と笑った僕にその人も──恋人である先輩──も、やれやれと呆れながらも目を細めてくれた。
「どこ行くの?」
「珈琲屋、お前の部屋にミルを置きたい」
「ああ、言ってたね」
扱い方は難しいが覚えればいつでも美味い珈琲が飲めるから、と楽しそうに語っていたときと同じ目元。
先輩の淹れてくれる珈琲はインスタントですら美味しいのだから、そこからさらに美味しくなるのだろう。
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