力士は豊穣を願う 空は晴れ渡り、青々とした稲の上を初夏の風が渡ってゆく。最高の祭り日和だった。
「……の地に豊穣を願い、かしこみかしこみ……」
神社の境内に祝詞が響き渡る。だが、境内に集まった村人たちはほとんどそんなものを聞いてはいなかった。毎年その豊穣を願う由緒正しき祭りではあるが、それよりも彼らの楽しみはその後にあった。
神に捧げるという奉納相撲である。
神社の一角には常から屋根のついた土俵があり、土が盛られている。年に一度この日にそこは綺麗に整備され、縄が張り直される。奉納とは言っても優勝者には商店街や地域行進会から景品や賞金が出る。中には昔ながらの米俵なんていう賞品もあった。
「イ、イサミ…これでいいのか?」
16393